第8回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞) 受賞者

化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)表彰委員会
委員長 名西憓之

受賞者
松岡隆志氏(東北大学金属材料研究所・教授)
業績
InGaN 系混晶半導体のエピタキシャル成長技術に関する先駆的研究

化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)は,赤﨑勇氏が2009年京都賞を受賞された際の賞金の一部を基金として設立されました.本賞は,化合物半導体エレクトロニクス分野において新しい技術の開発,発明,新原理の発見,または卓越した実証システムの構築などにおいて顕著な業績をあげた方1名または1件に対して顕彰いたします.

今年度の機関誌『応用物理』による公募に対して推薦のあった候補者および規定により前年度および前々年度までに推薦のあった候補者を選考対象者として,2017年11月開催の表彰委員会において慎重な審議を行った結果,松岡隆志氏を第8回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)の受賞者に決定いたしました.


松岡隆志氏は,窒化物半導体材料とそのエピタキシャル成長に関する研究を本分野のパイオニアの1人として進め,高輝度青色発光ダイオード開発に結び付く先駆的研究をはじめとして窒化物半導体の発展に長年にわたり多大な貢献をしてきました.

同氏は1980年代の終わりころ,青色領域の発光デバイス開発を目的として,材料とエピタキシャル成長に関する研究を開始しました.当時光通信システムの開発に向け,GaAs,InPを中心としたIII-V族化合物半導体とその混晶によるダブルヘテロ接合構造半導体レーザーダイオードの研究が精力的に展開されていました.受賞者は窒化物半導体をベースとした光デバイスにもこの構造の適用が必須と考え,InGaN系混晶半導体のエピタキシャル成長技術に関する研究に先駆的に取り組み,多くの成果を生みだしました.

特にInGaNの成長について,当時の常識とは大きくかけ離れたV/III比と低い成長温度を用い,窒素ガスをキャリヤガスとして用いることにより,1989年単結晶InGaNの成長をいち早く実現しました.この技術はその後の高輝度青色LEDの開発へと結び付く一歩となりました.

InGaAlNについては,すでに研究されていたGaAs, InPなどの閃亜鉛鉱型混晶の熱力学による解析手法を適用して,非混和領域の解析を行い,すでに明らかになっていたInGaNの非混和性に加え,InAlNにはさらに大きな非混和領域が存在するなどの新しい知見を示しました.

窒化物半導体においては,極性の制御の重要性が多くの研究者により指摘され,精力的な研究が進められてきましたが,受賞者はその1人として先駆的にこの研究に取り組み,MOVPE法によるN極性GaN成長でも,Ga極性成長に匹敵する品質の結晶成長が可能なことを,2006年に示しました.

1989年には,InNの単結晶がそれまで報告されていた多結晶InNのバンドギャップよりはるかに小さいことを予測しました.2002年よりInNの真のバンドギャップに関する大きな論争が起きましたが,受賞者の予測が正しかったことがその後の研究により実証されることとなりました.

このように,松岡隆志氏は,30年の長きにわたり,一貫して窒化物半導体材料とエピタキシャル成長技術に関する研究に取り組みましたが,特にその先導性と独創性において顕著な貢献を行い,化合物半導体エレクトロニクス分野の発展に多大の貢献をしてきました.以上の理由により,松岡隆志氏を第8回化合物半導体エレクトロニクス業績賞の受賞者に選定しました.


本賞の授賞式はこの春の応用物理学会春季学術講演会の会場(2018年3月17日(土)夕刻,早稲田大学)で行われます.また,受賞を記念して「InGaN系混晶半導体のエピタキシャル成長技術に関する先駆的研究」に関する記念講演を予定しています.是非ご参加ください.

2017 年度化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)表彰委員会

委員長
名西憓之(立命館大学名誉教授)
委員
荒川泰彦(東京大学),大野英男(東北大学),尾鍋研太郞(東京大学名誉教授),川上養一(京都大学),岸野克巳(上智大学),木本恒暢(京都大学),澤木宣彦(愛知工業大学)