第13回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞) 受賞者

受賞者
森 勇介 氏(大阪大学教授)
業績
Naフラックス法を活用した大口径高品質GaN結晶育成技術の創成と社会実装

受賞者の森勇介氏は,窒化ガリウム(GaN)結晶成長技術であるナトリウム(Na)フラックス法に注力し,溶液中で多数の自然核結晶が発生し,GaN の大きな結晶を得ることが出来なかった本手法の欠点を克服するとともに,GaN パワー・高周波デバイスの社会実装に必須の大口径6インチ以上でかつキラー欠陥のない高品質なGaN 結晶成長の基幹技術を構築した.

GaN ウェハ作製法として,現在広く用いられているハイドライド気相成長(HVPE)法では,欠陥やウェハのそりが避けられず,リーク電流が大きいと言う問題がある.またもう一つの方法であるアモノサーマル法では,4インチ以上の大口径化が困難であった.HVPE 法とアモノサーマル法の課題を解決できる新規GaN バルク結晶育成技術が求められる中,森勇介氏は,東北大学の山根久典教授が1997 年に報告したナトリウム(Na)フラックス法に注目し,Naフラックス法において,①溶液への炭素添加による溶液中の自然核発生の抑制,②微小GaN バルク結晶を種結晶に用いることにより無転位GaN 完全バルク結晶が得られることを実証,③任意の大面積基板結晶を成長するためのマルチポイントシード法を考案,④結晶を溶液中に複数回ディッピングすることで凹部に溜めた薄いGa-Na 溶液層からの結晶化により平坦化を可能にするFlux-Film-Coated (FFC)法の開発,による全く新しいGaN バルク結晶成長技術を構築した.

以上の様に,森勇介氏はNa フラックス法がHVPE 法とアモノサーマル法で課題であったサイズや結晶品質の課題を克服し,HVPE 法で大きな問題であった縦型トランジスタの生産歩留まりを飛躍的に向上できることを示した.更にNa フラックス法で作製したGaN 結晶を他の方法の種結晶に用いられることを実証した成果を含む上記一連の研究成果は,GaN ウエハの社会実装の加速に極めて有効であり,第13回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)に最も相応しいと考え,決定した.

2022年度 化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)表彰委員会

委員長
小出康夫(物質・材料研究機構)
委員
熊谷義直(東京農工大学),中嶋一雄(東北大学),平川一彦(東京大学),平山秀樹(理化学研究所),藤田静雄(京都大学),山口敦史(金沢工業大学)