第12回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞) 受賞者

化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)表彰委員会
委員長 天野 浩

化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)は,赤﨑勇氏が2009年京都賞を受賞された際の賞金の一部を基金として設立されました.本賞は,化合物半導体エレクトロニクス分野において新しい技術の開発,発明,新原理の発見,または卓越した実証システムの構築などにおいて顕著な業績をあげた方1名または1件に対して顕彰いたします.

今年度の機関誌『応用物理』による公募に対して推薦のあった候補者,および規程により前年度および前々年度までに推薦のあった候補者を選考対象者として,2021年11月開催の表彰委員会において慎重な審議を行った結果,木本恒暢氏を第12回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)の受賞者に決定いたしました.

受賞者
木本恒暢氏(京都大学教授)
業績
炭化珪素(SiC)パワー半導体の先駆的研究と基盤技術の構築

候補者の木本恒暢氏は,炭化ケイ素(SiC)研究の黎明期から,同分野のパイオニアである松波弘之京都大学教授(現在は名誉教授)のもとで研究に取り組み,独立後もその材料科学,デバイスプロセス,パワーデバイスに関する学術的研究で多くの世界的水準の成果を上げ続け,産学連携を進めSiCパワーデバイスの社会実装に大きく貢献した.候補者は,結晶成長装置,物性評価装置,デバイスプロセス装置などの主要装置を独自に設計・自作し,世界に先駆けた成果を積み上げた点も特筆に値する.その成果は,1) SiC MOS 界面特性の高品質化とチャネル移動度向上,2) 高耐圧で低オン抵抗の SiC MOSFET の実証,3) 耐圧27 kVのpinダイオード,耐圧21 kVのバイポーラトランジスタ,耐圧20 kVのIGBT,4) SiC におけるイオン注入の基盤技術確立,5) 高純度・高品質 SiC のエピタキシャル成長,6) SiC の固有電子物性の解明,7) SiC の拡張欠陥の研究およびバイポーラ劣化現象の抑制,8) SiC における深い準位とキャリア寿命に関する体系的研究,など多岐に及ぶ.以上のように候補者は過去20年に亘りSiCに関する学術研究で世界の最先端を走り続けている.候補者の成果の波及効果として,候補者が初めて実証した高耐圧・低損失SiCショットキーダイオードは,2001年にInfineon社から量産が開始され,国内では2010年よりローム社が量産を開始した.候補者が高いチャネル移動度と高信頼性を実証した(1100)面をMOSチャネルとするSiCトレンチMOSFETは2015年にローム株式会社より,その後Infineon Technologies社および株式会社デンソー(株式会社ミライズテクノロジー)より量産が開始された.現在市販されているすべてのSiCパワーデバイスには,候補者らが提唱した4H-SiCが用いられている.また,パワーデバイスを製造するための鍵を握るSiCエピタキシャルウェハの作製に関しても,候補者が最初に示した学術的知見と技術が多数用いられている.イオン注入に関しても,候補者が確立した炭素皮膜を用いた超高温熱処理がパワーデバイス製造メーカーで採用されている.デバイス設計の基礎となる衝突イオン化係数や積層欠陥拡大抑制の指針に関しては,世界中の多くの研究者が候補者の成果を用いている.SiCショットキーダイオードとMOSFETは,現在太陽電池用パワーコンディショナー,エアーコンディショナー,サーバー用電源,エレベータ,RF誘導加熱装置,鉄道(東京メトロ,JR山手線,新幹線など),電気自動車(テスラ,トヨタ)などに用いられ,省エネルギーや機器の小型化に大きく貢献している.

更に候補者は,応用物理学会の先進パワー半導体分科会の初代幹事長,理事(APEX/ JJAP 編集運営)を歴任するなど,応用物理学会の発展にも大きく貢献している.また,国内外の公的機関主催のチュートリアルで 人材育成にも貢献している.

このように木本氏の SiC パワー半導体に関する先駆的研究,基盤技術確立,社会実装への貢献は卓越しており,第12回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)に最も相応しいと考え,選定しました.

本賞の授賞式はこの春の応用物理学会春季学術講演会(ハイブリッド開催)の初日2022年3月22日(火) に,現地にて行われます.また,受賞を記念して「炭化珪素(SiC)パワー半導体の先駆的研究と基盤技術の構築」に関する記念講演を予定しています.是非ご参加ください.

2021年度化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)表彰委員会

委員長
天野 浩(名古屋大学)
委員
荒川泰彦(東京大学),中嶋一雄(東北大学),藤田静雄(京都大学),小出康夫(物質・材料研究機構),熊谷義直(東京農工大学),山口敦史(金沢工業大学),平山秀樹(理化学研究所)