第10回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞) 受賞者

化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)表彰委員会
委員長 天野 浩

受賞者
藤田静雄氏(京都大学 工学研究科 教授)
業績
GaAs系,ZnSe系,および酸化物半導体の結晶成長における新技術開拓への貢献

化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)は,赤﨑勇氏が2009年京都賞を受賞された際の賞金の一部を基金として設立されました.本賞は,化合物半導体エレクトロニクス分野において新しい技術の開発,発明,新原理の発見,または卓越した実証システムの構築などにおいて顕著な業績をあげた方1名または1件に対して顕彰いたします.

今年度の機関誌『応用物理』による公募に対して推薦のあった候補者,および規定により前年度および前々年度までに推薦のあった候補者を選考対象者として,2019年11月開催の表彰委員会において慎重な審議を行った結果,藤田静雄氏を第10回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)の受賞者に決定いたしました.


藤田静雄氏は,一貫して化合物半導体のエピタキシャル成長への新しい技術導入を通じて,新規な単結晶薄膜を先駆的に実現し,その機能発現により新しい研究分野を創成し,デバイス応用につながる貢献をされました.

これまでGaAs系半導体,ZnSe系半導体,酸化物半導体の有機金属化合物気相成長法では,一貫して安全な原料を用い,高品質結晶の成長が可能であることを実証されました.また,有機金属化合物を用いずに,対象の金属元素を含む化学薬品の水溶液を用い,これに超音波を印加して得られたミストを原料とするミストCVD法を開発し,高品質単結晶ZnOの成長に成功されました.

2007年には世界に先駆けてβ-Ga2O3の研究を開始し,ショットキー・オーミック接合の形成,光導電効果の確認,混晶によるバンドギャップ制御などの成果をあげられました.さらにミストCVD法を用いて,サファイア基板上にα-Ga2O3の成長に成功し,n型ドーピングおよび混晶による3.8〜8.8 eVにわたるバンドギャップ制御を実証されました.これらの成果に対してベンチャー企業が着目し,現在デバイスの量産・事業化に向けた開発が行われています.また,同じコランダム構造をもちα-Ga2O3との格子不整合が小さいα-Ir2O3のバンド構造に着目され,p型単結晶の成長に成功し,pn接合も実証されました.

このように,藤田静雄氏は,GaAs系,ZnSe系,酸化物それぞれの半導体において時代の要請を的確に捉え,次世代につながる材料の機能開拓,主に結晶成長における新しい技術の開発,材料物性に関する新しい物理の発見など,多くの先駆的な業績をあげられました.

以上の観点から,藤田静雄氏が応用物理学会第10回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)にふさわしいものとして,選定いたしました.


本賞の授賞式はこの春の応用物理学会春季学術講演会の会場(2020年3月12日(木) 夕刻,上智大学四谷キャンパス)で行われます.また,受賞を記念して「新しい化合物半導体材料の研究分野の創成およびデバイス応用への貢献」に関する記念講演を予定しています.是非ご参加ください.

2019年度化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)表彰委員会

委員長
天野 浩(名古屋大学)
委員
荒川泰彦(東京大学),尾鍋研太郞(東京大学名誉教授),岸野克巳(上智大学),木本恒暢(京都大学),
熊谷義直(東京農工大学),藤岡洋(東京大学),山口敦史(金沢工業大学)