第25回光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞) 受賞者

受賞者
國分 泰雄 氏(ものつくり大学)
業績
集積フォトニクスならびに新型光ファイバーに関する先駆的・独創的研究

國分 泰雄氏は1980年代からARROW (Anti-Resonant Reflecting Optical Waveguide) 型光導波路や高屈折率差光導波路などの新しい光導波路を用いた集積光デバイスと高密度集積化の研究を行い,多くの新規で独創的な導波路型集積光デバイスとその関連技術を提案・実証してきた.ARROW型光導波路は國分氏がベル研究所滞在中,1985年に発明した新型光導波路で,共振反射現象(ファブリー・ペロー共振)をクラッドに用いるため光導波路自体が偏光や波長フィルター機能を有するが,さらに積層集積化に適している.この特徴を用いて3次元光集積化構造を提案し,さらにその構成に高屈折率差光導波路を用いたマイクロリング共振器を導入して,積層交差構造による積層高密度集積化やフィルター機能の合成法などの新技術を開発・実証してきた.また,集積光デバイスの実用化において課題となる外部光ファイバーとの高効率結合のためのスポットサイズ変換器は國分氏が最初に提案して,現在ではこの概念を適用した様々なスポットサイズ変換器が実デバイスに用いられている.さらに,波長多重通信に用いられる波長合分波器(波長フィルタ)の分波波長(フィルタ中心波長)は温度に依存して変化するため,温度安定化回路を必要として消費電力削減の観点から温度務異存化が必要になるが,國分氏は光路長が温度無異存なアサーマル光導波路を提案してこれを用いた温度無異存狭帯域波長フィルタを初めて実証した.このアサーマル化の概念は多くの波長合分波器に取り入れられている.

ARROW型光導波路に関しては,近年この構造を用いることにより新たな中空コアファイバー (Hollow-Core Fiber) が実現しており,ARROWの原理は最先端の光ファイバー技術を生み出している.さらに2008年には超大容量光ファイバー通信用光ファイバーとしてマルチコアファイバーを北海道大学の小柴教授と共同研究で提案し,現在の空間多重・モード多重伝送用光ファイバーの端緒を開いてきた.

以上のように國分 泰雄氏の長年にわたるフォトニクスへの貢献は極めて優れたものである.選考委員会では,國分氏の長年にわたる一貫した研究姿勢を評価し,若い時代に独創的な提案を行なうのみならず,研究に必要な持続力を発揮して,時代に即した技術に展開してきた姿勢は,これから我が国を担ってゆく若手研究者に是非学んでほしいものである.

上記の理由によって,國分 泰雄氏を第25回光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)の受賞者に相応しいと判断した.

2023年度 光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)表彰委員会

委員長
植田 憲一
委員
大和壮一,加藤義章,五神真,清水富士夫,武田光夫,中沢正隆,野田進,原勉