第21回光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞) 受賞者
光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)表彰委員会
委員長 植田憲一
光・量子エレクトロニクス業績賞は,光・量子エレクトロニクス研究分野において顕著な業績をあげた研究者を顕彰することを目的として,故宅間宏先生(電気通信大学名誉教授)の紫綬褒章(応用物理部門)受賞記念パーティーと定年記念会におけるご祝儀,および宅間宏先生からのご寄付を基金として1999年に創設されました.その後も,光・量子エレクトロニクス分野の研究者による寄付によって基金を補充して現在に至っています.第21回光・量子エレクトロニクス業績賞の選考は,『応用物理』7,8,9月号に掲載された公募に対して2019年10月31日までの過去3年間に推薦があった6件の候補者について表彰委員会において慎重な審議を行った結果,洪 鋒雷氏に第21回光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)を授与することを決定しました.
なお,授賞式は2020年春季学術講演会(上智大学)の初日夕刻に行われます.また受賞者による受賞記念講演が学術講演会の会期中に行われますので,是非ご参集ください.
- 受賞者
- 洪 鋒雷氏(横浜国立大学 教授)
- 業績
- 精密周波数計測技術の開発と国際標準への展開
洪鋒雷氏は,レーザー精密分光,波長安定化レーザー,光周波数計測,光周波数標準に関する研究を長期にわたり精力的に行い,上記の課題解決を含む重要な研究業績を数多くあげた.
1997年に,レーザー精密分光技術を駆使して世界初の可搬型ヨウ素安定化Nd:YAGレーザーを開発した.米国,フランスなど世界各国に持ち運んで国際比較を行うことにより,安定化レーザー標準器の同等性を確認することに成功した.また,開発したヨウ素安定化Nd:YAGレーザーの周波数測定値は,2001年の国際度量衡委員会諮問委員会において採択され,国際勧告値の決定に貢献した.さらに,従来の光コムの測定範囲を超えた形で光通信帯安定化レーザーの絶対周波数測定を世界で初めて行い,国際勧告値の決定および光通信帯安定化レーザーの国際標準化に貢献した.
光周波数計測においては,1.5µm帯モード同期ファイバーレーザーを用いて広帯域の光コムを発生させるとともに,オフセット周波数を検出するための新しい方法「2f-3f法」を新規に提案・実施し,ファイバーレーザーを用いた光コムのオフセット周波数を世界で初めて観測した.関連した一連の先駆的な研究は,現在光コムの主流となった「ファイバーコム」の流れをつくり,その技術確立に大きく貢献した.その後も,さらなる光コムの広帯域化を行い,その発生原理を周波数計測の手法を用いて解明することに成功している.これらの研究は,光コムの技術を発展させただけではなく,レーザーの周波数校正サービスを通じて産業界への貢献も果たしてきた.
光周波数標準に関しては,産総研,東大,電通大の共同研究チームをつくり,つくばから東京までの実際に敷設されている長さ120kmの光ファイバーを用いて,世界で初めて100km超えの光キャリヤ伝送を行い,つくばの周波数標準を基に東京大学のSr光格子時計の精密周波数測定を行った.測定されたSr光格子時計の周波数は,秒の再定義の候補である「秒の2次表現」の国際勧告値決定に貢献した.また,産総研独自のYb光格子時計の開発に取り組み,2009年に世界最初のYb光格子時計の周波数計測を行い,その国際標準への採択により秒の再定義に向けた世界的な検討を加速させた.
このように,洪鋒雷氏による精密周波数計測技術の開発と国際標準への展開に関する研究は,標準,光科学,物理学などの分野に大きく貢献し,光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)にふさわしい業績である.
2019年度光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)表彰委員会
- 委員長
- 植田憲一
- 委員
- 大和壮一,加藤義章,五神真,清水富士夫,武田光夫,中沢正隆,野田進,山西正道