第6回(2005年度)応用物理学会業績賞 受賞者
第6回 応用物理学会業績賞(研究業績)
- 件名
- 面発光半導体レーザーの先駆的研究
- 受賞者
- 伊賀 健一
伊賀健一氏は,1977年に面発光レーザーを世界に先駆けて提唱し,1979年に初めて電流注入でレーザー発振を実現した.さらに,共振器の長さが10µm以下という極短共振器構造を提唱し,通常の半導体レーザーと比べて極めて小さな電流で動作するマイクロ構造レーザーを実証した.その後,同氏の研究チームは室温で連続的に動作するデバイスを実現して,実用化への道を切り拓き,1995年には素子の微小化を進めて,当時の半導体レーザーとして世界最小しきい値電流70マイクロアンペアを実現した.
これらの先駆的研究により,面発光レーザーという新しいデバイスの学術分野が世界的な規模で形成され,多くの研究機関で研究開発と実用化が進められている.同氏は,このデバイスの発明者として世界的に広く認知されている.特に,米国では,面発光レーザーを用いた超並列光伝送,光インターコネクトに関していくつかの国家プロジェクトが推進され,米国政府のナノテクノロジーイニシアティブのホームページにも日本発の革新的なIT技術として紹介されている.
このように,同氏の光エレクトロニクス分野における業績,特に面発光レーザーの発明から基礎技術開拓,デバイス実現にいたる研究は,世界的に新たな研究分野を創出し,産業的な発展にまで大きく貢献しており,日本発の創造性を世界に示した.さらに,面発光レーザーに関する業績は,微小共振器による自然放出制御,フォトニック結晶などの光・量子エレクトロニクスの新分野研究を誘発し,学術的にも大きな影響を与えている.同氏が,面発光レーザーを中心とし,かつ自らが発明した平板マイクロレンズアレイと統合した超並列光エレクトロニクスについては,当該研究に関する研究チームが文部省の中核的研究拠点(COE)の第一期課題の一つとして選定されるなど,学術的にも高く評価されてきた.
面発光レーザーは,近年ギガビットイーサなど短距離のデータ通信用光源として数百億円規模の市場に成長し,短距離高速通信網には不可欠のデバイスとなっている.さらに,面発光レーザーの低消費電力特性と高密度集積性を活かした超高速光インターコネクト技術は,大規模電子機器,集積システムの配線ボトルネックを打破する革新的技術として考えられている.今後のホーム光ネットワーク,センサーなどの多様な応用も期待され.世界的に面発光レーザーに関する多数のベンチャー企業を生み出すなど,社会的にも大きなインパクトをもたらした.これらの業績は,応用物理学会業績賞(研究業績)にまことにふさわしい.
伊賀健一氏 略歴
- 1940年 広島県生まれ
- 1968年 東京工業大学大学院博了(工博)
- 1973年 東京工業大学助教授
- 1979〜80年 ベル研究所客員研究員
- 1984年 東京工業大学教授
- 1987年 IEEEフェロー
- 1990年 市村賞・功績賞
- 1992年~ 応用物理学会/光学会・微小光学研究グループ代表
- 1992年 IEEE/LEOSウィリアム・ストライファー賞 東レ科学技術賞
- 1998年 朝日賞
IEEE/LEOS, OSAチンダル賞 - 2000年 IEEEミレニアムメダル
東京都科学技術功労者表彰 - 2001年 東京工業大学名誉教授
日本学術振興会理事
工学院大学客員教授
紫綬褒章 - 2002年 英国ランク賞
- 2003年 電子情報通信学会長
IEEE Daniel E. Noble Award
藤原賞
電子情報通信学会功績賞 - 2005年 日本学術会議会員(第20期)
- 件名
- マイクロビームアナリシスにおける先駆的基礎研究と表面分析技術への貢献
- 受賞者
- 志水 隆一
- 1937年 大阪府生まれ
- 1964年 大阪大学大学院工学科応用物理学専攻博士後期課程修了,工学博士
- 1965年 大阪大学工学部応用物理学科助手
ドイツ,チューヒンゲン大学応用物理研究所客員研究員 - 1969年 大阪大学工学部応用物理学科助教授
- 1977年 カリフォルニア大学バークレイ校客員教授
- 1982年 米国マクロビームアナリシス学会 学会長賞受賞
- 1983年 井上春成賞(共同受賞)
- 1984年 日本電子顕微鏡学会瀬藤賞受賞
- 1985年 応用物理学会論文賞受賞
- 1986年 大阪大学工学部応用物理学科教授
- 1989年 日本学術振興会第141委員会マイクロビームアナリシス委員長
- 1994年 日本電子顕微鏡学会論文賞受賞
- 1995年 日本学術振興会総合研究連結会議委員
- 1997年 大阪大学超伝導エレクトロニクスセンター長
- 1998年 大阪大学超高圧電子顕微鏡センター長
- 1999年 国際標準機構(ISO)-TC201(表面化学分析)国際議長
- 2000年 大阪大学名誉教授
大阪工業大学情報科学部情報科学科教授 - 2002年 米国顕微鏡学会,Distinguished Scientist Award受賞
- 2003年 日本表面科学会賞受賞
第6回 応用物理学会業績賞(研究業績)
志水隆一氏は,昭和30年代から電子・イオンビームを用いたマイクロビームアナリシスの基礎ならびにその応用に関する先駆的な研究を行ってきた.中でも世界的に知られている重要な業績の一つは,電子・イオンビームの固体内での散乱過程をモンテカルロ法を用いて明らかにする手法を世界に先駆けて提案したことである.この手法は,解析的な方法では解を得ることが難しい場合にも適用することが可能であるために,走査型電子顕微鏡(SEM)の像解釈,局所分析手法として広く用いられている電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)の定量的な解析,高感度局所分析法として知られる二次イオン質量分析法(SIMS)におけるスパッタリング過程の解明等,広範囲のマイクロビームアナリシスの手法に用いられている.またこのような分析手法は産業における材料ならびにデバイスの評価に広く用いられており,それらの普及に果たした役割は非常に大きい.同氏はこのようにマイクロビームアナリシスの基礎を長年にわたって築き上げてきた. 電子光学系では,原理的に凹レンズが存在しないために球面収差を除去することが難しく,収差除去の試みは電子顕微鏡が発明された1930年代以来ずっと行われてきたにもかかわらず成功しなかった.同氏は,球面収差除去の新しい手法として我が国から提案された「能動型焦点位置変調球面収差除去法」を実際の電子顕微鏡に適用し,アーテイファクトがない鮮明な原子の像を得ることに世界で始めて成功した.さらに,日本学術振興会未来開拓学術推進プロジェクト”次世代超電子顕微鏡の開発”のリーダーとして,超解像位相差電子顕微鏡の開発に成功した.
同氏は,これらの業績以外にも,LaB6ならびにZrO2等の高輝度電子源の電子放出メカニズムを解明することにより,その開発の進展に大きな貢献をした.特に単結晶LaB6カソードの実用化においては,企業との共同研究で取得した数多くの特許により製品化を実現し,電子ビーム機器の発展に多大の寄与をした.このように,マイクロビームアナリシスの分野における第一人者として学会のみならず産業界へ与えた功績はきわめて大きいものがある.
同氏の業績はこれにとどまらず,種々の国際貢献を行い日本のこの分野の発展に寄与したことも特筆される.特に産業に結びついた分野では,国際標準機構(ISO)の表面化学分析部会(TC201)の日本代表となるとともに国際議長としても活躍し,日本の表面分析技術の向上に貢献した.これらの一連の業績は,応用物理学会業績賞(研究業績)にまことにふさわしい.