第26回(2025年度)応用物理学会業績賞 受賞者
第26回 応用物理学会業績賞(研究業績)
- 件名
- MOSトランジスタにおけるキャリア輸送特性の解明と高性能化への貢献
- 受賞者
- 高木 信一 氏 (帝京大学 先端総合研究機構 特任教授)
高木 信一氏は,MOSFET反転層におけるキャリア移動度を材料特性・電界・表面粗さ・散乱機構に基づき統一的に記述する「ユニバーサル移動度モデル」を提唱し,微細化時代のCMOS設計における指針を確立した.このモデルは,MOS界面の電気伝導現象の理解における標準的手法として世界的に広く受容され,TCADシミュレーションにも不可欠な基盤技術として活用されている.さらに,歪みSi/SiGeやGeチャネルを用いた高移動度CMOSの実証を先導し,応力ライナやSiGe S/D構造による移動度およびドレイン電流の向上,極薄Geチャネルの成膜・界面制御技術など,材料・構造・プロセスの革新を牽引した.これらの成果はHigh-k/金属ゲート世代にも継承され,先端CMOS技術の物理的基盤を形成している.
特筆すべきは,SiGe-on-insulator構造によるpチャネルMOSFETのホール移動度向上や,Geチャネルを用いた次世代CMOSの可能性を提示し,性能限界を超える新たな展望を切り拓いた点である.界面欠陥の低減,極薄EOTの実現,S/D抵抗の低減といった課題を体系的に整理し,GeおよびⅢ-Ⅴ族半導体チャネルに関する総合的レビューを主導することで,学術界および産業界に多大な影響を与えた.
高木氏の研究は,理論・シミュレーションと実験・プロセス開発を有機的に統合し,基礎から応用への橋渡しを実現したものである.提唱された概念は,MOSFETの微細化・集積化・3次元化が進む現在においても修正を加えつつ広く用いられており,半導体スケーリング限界の克服に不可欠な役割を果たしている.よって,同氏の業績は応用物理学会業績賞(研究業績)に相応しいものと確信する.

高木 信一 (たかぎ しんいち)
所属/役職
帝京大学先端総合研究機構特任教授
東京大学名誉教授
略歴
- 1987年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了 工学博士
- 1987年 (株) 東芝総合研究所 超LSI研究所
- 1991年 (株) 東芝研究開発センター ULSI研究所 研究主務
- 1993〜1995年 Stanford大学滞在研究員
- 1998年 (株) 東芝研究開発センター 先端半導体デバイス研究所 主任研究員
- 2001〜2008年 半導体MIRAIプロジェクト新構造トランジスタ及び計測解析グループ・グループリーダ兼務
- 2003年 (株) 東芝研究開発センター LSI基盤技術ラボラトリー 研究主幹
- 2003年 東京大学大学院工学系研究科教授
- 2004年 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
- 2007年 東京大学大学院工学系研究科教授
- 2025年 帝京大学先端総合研究機構特任教授
- 2025年 東京大学名誉教授
受賞と表彰
- 2002年 International Conference on Solid State Devices and Materials (SSDM) Paper Award
- 2004年 International Solid State Circuits Conference (ISSCC) Takuo Sugano Outstanding Paper Award
- 2003年 IEEE George E. Smith Award
- 2004年 日本 IBM科学賞
- 2008年 応用物理学会解説論文賞
- 2008年 応用物理学会フェロー表彰
- 2009年 International Conference on Solid State Devices and Materials (SSDM) Paper Award
- 2012年 応用物理学会シリコンテクノロジー分科会論文賞
- 2012年 山崎貞一賞
- 2013年 IEEE Andrew S. Grove Award
- 2013年 APEX/JJAP編集貢献賞
- 2014年 IEEE Paul Rappaport Award
- 2015年 応用物理学会シリコンテクノロジー分科会論文賞
- 2015年 科学技術分野の文部科学大臣表彰 研究部門
- 2017年 紫綬褒章
- 2018年 応用物理学会シリコンテクノロジー分科会論文賞
- 2019年 APEX/JJAP編集貢献賞
- 2023年 応用物理学会シリコンテクノロジー分科会論文賞
- 2025年 応用物理学会シリコンテクノロジー分科会論文賞
専門分野
半導体デバイス工学
第26回 応用物理学会業績賞(研究業績)
- 件名
- 半導体スーパージャンクション構造の提唱とパワー半導体デバイスの性能向上への貢献
- 受賞者
- 藤平 龍彦 氏 (富士電機株式会社 フェロー)
藤平 龍彦氏はサイリスタ,パワーMOSFET,IGBTなどのSiパワーデバイスやSiCパワーデバイスの研究開発に長年にわたって従事してきた.
高速スイッチングが可能なパワーMOSFETなどのユニポーラ型パワーデバイスにおいては,ユニポーラリミット(理論限界値)と呼ばれる,耐圧とオン抵抗のトレードオフ関係がある.高い耐圧を実現するための空乏層を確保するためには,低ドープで厚いn型耐圧維持層が必要となることに起因する.1990年代,SiパワーMOSFETの開発が進み,低オン抵抗化はユニポーラリミットに近づきつつあり,これ以上の大幅な性能向上は不可能と考えられていた.
同氏は1997年に,n型耐圧維持層を電圧印加方向と直交する方向に高濃度のp,n層の繰り返し積層した構造に置き換えた,スーパージャンクション(超接合,SJ)の概念を提唱した.オン状態では高濃度のn型領域が低いオン抵抗を実現し,オフ状態では,pn積層構造全体が空乏化することで高い耐圧を得るものである.同氏はSJのコンセプトと解析的モデルや設計条件を提示し,SJを用いることで,ユニポーラリミットに対して格段の低オン抵抗化が可能なことを示した.同氏がJpn. J. Appl. Phys.で発表した “Theory of Semiconductor Superjunction Devices” はパワーデバイスの基礎研究の論文として群を抜いた被引用数を誇り,IEEEのパワーデバイス関係の論文から数多く引用されている.加えて同氏は,実用的なSi SJパワーMOSFETの基本構造,今日広く用いられているイオン注入とエピタキシャル成長を繰り返してSJ構造を作製する手法を発明した.
Si SJパワーMOSFETは600〜900V耐圧の製品が数多く開発されている.2024年度の世界市場は5,000億円で,継続的に拡大している.SJはSiのみならず,ワイドバンドギャップ半導体材料であるSiCやGaNにおいても研究が進められ,SiC SJパワーMOSFETに関しては既にサンプル出荷がされており,数年以内の量産化も見込まれている.
以上のように,藤平氏は,半導体パワーデバイスにおける新概念であるSJ構造を提唱するとともに,その作製技術を発明した.同氏のSJ構造は,半導体デバイスに新たな視点を提示するだけでなく,パワーデバイスの損失低減を通じて省エネルギー社会の実現に大きく貢献している.同氏の業績は応用物理学会業績賞(研究業績)に相応しいものである.

藤平 龍彦 (ふじひら たつひこ)
所属/役職
富士電機株式会社 フェロー
略歴
- 1984年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
- 1985年 東京大学大学院工学系研究科博士課程中退
- 1985年 富士電機製造株式会社(現富士電機株式会社)入社
- 1998年 山梨大学大学院工学系研究科社会人博士課程修了 工学博士
- 1999年 富士日立パワーセミコンダクタ株式会社 松本事業所長
- 2003年 富士電機デバイステクノロジー株式会社半導体事業本部開発統括部 自動車電装品開発部長
- 2007年 富士電機デバイステクノロジー株式会社 CTO兼電子デバイス研究所長
- 2012年 富士電機株式会社電子デバイス事業本部 CTO兼開発統括部長
- 2020年 富士電機株式会社 フェロー
受賞と表彰
- 1999年 関東地方発明表彰発明奨励賞
- 2002年 電気科学技術奨励会電気科学技術奨励賞(オーム技術賞)
- 2007年 関東地方発明表彰長野県知事賞
- 2021年 ISPSD (International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs) Hall of Fame
- 2022年 応用物理学会フェロー表彰
- 2023年 IEEE Medal for Environmental and Safety Technologies
- 2024年 応用物理学会シリコン系半導体エレクトロニクス業績賞
第26回応用物理学会業績賞委員会
- 委員長
- 玉田 薫 (九大)
- 副委員長
- 江崎 瑞仙 (東芝)
- 委員
- 淡路 智 (東北大), 石井 久夫 (千葉大), 梶川 浩太郎 (東京科学大), 須田 淳 (名大), 田中 秀和 (阪大), 谷本 明佳 (日立), 知京 豊裕 (物材機構), 筒井 一生 (東京科学大), 日比野 浩樹 (関学大), 平松 美根男 (名城大), 丸山 茂夫 (東大), 美濃島 薫 (電通大), 湯浅 新治 (産総研), 吉田 郵司 (産総研)
- 幹事
- 辰己 哲也 (事務局長)