第24回(2023年度)応用物理学会業績賞 受賞者

第24回 応用物理学会業績賞(研究業績)

件名
触媒気相成長法カーボンナノチューブを中心としたナノカーボンに関する研究と産業応用への貢献
受賞者
遠藤 守信 氏 (信州大学 特別栄誉教授)

遠藤 守信氏は,触媒気相成長(CCVD)法によるカーボンナノチューブ(CNT)に関する鉄粒子による触媒成長と透過電子顕微鏡研究による存在の発見,浮遊触媒法による多層CNT成長と量産化,多層CNTのリチウムイオン電池電極への適用,並びにその生体適用性・安全性・医療応用など,CNTの基礎科学と産業応用の両分野に大きく貢献した.

同氏は,炭化水素の熱分解による気相成長炭素繊維の研究を行い,その極細試料を調製し,フランス国立科学研究所に持参して高分解能透過型電子顕微鏡研究を進めた.その結果,生成基板上に存在する鉄粒子による炭素の極細中空チューブと多形の成長を発見するとともに,極微小な鉄触媒粒子によるCNTの成長機構を提案した(A. Oberlin, M. Endo. and T. Koyama, J. Cryst. Growth, 32, 335 (1976),(被引用数2,581)).また,同材料の生成法を発明し(遠藤,小山,特許,昭62(1987年)-242),米国化学会ジャーナルCHEMTECHに発表(M.Endo,1988年)した.本法は,単層及び2層ナノチューブ,特に浮遊触媒法によって多層CNTの工業生産を可能とし,最も普遍的なCNT製法として国内外で広く利用されている.同氏はCNTの応用開拓にも重要な貢献を果たし,特にリチウムイオン電池の負,正極への添加剤としてそれぞれ先駆的論文を発表し(2001, 2008年),広く実用展開されている.さらに同氏は,CNTの安全性・生体適合性の研究にも積極的に取り組み,米国国立労働安全衛生研究所との共同研究を進め,安全なナノテクイノベーションへ向けた貢献を果たしてきた.加えて,より安全なCNT構造の提案を行っている.近年は,グラフェンやフラーレン応用についても新規な可能性を開拓し,ナノカーボンの応用物理学的研究で有為な成果を蓄積している.

この様に,同氏はCCVD法-CNTの発見,基板・浮遊触媒生成法の開発,基礎科学から応用,そして安全性・生体適用性研究に至る広範囲な分野で卓越した貢献を果たし,さらにグラフェンやフラーレン応用についても時代の要請に応える成果を挙げている.また,関連の国際会議の議長等も多数務め,国際会議での特別講演等の実績も顕著で,我が国はもとより国際的にもナノカーボンの広範な基礎と応用の分野,すなわち応用物理学の領域で大きく寄与している.地域の大学として学内にも研究拠点を形成するとともに,そこでの有機,無機エレクトロニクスシンポジュウム,研究会およびEM-NANO2019の開催など,当会北陸・信越支部に関連した研究教育活動にも大きく貢献している.

以上のように遠藤 守信氏はカーボンナノチューブを中心にナノカーボンの先駆的な研究と実用化へ向けた多大な貢献を果たし,その卓越した業績は応用物理学会業績賞(研究業績)として真に相応しいものである.

遠藤 守信(えんどう もりのぶ)

所属/役職

信州大学 特別栄誉教授

略歴

受賞と表彰

第24回 応用物理学会業績賞(研究業績)

件名
ラジカル制御プラズマプロセスの先駆的研究
受賞者
堀 勝 氏 (名古屋大学 特任教授)

堀 勝氏は,半導体をはじめとする基幹産業におけるエッチングや薄膜形成,表面改質に不可欠な低温プラズマ中のラジカル計測とそのプロセス構築への展開に関する先駆的な研究を行い,半導体製造装置,プロセス技術の高度化に大きく貢献した.

1960年代末に低温プラズマを用いたレジストアッシングやSi,Alのエッチングが発明されて以来,反応性プラズマを用いるプロセスは半導体集積回路の製造に広く用いられてきた.今日の先端半導体の微細化と高集積化はプラズマエッチング技術なしでは成しえない.その高度な進歩は,長らくブラックボックスとなっていた複雑な反応性プラズマ中の電子,イオン,ラジカル等の定性・定量的な計測や制御,さらにはこれらの粒子,分子と固体表面との相互作用の理解を目指す研究,すなわちプラズマエレクトロニクス分野の学術研究の深耕に負うところが大きい.

赤外線半導体レーザ吸収分光(IRLAS)は,プラズマ CVD 装置中のラジカルを計測する手法として開発され,1988 年に報告されていたが,1992年以降,堀氏は同技術をエッチングに用いられるフロロカーボンプラズマ中の CFx ラジカル計測に活用し,反応性プラズマ中の解離反応のその場解析を可能にした.当該手法は,ラジカル測定・制御に基づく反応性プラズマプロセス構築の研究に活用され,1990 年代後期に産学の研究者が連携して取り組み,半導体製造装置の大きな進展,プロセス技術の高度化に繋がった.特に半導体微細加工において難易度が高い絶縁物(酸化物)高アスペクト比加工に用いられる高密度エッチング装置による半導体デバイスの量産製造への寄与が大きい.その後も,堀氏は低誘電率材料のプラズマ加工におけるラジカル制御の研究や小型のホローカソードプラズマ光源を用いた原子状水素のその場計測等の一連の研究を展開し,ラジカル制御を基軸とするプロセス研究の裾野を広げてきた.また,複数の大型研究プロジェクトで精力的にリーダーシップを発揮し,国内外のプラズマエレクトロニクス分野の研究活動を牽引してきた.2023年には文科省共同研究共同利用拠点として認定された「低温プラズマ科学研究拠点」を名古屋大学に設置し,同大学内だけでなく国内外に広がるプラズマ研究者ネットワークの活性化に尽力しており,プラズマを半導体だけでなく,バイオ,医療,農業などの異分野と融合させる新たな研究・開発の進展も期待されている.

これら堀 勝氏のラジカル制御プラズマプロセスの先駆的研究に関する卓越した業績は,応用物理学会業績賞(研究業績)として真に相応しいものである.

堀 勝(ほり まさる)

所属/役職

名古屋大学低温プラズマ科学研究センター特任教授
名古屋大学名誉教授

略歴

受賞と表彰

専門分野

低温プラズマ科学とその応用

第24回応用物理学会業績賞委員会

委員長
馬場俊彦 (横国大)
副委員長
木下啓藏 (アイオーコア)
委員
一木隆範 (東大) 岡田裕之 (富山大) 尾辻泰一 (東北大) 小野輝男 (京大) 笹木敬司 (北大) 高木信一 (東大) 谷田純 (阪大) 為近恵美 (横国大) 冨谷茂隆 (奈良先端大) 浜口智志 (阪大) 藤岡洋 (東大) 水田博 (北陸先端大) 宮本恭幸 (東工大) 渡部平司 (阪大)
幹事
苅米義弘 (事務局長)