第22回(2021年度)応用物理学会業績賞 受賞者

応用物理学会業績賞委員会
委員長 金丸 正剛

応用物理学の発展に顕著な業績をあげた会員に対して,その功績をたたえることを目的とする「応用物理学会業績賞」の選考を行った.第22回を迎える今年度は,公募の案内を機関誌『応用物理』第90巻の3~7月号およびホームページに掲載し,候補者の推薦をお願いした.2021年8月20日の締め切り日までに推薦のあった候補者について,業績賞委員会において詳しく調査と評価を行い,第1次および第2次の審査を慎重に進めることにより,今年度は2名の研究業績賞を受賞候補者として選出した.受賞候補者は,11月12日の理事会で審議され,最終承認された.この結果,安達千波矢氏と江刺正喜氏に第22回応用物理学会業績賞(研究業績)が授与されることとなった.

なお,授賞式は,2022年第69回春季学術講演会(ハイブリッド開催)の初日,3月22日(火) に現地にて行われる予定である.また,受賞記念講演も春季学術講演会の会期中に行われる予定である.

第22回 応用物理学会業績賞(研究業績)

件名
革新的な材料創成による有機発光デバイスの高性能化
受賞者
安達 千波矢 氏 (九州大学)

有機発光ダイオード(Organic Light-Emitting Diode: OLED,あるいは,有機EL)は,1990年代後半からカーナビゲーション用ディスプレイとしての製品化が始まり,2010年代からスマートフォン,大型テレビ,医療機器,車載パネル,照明パネル等,産業的に大きな広がりを示している.安達千波矢氏は,1980年代後半の黎明期から現在に至るまで一貫してOLEDの研究に取り組み,OLEDの設計指針を示し,新規発光材料を設計・合成することで,当該分野を先導する革新的な成果を挙げた.

OLEDの発光原理は,蛍光(第1世代),燐光(第2世代),熱活性化遅延蛍光(TADF)(第3世代)である.安達氏は全ての世代で,重要な役割を果たした.第1世代のOLEDは当初,電子輸送層・発光層/正孔輸送層の二層構造であったが,安達氏は,電子輸送層/発光層/正孔輸送層なるダブルヘテロ構造により高効率化を実現した.ダブルヘテロ構造はその後のOLEDの基本構造となった.

第1世代の蛍光OLEDの内部量子効率は25%程度であったが,安達氏は,燐光材料を発光層に用いたダブルヘテロ構造OLEDにより,内部量子効率が100%となること実証し,第2世代燐光OLEDの有用性を示した.この後,TADFを発現する分子群を設計・合成し,燐光材料とは異なるレアメタルを含有しない比較的単純な芳香族化合物でありながら内部量子効率100%の第3世代TADF OLEDを実現した.究極のOLED発光材料としての地位を確立し,多数の研究活動を触発している.さらに安達氏の研究グループは,TADF材料に蛍光材料を添加した第4世代OLEDにおいて,TADF材料と同等な内部量子効率を有する高色純度を実現している.

安達氏はTADF OLEDに関する100件を超える特許出願を行い,それをもとに2015年に九州大学発ベンチャーである(株) Kyulux を設立している.

これらの安達氏の研究成果は,有機分子・バイオエレクトロニクス分野の応用物理学の発展に多大な貢献を果たした.安達氏の卓越した業績は応用物理学会業績賞(研究業績)として真に相応しいものである.

安達 千波矢(あだち・ちはや)

所属/役職

九州大学 工学研究院応用化学部門 主幹教授
同 最先端有機光エレクトロニクス研究センター センター長

略歴

受賞と表彰

専門分野

有機光エレクトロニクス,有機光・電子物性,機能分子設計

第22回 応用物理学会業績賞(研究業績)

件名
MEMS技術の発展と産業展開への貢献
受賞者
江刺 正喜 氏 (東北大学)

江刺正喜氏は,Micro-Electro-Mechanical Systems(MEMS)の目覚ましい発展の基礎を築いたパイオニアであり,自動車,携帯電話,産業機器,医療機器など幅広い分野でシステムの鍵を握る,高度な機能を持つセンサやアクチュエータなどを開発し,市場に投入することで,40年以上にわたって,MEMS技術分野を牽引してきた.

江刺氏のMEMS分野への重要な貢献は,1970年代のイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)に関連した半導体マイクロセンサ研究に始まる.ISFETは,pHを体内でモニタするセンサとして1980年に商品化され,逆流性食道炎の診断などに使われた.その後も,血管内用のカテーテル血圧センサなど低侵襲医療用の各種センサを実現した.

1980年代には,半導体集積回路の設計・試作・テストなどを研究室内で可能にして,モノリシック集積化容量型圧力センサを実現し,微圧用センサとして商品化した.このセンサのために,ウェハ上で封止されたチップを製作する「ウェハレベルパッケージング」技術を開発した.このほか,シリコンウェーハ上にマイクロチャネルやバルブなどを備えたマイクロ流体システムを開発し,今日の集積化化学分析システム(lab-on-a-chip)技術の基盤を築いた.

1990年代以降には産業展開に注力し,ウェハレベルパッケージング技術によるMEMSスイッチやダイアフラム真空計を商品化した.このほか,電磁2軸光スキャナや静電浮上回転ジャイロなども実用化した.また,別のウェハに形成したMEMSなどをLSIウェハ上に転写する「ヘテロ集積化MEMS」技術を開発し,介護ロボットのための分布型触覚センサシステム,超並列電子線描画装置のプロトタイプなどを実現した.さらに,MEMSの製造に必要となる深堀用反応性イオンエッチング(Deep RIE)装置の開発なども行った.

江刺氏の顕著な業績として,オープンイノベーションによる協創を具体化した実行力も挙げられる.彼は,大学の試作設備を「試作コインランドリ」として企業などの利用に開放し,有用な知識を提供するとともに,ニーズなどの情報を共有することで,数多くの新たなMEMSの創出につなげた.現在,多くの研究室で,技術や人を育てながら製品化のニーズの探索をしており,彼の方式は,その模範となっている.

このように江刺正喜氏の,MEMS分野を開拓し,さらに40年以上にわたり同分野の発展を牽引してきた卓越した業績は,応用物理学会業績賞(研究業績)として真に相応しいものである.

江刺 正喜(えさし・まさよし)

所属/役職

(株)メムス・コア CTO
東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター シニアリサーチフェロー

略歴

受賞

専門分野

MEMS,マイクロシステム,センサ,集積回路

第22回応用物理学会業績賞委員会

委員長
金丸 正剛 (産総研)
副委員長
辰巳 哲也 (ソニーセミコンダクタソリューションズ)
委員
魚見 和久 (日本ルメンタム) 寒川 哲臣 (NTT 先端研) 田中 耕一郎 (京大) 生田目 俊秀 (物材機構) 吉田 博 (東大) 清水 勝 (兵庫県立大) 竹内 淳 (早大) 民谷 栄一 (産総研,阪大) 内藤 裕義 (大阪府立大) 久本 大 (日立) 平野 愛弓 (東北大) 堀川 剛 (PETRA) 松本 要 (九工大) 森 伸也 (阪大)
幹事
苅米義弘 (事務局長)