会長あいさつ
伝統的学会から“未来を創るプラットフォーム” へ
応用物理学会は,物理学を基盤としながら,半導体,光・電子材料,量子技術,エネルギー,バイオ・医療デバイスなど,社会と産業を支える幅広い分野を牽引してきました.基礎から応用に至る研究の不断の積み重ね,そして学術と産業を結び付ける役割は,本学会の揺るぎない財産であり,日本の科学技術の発展に確かな足跡を刻んできました.理学に裏打ちされた学理と,実用化という厳しい工学的要請が相互に作用しながら深化してきたことこそが応用物理の本質であり,その発展は,産学官の強固な連携によって支えられてきたものです.
一方で,私たちを取り巻く社会環境は今,かつてない大きな転換期にあります.地球規模での産業構造の変化,国内における人口減少や国際競争力の低下,研究者キャリアの多様化など,社会課題は一層複雑さを増しています.研究開発活動と実社会との関係性そのものが問い直される時代に入り,学会に求められる役割もまた,従来の延長線上にとどまらない進化が不可欠となっています.
このたび,初めて設置された選考委員会による候補者推薦と厳正な選挙を通じて会長に選出されました.有機分子・バイオエレクトロニクス分科会から,そして九州地区から初めての選出になります.これは,学会が多様な分野・地域・視点を積極的に取り込もうとする強い意思の表れであると受け止めています.諸先輩方が築き上げてこられた学会の伝統と信頼を深く胸に刻みながら,私は今,新たな時代にふさわしい学会の姿を切り拓く責任と覚悟を強く感じています.
本年度,応用物理学会は創立80 周年という大きな節目を迎えます.この記念すべき年に向けて,昨年度より木本前会長を中心に,応用物理の「未来ビジョン」が丹念に取りまとめられてきました.どのような未来像が示されるのか,私自身,大きな期待とともに高い高揚感を抱いています.私たちはこの80 周年を単なる通過点とするのではなく,次の10年,20年を切り拓くための力強い起点としなければなりません.その旗印として,私は応用物理学会を「伝統的学会」から「未来を創るプラットフォーム」へと進化させることを掲げます.ここでいうプラットフォームとは,研究成果を発表・共有する場にとどまらず,人と人,分野と分野,学術と産業が交わり,新しい価値と挑戦が次々に生まれる場です.応用物理を社会課題解決の駆動力として可視化し,次世代へとつながる知の循環を力強く生み出していきたいと考えています.
具体的には,カーボンニュートラル,量子技術,AI,宇宙技術,バイオ・医療デバイス,ロボットと応用物理の融合といった重点領域を軸に,分野横断的な議論と研究連携を一層加速させていきます.また,若手・学生,企業研究者,さらにはベンチャーキャピタルを含む多様な人材が垣根を越えて交流できる環境を整え,産学連携やスタートアップとの共創を積極的に後押しします.加えて,デジタル技術を活用した学会運営と情報発信を通じて,知へのアクセスと参加のハードルを下げ,誰もが主体的に関われる開かれた学会を実現していきます.
現在,数多くの国際会議が開催され,その重要性は広く認識されています.その一方で,応用物理学会をすべての学会活動の基軸と位置づけ,日本語を用いて細部まで徹底した議論を行う場としての価値を,私は改めて高めていきたいと考えています.そのためには,大学研究者のみならず,産業界の最前線で挑戦を続ける企業研究者の皆様による積極的な研究発表が不可欠です.さらに,本学会のフラッグシップジャーナルである “Applied Physics Express” 誌を,世界トップクラスの学術誌として発展させるためにも,皆様の最先端研究を力強く発信していただくことを心から期待しています.
応用物理は,社会の基盤を静かに支える揺るぎない学問であると同時に,まだ見ぬ未来を切り拓く原動力となる学問です.本学会が理学・工学分野における「未来を創るプラットフォーム」として進化することで,研究者一人ひとりの挑戦が社会とダイレクトに結び付き,新たな価値として大きく花開くと信じています.会員の皆様と力を合わせ,応用物理の可能性をさらに広げ,日本,そして世界の未来に貢献していく決意です.
安達 千波矢
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター
センター長