半導体は,導電性の大きな金属と,ほとんど導電性を示さない絶縁体との中間の導電性を示す物質であり,エネルギーギャップをもつ特徴的なバンド構造をもつ.その電子物性と光物性は,構成する元素やその組成や添加する不純物の種類と量,形成する接合の種類や材料構成,温度や圧力に応じて,多彩かつ量的に大きく変化し,しかも,それらを人工的に制御することができる.半導体の物性を理解する学問とそれを制御する技術は前世紀の後半に革命的な進展を示し,トランジスタやレーザに代表される各種の半導体デバイスやその集積回路を産み出し,高度情報化社会を支えるコンピュータや情報通信の基盤をつくりあげた.この材料の重要性は, 21世紀においてさらに増大するものと考えられている.
本ハンドブックでは,本章で,半導体の基礎物性を述べ,次の 9章,10章において半導体デバイスとその製造技術についてとり上げている.この三つの章を通じて,単結晶半導体の基礎から,デバイスおよび集積回路と,その製造に必要とされる最新技術までの概要が理解できる.また,単結晶半導体の結晶成長法については 7章を,非晶質半導体の材料,物性,デバイスについては, 11章を参照されたい.
本章では,まず, 8.1節で半導体の特徴と歴史を概観する.次に 8.2節で半導体の結晶構造とエネルギー帯, 8.3節で電子物性, 8.4節で光物性について述べており,これらは,電子デバイス,光デバイスの動作を理解する基礎となる. 8.5節では,冷却素子や温度・圧力センサの原理となる熱電効果と圧電効果について述べている.
8.6節では,表面・界面物性を概説している.半導体デバイスは, pn接合,半導体ヘテロ接合,金属–半導体接合,金属–絶縁体–半導体接合を用いて構成されるので,表面・界面の電子状態や物性の理解は,各種の半導体デバイスの理解や設計の基礎としてきわめて重要である.
8.7節では超薄膜ヘテロ構造の物性について述べている.半導体ヘテロ接合を用いた量子井戸構造では,キャリアの運動は 2次元面内に閉じ込められ量子効果が顕著となり,バルク半導体では得られない電子物性や光物性が実現され,高性能の光デバイスや超高速デバイスへ応用されている.
8.8節では,量子ナノ構造の基礎物性が述べられている.量子細線や量子ドット構造では,さらにキャリアの運動の次元を 1次元,0次元空間に閉じ込めることができ,新しい物性が実現される.これらは量子ナノ構造とよばれ,最近,急速に進展している分野である.
8.9節では半導体物性を測定,評価する方法について述べている.これには,大別して,電気的性質にもとづく方法と光学的性質にもとづく方法とがある.また,半導体の物性と評価技術については, 8.9節以外にも,光・量子エレクトロニクス,物理分析技術,表面,薄膜,結晶成長・評価技術などの章にも記述があるので,あわせて参照されたい.
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