応用物理ハンドブック【第2版】

  1. 応用物理ハンドブック 第2版 Web公開にあたって
  2. 第2版の編集にあたって

  1. 光技術
  2. 量子エレクトロニクス
  3. 超伝導
  4. 物理分析技術
  5. 表面
  6. 薄膜
  7. 結晶成長,評価技術
  8. 半導体の基礎物性
  9. 半導体デバイス
  10. 半導体製造技術
  11. アモルファス半導体
  12. 磁性材料
  13. 有機分子材料・バイオ関連技術
  14. 計測技術
  15. 極端環境技術

第15章 極端環境技術

極端環境とは,文字通り日常的でない極限的環境・条件のことである.様々な実験をより極端な環境のもとで行うことにより,物性や物質の本質的な特徴が鮮明に浮き出され,より深い理解へと発展する.この意味で,極端環境技術は応用物理学のあらゆる分野で最先端基礎的技術となっている.

本章では様々な極端環境技術のうち,低温,高温,強磁場,高圧,超高真空,さらに微小重力環境という極端環境技術を取り上げている.これらはいずれも技術革新が著しい分野であり,本章でもその最新の情報を網羅するように努めている.

温度軸の低温側は,格子温度,あるいは電子系の温度としてすでに 10 μKのオーダーの超低温が実験室で実現できている.一方,高温度の方は,数千度の高温での精密な物性研究がなされている.

強磁場の技術も最近になって大いに進んだものの一つである.現在ではメガガウス (106ガウス )の領域の磁場での物理実験が行われており,さらに 10メガガウスの実現を目指す努力も続けられている.

高圧はどうかといえば,常温でならば,いまやメガバールの高圧下での実験が可能となっている.一方,高温・高圧あるいは低温・高圧,さらには強磁場を加えた多重極限環境での実験も重要視されてきている.

真空は何の実験をするにも不可欠な環境であり,古くからより高い真空を得るべき技術革新がされているが,現在では 10-13 Torrという超高真空まで真空の領域が広がってきている.超高真空という環境は特に表面物理の研究では不可欠なものである.また,最近の微細加工技術や新物質創製のための不可欠の環境になっている.本章では,このような超高真空だけでなく,いわば中高真空といった比較的悪い真空のことにも言及している.

本改訂版では,これらに加えて微小重力環境技術を追加した.国際宇宙ステーションでの実験が具体的な視野に入ってきたことを考えると,微小重力環境技術の重要度がにわかに増してきたといわねばならない.

極端環境技術はそれぞれが固有の困難さをもつ高度な技術であり,本来使いこなすのに相当の熟練を要する.しかしながら,いまやその極端技術は大衆化されようとしている.最先端の研究を行っている研究は,必要に応じてこれらの極端環境技術を用いないではいられない状況に来ている.本章は,そういうニーズに対して,適切な解説および基礎知識の提供をすることを念頭において執筆されている.本章の内容が有用に活用されることを期待している.

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