本ハンドブック出版の目的は,初版において当時の辻内順平応用物理学会長,田幸敏治「応用物理ハンドブック委員会」委員長,生駒俊明編集委員長が記述しているように,応用物理という,広範・多岐でかつ漠としたところのある学問分野における啓蒙活動の一つであり,この点は今でも変りはない.この目的は初版においてある程度達成されたと思われる.しかし,同時に常に進歩・発展している分野の書物であるから,変化に応じた改訂を繰り返し,陳腐化を防ぐことが必要で,それがこの第2版の趣旨である.
「応用物理ハンドブック」の初版が会長,両委員長,そのほか応用物理学会関係者と丸善出版事業部の協力のもとで出版されたのは1990年である.予想される読者の多数を占めると思われた当時の応用物理学会会員数は約17,000人であった. 2002年 3月現在,この数は22,000人であるから,この12年間に5,000人近くも増えたことになり,読者の数や年齢層にも変化が生じたと思われる.会員数の増加に加えて,応用物理学という学問の内容にも大きな変化があった. 応用物理学は,あらゆる技術の基礎学問であるとともに,それ自身が常に最先端の学術的,技術的成果を取り込み,集大成しなくてはならない宿命をもっている. それらの変化を取り入れて,このハンドブックを改訂し続けることは応用物理学の使命といって過言でない.この第2版のハンドブック出版の仕事は,いわばその学会の使命というより,むしろ業務の一環として10年後の改訂をめどに初版の出版のすぐ後から始まったともいえる. しかし,応用物理の内容やカバーする領域の変化は大きいうえに,きわめて多岐にわたるので,いかに人材豊富な学会といえども,適当な研究者を選び,執筆を依頼して原稿完成に至るのは容易ではなく, 予想外に時間をとる事業となった.第2版の当初計画では,1999年ないし2000年出版の予定であった.それが2年の遅れを出したのは,編集委員会の怠慢といわれても仕方がないが,多忙を極める第一線の応用物理研究者に執筆を依頼して,少しでも先端的で高いレベルの内容を維持したいという意向の結果であり, この出版で学会の責任は一応果たしたことになるのではないかと考える.学会委員,その他の読者のご寛恕を賜りたい.
この第2版は,かなり大幅な改訂で,執筆者も大きく入れ替えてあり,全面改訂に近いといってよいほどである.有機分子材料・バイオ関連技術という章の新設のほか,一部をあげても,位相共役素子,光情報機器,微細光波現象,画像関連技術,半導体レーザ,超高速光技術,高温超伝導材料,超伝導素子応用,走査プローブ顕微鏡,薄膜成長のシミュレーション,量子ナノ構造,メゾスコピック構造の物性,半導体評価技術,MOS構造応用デバイス,半導体光デバイス, プロセスシミュレーション,極薄ゲート絶縁膜,強誘電体薄膜,酸化物ガラス,スピンエレクトロニクス材料,微小重力環境技術など多くの節や項目の追加があり,編集企画担当者の意気込みを感じていただければ幸いである.
最終の編集委員会は 2001年8月に行われ,編集作業は終了した.編集委員ならびに執筆者各位のご尽力に感謝申し上げる.
最後に,この出版に最大限の努力を傾けられ,編集委員と執筆者を督励して出版にこぎつけてくださった丸善出版事業部の方々に厚く御礼申し上げたい.
2002年3月
「第2版応用物理ハンドブック」編集委員会
編集委員長 金原 粲(金沢工業大学)