磁性材料は電力用の鉄心として,また永久磁石として古くから開発され,電気工学の発展を支えてきたが,電気工学に対する磁気工学または応用磁気学は存在せず,磁気の応用は上記の両者に限られていた.近年,物性物理とともに自発磁化の発生機構の理解が進み,さらに磁区構造の解明によって磁気ヒステリシス特性の本質が理解されてから,画期的な新しい磁性材料が次々と見いだされている.これは,磁性材料の応用分野が鉄心や永久磁石だけでなく,主に磁性薄膜材料の発展を通して記憶・記録材料などの分野に拡大発展したことによるものである.したがって,今回の第 2版の本章では,特にこれらの新しい分野の発展をとりあげた.
本章では,まず 12.1節で磁性の基礎として,磁性固有の物理量である磁化,磁気異方性,磁歪について概説し,ついで磁性材料特有の磁区の形成と磁壁の概念について説明する.さらに,磁界印加による磁区構造の変化とそれにもとづく静的および動的磁化過程を概説する. 12.2節でソフト磁性材料発展と現状について,金属系,フェライト系,アモルファスナノ結晶系に大別して概説し, 12.3節ではハード磁性材料のの現状と発展について,金属系,フェライト系,希土類磁石に大別して概説する. 12.4節では磁性薄膜,人工格子膜,積層膜の作製法,磁気特性について解説し, 12.5節で電流磁気効果の解説と巨大磁気抵抗の現状と発展,さらにスピンエレクトロニクスについて概説する. 12.6節では磁気応用の中で最も成功した先端技術の一つとして磁気記録をとりあげた.さらに,光磁気記録と磁気バブルについて概説した. 12.8節では磁区観察法の概説と磁気力顕微鏡法,ローレンツ電子顕微鏡法,スピン偏極走査電子顕微鏡法について概説した.最後に 12.9節でそのほかの磁気応用として電力用材料,スイッチング素子用材料,磁気センサ,磁歪材料,磁性流体,生体磁気などの最近の発展について解説した.
磁性物理理学,磁性材料の分野では,まだ伝統的な cgsガウス単位系を用いている場合も多い.また SI単位系では磁性体の基本量の磁化と磁気分極に関する慣用の混乱があるが,本章では磁気分極を磁化とよぶ方式で記述した.詳しくは 12.1.1項 (単位系と磁気量の換算 )を参照されたい.
特に 12.3節 (ハード磁性材料 )と 12.7節 (磁気記録 )では,材料特性の記述に慣用にしたがって cgsガウス単位系を用いたが,必要に応じて SI単位系を併記した.やや混乱した印象は否めないが,磁性材料に関しては SI単位に全部統一するのは現状ではまだ尚早と思われる.
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