応用物理ハンドブック【第2版】

  1. 応用物理ハンドブック 第2版 Web公開にあたって
  2. 第2版の編集にあたって

  1. 光技術
  2. 量子エレクトロニクス
  3. 超伝導
  4. 物理分析技術
  5. 表面
  6. 薄膜
  7. 結晶成長,評価技術
  8. 半導体の基礎物性
  9. 半導体デバイス
  10. 半導体製造技術
  11. アモルファス半導体
  12. 磁性材料
  13. 有機分子材料・バイオ関連技術
  14. 計測技術
  15. 極端環境技術

第3章 超伝導

超伝導の用途開発と材料開発の双方が21世紀に入って非常に活発化し, スリルに満ちてきているように思われる.その例をあげてみよう.

(1) 超伝導ケーブルの通電試験が順調に行われている.住友電工–東京電力が作製した直径135mm,長さ100mのビスマス系液体窒素冷却ケーブル(10本で大型発電所の電力全体が運べる容量)がすでに横須賀の電力中央研究所で長期試験中である.

(2) ビスマス系よりもさらに磁場に強い希土類系高温超伝導テープ線材の開発が日米で進んでいるが,配向や超伝導膜コーティング方式に展開があり,すでに10m級のものが試作され,コスト的にも見通しが出てきた.

(3) 電力応用機器の開発が実証段階を経て,コストを考える設計段階に入った.

(4) 蛋白質研究などに期待される高分解能NMRに向けた超23テスラ級NMR用超強力磁石の開発が日米で進められ,1GHzプロトンNMRの出現が現実になろうとしている.

(5) 磁気分離が小型プラントレベルで排水処理など種々の用途に試験され,半導体切削油リサイクルなどで実用化段階に至った.また,湖沼水処理などに新分離方式の提案が日立によりなされた.

(6) 磁気浮上列車(リニアモーターカー)のJR山梨実験線での走りこみ試験が順調に推移している.

(7) MRIの高機能化と低価格汎用化の2極分化が進んでいる.f-MRIでは生体の活動で生じる物質の変化も空間解像とともに追うことができる.

(8) 米国では混線回避と感度向上を目的とする移動体通信用地上基地局への高温超伝導フィルタ導入が1,000台規模で進んでいる.日本では,次世代通信に向けた開発が行われている.

(9) 単一磁束量子(SFQ)素子が現在の半導体素子よりも100倍の高速,1,000分の1の低消費電力で作動することが,NECなどにより実証され,1,000ゲートレベルの集積回路が出現した.高温超伝導SFQ回路も1桁の集積度の差でこれを追うようになった.

(10) ようやく個人発明家のレベルで,超伝導コイルやSQUID,ジョセフソン素子を用いる特殊用途開拓が行われ始めた.

(11) 2001年になって,BCS超伝導体としてのMgB2(39K)の発見が青山学院大学によってなされ,冷凍機伝導冷却用線材として,あるいは,電子素子用としての開発が着手された.また,ペンタセン,C60系など電界効果を利用してゲート電極下にホールをドープする手法で,次々と有機系の高温超伝導がベル研究所の手によって出現し,最高臨界温度がビスマス系銅酸化物高温超伝導と同じ117Kに達した.

したがって,本書の内容が早晩書き換えられねばならない状況がやってきそうなスリルが感じられるこの頃である.本章はその手引きになるものとして企画されている.

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