応用物理ハンドブック【第2版】

  1. 応用物理ハンドブック 第2版 Web公開にあたって
  2. 第2版の編集にあたって

  1. 光技術
  2. 量子エレクトロニクス
  3. 超伝導
  4. 物理分析技術
  5. 表面
  6. 薄膜
  7. 結晶成長,評価技術
  8. 半導体の基礎物性
  9. 半導体デバイス
  10. 半導体製造技術
  11. アモルファス半導体
  12. 磁性材料
  13. 有機分子材料・バイオ関連技術
  14. 計測技術
  15. 極端環境技術

第4章 物理分析技術

応用物理の分野での研究や開発,あるいは技術的な問題の解決を行おうとするときに,対象となる物質の特性を正しく把握することの重要性はいうまでもない.この章では,主に固体試料の形状,組成,結晶状態,電子状態などの物理的特性を測定するための実用的な手法が,第5章に収められている1μm以内の表面層の分析を主眼とするものを除いて,紹介されている.

物理分析の原理は,荷電粒子,放射線,電磁波や音波などを試料に当てて,透過,反射,あるいは2次的に発生する粒子や波を測定することによって,それらと試料との相互作用を通して試料の特性を知ることにある.本章では励起手段ごとに,電子線,イオン,放射線,電磁波,電磁場,音波の順で測定技術が紹介されているが,励起手段と検出される荷電粒子や電磁波の種類によってそれぞれ特徴的な情報をもたらす.したがって,測定手法の選択と組合せや,測定結果の解釈にあたっては,測定原理を良く理解しておくことが大切であり,その手引きとして本章を利用してほしい.

形状観察手段としては走査型および透過型の電子顕微鏡,元素分析には蛍光X線分析法や発光分光法,結晶構造解析や物質同定にはX線回折法などが普及している.また,微視的な元素分布の測定法としては,走査型電子顕微鏡にX線分析器を付加した装置やそれに特化した電子線マイクロプローブX線分析法ならびに SIMS:2次イオン質量分析法であろう.また,最も空間分解能が優れているのは透過型電子顕微鏡であり,元素検出の下限が低いのはSIMS,3次元的な定量分析法としてはラザフォード後方散乱分析法が優れている.分子や原子の振動の情報を得るには光の分光法が,固体内原子近傍の電子やイオンの状態について知るためには電磁波や放射線を利用する手法がそれぞれ適している.音波や熱に関する物性を知る手法は4.7節に記述されている.

近年の進歩としては,レーザや放射光などの輝度の高い電磁波の励起源としての利用や,高速の画像処理技術を駆使したMRIに象徴される空間分布解析技術などによる著しい性 能向上や新しい測定法の開発がある.それらのうち,従来にない情報を与える技術の主なものは今回の改訂で収録した.

元素分析にあたって,まず考慮すべき主な点は,検出可能な元素の種類,検出感度の元素依存性 (相対感度)や組成依存性,検出可能組成の上・下限,分析に必要な時間などである.併せて,測定対象となる部分の,表面からの深さと,表面に平行な2次元方向の広がりとを知っておく必要がある.さらに注意すべきこととしては,分析雰囲気と試料との相互作用による試料そのものの変化や分析装置への影響,特に分析領域が小さい場合には,入射ビームによる試料(表面)の変化である.詳細についてはこの章の参考文献や専門書を参照されたい.

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