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震災復興に向けて応用物理が取り組むべき技術課題
7. 人にやさしい生体支援システム基盤技術

東日本大震災から1年が経過した現在においても、被災地の多くの住民が仮設住宅などの避難施設や被災した住居の2階で暮らしているといった不自由な生活を余儀なくされている。これまでの住み慣れた住居や街並みからの急激な環境の変化により、体調を崩す住民も多く、被災された方々の健康維持が重要な課題となっている。避難施設での生活においては、人と人とのつながりによる高齢者や弱者を見守る仕組みが十分に構築されていないことが主な原因であり、早急な対応が望まれる。また、医療環境が不十分であるため、誰でもが簡単に健康状態をチェックでき、健常者と比較して体が不自由な高齢者の生活を支援する、生体支援システムの開発が重要である。

そこで、生体支援システム技術に関して今後推進すべき課題として以下のものを提言する。これらの実現により、被災地が復興しもとの住環境に戻るまで、被災者の方々が健康に生活を送れるようになるものと期待する。

  1. 7-(1) 人と人との絆を取り戻す地域生活支援システム

    高齢化が進む被災地の避難施設において、住民の間でのつながりが十分に構築されていないという問題がある。地域の人と人との絆を震災前と同じような状態に改善するため、最先端のシリコンシステムを駆使した安全安心で高齢者にやさしい住宅や介護ベッド、ロボットを開発する。さらに、避難施設において孤独になりがちな高齢者を常時見守る双方向モニタリング等の支援システムを構築する。

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  2. 7-(2) ユビキタス生体光モニタリングシステム

    被災地の避難施設で生活を送ることによるストレス、健康管理が問題となっている。この健康管理を支援するシステムとして、血圧、血流、血糖値などのバイタルサインや、脳波などのストレスサインを、光技術を用いて無侵襲に誰でもがどこにいても簡単にモニタできる、ユビキタスなセンサシステムを開発する。

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  3. 7-(3) 生体と親和するエレクトロニクスシステム

    突然起こる災害や徐々に進む高齢化社会を迎えるにあたり、被災者や高齢者の生活を支援するパワースーツや、生体センシング・認証、医療、人との自然なインターフェースなどの、生体と親和するエレクトロニクスシステムを開発する。

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【図】人にやさしい生体支援システム基盤技術

7-(1) 人と人との絆を取り戻す地域生活支援システム

被災地の避難は避難所(一次避難場所)から、応急仮設住宅、公営住宅等の二次避難場所へほぼ拠点を移し終えている。これら二次避難においては、かつてのコミュニティーを維持した移転が内閣府から推奨されているものの、十分な対応が困難な現状にある。さらに2012/4/17付けの厚生労働省発表では、応急仮設住宅の居住期限を2年から3年に延長するとされており、さらなる長期化が予想される。

仮設住宅の入居者は、高齢者、独居者等の年金受給世帯や低所得者層が占めることが多く、超高齢社会と言える状況になっている。そのため、健康状態、精神状態の悪化する入居者の増加や、孤独死の問題が発生して社会問題になっている。これは今後の日本が直面する高齢化社会の縮図であるとも言える。シリコンテクノロジーはこれらの課題について、以下のようないくつかの解決策を提案する。

7-(1)-1. コミュニティーの絆構築支援ネットワーク

絆構築支援ネットワーク図7-1-1
被災地に存在した絆を再構築する上では、遠隔地に散らばってしまった人々が連絡を容易に取り合える環境が必要である。形式としては映像・音声情報を多地点でリアルタイム情報共有できるシステムや環境の整備が考えられる。まず二次避難拠点において、複数の拠点間の自由な接続を可能とするネットワークを構築する。同時に個人にも携帯映像端末でそのネットワークに接続可能とすることで、多地点同時接続・参加型システムが構成する。コミュニティーメンバーが意識共有できるイベント(伝統の祭り等)の準備が容易となり、被災地復興に向けた大きな動機付けになると考えられる。(図7-1-1)

避難生活支援ロボット図7-1-2

7-(1)-2. 避難生活支援ロボット
現在、仮設住宅に入居している避難者は、そもそも入院が必要なほどの重篤な健康状態では無いことを考えると、健康な人が突然の病に倒れる事態を検知するシステムの整備が必要である。ロボットによるコミュニケーション技術は近年大いに進歩しており、これらのロボットを活用して避難者のプライバシーを侵害しないレベルで、異常検知のモニタリングが可能となる。(図7-1-2)

7-(1)-3. 双方向型介護ベッド
地震発生からしばらくの間、個人のカルテと医療拠点の消失が発生し、慢性疾患患者向けの薬の配給が滞るという問題があった。避難後の劣悪な栄養状態や生活環境から、それまで予備群だった人が発症する件数が増加したとも報告されている。健康をモニタリングできる医療機器をユニット化して組み込んだベッドを開発し仮設住宅等に展開する。個人の健康情報を個人カードで維持することにより、個人が移転しても医師による経過観察が可能となる。

7-(2) ユビキタス生体光モニタリングシステム

東日本大震災を契機として、甚大な災害を受けた被災地における医療診断、治療、健康管理・維持の問題が顕在化している。すなわち、被災に伴う医療施設、機器、診断者、治療施者の不足による医療サービスの低下にとどまらず、仮設住宅などの不慣れな避難施設での生活からくるストレスで体調を崩す被災者も多い。このような状況は、高度で複雑な医療施設や機器が不足すること以上に、日常の健康状態のサインである「血圧」、「血流」、生活習慣病のサインである「血糖値」などの情報を、誰もが簡単に手軽に測定できる装置の開発と普及が不十分であることにもその原因があると考えられる。

この状況に対して、応用物理の基盤技術の一つであるオプティクスとエレクトロニクスの融合発展により、人に優しいセンシング媒体である「光」を生かした生体光センシング技術を誰もが簡単に使える装置へと発展させ、高度化された無線ならびに有線ネットワーク技術と組み合わせることで、被災地から離れた医療施設において遠隔モニタリングによる健康管理が可能なユビキタス生体光モニタリングシステムを実現して、これらの問題解決に貢献する。

光を用いた生体情報の計測技術は無侵襲、非観血な計測手法としてすでに実績があるが、誰がどこで使っても適切な測定結果が得られ、また使う人がその存在を意識せずにいつでもストレスフリーで使用可能な高機能な光センサデバイスの開発が必須である。ひいては,慢性疾患者の健康状態の常時モニタリングに最適なウェアラブル小型センサの開発が望まれている。これらの実現には、アカデミックロードマップに当初から掲げてきた、生体親和材料の探索とデバイス化、それを製作するための超微細加工やプロセス、バイタルサインの情報集積のための無線および有線ネットワークシステムへの通信、電源、光源技術などのエレクトロニクス基盤技術の応用が不可欠となる。

ユビキタス生体光モニタリングシステム

7-(3) 生体と親和するエレクトロニクスシステム

突然起こる災害や、急速に進む高齢化社会を迎えるにあたり、被災者や高齢者など社会弱者の生活を支援することは、我が国の直近の最重要課題の一つである。

東日本大震災では、多くの住民が被災し、身分証明をはじめ、多くの重要な書類や情報が失われたことは記憶に新しい。このような緊急事態も含め、犯罪防止の観点からも、個人の認証を行うためのバイオメトリクス技術の確立が重要である。そのためには、生体が持っている様々な個人認証情報の整理と、高速かつ非侵襲でセンシングする技術を確立しなければならない。

生体センシングは、我が国のように急速に高齢化が進むとともに、高齢者のみの世帯の割合も増加している国においては重要である。高齢者や身体障害者、病人など社会弱者にとっては、日常生活を送ること自体が大きなチャレンジである。そのような社会弱者への支援を行うためには、センサーネットワークを構築し、プライバシーを守りつつも、遠隔で日々の健康状態のモニタリングを行うことが、我が国の限られたマンパワーを有効活用して支援する上でもきわめて重要である。

また、リハビリや介護の場面ではパワースーツや介護ロボットなど、人との自然なインターフェースを有する生活支援ロボティクス技術も重要となるであろう。

一方、医療においても大きな展開が期待される。近年のナノエレクトロニクス、MEMS技術やフレキシブルエレクトロニクスの進展は、人体にとって負荷の少ない診断や治療を可能にすると期待されている。たとえば、量子ドットやナノカプセル技術は、病巣の診断やドラッグデリバリーを可能にする新しい技術として注目を集めている。また、MEMS、フレキシブルエレクトロニクスは、内視鏡やカテーテルのように、より直接的な診療や治療を行うための重要なツールとなるであろう。さらに網膜のように生体機能の一部を無機・有機デバイスが置き換え、失われた機能を取り戻すという日も間近いであろう。

高度な生体認証システム高度な生体認証システム
ナノテクノロジーを用いた生体に親和する診断・医療ナノテクノロジーを用いた生体に親和する診断・医療
人の暮らしを見守る高度なセンサーネットワーク人の暮らしを見守る高度なセンサーネットワーク