震災復興に向けて応用物理が取り組むべき技術課題
8. 人材育成

東日本大震災の復興には社会インフラの復旧・復興にも増して、これに立ち向かう人材の育成が必須である。特に、高度に複雑化した復興計画を俯瞰し、中長期的な展望に立ち計画を立案できる人材、科学技術の伝達不足・情報不足による風評被害を正確な知識と信頼される言葉で説明できる人材、さらに復興・復旧に務める人材が求められている。

  1. 8-(1) 学際的な人材育成

    避難生活の長期化、また復興後の生活を環境と調和したものとし、より快適にするための科学技術には、新しい生活様式を可能にする分散型インフラ基盤、再生可能資源、エコシステムなど共通する部分が多い。また震災によって通信や物理的移動の手段が寸断され、新たなネットワーク構築のためのハードならびにソフトウェア開発など、新規に注力すべき分野・課題が現れ、これらを早急に解決して行く必要が生じている。これら課題は、様々な科学技術の基礎分野を横断した課題であり、その解決には学際的視点あるいは学術融合が必要となってくる。応用物理学会は、自然科学を基盤に電子工学、材料科学など広領域な分野を抱え、産業界の学会会員も多い。そこで学会内シンポジウム等を通して、社会の接点と科学技術とを横断的に俯瞰できる若い人材の育成に務める。

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  2. 8-(2) 理科教育支援とサイエンスカフェ

    応用物理分野のアウトリーチ活動ならびに東北地方の高校・大学での教育インフラの整備・強化を支援する。被災地における理科教育においては実験教材の不足のみならず、復旧・復興作業に関連する科学技術、原子力発電と放射能など、説明に対して専門的・先端的知識が要求され、子供に対する伝え方・教え方に悩み、また新たな取組を始められている先生方が居られる。応用物理学会は応用科学に関する専門家集団であり、ワークショップなどを通して被災地の理科教育に対し、学会員が積極的に支援することが可能である。また、学会あるいは支部が主催するサイエンスカフェなどを通じて、放射能等に対する正しい科学知識を講義することにより風評被害を最小限に抑える努力をするとともに、学生同士や地元の一般の方々を招待し、草の根レベルで科学技術への関心を高める仕組みを創出する。

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  3. 8-(3) 産業復興・再生に向けた人材育成

    国が進めている東北地方の復興支援には、再生可能エネルギー源の利用、研究開発拠点の整備ならびに研究開発推進など、産業及びイノベーション創出の観点から策定されているものも多い。応用物理学会は科学・技術の知の集積であり、国が推進する復興計画を全面的に支援するとともに、学会活動を通して、復興事業に対する学生・若手研究者の意識向上を図り、東日本の産業復興・再生のための人材育成を積極的に行なっていく。

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【図】人材育成

8-(1) 学際的な人材育成

応用物理学会は、学問理論をいかに実社会へ適応するかを念頭において、物理から電気、機械、金属、化学など広範囲の学問分野の最先端の問題を数多く議論してきた伝統を有している。

今回の東日本大震災においては、避難生活の長期化ならびに寸断された社会インフラの再構築など多くの課題が山積しており、今後の復興に際しては、復興後の生活を環境と調和したものとし、より快適なものにすることが強く求められている。これら課題を解決するための科学技術には、安全かつ快適な社会を構築するための分散型インフラ基盤、エコシステム、再生可能資源の利用などが求められており、また安心かつ地域との連携・調和が保たれた社会を構築するために、物理的のみならず仮想的なネットワークを構築する技術開発が必要とされている。安心・安全な社会の構築は、21世紀以降、科学技術に携わる者に突きつけられた課題であったが、先の東日本大震災が、それを喫緊のものとした。これら早急に解決すべき課題は、様々な科学技術の基礎分野を横断した課題であり、その解決には学際的視点あるいは学術融合が必要となってくる。

応用物理学会は、自然科学を基盤に電子工学、材料科学など広領域な分野を抱えるともに、産業界の学会会員も多く、社会が必要とされる課題を学会会員が共有しやすい体制が構築されている。そこで学会内シンポジウム等を通して、社会の接点と科学技術とを横断的に俯瞰できる若い人材の育成に務める。

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8-(2) 理科教育支援とサイエンスカフェ

応用物理学会では、人材育成・教育事業の一環としてこれまで一般の方を対象に、教育を討論する「教育シンポジウム」、最先端技術をわかりやすく解説する「公開講演会」などを開催、また小中学生および小中高校教員を対象とした科学実験教室「リフレッシュ理科教室」など様々な教育イベントを行なってきた。今回の東日本大震災においては、この応用物理学会のアウトリーチ活動を積極的に展開するとともに、東北地方の高校・大学での教育インフラの整備・強化を支援する。

被災地における理科教育においては実験教材の不足のみならず、復旧・復興作業に関連する科学技術、さらに原子力発電と放射能など、説明に対して専門的・先端的知識が要求されるため、子供に対する伝え方・教え方に悩み、新たな取組を始められている先生方が居られる。応用物理学会は応用科学に関する専門家集団であり、ワークショップなどを通して放射能等に対する正しい科学知識を講義することにより風評被害を最小限に抑える努力をするとともに、被災地の理科教育に対して学会員が積極的支援することが可能である。また、学会あるいは支部が主催するサイエンスカフェなどを通じて、学生同士や地元の一般の方々を招待し、草の根レベルで科学技術への関心を高める仕組みを創出するとともに、応用物理学会としてのアカウンタビリティ(説明責任)を果たしていく。

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8-(3) 産業復興・再生に向けた人材育成

「東日本大震災からの復興の基本方針」(平成23年7月29日東日本大震災復興対策本部決定)には、「産業集積、新産業の創出及び雇用創出等の取組みを促進する。このため、(中略)産学官連携の下、中長期的・継続的・弾力的な支援スキームによって、復興を支える技術革新を促進する」と明記されており、また、「第4期科学技術基本計画」(平成23年8月19日閣議決定)には、「東日本大震災から復興、再生を遂げるとともに、世界の共通課題を世界に先駆けて克服して、新たな産業の創成や雇用の創出につなげ、将来にわたる持続的な成長と社会の発展を実現する国となる」ことが掲げられ、国が進める復興支援の柱の一つに科学技術を中止とした復興政策がある。

応用物理学会は科学・技術の知の集積であり、国が推進する復興計画を全面的に支援する。国が進める研究開発拠点形成、あるいは自然エネルギー利用などの喫緊の課題に対しては、学会内の大学人がアドバイス・支援を行うことが可能であり、また、学会が擁する太陽電池を始めとする自然エネルギー利用に関する専門家からは、知の提供が可能である。これらは、短中期的課題であるが、復興事業は長期わたる。従って、若手研究者・技術者の育成が最も重要な課題である。そこで学会活動を通して、復興事業に対する学生・若手研究者の意識向上を図り、東日本の産業復興・再生のための人材育成を積極的に行なっていく。

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