2011年3月11日の東日本大震災の発生から、1年が経過した。東日本大震災では、15,000人以上の方が亡くなられた。また、東京電力福島第一原子力発電所の事故は、冷温停止状態宣言が出されたとはいえ、依然として予断を許さない状況にあり、最終処理には一世代にも渡る時間を要することが予想される。このような状況の下で、国は大震災からの復興の目標と道筋を示す「復興計画」を出したものの、それはまだ緒についたばかりである。今、私たちは、震災発生後1年が経過した現時点で、自身の役割の範囲の中で、我が国の復興に向けた取り組みについて、あらためて考えることが求められており、それは、国民としての、また科学者としての義務である。
応用物理学会は、物理学を中心にした自然科学に立脚し、電子工学、化学、材料科学などとの隣接領域と融合しながら、最先端の学術を切り拓(ひら)いてきた。また、エレクトロニクスを中心とした産業技術の具体的課題の解決に資することにより、わが国の経済競争力の強化に貢献してきた。今回の震災復興については、応用物理学会としても、さまざまな機会において、果たすべき使命に関する議論を重ねてきた。
今般、応用物理学会では、震災復興への貢献の一環として、2008年以来策定してきた応用物理分野のアカデミックロードマップを踏まえて、今後10年間、わが国の復興に向けて取り組むべき8技術課題を選定し、提言書としてまとめた。実際の作業は、2011年度将来ビジョン検討WG(荒川泰彦委員長、小田俊理副委員長、荒井滋久、大見俊一郎、奥村次徳、小舘香椎子、染谷隆夫、平川一彦各委員)およびロードマップ策定を担当している20のアカデミックロードマップ要素技術クラスターの代表者を中心にして行われた。8技術課題と主要研究開発項目は、下記に示すとおりである。
我が国の大学、研究諸機関や産業界における応用物理学会関係者が、それぞれの立場から各課題に取り組むことにより、震災復興に向けて応用物理学会が貢献することを期待したい。また、会員諸氏からの本技術課題に関するご意見や今後の取組に関する提案も歓迎する。
最後に、本提言の作成に尽力いただいた、将来ビジョン検討WGおよびアカデミックロードマップ要素技術クラスターの関係各位に感謝する。
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