東日本大震災で発生した福島第一原子力発電所の事故により,我が国のエネルギー政策は大きな転換を余儀なくされた.脱原子力のための再生可能エネルギーの切り札として,社会的にも太陽光を利用した高効率エネルギー創成基盤技術への関心と期待が,かつてない高まりを見せている.特に,夏冬の電力が不足する中,円高の影響で製造業の国内空洞化が加速され,創エネルギー問題は最も緊急性・重要性の高い課題となっている.
そこで,太陽光を利用した高効率エネルギー創成基盤技術に関する今後推進すべき課題として,以下のものを提言する.これらの実現により,再生可能エネルギーへ重心を移していくことが可能になり,震災復興後もクリーンエネルギーの持続供給が可能な日本社会を実現できると期待する.
震災では一般家庭への電力供給と,自家用車へのガソリンの供給が困難となる.そこで,蓄電設備を備えた太陽光発電システムを備えることで,生活に必要な最低限の電力(EVカー用を含む)を確保できるようにすることを目指す.
具体的には、少数光子および少数電子との相互作用を増強・制御する技術を開発することで,光電変換の高効率化を実現する.この研究は,太陽光発電の高効率化や光通信の省エネルギー化に大きく寄与するものと期待される.
さらに詳しくクリーンエネルギーとしての太陽光エネルギーの高効率な活用を目指し,集光/配光光学系の設計開発技術を推進する.また,宇宙空間での太陽光利用も踏まえた光学系設計および伝送技術を含んでいる.
さらに詳しく高効率に光を化学エネルギーに変える新材料・燃料貯蔵・海水真水化・海水接触面保護技術・大面積浮体等を開発・実用化する.さらに,1万km2レベルの海洋プラントにおいて太陽・海洋エネルギーを燃料貯蔵し,陸地に運搬する大規模自然エネルギー供給システム実現を目指す.
さらに詳しく自然エネルギーの利用促進と省エネルギー社会推進は,震災復興と同時に実現すべく課題である.そこで、太陽光発電についての正しい認識の普及および促進を目指し,より優れた太陽電池と蓄電システム,太陽電池モジュールや機器のシステムの改良だけでなく,末端の電力利用の仕組みまで見直したトータルのエネルギー利用を統合して確立する.応用物理学会がリードしつつも,安心・安全を横糸にした他組織や他学会との連携をとり,事業支援,基礎研究支援,開発支援,教育支援,知識蓄積などの幅広い分野における,開けた場での復興支援が望まれる.
さらに詳しく震災では、火力発電等の大規模な発電設備や送電線が寸断される恐れが高く、このため、一般家庭への電力供給が一定期間、困難になると予想される。このような震災時にも、生活に必要な最低限の電力を確保できるよう、蓄電設備を備えた太陽光発電システムを地域にネットワーク化してに展開する必要がある。特に、要となる高効率光電変換技術の研究開発を加速することが重要である。具体的には、従来技術の延長線上の単なる高効率化を追うのではなく、高効率光電変換を実現する新しい材料の探索や、少数光子および少数電子との相互作用を増強・制御する技術等を開発することで、光電変換の高効率化を実現する。また、できる限り早くライフラインを再構築する観点からは、小型で軽量の高効率太陽電池の役割も重要となる。例えば、変換効率が50%の太陽電池が実現されれば、既存のSi系太陽電池に比べて3-4倍の電力が得られ、輸送や設置も容易となるため、小規模の電力をまかなうことができる。このような太陽光発電の高効率化に関する研究は、光通信の省エネルギー化に大きく寄与するものと期待される。
一方、材料面での改善に加えて、ナノフォトニクス技術を用いた光子マネージング技術を駆使して光学的側面からも光電変換デバイスの特性改善を図る必要がある。また、新たな概念の導入も革新デバイスの創出には欠かせない。物性研究や量子技術開発で培われた知見を活かし、光子と電子の相互作用を増強・制御する技術などが新たなブレイクスルーを産み出すことに繋がると期待する。この技術は、創エネ分野に寄与するだけにとどまらず、情報通信の 省エネ化にも貢献すると期待される。
エネルギー資源問題と環境保全問題の双方に有効なエネルギー源として,太陽光発電の期待はかねてから高く,東日本大震災を契機にしてその重要性と実用化への期待はますますの高まりを見せている.クリーンエネルギーとしてのこの太陽光発電の実用化の鍵は太陽光発電の高効率化とコストダウンにかかっていると言っても過言ではない.これまでの技術革新により,太陽発電パネルもようやく住宅の屋根に載せることができるまでコストダウンが進んだが,火力発電や原子力発電と競合するまでにはもう一段階の発電効率の向上が必要である.
2009年のNEDOの「太陽光発電ロードマップ PV2030+」にあるように,超高効率なモジュール変換効率の実現と事業用電力並みのコストの達成は2030年を目標として開発が進められているが,震災後の原子力発電の見直しに関連してより早期の実現が臨まれている.
このような状況下で,高変換効率のモジュール開発を待たずにシステム全体で変換効率を向上し,コストダウンにつながる方法としての「集光型太陽光発電」は実用化の最有力候補と言える.「集光型太陽光発電」は,レンズまたは反射鏡で太陽光を発電素子に集光して発電するもので,効率はすでに40%を越え,今後は60%以上の聴講効率化が期待できる.また面積の小さな発電素子で発電できるために発電素子の量を減らすことができ,コストダウンにつながる.
この「集光型太陽光発電」においては,高効率な素子の開発とともにオプティクスの成熟したレンズ・光学系設計技術の役割が大きい.そこで必須となる要素技術である「高精度高倍率集光レンズ,反射鏡の開発」,「集光光学系の最適化設計技術の開発」を推進し,変換効率60%を越える太陽光発電の実現を加速する.この他にも,光耐久性材料の探索,高倍率集光系に対応した高精度・低消費電力太陽追尾技術の開発,放熱・冷却技術など,応用物理を基盤とする技術の進展も必須である.
地球上に降り注ぐ太陽エネルギーの総量は人類必要量の1万倍近くあるが、エネルギー密度が低いことと、エネルギー問題解決には膨大な面積を要することが利用上の課題である。そのため太陽光利用の場所・面積を考慮した、高効率で経済的な太陽エネルギーの変換・貯蔵・輸送を可能とする革新的システムの創出が重要である。原子力を代替するほどのエネルギーを太陽光で賄うには日本の本土だけでは限界がある。一方洋上に目を拡げれば、南洋に広大な排他的経済水域のサンベルト地帯があり、そこに大規模な燃料製造プラントを設置すれば日本のエネルギー問題の根本的解決につながる。南洋沖では漁業権や船舶運航への支障問題も回避し易い。このサンベルト地帯は太陽光の年間日射量および日照時間が本土の各1.5倍以上である。周囲に浅瀬が広がる無人島もあり、浅瀬に海洋プラント中央基地をおき、周りに大面積浮体および大規模太陽エネルギー変換システムを展開させる。日本本土では太陽光発電が中心になるのに対し、海洋プラントでは光触媒・光電極水分解などの人工光合成技術を活用した太陽エネルギー変換システムが中心となり、貯蔵と船舶輸送に適した変換を行う。例えば光水分解で生成した水素の液化やレッドクス反応(酸化還元反応)、CO2還元、空中窒素によるアンモニア合成などが候補となる。プラントにはその稼働や燃料転換に用いる低コスト太陽光発電や、風力、波力、温度差の各発電、海洋バイオマス利用設備等を適宜併置し、その一帯を一大エネルギー生産地域とする。仮に1万km2レベルの海洋プラントに効率10%のデバイスを設置できれば日本の全エネルギーの1/4を賄うことができる。この実現には多くの分野の技術連携が必要であるが、応物学会としては特に太陽エネルギー変換の新規材料やデバイス開発に大きな貢献ができる。
太陽光,風力,水力などの自然エネルギー(再生可能エネルギー)の利用促進と高効率の機器を利用することによる省エネルギー社会の推進は,震災復興と同時に実現すべき課題である.特に,太陽光発電は世界的にも急速に普及しつつあり,太陽電池の更なる高効率化に向けて研究・開発が進んでおり,応用物理学会でも,太陽電池の高性能化はもっとも力を入れるべき課題のひとつと認識している.
一方で,原子力発電,火力発電等に発電方式に比べ,太陽光発電は,その供給の不安定性および高いコストが大きな課題である.太陽電池を含む発電システムそのものが未だに高価であり,更なる低価格化を進める必要がある.また,太陽光発電の発電量が気候や天候等に大きく左右されるため,余剰電力を安価に,かつ大容量に貯蔵・回生することのできる大型蓄電池の開発が急務である.一般家庭や小規模の事業所などでは,太陽電池と家庭用蓄電池の組み合わせによる電力の高効率利用や自給化について潜在的需要が高いと思われるが,蓄電池は一般家庭にとっては極めて高価であり,広く普及するには至っていない.
そこで、太陽光発電の普及および促進を目指し,その導入・設置事業の促進のみに留まることのない,より優れた太陽電池と蓄電システム,太陽電池モジュールや機器のシステムの改良を進めていくことで,機器の低コスト化や機器利用時の消費電力の低減化施策のみならず,太陽電池モジュール等の機器作製過程に消費される電力低減をも鑑みた材料・デバイス・プロセスの開発,末端の電力利用の仕組みまで見直したトータルのエネルギー利用を統合して確立する.さらには,家庭用蓄電池のほか,急速に普及しつつある電気自動車の蓄電池を利用など,広汎な出力規模に応じた電力制御システムの高度化により,システム全体として電力需給のバランスをとる,いわゆるスマートグリッド技術が,自然災害に強く復旧にも手間がかからない電力網インフラとして構築されることが望まれる.
これら課題の実現のためには,応用物理学会がリードしつつも,安心・安全を横糸にした他組織や他学会との連携をとり,電力事業支援,太陽電池や制御システム,通信ネットワーク等の基礎研究支援,開発支援,太陽光発電や省エネルギーに関する教育支援,知識蓄積などの幅広い分野における,開けた場での復興支援が望まれる.