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震災復興に向けて応用物理が取り組むべき技術課題
2. 自律分散型インフラシステム基盤技術

東日本大震災により、一部の都市ではインフラが壊滅的な被害を受けた。このような被災地では、従前の地域インフラやその関連技術にとらわれないゼロからの都市計画が可能である。また、被災を免れた地域でも、将来起こるであろう大きな災害に備えた災害に強いインフラの整備は喫緊の課題である。

今回、都市機能を支えるインフラについて推進すべき課題として、以下のテーマを提言する。これらにより世界に先駆け、超省エネエコ地域の実現を図り、地球温暖化の抑制に寄与するとともに、産業振興や新産業の創出に貢献する。

  1. 2-(1) 被災地の復興都市計画におけるインフラ整備

    超高性能・低消費電力LSIや太陽電池技術等を駆使して、自律的で安全な大規模災害へ対応可能な最先端都市インフラ技術を整備する。具体的な技術課題は、自律型電力自給システムの構築、高信頼性警報システムの構築、無線・有線ネットワークを介した情報通信システムの整備、高度な判断を自律的に行うインテリジェントシステムの開発などである。

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  2. 2-(2) 再生可能エネルギーの利用を拡大する「しなやかなエネルギーインフラ」

    東西の電力融通を阻害する50/60Hz問題に関し、その境界に近い内陸の山梨、長野、静岡などの年間日射量が数割多い太陽光発電適地に、低価格PVパネルと数千ボルトの高耐圧・高速・低オン抵抗のワイドギャップ半導体スイッチを実用化して、周波数変換所を兼ねるギガ(GW級)ソーラー発電所を設け、電力逼迫地域に柔軟に給電する。

    さらに、再生可能エネルギーを主に用いる小規模で経済的なエネルギー供給と生活水の供給・処理の自立分散インフラを構築する。太陽光、風力による発電・蓄電技術、バイオマス発電・給湯(燃料電池等)技術、海水淡水化を含む上下水処理技術などを小型・高効率・低価格化する。

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  3. 2-(3) ワイドギャップ半導体による超省エネエコシステムの構築

    ワイドギャップ半導体を用いて低損失・高周波パワーデバイス、高速スイッチングデバイス、高効率インバータ回路等を開発するとともに、熱実装、高周波実装を含めたモジュール化を進め、これらを組み込んだ超低損失エネルギー制御・通信システムを構築する。

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  4. 2-(4) 極限環境下でも動作するエレクトロニクスシステムの構築

    災害時には、高温・低温、強い放射線など、システムが通常使用される動作条件とはかけ離れた環境に置かれることが考えられ、極限環境においても動作するデバイスなどの技術開発を行う。このような技術開発は宇宙開発など、未知の環境の開拓などにも広く応用が展開するであろう。

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【図】自律分散型インフラシステム基盤技術

2-(1) 被災地の復興都市計画におけるインフラ整備

震災で壊滅的打撃を受けた東北の太平洋側の都市の復興に向けて、高効率エレクトロニクスを駆使した高信頼性の自立&自律型のインフラを整備することで将来の大規模災害に対応可能な都市を構築し、今後の都市計画のモデルとする。

自立型:
外部からの電力などの供給なしに、独立して稼働可能な省エネルギーシステム。すなわち、以下の設備を有する。太陽電池や振動などからの発電設備。省エネLSIシステムによる、不必要時にスリープし、必要時に即システム稼働可能なシステム。周辺からの情報を収集する設備。情報発信・受信可能な設備。
自律型:
外部の支持・命令なしに、自発的に稼動できるシステム。

2011年の大震災では、壊滅的な打撃を受け、新たな都市構築を余儀なくされている地域が多い。このような地域に新たな都市を構築する際に、高効率なエレクトロニクスを駆使して、災害に強く、信頼度の高いインフラ管理システムを構築する。この管理システムは、重要ポイント(各インフラの中枢部など)に配置された管理ポイントとネットワークにより接続され、相互に情報の交換を行いながら、連携しつつもある程度の独立性を持って稼動する。個々に構築する管理ポイントでは、災害時にはインフラが全て使える保証は無いことを前提に、外部からのエネルギー供給無しに自己給電できるシステムを設備し、且つ徹底的な省電力化を行いつつも迅速に応答可能なシステム(大規模の省電力型の不揮発性メモリを内蔵し、不必要時はスリープし、必要時にすぐもとの稼動状態に戻れるLSIなどで構築する)とする。ネットワークも光ファイバーと衛星経由の無線の併用や、ファイバー経路の多重化により、接続できる確度を高める。また、震度計や水位計などのセンサーや周辺の状況を撮像し画像を解析し状況判断するシステムなどを保持し、この自己取得した情報と、ネットワークがつながる領域からの情報を基に判断し、自律的に必要な措置を講ずることができる。措置としては、各個別インフラの保全措置を取ることや、周辺地域に対して、携帯電話の周波数帯域などを使って必要な情報を流すことなどである。システムのイメージを図に示す。

大災害に対応可能なインフラのイメージ大災害に対応可能なインフラのイメージ

2-(2) 再生可能エネルギーの利用を拡大する「しなやかなエネルギーインフラ」

集中化・硬直化した従来のエネルギー供給に、再生可能エネルギーを柔軟に組み込むデバイス・システム技術を開発して「しなやかなエネルギーインフラ」を構築し、エネルギー不足を大幅に緩和する。

周波数境界付近に建設されたギガソーラー発電所および周辺設備
図1 周波数境界付近に建設されたギガソーラー発電所および周辺設備

2-(2)-1 東西の電力融通を阻害する50/60Hz問題に関し、その境界に近い山梨、長野、静岡などの年間日射量が数割多い太陽光発電適地に、低価格PVパネルと数千ボルトの高耐圧・高速・低オン抵抗のワイドギャップ半導体スイッチを利用するインバーター、整流器を実用化して、周波数変換機能と高効率送電機能を融合したギガ(GW級)ソーラー発電所を設け、電力逼迫地域に柔軟に給電する。他の地域とは、高温超伝導体によるパイプラインで接続し、高効率長距離送電とともに、発電量の平準化を図る。曇りの日にも電力融通枠の拡大に貢献できる。また、こうした発電所は臨海部に設置する必要がなく、津波の影響の心配がない。(図1)

再生可能エネルギーを核にした自立型ライフラインシステム
図2 再生可能エネルギーを核にした自立型ライフラインシステム

2-(2)-2 再生可能エネルギーを主に用いる小規模で経済的なエネルギー供給と生活水の供給・処理とを行う自立分散インフラを構築する。数十軒から数百軒の単位で、現状と同等のコストで代替可能とし、災害に強い町づくりに貢献する。太陽光、風力による発電・蓄電技術、バイオマス発電・給湯(燃料電池等)技術、海水淡水化を含む上下水処理技術などを小型・高効率・低価格化する。(図2)

今までのエネルギー源は大規模集約化を行うことでエネルギー効率を追求する形態をとり、大災害時に供給源が停止するとエネルギー供給が途絶し、災害時に最も大切な情報収集手段が失われるばかりか、その後エネルギー供給の復旧まで、電気水道等のライフラインの確立も出来なくなる。一方、今後の化石燃料の枯渇問題に対応するためには再生可能エネルギー源の有効利用が必須である。再生可能エネルギーは、化石燃料等に比べてエネルギー密度が低いため、分散したエネルギー生産とその地域による消費、すなわち、エネルギーの地産地消が最も良い利用方法となる。このようなエネルギーの地産地消に適した小規模コミュニティーへの、再生可能エネルギーを核にした自立型ライフラインシステムを確立することを目的とする。

2-(3) ワイドギャップ半導体による超省エネエコシステムの構築

炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド等のワイドギャップ半導体の優れた物性を活かして、低損失・高周波パワーデバイス、高速スイッチングデバイス、高効率インバータ回路等を開発する。併せて、それらデバイス・回路の優れた特性を最大限発揮し、且つ高信頼性を担保するための発熱、高電界強度、高周波に対応した実装技術を開発することでモジュール化を進め、これらを組み込んだ超低損失エネルギー制御・通信パワーエレクトロニクス(超低損失パワエレ)システムを構築する。

開発した超低損失パワエレシステムを、市街地再建時に敷設する電力送配電系統の制御や、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを活用した発電システム、水素/ガスを用いた燃料電池(コジェネレーション)等の分散電源の系統連結を行うコントローラとして使用する。これにより、電力損失が極めて低く、安全、且つ安定に電力供給が可能なスマートグリッドの構築を図る。加えて、この超低損失パワエレシステムを、工場やオフィスビルの空調、照明やIT機器、さらにはエレベータ等の駆動機や無停電電源(UPS)といった機器にも応用することで大幅な省エネ化を図る。また、超低損失パワエレシステムをハイブリット車や電気自動車、鉄道車両や船舶等の輸送機関にも適用することで、省エネと輸送能力を両立した運輸システムの達成に結び付ける。さらに、超低損失パワエレシステムを携帯電話の基地局や防災無線通信施設で使用することで、信頼性の高い広帯域データ通信網の整備を図る。これにより、日常生活における快適な情報インフラを確保し、さらに、災害・緊急時でも安定な情報の送受信を可能とする高信頼性通信網が構築できる。

これらにより世界に先駆け、エネルギーの生産、貯蔵及び消費を効率的にマネージメントした超省エネエコ地域の実現を図り、地球温暖化の抑制に寄与するとともに、産業振興や新産業の創出に貢献する。

超低損失エネルギー制御・通信パワーエレクトロニクスシステムを活用したスマートグリッドのイメージ図超低損失エネルギー制御・通信パワーエレクトロニクスシステムを
活用したスマートグリッドのイメージ図

2-(4) 極限環境下でも動作するエレクトロニクスシステムの構築

災害時には、高温、高い湿度、強い放射線など、デバイスやシステムが通常使用される動作条件とはかけ離れた環境に置かれてしまうことが十分考えられる。福島の原発においても、高湿度、高い放射線レベルのため、ロボットや内視鏡により現場の状況を把握するだけでも非常な困難が伴うことを思い知らされた。またdirtyな核兵器を用いたテロにおいては、放射線により通信機能などに大きな障害が発生し、社会の情報通信機能が致命的なマヒを起こすことが最も重大な懸念とされている。従って、このような極限的な環境でも正常に機能するデバイスやシステムの構築は、我が国が取り組むべききわめて重要な課題である。

これまで様々な半導体材料がデバイスに応用されてきたが、それらの中の欠陥がどのように電気的・光学的な影響をもたらすのかは様々であり、結晶欠陥の導入により非常に顕著に特性が劣化する材料もあれば、結晶欠陥が導入されても特性がほとんど変化しないものもある。材料科学・デバイスの研究者は、熱やひずみ、放射線などにより導入される様々な欠陥の起源や物性を根本に立ち戻って解明するとともに、極限的な環境における電子物性を明らかにすることにより、信頼性の高い電子材料やデバイス構造に関する新しい指導原理を構築することが必要である。

またシステムの信頼性は冗長度などの安全設計にも大きく依存するため、システムを総合的に見た信頼性の高い設計指針を打ち立てることも不可欠であろう。

このような極限環境でも動作するエレクトロニクスの研究は、災害時という“負”の状況のみでなく、高温と極低温が繰り返し、さらに放射線も降り注ぐ宇宙環境で用いられる機器にもきわめて有効であり、将来の宇宙というフロンティアの開拓に必要不可欠な技術である。

災害時などの過酷な環境の中でも正常に機能するエレクトロニクス
災害時などの過酷な環境の中でも正常に機能するエレクトロニクス
過酷な温度変化や放射線照射にも耐性を有するエレクトロニクスシステムと宇宙開発
過酷な温度変化や放射線照射にも耐性を有するエレクトロニクスシステムと宇宙開発