応用物理学会
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以下の文章は 応用物理 第71巻 第7号 911ページ に掲載されたものです。

IUPAP International Conference on Women in Physics報告

応用物理学会男女共同参画委員会
委員長 小舘 香椎子/応用物理学会パリ派遣メンバー一同

1. はじめに

表題の会議に参加したので、以下に会議の位置づけと内容を、日本における取り組みとあわせて報告する。
・会議名称: IUPAP International Conference on Women in Physics(パリ会議)
・主  催: International Union of Pure and Applied Physics (IUPAP)
・会  期: 2002年3月7〜9日
・開 催 地: パリ(フランス)、ユネスコ本部
・参 加 国: 65カ国
・参加人数: 約300名


2. 会議の位置付け

 本会議は、IUPAPにおける五つのWorking group (WG) の一つである WG on Women in Physics の活動の一環として行われた国際会議である。1回目は2000年にワシントンDCで、2回目は2001年にジュネーブで開かれており、会合としては3回目にあたるが、国際会議としては初めての開催である。このWGに、日本からは東大物性研所長の福山秀敏氏が、日本学術会議物理学研究連絡会議の推薦でメンバーとして参加されており、今回の日本代表団派遣のきっかけとなった。

3. 日本における動き

 2001年3月、福山氏からIUPAPワーキンググループの動きの報告を受けて、応用物理学会、日本物理学会ともに、各会場でインフォーマルミーティングをもち、パリ会議に向けて、学会が取り組む方向に動き出した。日本物理学会では、2001年4月に理事会の下にパリ会議準備委員会を発足。応用物理学会では、7月5日に「男女共同参画委員会」を発足させた。両学会で連絡をとりながら、会員に対するアンケート調査を共同企画として行うことにし、8月には、パリ会議に向けて共同で代表団を派遣するためにIUPAPに対する窓口として、「パリ会議準備連絡会」を組織した。9月には両学会でアンケート調査が実施された。

 福山氏を除く代表団の構成は、以下のとおりである。
日本物理学会 代表団長 北原和夫(国際基督教大)、坂東昌子(愛知大)、初田真知子(KEK)、加賀山朋子(熊本大)、石丸友里(Institute d'Astrophysique de Paris)
応用物理学会 応用物理学会:副団長 小舘香椎子(日本女子大)、五明明子(NEC)、松尾由賀利(理研)、高井まどか(東大)、為近恵美(NTT)、石川和枝(上智大)、伊藤香代子(応物事務局)

4. パリ会議の内容

i. 概要
 本会議は通常の学術会議とは異なるため、あらかじめ組織委員会から依頼された各国代表のPlenary Talk(11 件)と国単位のポスターセッション以外に、6件のテーマを設定したグループ討論の時間が設けられ、翌日には、そこでの討論内容からの提言が報告されるという形をとった。日本からの Plenary Talk は、愛知大の坂東教授が "Present and Future-Status of Women Physics in Japan" のタイトルで行い、両学会が共同企画として実施した男女共同参画に関するアンケート結果 1、2) を踏まえて、日本の物理分野の研究者の実態を報告した。
 さらに、日本からは、アンケート調査をまとめた "Summary of Nationwide Survey of Work Environment of Physicists in Japan" を会場で配布し、ポスターとして会場で発表した。会議の中の多くの講演や発表の中で、全国の会員を対象としてアンケート調査を行ったのは、日本だけであった。ほかには、欧州共同体で行った調査報告を踏まえた講演が行われた程度であり、それゆえに、日本の調査は大変好評であった。配布したレポートはわずか4ページであったため、詳細なデータを含む最終報告書を英文で刊行することを求められ、今後、両学会の共同事業として取り組む課題となった。

ii. グループ討論テーマ
 物理学分野で国際的に共通な主要課題と考えられる6件のテーマに関し、2日間にわたり参加者が小グループに分かれて討論が行われた。各グループ討論のテーマの内容は以下のとおりである。

(A) Attracting Girls into Physics 「物理学への女子学生勧誘」
(B) Launching a Successful Physics Career 「物理学者として成功すること」
(C) Getting Woman into the Physics Leadership Structure Nationally and Internationally 「物理学における国内および国際的な指導的立場への女性の進出」
(D) Improving the Institutional Climate for Woman in Physics 「女性物理学者の研究環境の改善」
(E) Learning from Regional Differences 「地域格差から学ぶ」
(F) Balancing Family and Career 「家庭と仕事の両立」

 上記 A から F について討論された問題点を以下に要約する。

A. 物理を選択する女性の減少、物理のイメージの悪さ、物理に関する初等教育の悪さ、女性は物理に向いていないという固定概念などの問題。
B. 物理学者として成功できるかどうかには、文化的、社会的、また先進国・発展途上国で違いがある。本人の人生目標のレベルの違い、成功の選択肢の狭さ、社会的認知の多様性の欠如も問題。
C. 業績評価の不透明性、本人の自信のなさの問題。指導的立場の定義の明確化、女性がその立場につく意味の問いかけ、人材育成のあり方に関する検討の必要性。
D. オフィスや実験室の空間、トイレの不平等と夜間の治安の悪さ、セクシュアルハラスメントの実態、託児施設の貧困さ。
E. 各国の政策の差、女性の最終目標は結婚という社会的固定概念、仕事時間の長時間化、途上国の実験設備の不足。
F. ポスドクと出産・育児期間の重なり、再チャレンジのチャンスが不足、片働きのロールモデルが多く、研究と生活のバランスが考慮されていないことの問題。

 以上の課題について討論を行い、最終日に各分科会からの報告と提言がなされた。

iii. パリ会議の決議文
 分科会の提言をもとに、「物理学における女性:国際会議決議」のごとく "Women in Physics" IUPAP パリ会議の決議が採択された。これを各国が持ち帰り、1.学校、2.大学、3.研究期間、4.企業研究所、5.学会、6.政府、7.省庁や財団など予算決定機関、8.IUPAP など各方面に対し提言を行うとともに、具体的取組みを行っていくことにした。
http://www.iupap.org/ 参照)

iv. 今後の取り組み
 今回の会議は、男性の参加者が十数名と少なく、参加者の多くが大学関係者という偏りがあったが、21世紀初頭に物理学分野に携わる女性研究者、技術者が世界中からパリに集い、お互いの国の研究環境の実態を報告、地域、文化を越えて問題を共有し、決議文を世界に発信した意味は大きい。物理学の歴史に新たな一ページを記すものとなるであろう。これは、物理学の世界、社会への貢献、新たなロールモデルの創出とその浸透において、大きな変革の一歩を踏み出すパワーを参加者一人ひとりに与えるものであった。
 日本から参加した私たちは、日本国内に決議内容を報告し、実行・推進していく重要な役割を担っており、まず会議の内容を両学会員に報告するとともに、物理学以外の分野の科学者とのネットワークを築く取り組みを企画することにした。また、人材育成の取組みを問題を解決するための重要項目の1つととらえ、今後、検討していくことにした。女性と男性が協力しつつ、世界の舞台で活躍できる研究者、技術者のための環境を整え、世界へ情報発信し、ネットワークをつなげていく。その核となる両学会の果たす役割は大きなものである。

謝 辞

両学会から派遣団を送り出すにあたりご尽力いただいた東大物性研の福山先生、両学会会長、理事会とりわけ補助金獲得にあたりご尽力いただいた山梨大の鳥養先生、両学会事務局など、関係各位のご支援に深く感謝いたします。

文 献

1) 応用物理学会の結果について、応用物理 vol.71, p.510 (2002) 参照
2) 日本物理学会の結果について、日本物理学会誌 vol. 57, p.345 (2002) 参照
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