応用物理学会
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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
総括一般セッションシンポジウムスクール
カーボンナノチューブの最新動向

大阪大学 松本 和彦
応用物理学会初日の8月29日に表記シンポジウムを開催した。本シンポジウムは平成14年に開催いらい2年ごとに秋の応用物理学会で開催してきたシリーズの一貫であり、今回3回目を迎えるものである。今回も朝から夕刻までの一日中のシンポジウムであったにもかかわらず、300人入る会場の80%以上を占める聴講者の参加を得た。本シンポジウムは、カーボンナノチューブ(CNT)の成長、評価、デバイス/応用の分野をカバーする10件の講演で構成した。

成長関連では熱CVD、プラズマCVD、配向成長に関してそれぞれ3件の講演があった。

東京大学の丸山等はCNTの熱CVD成長においてバックグラウンドの真空の条件は非常に重要であり成長の有無を左右することを示した。丸山等はスクロールポンプを用いて2パスカル以下にしてから成長を行いその再現性を確保している。またCNTの配向の制御と垂直方向の制御に関して世の中の動向を報告した。従来は、PLの励起光と発光の関係からCNTのカイラリティーを決定してきたが、エキシトンの効果を入れて考えると、カイラリティーの値が大きくずれてしまうという重要な知見を述べた。従って今後CNT中のエキシトン発光の効果を考慮に入れる必要がある。

東北大学の畠山等はプラズマCVDにより、DNA、C60、ハロゲン金属(CI、I)やアルカリ金属(Li、Cs) をイオン化し、直立した単層CNTと2層CNTにドープする技術を開発した。DNA は太いナノチューブでは螺旋状に中に入ることを見出した。2層ナノチューブにC60を多量にドープすると、大きな負性抵抗が得られ、ゲートで制御できる新しいデバイスを開発した。同様の手法により室温で動作する単一電子トランジスタも形成した。Csを2層ナノチューブにドープすると、単層にドープするよりも高い移動度が得られることを発見した。

九州大学の吾郷等はアルミナ基板上にカーボンナノチューブを成長すると、成長する方向が一定になることを示した。成長温度が低い場合は配向が悪く、900℃では良好な配向性が得られた。アルミナのA面、R面ではCNTは一定方向に配向して成長するが、C面では配向しない。CNTの配向とガスフローとの因果関係はなく、さらに原子オーダーのステップの方向とも関係がない。また基板は原子オーダー平坦であってもなくても、配向は基板の面方位に依存する。アルミナのA面、R面表面においてAl原子は一方向に配向しているが、C面ではAlが面内ですべての方向に等方的に配列している。したがって、CNTの配向はこのAlの原子配列に関連しているのではないかと考えられている。

評価に関しては透過電子顕微鏡、走査電子顕微鏡、原子間力顕微鏡を用いた3件の評価技術について、それぞれの装置の特長を生かした研究内容の講演があった。

産業技術総合研究所の末永等は透過電子顕微鏡によるCNTの観察についての最新の情報を報告した。CNTを傾けて、2層ナノチューブの内部と外部のチューブの干渉パターンを観察し、内部外部のナノチューブのカイラリティーを独立に決定することができた。内部が右巻きであると外部も右巻きであるナノチューブの割合が多いことを示した。TEMの焦点をずらすことにより、ナノチューブの上側、下側の原子像を明確に観察できることを示した。
これにより、従来のラマンではカイラリティーは決定できるが、それが右巻きか左巻きかの決定はできなかったがTEM観察によりこれが可能になった。カーボンナノチューブの六員環がTEMで直接観察できる分解能に達した。したがって欠陥が直接観察できた。六員環の周りの炭素原子の数を直接勘定することにより、5員環と7員環のペアからなるStone-Wales欠陥があることを直接観察した。またこの欠陥によりゆがみが生じているCNTが観察中、TEMの電子ビームエネルギーにより欠陥が消失し直線状に変形することを述べ、Stone-Wales欠陥が消失することを示した。

東京理科大の本間等は様々なin situ 測定技術を開発しCNTの成長メカニズムを明らかにした。CNT成長の最中にin situでXPS測定をおこなう手法を開発した。これによりCo触媒は金属のまま触媒として作用し、酸化しないことが判明した。ラマン測定装置にCNT成長装置を作りこみ、CNT成長のその場ラマン測定を行ったところ、従来はGバンドしか測定できなかったが、in situでRBM信号が測定可能になり、これにより、カイラリティーの決定メカニズムが判明することが期待できる。SEM内部でその場成長できる手法を開発し成長の初期段階を観察した。CNTは初期には上方に立ち上がって成長し100nmを超えるとSiO2基板上に寝て成長する。一旦基板に寝るとCNTの成長は非常に抑制される。宙に浮いている状態のCNTはより成長が早いことが分かった。架橋CNT成長では一本が架橋すると、その周りに成長したCNTが元のCNTに寄り添うように集まりバンドルを形成することが観察された。

京都大学の山田等はケルビンプローブ顕微鏡において力変化による共振周波数の変化をFM検出する新しい手法を開発し高分解能でCNTの電位分布を測定した。酸化シリコン上のカーボンナノチューブチャンネルの電位分布を測定すると、印加ドレイン電圧により、酸化シリコンにチャージが蓄積し大きなヒステリシス特性を示すため正確な特性が観察できない。これは酸化シリコンは親水性で水により電荷が拡散しやすいためである。これを防止するためにシラン系SAM膜であるODSを用いて電荷の拡散を低減しヒステリシスを低減し、FM方式KFMを用いてCNTの電位分布の測定に成功した。CNTFETの動作状態の電位分布ではソース側はほぼ一定で、ドレイン端側が大きく変動し、ショットキーモデルを実証することができた。
またAFMを用いたポテンショメトリック測定法を開発し、同様にCNTFETの電位分布を測定したところ、FMKFMとほぼ同様の電位分布が得られた。ただAFMポテンショメトリック測定法ではカンチレバーをCNTに確実に接触させて電位を測定する必要があり、これが測定誤差を生じてしまう問題があることを指摘した。

CNTデバイスでは光デバイス、量子デバイス、バイオセンシング、メカニカル基礎技術に関して4件の講演があった。

名古屋大学の水谷等はCNTFETと発光との関係を詳細に調べた。CNTFETのチャネル部分の酸化シリコン基板をエッチングで取り除き、印加電圧とPL発光の関連を調べた。ゲート電圧を負に印加していくと、ホールの注入量が増加し、PL信号が大きく増えていき、さらに負電圧を大きくして行くとPL信号が減少して消滅する。これはCNT中の伝導帯の電子が大きな負電圧のために電極へ排出してしまうためであると解釈した。このPLを大気中で測定すると真空中で測定した場合と比較してシフトする。これはCNTFETの閾値のシフトに対応する。大気中の酸素によるCNT特性の変化がPLに現れたことが判明した。ライフタイムのドレイン電圧依存性を求め、さらに時間分解PLで緩和時間を求め、10psecと大まかに仮定すると、CNT中のキャリア速度が107cm/secと見積もることができた。

大阪大学の松本等はCNTFETの安定化に成功し、バイオセンサー応用を示した。CNTFETの従来からの問題であったヒステリシス特性や電流の大きな時間変動特性は、CNTの表面に付着した水、酸素のみならずフォトレジストが大きな原因であることを突き止め、これらを完全に除去した後、窒化シリコンでCNTを保護することにより、上記諸問題をすべて解決することができた。このCNTFETを用いてバイオセンサーを形成し、豚血清アルブミン(PSA) とマウスグロブリン(MIgG)の抗原/抗体反応を電気的に検出し、定量化に成功した。またCNTを多数成長して電気化学反応の反応電極として用い、アミノ酸、蛋白質の高感度選択検知に成功した。

理化学研究所の石橋等はCNTを用いた様々な量子デバイスの開発を行った。CNTSETのクーロン振動を詳細に検討すると4電子シェルフィリング構造や2電子シェルフィリング構造が見られ、原子核構造を示す人工原子がCNTを用いて構成できることを示した。クーロン振動の磁場依存性を測定することによりゼーマン分離に対応するクーロン振動の磁場依存性が観察された。またCNTSETを用いたインバータやエクスクルーシブOR回路を構成した。2.5THの光はエネルギーとして10meVに対応する。この光をCNTSETに照射しそのクーロン振動特性を観察すると、クーロン振動ピークの両脇にテラヘルツ光吸収に対応する新たなピークが観測でき、テレヘルツの光アシストトンネリング特性を測定した。GaAlAs/GaAs HEMT基板上にCNTSETを形成し、その近傍に量子ポイントコンタクトを形成した。CNTSETにおける一個の電子の移動をこの量子ポイントコンタクトの電流変化で直接観察することが可能になった。

大阪府立大学の中山等はCNTを用いたナノメカニカルデバイス構成のための基礎技術であるCNTの曲げ機構の確立と、塑性変形とStone-Wales欠陥の関連を明らかにした。2層CNTを用いてTEM中でCNTをカンチレバーを用いて曲げ、さらに通電することにより、カンチレバーをはずしても変形したままで塑性変形が生じている。直径が2nmの2層CNTで0.087μA/nmの電流密度で塑性変形が生じる。塑性変形はCNTのボンドが回転して、Stone-Wales欠陥が生じることにより形成される。2つの5-7欠陥に分離し、これが分離していく。これらの間は5-4欠陥になり塑性変形が生じることがシミュレーションより明らかになった。逆に電流を印加すると5−7欠陥が近づき、これらの間が5−4欠陥になり、最終的に6員環になり、欠陥が消滅しチューブはまっすぐな状態に戻り、エネルギーが最小の領域になってとまることを理論的に検証した。これを実験で実証するため、TEM中でカーボンナノコイルに通電加熱するとナノコイル中のStone-Wales欠陥が回復していき、直線状に変形していく様子をリアルタイムで観察できた。

以上のように本シンポジウムを通して、CNTの成長、評価、デバイスに関して着実な進展があることを実感できた。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
ナノインプリント技術の現状と動向

(独)産業技術総合研究所 古室 昌徳
兵庫県立大学 松井 真二
本シンポジウムは、ナノインプリント技術研究会の第2回目の会合として企画された。現在、研究会の企業賛助会員は23社、一般・特別会員は24名となっており、来る10月に第3回を、年明けに4回目を開催する予定である。

さて、今回のシンポジウムでは、熱、光、ローラーナノインプリント各種方式での、装置およびプロセスを中心にした研究開発動向やトピックスを前半の話題とし、後半では、パターン形成の媒体となる樹脂について、光あるいは熱ナノインプリント用の進展と課題について、樹脂メーカーから紹介された。

兵庫県立大の松井氏からは、ナノインプリント技術の精度の高いロードマップの必要性を強調すると共に、ナノインプリント技術研究会においても、ロードマップ作製に向け検討を開始する予定とのことであった。また、デバイス製作への応用と装置開発の現況に的を絞って現状を解説した。デバイス応用では、Si集積回路でのダマシン工程(Cu配線工程)へのナノインプリントへの適用が、従来の工程に比べ格段に単純な工程となりコスト削減に大きく寄与するとのことで、3次元パターン形成の試みがなされている例が示された。ただし、装置自身の合わせ精度や信頼性、材料開発など、実用化にはかなりの障壁が横たわっている。
一方、光素子関連では、LEDの指向性を高めるためのフォトニック結晶の適用、CCDセンサーでの受光効率を高めるためのマイクロレンズアレーの活用、など従来にもまして多くの応用例の検討や商品化が進められている。パターンドメディアでは、高速の熱ナノインプリントを実現した例が注目を浴びた。ここでは、5インチのディスクを1秒でインプリント可能であり、画期的な量産技術として今後の実用化が注目される。装置産業においては、12インチウェーハ対応など従来ベンダーからの新機種の発表が目立つが、特にローラーナノインプリント装置が複数社から発表されたが、これはフィルム産業としての市場拡大を期待したものであり、高速化、高信頼性が売りであった。

大阪府立大の平井氏からは、熱ナノインプリントにおける最近の高機能化プロセスへの対応について報告された。従来の工程では、高い印加圧力により、特に樹脂側突起部の根元部分に冷却固化後に残留応力が集中し、これがパターン破壊の原因となっていたが、応力集中のシミュレーションに基づき低分子量と高分子量樹脂の2層構造とすることで、樹脂の流動性と機械的強度の両者を両立できることを示し、熱ナノインプリントの適用範囲の拡大を実証した意義は大きい。また、リバーサルナノインプリントの信頼性を高めるために押し付けの際の温度勾配を基板側とモールド側とにつけることで改善されることを示した。

光ナノインプリントについて産総研の廣島氏より報告された。特にパターン解像力に関しては問題ないが、プロセスの信頼性の向上にはナノインプリント後の樹脂の残膜の厚さの均一性を保証すること、および空気の取り込みで発生するバブル欠陥対策が重要であり、このための解決法を中心に最近の研究成果が述べられた。

同じく産総研の後藤氏からは、ローラーナノインプリントによる大面積均一転写方式についての報告がされた。ここでの課題は転写速度が樹脂の粘弾性特性で制限されることであり、材料開発も重要な課題であることが強調された。

転写材料についての研究開発が樹脂メーカから紹介された。光ナノインプリント用樹脂として、東洋合成(株)の坂井氏より、ラジカル重合型樹脂であるPAK01の材料物性および光ナノインプリント転写精度が紹介された。30nmの高解像度と低エッジラフネスが実証されており、さらにドライエッチング耐性の高い樹脂も開発済みとの報告がなされた。

旭硝子(株)の川口氏から、ナノインプリント用フッ素系樹脂NIF-1の材料特性およびパターン転写が紹介された。表面エネルギーの低いフッ素系樹脂を光ナノインプリント用レプリカモールドおよび樹脂として使用することにより、高離型性が実現できること実証された。樹脂そのものに高離型性を持たせることは、実用的観点から重要なアプローチである。

熱インプリント用樹脂として、綜研化学(株)の三澤氏から熱ナノインプリント用として、熱可塑性樹脂(PMMA)のナノインプリント転写特性について実験した結果、樹脂分子量および分布が樹脂の流動性および剥離性に与える影響が大きく、熱ナノインプリント用樹脂設計の最適化が重要であるとの報告がなされた。

本シンポジウムでは、300名もの聴講者から積極的な質問があり、実用化へと加速するナノインプリント技術への高い関心が示された。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
レーザー・プロセッシングとバイオの融合

北大院理 坪井 泰之
80年代前半のエキシマーレーザーアブレーションの登場を一つの契機とし、生体材料、生体関連物質、あるいは生体そのもののレーザー加工応用に関する研究は次第に増加した。特に、90年代における操作性の高いフェムト秒レーザーの登場も当該分野の進展を加速させた。現在、バイオマテリアルはレーザープロセシングの重要な対象となっており、バイオ系の研究者も徐々に本分野に参加するようになり、新たな局面を迎えようとしている。これらを概観し、当該分野の現状の問題点と今後の見通し、将来性などを浮き彫りにするのが本シンポジウムの狙いである。

まず、北大の坪井から趣旨が説明された後に、産総研の栗田氏よりナノ構造を有する表面を巧みに利用したバイオセンシングデバイスの開発と応用が述べられ、最前線の例が次々に紹介された。レーザー技術に対する期待として、表面ナノ構造の作製やバイオマテリアルの微細固定化が挙げられ、レーザー加工関係者の関心を大いにひいた。

理研の花田氏からは、真空紫外レーザーを用いたマイクロチャンネルチップ作製に関する紹介がなされた。サイトップと呼ばれる幅広い波長領域に高い透過性を有するアモルファス樹脂が加工対象材料であり、これを用いてDNA電気泳動チップを実際にファブリケーションできることが示された。本手法のポテンシャルを実感させる内容であった。

産総研の佐藤氏からも同じくマイクロチップの作製と応用に関する紹介があった。独自に開発したLIBWE法による、DNA修飾マイクロビーズを配列したガラス製のバイオチップのファブリケーションが紹介された。ガラスのような難加工性材料に対しても、実際に高感度マイクロアレイ分析チップの試作まで達成できることが示された意義は大きい。

これらに続き、坪井はポリマー基板に対する酵素のレーザー転写固定に関する報告を行った。ルシフェラーゼ酵素を柔軟なポリジメチルシロキサン基板に微細スポット固定し、これに小型光ダイオードを組み込んだチップを作製した。このチップが生物のエネルギー貯蔵変換物質であるアデノシン三リン酸を定量的に検出できる発光型センサーとして動作することを示した。以上の3件の講演から、マイクロ分析チップの作製におけるレーザー・プロセッシング技術の有効性が充分に伺われた。

休憩を挟んで、生体系へのレーザー照射の講演が4件あった。まず産総研の渡辺氏より光学顕微鏡技術を駆使した細胞内のレーザー微細加工が紹介された。細胞内の狙った小器官に短パルスレーザーでアクセスする技術が紹介され、いわば究極のナノサージェリーがレーザーで行える可能性を十分に予感させた。

続いて、ニデックの林氏より、眼科治療用のオレンジファイバーレーザーの開発に関して述べられた。眼科医療は、最も歴史のあるレーザー生体応用であるが、特に光凝固作用に優れる本レーザーの詳細が紹介され、眼科医療分野におけるレーザーの重要性が改めて認識できた。

防衛医大の佐藤氏は、生組織細胞へのレーザー遺伝子導入に関する研究に関してまとめた。レーザー遺伝子導入は20年前から報告例があるが、佐藤氏はレーザー応力波を利用する技術を独自に開発し、組織に全く損傷を与えることなく遺伝子を細胞内に導入できることを示した。応力波というレーザー応用の新たな可能性を実感できた。

最後に、阪大の森氏からフェムト秒レーザーを用いたタンパク質の結晶作製研究に関して紹介がなされた。本研究はあちこちで話題にのぼり、その研究に立脚したベンチャー企業も設立され、内容を見聞きした方も多いと思う。既に実用域に達しているこの技術の発展を期待させると同時に同時に、基礎的メカニズムにも深いサイエンスが内包されていることを伺わせた。

以上、駆け足で本シンポジウムを振り返った。いずれもエキサイティングな講演内容であり、歴史が長い分野にも関わらず、新しいテーマが芽吹きつつある現況を充分に実感できたと思う。今後はレーザーの発展と同時に、バイオ系研究者が本分野に積極的に参加し、まさに「レーザー・プロセッシングとバイオの融合」が一段と進み、基礎的理解から実用まで、一層発展することを期待する。最後になりましたが、講師の先生方ならびに会場に足をお運び頂きました参加者の皆様に深謝いたします。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
薄膜・表面物理分科会企画シンポジウム
「ここまでわかる−表面分析技術の極限化」

神戸大工 浦野 俊夫
京大工 木村 健二
近年表面物性の研究において、一方では新しい原理に基づく分析方法が開発され、他方では既存の手法の能力を格段に進歩させる試みが行われ目覚しい発展をしている。特に、時間、空間、エネルギーの分解能を向上させて、今まで見えていなかったものが見えるようになった。さらに分光法と顕微鏡法を組み合わせることにより、エネルギーと空間、あるいは時間と空間を同時に観測できるようになりつつある。本シンポジウムでは、それらの中で代表的な分析法を取り上げ、手法の解説、最近の研究成果、今後の展望について述べてもらった。

東北大院理の佐藤宇史氏による「超高分解能光電子分光−フェルミ面微細電子構造と準粒子」では、エネルギー分析器のレンズシステムの精密な調整とMCPを用いた2次元計測による効率化、マイクロ波励起放電管による励起光の高強度化・エネルギー幅の低減、低温試料などにより、エネルギー分解能1.3meV、運動量分解能0.007Å−1を達成。これによって得られた高温超伝導体のエネルギーギャップやバンド端におけるキンク構造、V族半金属のスピン軌道相互作用による運動量方向への軌道分裂などの観測例が報告された。近い将来サブmeVオーダーの分解能が期待される。

阪大院理の宗像利明氏による「顕微2光子電子分光−吸着分子電子状態の空間的不均一性」では、フェムト秒のチタンサファイアレーザーの第6高調波を用いたマイクロビーム光電子分光装置の開発で空間分解能0.3μm、エネルギー分解能30meVを達成した。これにより有機薄膜と基板および分子間の相互作用によるHOMOのエネルギーシフトなどが観測できるようになった。さらに2光子電子分光法により基板物質の非占有準位の知見も得られるようになり、今後吸着物質が誘起した非占有準位の観測が期待される。

筑波大物工の重川秀実氏による「光とプローブ顕微鏡を融合して覗く世界−局所バンド構造から超高速現象まで」では、STM探針直下の試料にフェムト秒レーザー光を入射しトンネル電流を観測して、空間分解能の高い局所バンド構造や高速の現象を観測する手法が紹介された。これによって探針が誘起したバンドベンディングが光を当てることによって緩和されるSurface Photo Voltageのマッピング、ポンプ・プローブ法での遅延時間を変化させた測定による超高速現象の寿命計測など新しい知見が得られつつある。

産総研の末長和知氏による「電子顕微鏡による単原子の観測−カーボンナノ構造体の原子レベル構造解析」では、球面収差を極力小さくして分解能を飛躍的に向上させた比較的低い電圧の電子顕微鏡で、カーボンナノチューブに入れたフラーレン分子、フラーレン分子の中に閉じ込めた金属原子、さらにフラーレン分子を構成するグラファイトの欠陥および欠陥を通してフラーレン分子に出入りする金属原子など、数多くの観測例が示された。

物質・材料研究機構の山内泰氏による、「準安定原子線を用いたスピン偏極分光−最表面磁性の観測と画像化」では、He準安定脱励起電子分光法が固体の最表面のみに敏感なことを利用して、光ポンピング法で偏極した3重項状態の励起原子で、Cu(001)面上に蒸着したFe膜の磁化の膜厚依存性など各種磁性表面の磁気観察、パルス状の励起原子に同期させたTOF測定による吸着H脱離イオンのスピン偏極依存性、6極磁石を利用した偏極原子の収束作用を利用したMgO(001) 面上Fe膜の磁区の顕微鏡観察などのユニークな観察例が報告された。

東大生産研の福谷克之氏による「核反応を利用した水素顕微法−固体における3次元分布と量子状態を探る」では、15N+1H→12C+α+γ(4.43MeV)の共鳴核反応を利用して、15N のエネルギーを掃引することによるSiO2/Si(001)における水素濃度の深さ分析、水素暴露による金属膜への水素進入レートの測定、ガラスキャピラリーを用いてイオンビームを1μmまで収束させた水素面内分布計測、ドップラーシフトによるエネルギーの広がりから水素分子の振動状態を求める試みなどについての報告があった。

各種分析法の今後の進展が期待される。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
ナノテクノロジーを活用した 次世代生命工学

北陸先端大学院 三浦 佳子
産業技術総合研究所 松田 直樹
先ず、産業技術総合研究所の松田講師から、ナノテクノロジーを利用した、バイオテクノロジーの進展について、最近の展開をレビューしていただいた。また、有効なシーズの確認と産業化に向けた展開の必要性について問題提起がなされた。その後、6名の講師によって、それらの問題点について、独自の研究の展開と視点からお話いただく形でシンポジウムを進めた。

はじめに、九州工業大学の春山哲也先生から、リン酸エステルを検出する電気化学測定装置の開発と応用についてお話頂いた。春山先生は、ATP、ADPなど、あらゆる生命反応に関係する、リン酸エステルに着目し、高分子被覆電極を利用し、リン酸の電解電流を検出する装置を開発しておられる。高分子被覆電極は、耐久性が高く、乾燥−再膨潤が可能で、実用性に富むものであった。また、このリン酸の検出反応を使うことで、食中毒菌の検出や細胞の活性度の変化、胞子菌の検出などができることが紹介され、リン酸エステル検出装置を利用した、実用化の方向性が示された。

次に、産総研の大庭英樹先生から、量子ドットを利用したバイオテクノロジーの展開についてお話いただいた。産総研の大庭先生の研究室では、独自の量子ドット合成法を開発し、これを自由に修飾することで、バイオテクノロジーに対する多様な展開を計っていた。量子ドットを用いた蛍光ラベルは有機蛍光分子と異なり、強い蛍光を発することから、診断や測定法について大きな可能性を有している。量子ドットを用いた、センシング、細胞内同体の制御について先進の応用が示された。同時に懸念されている、生体毒性についての実験経過についても簡単にご説明いただいた。

次に、東京農工大学の斉藤美佳子先生から、“ナノインジェクション法のポストゲノムサイエンスへの展開”というタイトルで、遺伝子のナノ送達システムの開発とその具体的な使用例についてお話頂いた。 斉藤先生のグループでは制御の難しかった、細胞内への遺伝子の送達について、機械的に制御する装置の開発を行い、ポストゲノムサイエンスの展開の迅速化について研究を行っている。このナノインジェクション装置によって、今まで研究の難しかった、ES細胞のコントロールなどが大幅に容易に半自動化された。また、後半には実際にこの装置を活用した特殊な細胞の作成方法とその応用についてお話頂いた。

次に、北陸先端大学院大学の民谷栄一先生から、ナノバイオテクノロジーとバイオセンサーというタイトルで、バイオセンサーの展開のレビュー、電気化学測定法や光科学測定法を応用した最新のバイオセンシングについてご講演頂いた。光科学測定法を利用した最新測定法について、会場からの質問が多く、活発な意見交換がなされた。

次に、東京理科大学の菊池明彦先生から、温度応答性ナノバイオインターフェースとその応用というタイトルで、ご講演頂いた。菊池先生は、温度応答性ポリマーを表面に修飾した培養材料で、可逆的な細胞の接着制御、細胞シートの作成、その応用についてお話を展開された。基材の重要性といった基礎的なことから、眼細胞を利用した臨床応用など話は多岐にわたった。

最後に、北陸先端大学院大学、三浦から糖鎖を用いたバイオセンシング材料の開発について講演を行った。生体高分子の中でも特に特殊な性質を有する、糖鎖の活用について、病原性大腸菌O157検出材料など、具体的な話を合わせ、界面科学から見たバイオセンシング材料の構築について講演を行った。

全体として、講演会で議論が活発に行われ、有効なシンポジウムであった。演者はどちらかというと、生物化学領域の出身者が多く、応用物理領域に長けた聴衆者との間で活発に議論が交わされた。聴衆者は概算で延べ120名前後と盛況であり、応用物理分野の研究者が生命工学に参入する熱意を感じた。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
ボトムアップ成長技術のマイルストーンとナノエピタキシィへの展開

塚本 史郎(東大)
喜多 隆(神戸大)
シンポジウムは9時から18時までの丸一日使って構成したにもかかわらず、参加者は終日480人が収容できる会場がほぼ埋まり、一時は立ち見がでるほどの大盛況であった。本シンポジウムではわれわれが「ナノエピタキシー」と呼ぶナノメーターサイズ領域のエピタキシー技術の現状と展望を探るため量子細線と量子ドットを中心にナノ構造の成長に関連したトピックスを集めた。量子井戸などの2次元構造とは異なり1次元(細線)や0次元(ドット)の量子構造は立体的であり、エピタキシャル成長によってこれを実現するには自己形成によるボトムアップによる手法が最適であると考えられる。この場合、自然任せでだけでは組成、サイズ、形状、位置、不純物、ヘテロ界面等々の制御に統計的な要素を残すことになる。このことを克服してヘテロエピタキシャル成長の制御性を増すためには何か新たな手法を加えて自己形成過程を「ガイド」して、ナノ構造を求める仕様に導いてやなければならない。これらの現状を明らかにして展望を探るためシンポジウムを4部で構成して実施した。
第1部は量子ナノ構造およびそれを利用したデバイスに関連するこれまでの研究の発展の経緯と残された課題や発展の可能性について2件のレビュー講演をいただいた。
第2部では量子細線構造のナノエピタキシーのこれまでの発展と最新の成果について5件の報告を行った。
第3部は量子ドットの自己形成過程の制御にかかわる最新のアプローチにについて12件の講演をしていただき、さらに第4部では自己形成過程のその場観察と成長機構に関連した最新の成果を3件報告していただいた。具体的な講演の内容は以下の通りである。

午前最初の講演で、東大の榊先生から、量子細線・量子ドットの創成期からの経緯と今後の展望について、FETなどデバイスへの応用を中心に、ナノ構造に求められている課題と今後の広い分野への発展の可能性をわかりやすくご講演いただいた。それに続き、NIMSの小口先生からは液滴エピタキシー法による半導体ナノ構造、特に量子ドット、の創製について独自のアイデアの実証から最新の成果をご講演いただいた。
2件のレビュー講演に続いて第2部ではASETの比留間先生からVLS機構を利用した独創的な量子細線構造の成長に関しての報告があり今日世界的に広く利用されている技術の端緒となる研究の成果をご報告いただいた。さらにNTT、NEC、北大、愛媛大から量子細線のX線構造解析、合金と層分離・オーダリング、MOVPE選択成長による細線形成、高指数面基板上への細線自己形成について最近の結晶成長の取り組みについて報告があり、細線形成の機構や制御性について、具体的に、より詳細に渡って議論された。
第3部では量子ドットの結晶成長から最新のアプローチについて産総研、NICT、筑波大、NIMS、富士通、東工大、電通大、農工大、日工大、NECから講演を頂き、基板のSb終端処理、As原料分子種、ポーラスアルミナ、クリスタルリソグラフィなどのマスク技術、AlAsコーティングによる拡散制御、歪補償による多層積層技術、ダブルキャップ、合金キャップなどキャップ技術、ナノジェットプローブによる位置制御に関連した報告が次々となされ、これらあたらしいガイド手法の提案に対して非常に活発な議論がなされて大いに盛り上がった。
第4部では自己形成過程を精密に制御することを目指して、成長その場でのライブな観察技術の最新成果について報告があった。MBE成長その場STM観察(東大)、放射光施設を利用したその場X線回折(Spring8)では量子ドット発生メカニズムと成長過程がこれまで不明瞭であった自己形成過程が具体的に理解できるレベルまで引き上げられており、In原子の吸着促進を取り入れたモンテカルロシミュレーション(鳥取大)の結果とあわせて活発な議論がなされ、ナノエピタキシー過程の理解をより深めることができた。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
次世代エネルギーを担う有機系太陽電池

九工大 高嶋 授
九工大 永松 秀
産総研 吉田 学
産総研 吉田 郵司
次世代エネルギーとして期待される有機系材料を用いた太陽電池は、色素増感太陽電池を中心に研究が進められてきたが、ここ数年バルクへテロ等の新概念による高効率の有機薄膜太陽電池が数多く報告され飛躍的に性能が向上してきた。本シンポジウムではその動向を把握すべく、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、更に将来の研究展開を睨んだヘテロ複合化等最先端の研究を俯瞰し、有機系太陽電池の将来性について活発な議論を行うことを目的とした。講師陣には各分野の一線で研究されている先生方を12名お招きし、太陽電池業界の現在の大きな流れから、研究現場で得られた最新のデータまでと多岐に亘った話題をご提供いただいた。

イントロダクトリートークとして柳田氏(大阪大)から、現在活発に研究されている有機系材料を用いた太陽電池の背景について、また、NEDOの報告書「PV2030」の内容等を参照しながら2030年に向けての太陽電池開発の展望について解説していただいた。

前半部分は色素増感太陽電池の特性改善についての様々なアプローチについて各講師の方々よりご発表いただき、研究の現状について把握することを目的とした。 千葉氏(シャープ)からは、詳細な等価回路解析により素子内の各成分を抽出し、個々の成分を改善させるというアプローチにより高効率化した色素増感太陽電池についてお話いただいた。早瀬氏(九工大)には、熱刺激電流(TSC)法を用いた吸着色素とチタニア界面のトラップ分布評価という基礎的な研究から、アルミナの直線状ナノポアを利用して電流取り出し効率を向上させるという研究まで幅広い内容をご紹介いただいた。吉田氏(岐阜大)には、酸化亜鉛/エオシンY ハイブリット薄膜から色素を脱着させることにより、ポーラス結晶酸化亜鉛薄膜が作製できること、また、これを利用してカラフルなフレキシブル太陽電池を作製できることについて詳細にお話していただいた。錦谷氏(新日石)からは、耐久性向上の観点から、ゲル状イオン伝導性ポリマーであるビニリデンフルオライドとヘキサフルオオプロピレンの共重合体を用いた色素増感太陽電池の固体化の取り組みについて詳細に解説していただいた。

後半の部分は、有機分子の蒸着薄膜の太陽電池、高分子バルクへテロ型太陽電池を中心に講師の方々に解説していただいた。平本氏(大阪大)からは、有機蒸着薄膜を用いたp-i-n接合型固体太陽電池についてお話いただいた。光生成した励起子を電子と正孔に分離しそれぞれ対向する電極まで取り出すために、蒸着薄膜のナノ構造を制御する必要があるという興味深いお話であった。阪井氏(松下電工)には高分子系半導体(ポリチオフェン等)と低分子系半導体(フラーレン誘導体等)をブレンドして作製するバルクへテロ接合型有機薄膜太陽電池と、これらを利用したタンデム型バルクへテロ接合太陽電池についてご紹介していただいた。特に層の接合部分にIndium Tin Oxide(ITO)の中間層を設けることで、下層の保護、オーミック接触等を実現し変換効率の向上に繋がるというお話であった。斎藤氏(産総研)からは、有機低分子を用いた共蒸着薄膜でバルクへテロ接合を実現することにより、キャリア発生とキャリア輸送の高効率化を両立させるというコンセプトについて解説していただいた。
また、併せて、現在の研究現場における変換効率の評価方法の問題点等についても言及していただいた。安蘇氏(大阪大)の講演は、デバイス構造を制御するのでは無く、p型とn型の分子を化学合成で結合させ分子レベルのp-n接合を実現させようというものであった。具体的にはオリゴチオフェンとフラーレン誘導体を結合した分子が主なものであるが、分子量が大きく蒸着できないため、高効率なデバイス作製には、溶媒に対する可溶性が鍵となるようである。

最後に、新しいコンセプトの複合素子の現況について2人の講師の方に紹介していただいた。瀬川氏(東京大)からは、色素増感太陽電池と導電性高分子の電荷蓄積電極を組み合わせた「エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池」についてお話していただいた。この電池は光照射のみで充電可能で、光充電後は暗所でも電力を出力できるという非常に興味深いものであった。中氏(富山大)は発光・光検出の両機能を持ったバイファンクションマトリクスアレイ(Bi-Matrix)と単一デバイスで発光・受光を実現できる多機能ダイオードについてお話していただいた。これらは双方向光通信系やディスプレイ/スキャナの一体化に利用できるということであった。 おわりに、近藤氏(産総研)より、薄膜シリコン太陽電池の過去の研究経緯をよく参考にして、これからの有機材料系太陽電池の発展につなげていくことが重要であると総括していただいた。

石油系燃料の価格高騰の影響を目の当たりにしている昨今、太陽電池等のクリーンなエネルギーに対する要請は日々高まるばかりである。そのような中、有機系太陽電池の普及にむけての最先端の研究の現状に関して非常に有意義な講演をしていただいた講師の方々に感謝の意を表したい。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
高度バイオセンシングの新しい潮流

横浜国大 荻野 俊郎
東北大 庭野 道夫
本シンポジウムは、バイオセンシングの新しい動向を議論する場として企画された。ヒトゲノムの塩基配列が解読され、生命科学の次のターゲットが生体分子間相互作用の解明へと移った。すなわち、塩基配列(DNA)から生命機能が発現していく過程や、個々のタンパク質から高度な生命機能が生み出されていくタンパク−タンパク相互作用の解明が次の課題となっている。医療の分野では、個々人の遺伝的体質に合わせたテーラーメイド医療、患者への負荷の少ない(低侵襲)治療、必要な部位にだけ薬を運ぶドラッグデリバリーなど、新しい分野が生まれている。
こうした生命現象の解明と新しい医療技術の開拓においてバイオセンシングは極めて重要である。バイオセンシングには様々な要求項目がある。低侵襲という観点からは、微量の検体で反応を検出できる高感度特性が重要である。医療現場ですぐに治療に適用できるその場計測への要求も高い。生体分子間では相補的DNAの二重螺旋形成(ハイブリダイゼーション)や、特定の相手分子だけを認識する特異的反応(抗原抗体反応・酵素反応)が行われる。これは生体のみで現れると言ってもよい特殊性であるが、その反応をいかに信号として取り出すかが問題である。バイオセンシングで一般に用いられているのは、ターゲット分子に蛍光分子を結合させ(標識)、どのプローブ分子を認識したかを蛍光顕微鏡で観察する手法である。
このような標識を用いる方法は時間がかかり、分子の変性をもたらす可能性もあるため、分子反応をそのまま検出する非標識法への要望も強い。
このような反応の検出・変換では、応用物理研究者の得意とする様々な技術が活躍する。以下、シンポジウムの内容を簡単に紹介する。

荻野(横浜国大)が企画の趣旨を述べた後、永田(京大)は、たんぱく質のフォールディング(多数のアミノ酸からなる鎖が三次元的に折りたたまれ、タンパク分子を形成する)と凝集過程のセンシングについて講演を行った。
特に、それらの過程を解析するのに有力な手法である蛍光相関解析法を紹介した。岡畑(東工大)は、生体分子間反応に伴う質量変化を、水晶発信子マイクロバランス(QCM)法によって検出する方法を紹介した。最初は、「水晶振動は液中では使えません。」と言われたそうであるが、今日では微量生体物質反応を検出する強力な手段となっている。
濱口(東大)は、細胞のラマン分光における「生命のラマン分光指標」を紹介した。これは、細胞が生きているときだけに現れるラマンピークであり細胞が死ぬと現れないという興味深いものである。起源は不明であるが、生命活動の過程で生成される物質であると予測されている。
中村(東レ)は、バイオセンシングのためのナノレベルでのバイオ表面の構築と機能化について講演した。DNAや自己組織化単分子膜を用いて吸着サイトの密度や配向性を制御する手法、FETを用いた反応検出、等について紹介した。
渡慶次(名大)は、熱レンズ分光法とマイクロ化学チップを用いたバイオ応用計測の紹介を行った。熱レンズは励起光の吸収に応じて熱を発生し、屈折率が局所的に変化することを利用した反応検出で、マイクロ化学チップ(ガラス基板上の流路を用いて分子の分離や反応を行う)への適用について紹介した。
原(東工大)は、タンパク質の基板への固定の制御について、生体分子と基板との間のバイオインターフェースを設計するアプローチを述べ、AFMを用いたタンパク質のアンフォールディング(前述のフォールディングの逆過程)の計測等について紹介した。
庭野 (東北大)は、シンポジウム全体のまとめとして、バイオセンシングにおいて固体表面と生体分子との界面制御が大きな役割を果たすことを強調した。

参加者は、会場では常時120名程度であったが、出入りが多かったことを考慮して主催者発表は200名としておく。2004年と2005年に行った表面と計測を主体とするシンポジウムに比べて参加者が若干減り気味なのは、応物学会でのバイオへの参入者が落ち着いてきたということであろうか。しかし、バイオテクノロジー分野での応物研究者の出番はますます増えてきていると思われ、この学際領域の発展が期待される。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
シリサイド系半導体と関連物質研究会合同企画シンポジウム
シリサイド半導体研究10年の進捗

京都大学エネルギ科学 前田 佳均
この10年間のわが国でのシリサイド半導体の研究は質・量とも着実に発展している。そこで、これまでの研究成果をそれぞれの分野の指導的研究者に総括していただき、今後の重点課題や具体的目標を明らかにために、本シンポジウムは「シリサイド系半導体と関連物質研究会」と合同で企画された。

「イントロダクトリートーク:シリサイド半導体の10年のトピックス」(立岡:静岡大)は、我が国におけるシリサイド半導体の研究の流れをそれぞれの研究分野のトピックスをキーワードにして分かりやすく概説した。これまで研究の労力は主にシリサイド薄膜形成とバルク結晶成長に注がれてきた。こうした地道な研究の結果、現在では多彩な薄膜形成法、高純度素材によるバルク結晶成長方法による結晶組織の制御技術が確立されてきた。こうした結晶技術に支えられて、基礎物性の解明がかなり進んでいる。本年には研究会主催でシリサイド半導体国際シンポジウム:APAC-SILICIDE2006を京都で開催し、基礎から応用までの研究の最前線を知る絶好の機会となった。またアジア、ロシア、欧州の研究者との今後の研究ネットワーク形成に大きく役立つとともに、我が国のこの分野での主導的役割を印象付けた。

「基板作製への挑戦:バルク結晶成長」(原:茨城高専)最近のバルク結晶成長の進展について報告があった。これまで針状のβ-FeSi2結晶しか得られず、物性の解明に大きな障害になっていた。成長条件を巧みに調整した化学気相輸送法、鵜殿(茨城大)らが開発した溶液法によってファセット面を有する板状結晶の成長が可能になった。現在、数ミリ角程度の単結晶基板が得られ、更なる大型化によってβ-FeSi2基板への挑戦が続いている。また、鵜殿らは作製した基板へのホモエピタキシャル成長を報告するなど、基礎・応用両面から基板作製への期待は大きい。

「機能界面への挑戦:ヘテロエピタキシャル成長」(末益:筑波大)固相エピタキシャルで成長させた極薄膜β-FeSi2テンプレートはシリコン上での良質なエピ成長に重要な技術となっている。またBaSi2の成長でも有効であることが実証されている。へテロ界面の組成制御には鉄とシリコンの相互拡散抑制が必要であるが、それに果たすテンプレート役割が強調された。
また、強磁性Fe3Si成長においても鉄の拡散を抑制するCaF2層の効果が報告された。新たな機能を生み出す界面形成の事例が豊富に紹介された。

「低温形成への挑戦:微小液滴成長」(奈良崎:産総研)パルスレーザ堆積法によって形成される数ミクロンサイズの微小液滴から成長したβ-FeSi2結晶の報告があった。微小液滴は、これまで成膜の平坦性を損なうため積極的な研究が行われなかった。部分的ではあるがβ-FeSi2の成長が確認され、低温形成への有用性と、アニール後の1.5μm帯の発光も確認された。リソフリーなパターン形成など今後の展開が期待される。

「あたらしい物性を求めて:Fe-Si系シリサイド薄膜の物性」(財部:岡山理大)最近注目されている「ナノ微粒子薄膜、アモルファス薄膜」のこれまでの物性研究について示唆に富む内容であった。水素化処理による吸収端近傍の構造の顕著なシフトはd電子が関係した奥の深い特徴的な物性であることが強調された。

「あたらしい構造を求めて:強磁性体シリサイド単結晶薄膜とその機能」(佐道:九大)SiまたはGe基板上のDO3構造の強磁性体Fe3SiヘテロエピタキシャルについてMBEによる成長が報告された。Ge(111)基板上で原子スケールの平坦界面が60℃の成長条件で達成された。スピン注入トランジスタへの進展が大いに期待される成果であった。

「新しい応用を求めて:高屈折率シリサイド半導体・フォトニック結晶への展開」(前田:京大)屈折率の大きなシリサイド半導体のフォトニック結晶への展開が紹介された。理論計算では屈折率にスケールされた回路サイズ縮小とバンドギャップ拡大が可能であるなど大きな特長あることが分かった。またFe系シリサイド薄膜のサブミクロン加工の現状と課題およびその克服について具体的事例が報告された。

総合討論(司会、宮尾:九大)では、この10年の成果をもとに、シリサイド半導体の独自性を軸に可能なデバイスへの応用について明確な展望もった研究が必要であることを確認した。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
日本学術振興会第161委員会企画
「新バルク結晶をものにするための基盤技術を考える
−無機から有機へと繋ぐ高性能、低欠陥化技術−」

(物材機構)木村 秀夫
(阪大工)森 勇介
(村田製作所)藤井 高志
結晶技術の開発はこれまで材料毎に行われ、横のつながりが希薄であった。また、研究者の専門分野も異なり、成果発表の場も異なるため、他の分野での話題を知ることも困難であった。しかし、近年酸化物を扱ってきた研究者が半導体、タンパク質育成に挑戦して成果をあげるなど、結晶技術において共通項が存在し、その重要性の再認識が必要となってきている。さらに近年有機結晶の進歩が著しく、無機結晶で培われてきた結晶技術が有機結晶でも適用可能かどうかの議論も望まれている。本シンポジウムは、これまで育成されてきた各種無機結晶を取り上げ、それぞれの研究者が集まって材料毎の課題を再認識し、共通項を探るとともに、新無機結晶、有機結晶へと繋げる課題を検討することを目的に企画された。

まず木村らが、企画の意図を説明した。科学技術基本計画の見直しの中で、大型単結晶育成技術の進歩が重要であると指摘されたこと、今年春の応用物理学会あたりから有機結晶に関する発表が多くなり、今後は有機単結晶技術の進歩が要請されていることなどを説明した。

続いて太子らが、Si結晶における技術開発の歴史を紹介するとともに、Si結晶において成功した無転位化技術について、歴史的なネッキング法、太子らの無ネッキング法について紹介した。さらに新しい太陽電池用Si結晶技術についても技術的見通しを述べた。

柴田は、化合物半導体において問題となった多結晶化の抑制技術について、結晶成長とともに伝搬するgrown-in転位の集積が多結晶化の原因であり、固液界面の形状制御により抑制できたことを紹介した。さらに、近年青色発光用として盛んに研究されているGaNにおける課題も紹介した。

木村は、半導体と比べた酸化物における問題点を整理するとともに、酸化物結晶における多元化技術、なかでも固溶体とした場合の組成制御技術、クラックを抑制する格子定数変化抑制技術について紹介した。

縄田は、代表的なフッ化物であるCaF2について、チョクラルスキー法の利点を紹介し、融液自然対流の抑制、ホットゾーンの改良、結晶形状の最適化により、従来用いられていたブリッジマン法と比べて大径化が容易にできることを示した。

西澤は、炭化物結晶の代表であるSiCについて紹介した。他のバルク結晶と異なり気相法の一種の昇華法で育成するため内部の観察用としてX線観察技術の開発が必須であったこと、核生成を制御する技術の開発が大径化に必要であったことを紹介し、現在はマイクロパイプ以外の転位の低減が課題であることを示した。

小谷は、有機結晶育成の現状について紹介した。単位が原子ではなくて分子であることと、分子間の結びつきが弱いことなど、有機結晶の特徴を紹介するとともに、不純物分離が困難であるなど、無機結晶と比べて多くの問題点があることを指摘した。

吉崎は、有機結晶の一つであるたんぱく質結晶技術について現状を紹介した。核生成の制御が困難であるため、自然核発生で結晶が育成されており、静的条件での核生成が望まれることから、宇宙の微小重力環境の利用が進められていることを示した。

森らは、これまで行ってきた酸化物、窒化物、有機物、たんぱく質の結晶育成について紹介した。溶液法により結晶育成を行ってきたが、対象物は変わっても結晶育成の考え方には違いは無く、同じ考え方からこれらの結晶育成に成功したことを示した。また、たんぱく質では、従来の静的条件でなく、他の結晶と同様の動的条件によっても大型結晶育成が可能であることを指摘した。

最後に森がまとめ、結晶技術にはいろいろな考え方があるが、根本には共通するものがあること、有機結晶は無機結晶とはかなり異なる条件からの育成であるが、ある程度は無機結晶の考え方が通用するのではないかという見通しを示した。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
光とカオス −応用最前線−

静岡大学 大坪 順次
鹿児島高専 桑島 史欣
拓殖大学 内田 淳史
量子エレクトロニクス分科会では、「光とカオス −応用最前線−」のシンポジウムを企画した。2001年春に第48回応用物理学関係連合講演会以来、実に5年半ぶりの光カオスに関するシンポジウムであったが、研究の発展はめざましく、そのテーマは多岐に渡っているとの印象を受けた。また企業からの講演が半数近くを占め、光カオスの応用へ向けた研究が展開されていた。参加者は常時60名を超え、質の高い質疑応答が行われていた。

まず始めに、本シンポジウムの世話人である静岡大学の大坪から光とカオスの分野における最新のトピックスが紹介された。基本的なカオスの話題から応用まで、幅広い内容での講演が行われた。特に、カオスを使って何ができるのか?何をすべきか?という方向性に関する議論があり、Harnessing ChaosをキーワードとしたDynamics Engineeringの新分野を開拓することの重要性が述べられた。

(株)カオスウェアの梅野からは、カオスを用いた最新の応用研究および事業内容が紹介された。特にカオス秘密鍵暗号、カオス公開鍵暗号、またカオスCDMAに関する議論が盛んに行われた。カオスのデジタル回路への実装方式やカオスCDMAのデモンストレーションに成功した報告が行われた。またカオスの信号分離性能を利用したICA通信方式が提案され、今後の通信分野への応用将来性について議論された。

(株)NTTコミュニケーション科学基礎研究所のディビスからは当研究所で行われているカオス研究について紹介された。カオスを用いた信号伝送、カオス同期、統計的ネットワークセンシング、自発的スイッチング、相関乱数暗号など、多くのキーワードが提示され、カオスの応用可能性についてディスカッションがなされた。単純な現象と完全ランダム現象の中間に位置するカオスのような複雑プロセスの研究が今後重要となるであろうとの指摘があった。

同じく(株)NTTコミュニケーション科学基礎研究所の吉村からは、相関乱数暗号の理論に関する講演が行われた。情報理論的セキュリティの一手法として相関乱数暗号を提案し、実例を用いて分かり易く解説を行った。また秘密鍵容量の概念や消失通信路情報源の数理モデルを提案し、相関乱数暗号の情報セキュリティシステムとしての有用性を証明した。

拓殖大学の内田からは、相関乱数暗号のレーザカオスを用いた実装方法に関する講演が行われた。レーザカオスの高速性・不規則性を利用し、計測器のデータ取得速度の有限性やメモリ容量の有限性を利用して消失通信路情報源を実験的に実現した。さらに半導体レーザを用いた相関乱数暗号方式の実験的実証を世界で初めて行った。情報理論に基づく新たなセキュリティ方式としての有用性を示し、多くのディスカッションが行われた。

早稲田大学の海老澤からは非同期型の光カオス通信が提案された。レーザアレイを用いてカオス信号を生成し、そのリアプノフ指数の大きさによりデジタル信号を伝送する方式である。従来のカオス同期を用いた通信方式と同様にハードウェアのパラメータ誤差に強く依存する方式であることが示された。

(株)ソニーの滝口からはブロードエリア半導体レーザにおける時空間ダイナミクスの観測および制御に関する講演が行われた。動的および静的フィラメントの実験・シミュレーションに基づく詳細な観測を行っていた。またレーザへの戻り光を用いてフィラメントの制御を行うとの報告があった。

立命館大学の池田からは2次元共振器における共鳴モード理論に関する講演が行われた。特に幾何光学のみならず波動光学を駆使した共鳴モード解析が報告された。励起強度を増大させると線形モードと異なる発振が得られ、線形モードの重ね合わせで表現されることが報告された。

岡山県立大学の福嶋からは2次元スタジアム型半導体レーザにおけるカオス的発振実験について報告された。また擬似スタジアム型半導体レーザにおけるモード制御技術や2つの発振モードを利用した光スイッチングへの応用が報告された。カオスの光デバイス応用という観点からも非常に興味深い内容であった。

以上のように、光カオス研究は通信、情報セキュリティ、光デバイスといった多様な分野への応用が展開されていることが明らかとなり、本シンポジウムの意義は多大であったと言える。本シンポジウムで培った研究者同士の交流を今後も大事にし、本研究分野の更なる発展を願う次第である。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
SiO2からHigh-k 絶縁膜の材料科学と界面物理

早稲田大学 山田 啓作
筑波大学 山部 紀久夫
物質・材料研究機構 知京 豊裕
今日の情報化社会を支えるデバイスはSi半導体であり、今後も変わることはないであろう。そのSi半導体研究に対する努力の多くの部分が絶縁膜材料及びその界面に注がれてきた。従来、絶縁膜はSiO2であり、Siとの間に形成される極めて良好な界面がMOSデバイスを可能としてきた。この絶縁膜が薄ければ薄いほどデバイスの性能が上がるいわゆるスケーリング則にのり、薄膜化が追及され、5nmを切るまでに至った。しかしながら薄膜化はリーク電流の増大という負の面もあり、リーク電流の増大を抑え、実効的な薄膜化を可能とするものとしてHigh-k絶縁膜の研究が開始された。

30年以上の歴史と多くのノウハウを持つSiO2に対し、わずか10年に満たない研究期間で実用化直前のレベルに到達したことは、これに携わった全ての研究者の努力によるものであり、賞賛されるべきものである。その間に論文や講演会などの学会活動が大きな情報交換の場として前例がない程に、役立ってきた。

ただ、ここに来て実用化・製品化直前といえども、足踏みしている感を否めないのも事実である。SiO2に比べ、長年にわたって蓄積された材料的な知識がないことに、その原因のひとつがあることは間違いない。

この時期にSiO2とHigh-k絶縁膜の比較も含めてHigh-kの材料、そこの形成される界面について議論することは有意義であると考え、シンポジウムを企画した。

特にHigh-k材料はイオン性結晶を基本とする材料であり、共有結合のSiO2とは界面構造が基本的に異なる。MOSデバイスではこの界面への理解が不可欠である。

シンポジウムは580名収容可能の大教室に400名を越える参加者があった。このテーマが絶縁膜に関係する研究者にとって今日的な問題、興味のあるものであったことが、これだけ多くの参加者になった。さらに、今回の特徴は、いわゆるSi絶縁膜関係者以外の参加者も多く、400名を超えることとなった。

材料、特に界面に対する理解は外乱のないプロセスによって大きく前進する。Si 半導体は他の分野に比べれば、圧倒的な資金投入によって現在の技術で極限とも言える清浄界面を得ている。ここで得られる情報があって初めて、界面の物理が構築できるといっても過言ではない。ここで得られた理解は、他の分野の研究にも大きな情報になるのではないかと考える。

当日の講演について簡単に触れる。NTTの植松らにより、SiO2中では Si/SiO2界面に近いほど、Si及びOの自己拡散係数が大きくなることがのべられ、これは界面からのSiOの放出により説明される。阪大の渡部らは、High-k研究の初期からの話題である、High-k膜があるとき、その下のSiはその温度では考えられない速度で酸化する増速酸化について説明した。京大の中嶋らからはRBS法を用いた分析結果として、極薄いSiO2層を間にもつHfO2/SiO2/Si構造に熱処理を加えた時の各元素の移動、再分布が詳細に語られた。以上3件は、いずれもSiO2、High-kと材料が異なっても、Si/SiO2界面からのSi放出で統一的に説明されるものと思われる。

東工大の角嶋らからは、現在実用化の一番の候補であると考えられているHfSiO系の後に来ると思われるLaO系の絶縁膜研究の最前線が紹介された。

千葉大の中山らからは、金属/絶縁体の電子物性がイオン結晶であるHigh-kとSiO2の比較で語られ、見掛けの仕事関数について理論的な考察が紹介された。広大・宮崎からは金属/絶縁膜、特にHigh-k膜の構造において物理評価から実効仕事関数が語られた。物質・材料研究機構の大毛利らからは金属合金の組成を変えたときの仕事関数の変化が紹介された。以上の3件は同じメカニズムで説明されるものであり、High-kの実用化に不可欠とされるメタルゲート電極に対し大きな示唆を与えるものである。

物質・材料研究機構の梅澤らからは、Nを添加したHfSiONの結晶化抑制機構が計算科学的に説明された。これは経験的には知られていたことであり、それが理論的に説明された意義は大きい。

東芝の小山らからは、High-kを実用化する目的である、駆動力の大きなトランジスタを実現するための課題について現状と将来への展望が紹介された。

High-kという新材料での研究によって、SiO2では隠れていた極薄ゲート絶縁膜の新たな側面が顕在化され、SiO2の研究に一石を投じるという副産物的な成果も含まれているという視点も指摘された。高度に制御されるべき材料研究において、両者が互いに縦糸・横糸的役割を果たしているとの印象を受けた参加者も多かったであろう。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
応用物理教育教材開発の現状と今後の展望

北海道薬科大 中野 善明
東京工科大 毛塚 博史
長野高専 中澤 達夫
高等教育機関における応用物理分野の教育は、昨今の子供たちの理科離れや義務教育等の教育課程の変化に対応する必要があり、担当者は効果的な教育を行うためにさまざまな教材の工夫を行う必要がある。本シンポジウムは、応用物理教育に関する授業指導法や開発した実験実習教材等の具体例をご紹介いただく講演と、参会者との意見交換を中心とする総合討論を実施して、教材開発の現状と課題を確認し今後の教育改善につなげるための情報を発信することを目的に実施された。

イントロダクトリートークとして、中野(北海道薬科大)は、用物理教育分科会の活動概要を紹介し、技術者の再教育と人材活用など応用物理教育にかかわるさまざまな問題に触れ、幅広く議論することを呼びかけた。

講演では、具体的な演示実験道具の工夫とそれを利用した学生実験等の実例紹介が3件あった。
斉藤(京都工繊大)は、物理への興味喚起と理解を深めるためには演示が重要であり「実験」があると学生の反応が非常に良くなることの具体例として、電子天秤をベースにした簡便な実験装置数種類を作成し原理的な現象を演示する実践例について述べた。
丸山(北九州高専)は、これまでに開発した、ばね振り子、単振り子、ねじれ振り子の運動を同時に観察できる装置を利用した学生実験として、重力の加速度や液体の粘度などの測定実験を行って効果を上げていることを紹介した。
また、坪井(京都産業大)は、高校生に対して物理に興味を持たせる手段の一つとして有機ELテレビについての模擬授業の取組みについて、電流の強弱を音で表す簡便な装置の実演を交えて紹介した。

何れの講演でも応用物理教育における演示実験の重要性が強調され、小学生から大学生にいたるどの過程においても、物理の原理を直感的に学生生徒に伝えることができるような装置を工夫する必要性が説かれ、聴講者の間でも賛同を得ていた。

長谷川(千歳科学技術大)は実験教材の作成について、教員が自ら授業で使用するために作るケースと、学生が自身のスキルアップのために教材作りから行うケースがあることを指摘した上で、大学生自身が小学生向けの物理実験テーマ設定から教材作成までを担当して実施するプロジェクトを紹介した。また、葛生(福井大)は、教材製作そのものとは異なる観点から、書かせる授業の試みや学生実験における口頭発表など、社会人として必要な能力である「書く」「発表する」ことによる情報伝達能力の獲得が主眼としたレポート作成指導の重要性とその実践例について述べた。

総合討論では5名の講演者をパネリストとして、いろいろな教育効果を狙った教材開発について話し合われた。まず、教育効果は教員の業績に結びつける必要もあり成果を社会に還元する必要もあるとの意見が出された。実際に演示実験教材を効果的に使っていくためにはできるだけ多種類の教材を作る必要があり、そのためには多くの関係者が教材開発に参加することが必要となる。個別に開発された教材やそれを用いた教育成果は広く教育の場で共有したいが。一方で、実験道具作成等に伴って発生する知的財産およびその権利をいかにして守るかという問題も考慮しなくてはならない。成果をまとめて伝達していく方法の一例として、「リフレッシュ理科教室」のテーマがCD化によりアーカイブされていることが紹介された。

このシンポジウムで、応用物理教育における演示教材の重要性は、参加者全体の共通認識とすることができたように思う。今後、様々な実験教材を応用物理学会のポスターセッション等で紹介してもらえるよう働きかけ、開発された教材の権利化やアーカイブ化を含めて学会の財産として使えるように計画していく必要がある、などの積極的な意見もあった。この分野への多くの応用物理教育関係者の参加を期待する。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
応用電子物性分科会、非晶質・微結晶分科、応用物理一般分科合同企画
「太陽電池の今と未来」

山田 明(東工大)
磯村 雅夫(東海大)
大下 祥雄(豊田工大)
高木 朋子(石川島播磨)
内藤 正路(九工大)
野々 村修一(岐阜大)
応用電子物性分科会、非晶質・微結晶分科、応用物理一般分科では、「太陽電池の今と未来」と言うタイトルのもと、合同でシンポジウムを開催致しました。シンポジウムは大変盛況で、概算では御座いますが、参加者は300名に達しました。この春には「Siバルク結晶太陽電池の現状と課題」と題し、日本学術振興会産学協力研究委員会の中で太陽光発電に関わりの深い委員会が中心となり、同じくシンポジウムを開催致しました。今回のシンポジウムでは、Siバルク結晶太陽電池に限らず、薄膜シリコン太陽電池、Cu(InGa)Se2(CIGS)系薄膜太陽電池、色素増感(有機)太陽電池、結晶Si太陽電池の4種類の太陽電池を取り上げることと致しました。

太陽電池は上記に示しましたように、Si系、Cu(InGa)Se2系、色素(有機)系と扱う材料系が多岐にわたります。従いまして、応用物理学会において研究者が行う発表のセッションは、非晶質・微結晶であったり、光物性であったり、有機分子であったりと、まちまちとなってしまい、お互いに情報交換を行う機会が御座いません。確かに、色素(有機)系薄膜太陽電池と半導体をベースにした太陽電池との間では、光発電の機構も異なっております。しかしながら、光により励起された電子(正孔)を効率よく外部に取り出し、発電を行うという基本の部分には違いが御座いません。
また、お互いに共有できる問題点・解決方法も多く存在すると思います。このような背景のもと、先に示した3つの分科会・分科が合同で、広く太陽電池材料に関するシンポジウムを設けることは有意義であろうと考え、今回の企画に至りました。このため今回は、初めに個々の太陽電池のお話しを頂き、その太陽電池材料の最近の動向と将来展望について、大学の先生にまとめて頂くというスタイルを取りました。

アモルファスSi薄膜太陽電池からは、三菱重工の竹内氏、カネカの中嶋氏、富士電機アドバンストテクノロジーの和田氏より最近の研究開発状況をご講演頂きました。各社とも増産の計画があるとの明るい話題をお話し頂くと共に、今後、高速・大面積・高品質製膜技術の開発が重要であるとのご指摘を頂きました。この分野のまとめは、産業技術総合研究所の増田氏にお願い致しました。CIS系薄膜太陽電池に関しては、昭和シェル石油の櫛屋氏よりご講演頂き、九州における年産20MWの生産工場のご紹介、世界におけるCIS太陽電池の生産動向などをお話し頂きました。龍谷大学の和田先生には、この分野のまとめ及び非真空プロセスの紹介をお願い致しました。色素増感太陽電池はアイシン精機の元廣氏、分子系有機固体太陽電池は大阪大学の平本先生からお話し頂きました。色素増感太陽電池は、愛知万博(愛・地球博)にてデモンストレーションが行われたとの興味深い紹介がありました。また有機固体に関しては、まさにこれから効率の飛躍的な伸びが期待されるとの印象を抱きました。まとめは、京都大学の吉川先生にお願い致しました。結晶Si太陽電池はシャープの兼岩氏よりお話し頂き、シャープにおける太陽光発電の供給量予測は、年率25%相当との驚異的な数字が示され、さらなる研究開発が重要であるとの認識を新たにしました。また、研究開発の中でも、ウェハの薄型化に関するご講演を頂きました。
最後に、太陽光発電システムの世界的な動向を資源総合システムの大東氏よりお話し頂き、また、大規模発電に向けた太陽電池システムに関して農工大の黒川先生よりご紹介頂き、太陽光発電に関する将来ビジョンを共有することが出来ました。このようなシンポジウムが、太陽光発電全体(太陽電池産業)発展の一助となったならば、企画者として望外の喜びです。

最後になりますが、お忙しい中ご講演をご快諾頂きました講師の方々にお礼を申し上げると共に、シンポジウムにご参加頂き、活発にご討論頂きました皆様に改めて感謝申し上げます。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
微小球フォトエレクトロニクスの新展開

神戸大理 内野 隆司
ランダム系フォトエレクトロニクス研究会では、春、秋の講演会にあわせて、毎年シンポジウムを企画している。今回は、内野(神大)が世話人となり、微小球(鎖)をキーワードとして様々な材料の先端的研究成果を横断的に議論する目的で、このシンポジウムを企画した。

まず、三澤(北大)は、微粒子集積型フォトニック結晶の作製技術とその光物性について紹介した。これまで、フォトニック結晶の作製法について様々な方法が提案されてきたが、大面積かつ迅速に所望のフォトニック結晶を作製するのは容易ではない。三澤らは、基板上または、キャピラリーチューブ内部への微粒子の規則的集積現象を利用してフォトニック結晶のテンプレートを作製することで、これらの問題を解決する方策を提案した。また、得られたフォトニック結晶のバイオセンシングへの応用例も示され、フォトニック結晶の実用化に向け、大きな進展を感じさせる講演であった。

次に、曽我(東理大)が、希土類含有微小球を利用したバイオメディカル分野への応用展開について講演した。希土類含有ガラスのアップコンバージョン発光現象について歴史的背景を示した後、その励起源に用いられる近赤外光が生体のセンシングに最適な波長領域であるとの独自の提案がなされた。そのアイデアに基づき、従来の半導体微粒子とは異なる観点から、希土類含有ガラスのバイオイメージング素子への応用展開の可能性が示された。

前半の最後に、藤井(神大)による、シリコンナノ結晶の発光特性についての発表があった。n、p共ドープなどによるシリコンナノ結晶の高効率発光にむけた様々なアプローチの紹介の後、シリコンナノ結晶が希土類イオンに対して光増感作用を示すという興味深い研究成果が報告された。また、シリコンナノ結晶は、酸素分子など分子に対しても光増感剤として機能することが示され、シリコンナノ結晶が、自身の発光のみならず、その励起現象を足がかりとして様々なフォトエレクトロニクス現象に応用展開できる可能性を示した印象的な講演であった。

中休みの後、藤井(阪大)により、π共役系高分子マイクロディクス・リング共振器の作製とその実験結果について発表があった。π共役系高分子は、その擬一次元的構造に由来する得意な電子構造を有する物質であり、その形態を制御することで様々な共振状態を実現できることが、演者らの最近の研究成果をもとに紹介された。特に、微小リング、スパイラル形状を利用し、指向性のあるレーザー発光が得られたことは大変興味深い。これらは、同材料の特徴を十分に生かした成果であり、今後の研究のさらなる進展が期待される発表であった。

最後に、保田(神大)が、半導体から金属にいたる様々な微粒子ついての電子励起効果について講演した。液相合成法により作製した炭素終端されたシリコンナノ結晶が、酸素終端された同ナノ結晶とは異なる光励起、発光過程を示すことが報告され、同じシリコンナノ結晶でもその電子励起過程が表面状態により大きく影響を受けることが示された。さらに、III-V族化合物ナノクラスターがその特異な電子構造、欠陥状態に起因して、電子ビーム照射により相分離やアモルファス相転移を示すという報告があった。これらは、微粒子特有の電子励起応答現象の存在を示したものであり、基礎的物性のみならず、微粒子の新しい応用展開を考える上でも非常に示唆に富む報告であった。

シンポジウムは、基礎物性から応用にわたる幅広い内容であったにもかかわらず、多くの方々にご参加いただき、微小球およびその関連物質に対する関心の高さが伺えた。最後に、お忙しい中講演をお引き受けくださった講演者の先生方、およびご来場いただきました聴衆の皆様に深くお礼申し上げます。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
熱電発電システム最前線 〜熱電変換は地球を救うか?〜

産業技術総合研究所 舟橋 良次
「8.5熱電変換」に続きシンポジウム「熱電発電システム最前線」が8月31日に開催された。
今回はサブタイトルとして〜熱電変換は地球を救うか?〜と題し、国家プロジェクトで進められている熱電発電の実用化研究に的を絞って議論が行われた。中でも四社からの講演は研究内容のレベルの高さは言うまでもなく、事業化のための緻密なシミュレーションと戦略に企業の意気込みが垣間見られ、実用化が間近に迫っていることを実感した。
聴講者数もシンポジウムを通し常時80名以上がおり、活発な質疑応答が行われた。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
応用物理学会結晶工学分科会企画
窒化物半導体を用いた短波長発光デバイス

NTTフォトニクス研究所 近藤 康洋
本シンポジウムは、結晶工学分科会の企画として、窒化物半導体を用いた短波長光デバイスの実用化や新用途展開おいて重要となる、GaN系化合物半導体の高品質化を実現する結晶成長やデバイス構造を中心に議論し、技術上の課題を明らかにすることを目的とした。はじめに、國里竜也氏(三洋電機)がシンポジウムの趣旨と短波長発光デバイスの課題を説明し、引き続き8件の講演が行われた。

窒化物半導体を用いた短波長光デバイスにおいて、紫外領域の発光を目指した短波長化は大きな課題である。
天野浩氏(名城大)らは、短波長化における問題点である量子効率の低下についてシミュレーションによる解析結果を示した。c面上では圧電性のために高効率化が困難であるが、非極性面を用いて量子井戸層の厚膜化(10nm)と低転位化を実現することにより、50%以上の内部量子効率が実現可能であることを報告した。
秩父重英氏(筑波大)らは、この非極性面GaN系量子井戸に関して講演した。非極性面上の貫通転位低減にはストライプをc軸と垂直に形成した横方向成長が有効であること、m面InGaN/GaN量子井戸LEDの光学的評価結果から、非極性面は発光効率、偏光比の向上を期待できることを示した。
また、平山秀樹氏(理研)は、In組成不均一により貫通転位の影響を低減できるInAlGaN4元混晶が高効率化に有効であることを述べた。減圧MOVPE法で作製したInAlGaN量子井戸構造はAlGaAs量子井戸と比較して飛躍的に高い内部量子効率を示し、作製したLEDにおいても338nmで3mW程度のCW出力を実現している。

結晶性向上、デバイス応用として量子ドットは重要な結晶構造である。
田中悟氏(北大)は、アンチサーファクタント法によるGaN量子ドットについて講演した。Siを供給することにより、歪が存在しないAlGaN上にドット密度3×1010cm-2程度のGaN量子ドットを実現し、それを活性層とするLEDで360nmの発光を観測している。また、SiアンチサーファクタントはSiNマスク効果としてバッファー層の欠陥低減にも効果があり、高効率紫外発光デバイスに有効であることを示した。
加古敏氏ら(東大)は、MOVPE法のS-Kモードで成長した量子ドットの単一光子発生器応用について講演した。InGaAs量子ドット層を活性層とするpin構造を形成し、電流注入による局在発光を窒化物半導体で初めて観測している。この結果は、閉じ込めエネルギーが大きいGaN系量子ドットが短波長単一光子発生源に有効なことを示すものである。また、貫通転位を低減できる結晶構造として柱状形状GaNナノコラムがある。
岸野克巳氏ら(上智大)は、RF-MBE法で成長したGaNナノコラムには貫通転位がほとんど無く、MOCVD法で成長したGaN膜の数百倍、HVPE法で成長したGaN自立基板の約4倍のPL発光強度を有することを示した。また、ナノコラム形状のInGaN-MQDを活性層とした電流注入LEDを実現し、紫色から橙色の広い範囲で明るい発光を観察し、ナノコラムが高品質化を実現することを示した。

実用化の現状紹介として、長浜慎一氏(日亜化学工業)が、次世代大容量光ディスクやディスプレイ用光源として重要になる紫外から青色域の高輝度・高効率GaN系半導体レーザについて説明した。また、青色半導体レーザとファイバーの先端に配した蛍光体材料の組合せによる点光源がデモされ、小さな発熱のマイクロ光源による新たな応用の可能性が示された。

最後に、谷保芳孝氏ら(NTT)がAlN-LEDについて講演を行った。この講演はシンポジウム申込後に発表されたニュースであったが、本シンポジウムにおいて非常に重要なトピックスであり、追加という形で講演をお願いしたものである。直接遷移型半導体の中で最大のバンドギャップを有するAlNを用い、p型導電性を世界に先駆けて確認し、LED作製により波長210nmのAlNバンド端発光を観測している。

上述の講演で示されたように窒化物半導体を用いた短波長発光デバイスの研究開発においては、転位密度の低減、非極性面の利用、AlGaN混晶の高品質化やドーピング制御といった結晶改善に関する検討が不可欠である。結晶工学分科会として結晶工学的切り口で企画した本シンポジウムが実用化に向けた展開のさらなる加速に貢献できれば幸いであると考える。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
プロセスモニタリングとしてのプラズマ計測技術
−先端プロセス制御をめざして−

名古屋大学 豊田 浩孝
超微細化が進む半導体製造プロセスにおいては、簡便、無擾乱かつ高精度なプラズマモニタリング技術と、これに基づいた高度なプロセス制御技術が求められている。そこで、プラズマエレクトロニクス分科会では、各研究機関において進められている新たなプラズマモニタリング技術開発、および企業側で求められているプラズマモニタリング技術に対するニーズ、および現在の取り組みに関する講演をおこない、今後の先進プロセス制御制御技術におけるプラズマモニタリング技術を展望するシンポジウムを企画した。

本シンポジウムでは、まずソニーの辰巳氏より本シンポジウムのイントロダクトリートークがおこなわれた。つぎに、シーズ提供側として、材料プロセス用プラズマ装置の電子密度モニタリングについて中部大学の中村圭二先生より講演があった。表面汚染がおこるプラズマ中の電子密度計測法としての表面波プローブの特長や測定原理、2つの表面波プローブを組み合わせた電子温度評価法といった新しい計測の試みや、近年取り組み始めた周波数シフトプローブについて報告がなされた。
また、九州大学の白谷正治先生からは、プロセスプラズマ中の微粒子計測法について講演があった。プラズマ中の微粒子のうち非常にサイズの小さいナノ微粒子の計測手法について解説をおこなうとともに、微粒子計測のための高感度レーザー散乱システムの測定原理などの紹介があった。
さらに東北大学の寒川誠二先生からは、高精度プラズマプロセスのためのオンウェハモニタリングについての講演がおこなわれた。プラズマにおける紫外線、イオン、電子などに起因するデバイスダメージを検出するための各種センサーをウェハ上に作りこみ、これらの動作を実証するとともに、将来のオンウェハモニタリングについての展望が示されていた。
また、名古屋大学河野明廣先生からは、プラズマの計測手法について系統的な紹介、プラズマモニタリングツールとして簡便であり実用性の高い吸光分光法の基礎的な事項について紹介がなされた。

休憩を挟んだ後半は、企業側からのプラズマモニタリング事例の紹介とモニタリング技術に対するニーズ等に関する講演がおこなわれた。三菱電機の滝正和氏からは、プラズマモニタリングツールとして、プラズマを含めたウェハステージのインピーダンス計測よりプラズマモニタリングをおこなう手法が紹介された。インピーダンス計測を単一周波数でなくネットワークアナライザを用いた広範な周波数でおこなうことにより、より詳細なプラズマモニタリングがおこなえることが紹介された。
また、日立中央研究所の田中潤一氏は、加工寸法ばらつきの原因として、ウェハ面内分布、ウェハ間ばらつき、パターン依存の3要因に起因することを指摘するとともに、プラズマの発光分布計測とアーベル変換を用いた種々の粒子種の空間分布計測とこの結果を基にしたウェハ面内分布の均一化、ばらつきの抑制について講演をおこなった。
また、プロセスに重大な影響を与えるパーティクルのモニタリングについて、東京エレクトロンATの守屋剛氏より、in-situパーティクルモニタの講演があり、パーティクルの動的挙動の動画など興味深い結果が示された。日立ハイテクノロジーの榎並弘充氏は、不良検知事例としてHe流量モニタによるチャック冷却性能劣化の検知、OESを用いたモニタリングによる不良検知と数枚後のウェハでのフィードバック実現による不良抑制など、具体的な事例の報告をおこなった。
最後に名古屋大学堀勝先生より本シンポジウムのまとめがあり、プロセス制御においては流量、電力などの外部パラメータでなく、より本質的なプラズマ密度、ラジカル密度などの内部パラメータを用いた議論が重要であることを指摘した。

長時間にわたるシンポジウムにかかわらず、熱のこもった質疑応答がなされ、有意義なシンポジウムを開催することができた。最後にご多忙中ご講演をお引き受けいただいた講演者の皆様方、活発な質疑をおこなっていただいた参加者の皆様に感謝申し上げます。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
ArF液浸リソグラフィ

Selete 井谷 俊郎
ArF 液浸リソグラフィは、hp65nmの半導体デバイス製造に適用が期待されており、その急激な立ち上がりと将来性に関して現在も最も注目されている露光技術である。また、hp65nm の半導体デバイスはもちろん、hp45nm デバイス、ひいてはhp32nmデバイスへの適用可能性も議論されている。本シンポジウムでは、ArF 液浸露光技術の研究開発状況、将来展望について、装置、材料、デバイスの立場から各々講演を頂き、現状と将来性について議論した。参加者約120名。

液浸液に水を用いるいわゆる第一世代の液浸リソグラフィは、プロセス上の最大の課題であった液浸固有パターン欠陥も装置・材料・プロセスの工夫でほぼ解決され、量産化への準備が着実の進んでいる様子が伺われた。特にレジスト材料・トップコート材料の開発進捗は著しく、今後も各種材料の改良・改善が進み、コスト・性能面で大きく寄与することが期待される。

また、高屈折率液浸リソグラフィ(液浸液、レンズ、レジスト)に関する研究開発状況も議論された。液浸液は屈折率1.65レベルのいわゆる第二世代の液浸液が出揃い、透過率等物性のさらなる性能向上が進められている。レンズ硝材に用いられる高屈折率ガラスは、屈折率は1.64程度と満足できるレベルにあるものの、複屈折や透過率の問題が残されている。高屈折率レジストは、いくつかの研究報告はあるものの、決定的な材料は見つかっておらず、今後研究加速が求められる。

本シンポジウムを通じて、ArF液浸リソグラフィの実用化が間近であることが明らかになり、さらには高屈折率液浸リソグラフィの実現可能性が高まってきていいることが伺われた。

最後に、ご講演を頂きました講師の皆様に感謝の意を表します。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
X線・中性子による quick 反射率法の展望
−表面や埋もれたナノ構造の変化を追う (II)

物材機構 桜井健次
X線および中性子による反射率法は、物質表面での全反射現象を利用して非破壊に薄膜・多層膜の表面や埋もれたナノ構造の情報を与える手法である。これまでは研究対象が安定な系、あまり変化しない系に限られていたが、最近、θ/2θ走査を行うことなく迅速にデータを取得する技術への期待感が高まっている。「素早い」「時分割」(quick)あるいは「試料をほとんど動かさない」(quiet)な反射率法および関連技法のテーマは、2005年春に埼玉大学で開催されたシンポジウムにおいてもとりあげられたが、今回、問題意識が一層深まり、講演や討論の内容も以前より広範囲にわたり、詳細なものになっているとの印象を強くした。

文字通り変化するものを迅速に計測するquickな技術は、ものをつくる過程で生じるあらゆる問題を理解する能力に深く関わると考えられ、熱心に取り組まれている。尾身博雄(NTT)は、ゴニオメータに高温酸化プロセス用の電気炉を組み込んだ専用の観察装置を用い、極薄SOI基板について、in-plane X線回折法により得られた回折ピークの変化を検討した。プロファイルの非対称さの温度依存性の解析により、熱酸化プロセスの界面構造への寄与、歪みの深さ分布への影響等が検討された。高橋正光(原子力機構)は、MBE成長装置に、回折X線を画像として検出するCCDカメラを備えつけ、InAs/GaAs(001)量子ドット等の成長モニター方法としてのフィージビリティを検証した。その結果、RHEEDでは必ずしも得意とはいえない埋もれた界面に感度があり、また格子定数と組成の分布から歪みエネルギーの3次元マップが得られること、秒オーダーの計測は既に達成されているが、今後一層迅速化するための新技術が求められること等が明らかにされた。松野信也(旭化成)は、シリコン基板上にスピンキャストしたポリイミド薄膜の結晶化を400°Cまでの昇温、降温過程で観察した結果を報告した。上記の3つの講演のすべてが、SPring-8のアンジュレータ放射光を用いた研究成果であった。

試料をほとんど動かさないquietな技術は、上述のquickな計測にとって有用であるばかりでなく、測定時間に関係なく、傾けたり動かしたりすることが困難な多様な試料を研究対象にするうえできわめて重要である。矢野陽子(立命館大)は、液体表面を対象として、試料を動かさずにθ/2θ走査による反射率測定を行うために開発した実験室規模の測定装置を紹介するとともに、白色X線を用いて反射率や回折を半導体検出器によりスペクトルデータを迅速に取得する方法の有用性を指摘した。宇留賀朋哉(JASRI)は、SPring-8において最近完成した溶液化学用の放射光反射率計を紹介した。ソフトウエアもよく整備されておりルーチン分析にも活用可能である。奥田浩司(京大)は、単色X線を角度的に分散させて入射させ位置敏感型検出器により反射率プロファイルを一括取得するNaudonの方法を再度現代的な観点で見直し、新たな技術開発を行なうことの意義を述べた。その例として、最近成功した塑性変形法による湾曲結晶モノクロメータ作製技術を挙げた。

中性子反射率法は、軽元素、特に水素、あるいは磁気構造に関わるテーマではきわめて有効である。朝岡秀人(原子力機構)は、シリコン基板上に水素または重水素をバッファ層として用い、その上にストロンチウムやその酸化物の薄膜をエピタキシャル成長させることに成功した研究試料の測定例を紹介した。山崎大(原子力機構)は、ごく最近、原子炉JRR-3内に完成した中性子反射率計SUIRENの紹介を行なった。今後は試料環境の制御を充実させ、また偏極中性子反射率測定への対応等の改良が予定されている。

本シンポジウムは、応用物理学会新領域グループ「埋もれた界面のX線中性子解析グループ」により企画された。今後も同種の研究会が連続企画される予定であるので、関心のある読者は、ホームページ(http://www.nims.go.jp/xray/ref/)を参照してほしい。
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