応用物理学会
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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
総括一般セッションシンポジウムスクール
1.放射線・プラズマエレクトロニクス

名大 関根 誠
「1.1放射線・加速器・原子炉」での講演数は59(講演取り消し1件を含む)であった。昨年と比べ17件の増加であり、最近10年間をみても講演数は増加傾向にある。内容では検出器開発、検出器媒体の物性、線量、ルミネッセンスなどの報告が多数あった。講演奨励賞受賞講演を含めてCdTe検出器に関連した講演が多かったのは例年通りであるが、CR-39に代表される固体飛跡検出器の応用と開発研究、新しいシンチレータの開発・基礎物性の解明・新しいシンチレーション検出器の開発に関連する報告が多かったのが印象に残る。この他、中性子計測をテーマとしたシンポジウムが開催され、6件の発表があった。

「1.2プラズマ生成技術プラズマ源」分科では初日24件、最終日19件、合計43件の講演を行った。初日午前中はマイクロ波プラズマ生成に関する講演が10件続いた。表面波による大面積プラズマ源をめざす試みとキャビティのモードを工夫して長尺化をめざす試みが注目される。初日午後はRF、シミュレーション、および応用に関する講演を14件行った。最終日は大気圧プラズマおよびマイクロプラズマの発生、制御、応用に関する発表を行った。気体−液体界面でのプラズマ生成に関する発表が興味深い。

「1.3反応性プラズマの診断と計測」では28件の講演があった。発光分光計測とプローブ計測・質量分析の報告が21件を占め、モニタリングツールとしてのコンパクト化、信頼性の向上、適用範囲の拡大が確実に進展してきている。特に、大気圧プラズマでの可視から紫外・真空紫外に及ぶ発光分光計測、表面波プローブによる重合プラズマの診断、GaN成長用ラジカル源における窒素原子計測などの興味深い報告があった。レーザー計測では、リソグラフィー用Zピンチプラズマ、蛍光ランプ、スパッタ用プラズマ、Si酸化プロセス用表面波プラズマ、微粒子プラズマなどでの各種粒子計測が報告された。

「1.4 プラズマ応用プロセス」では24件の講演があった。Si系を主としたプラズマCVD関連テーマが合同セッションD「プラズマCVDの基礎と応用」にまとまる形となったため、本分科では、成膜では、金属酸化膜の形成や応用、DLCや磁性体成膜など、また、表面処理では、親水化など表面改質や、微粒子の改質に至るまで、様々な膜種や応用に関する多岐に渡る内容となった。さらに、プラズマ殺菌、被膜剥離、ワイヤ表面や細管内部への成膜、プラズマの走査やパルス化といった制御手法の活用や、MEMSやDLC形成用プラズマやスパッタリングプラズマのシミュレーション・解析など、広範囲のテーマについて議論する場となった。プラズマの新応用を模索した萌芽的研究も多いため、エッチング、半導体、プラズマ生成といった他の分科に関連の深い研究者からも極めて活発に多くの質問がなされ、興味と期待の高さがうかがわれた。

「1.5プラズマプロセスによるナノテクノロジー」のセッションは、今回はポスター形式の発表で行われた。講演件数は、講演奨励賞受賞記念講演を含め全部で15件あった。カーボン系材料に関する講演が12件、そのうちカーボンナノチューブに関係したものが10件で、相変わらずこの材料への関心の高さがうかがえる。内容は、合成技術や制御に関するものが大半であった。他はナノ結晶シリコン、金ナノ粒子、InGaN薄膜に関する発表であった。本セッションにおける講演奨励賞の申請は10件で、ナノテクノロジーに対する若い研究者の活躍が期待される。

「1.6プラズマ現象一般」では、光源、マイクロプラズマ応用、プラズマ滅菌などを中心に、計18件の発表が行われた。プラズマ滅菌では、マイクロ波励起体積波プラズマを用いた滅菌のポテンシャルと実用性が目を引く。光源ではエキシマランプやマイクロ波放電ランプに関する発表が行なわれた。マイクロプラズマ応用として、マイクロプラズマによるミリ波制御に関する研究は、プラズマが有する機能とマイクロプラズマの空間的な特徴を上手に融合させており、2006年度のプラズマエレクトロニクス賞に関連した研究でもある。このような新しいプラズマ応用分野を切り拓く研究が今後も数多く生まれることが期待される

「1.7プラズマエッチング」(26件)では、Low-k、レジスト、SiO2、Si基板へのダメージの発生機構が議論され、対策が提案された。ゲート寸法のナノ制御に向けて、多層レジスト材、膜の厚さやグレイン、チャンバ内のラジカル組成分布の影響と制御が報告された。他に磁性体、High-k、Si深堀、装置の安定稼働とモニターによる制御、装置技術革新のケーススタディ等の報告があった。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
2.計測・制御分科

東洋大(工) 勝亦 徹
計測・制御分科では、計測標準、計測・制御技術、精密計測・ナノ計測の3つの分科の講演が行われた。講演では、従来からの計測技術や標準化に関する種々の新しい提案がなされるとともに、生物、食品関連の新規計測・制御技術についての報告もあり、今後の分科の展開が期待される内容であった。

温度・湿度標準に関しては、既存の湿度標準器の効率評価、及び開発中の拡散管方式による湿度標準器の実験結果が報告された。また、従来定義されている温度計測方式(3定点)に変わる、定積気体温度計を用いた1定点計測方式での実験結果が報告された。電力標準に関しては、虚負荷を用いた新しい交流電力標準システムの開発状況に関する報告があった。

周波数標準に関しては、水素メーザーの開発状況や、既存の光ポンピングCs標準器における新形態共振器に関する報告があった。原子泉型Cs標準器についての講演では、誤差評価の詰めを行い、良好な結果が得られていることが報告された。光周波数標準に関しては、安定化GaAs半導体レーザーや、フェムト秒光周波数コムの開発状況、Caイオンによる光周波数標準の基礎実験結果などが報告された。これらの分野は、海外の研究機関が先発していたが、近年、国内でも光周波数標準関連技術が進みつつある状況が今回の講演内容で示された。

分光計測関係では、分光放射輝度・照度において標準の確立されていない短波長(紫外域)での輝度・照度校正手法や、絶対分光応答度校正装置の高精度化・領域拡張に関する報告があった。また、分光拡散反射率標準については、帯域拡張に関する報告があった。光ファイバパワー計測については、新開発校正システムを用いた低パワー(μW)校正において、良好な結果が得られることが報告された。

精密計測・ナノ計測のセッションでは、半導体励起レーザーを使った粒径計測、備長炭の磁気シールド効果、ボールSAWセンサなどの講演があった。このセッションでは、LiNbO3を用いたボールSAWセンサに関する受賞講演が行われた。講演は、球状の圧電体材料をセンサとして応用する内容であり、センサの高感度化や高機能化が可能になることから、さまざまな分野での応用が期待できる。

計測・制御技術のセッションでは、In-situ放射測温によるSiウェハの温度計測に関する報告があった。これらは、金属薄膜を接触させて放射測定するハイブリッド型放射温度計に加えて、抵抗率のやや大きいSiウェハの中温域での放射測温や、抵抗率の大きなSiウェハの吸収端波長を用いる温度測定法など、対象のウエハ特性に適した測温法の提案がなされた。蛍光や熱発光による温度測定法では、希土類を添加した石英光ファイバセンサによる高温測定、Cr添加YAG結晶の発光ピーク強度比を利用するもの、蛍光温度センサ材料の作成条件と温度特性、長残光結晶の混合物を利用するものなどが報告された。室温付近の温度測定が可能な材料として身近なでんぷんや有機系蛍光材料が使えることや、複数の蛍光材料を混合した蛍光体コンポジットの可能性が示された。

計測・制御技術の新たな展開として、粘度計、膜厚計、甘み物質計などさまざまな分野での計測・制御技術についての講演があった。この中では、半導体レーザーを用いた周波数安定化システム、パルスレーザーのブリルアン散乱を用いた音速測定、粘度測定技術、膜厚計、蛍光色素を用いた甘み物質の計測、ザゼンソウの温度制御機構の解析など興味深い講演が行われた。

これらの生物、食品関連の計測・制御技術は、今後ますます重要性を増すものと考えられる。また将来これらの新規計測分野の実用化段階では、計測標準のセッションで扱われている計測の標準化の視点からの展開が期待される。

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4.量子エレクトロニクス

東大 先端研 岩本 敏
本分科においては、量子情報、フォトニックナノ構造、各種レーザー・材料、非線形光学効果、テラヘルツ、分光・計測、レーザープロセスなどに関する報告が行われた。各分科の学会当日の様子の下記に記す。

「4.1量子光学、原子光学」は、光を利用した量子情報に関する議論を深めることを目指し、他の分科と協力し、合同セッションG「量子情報の基礎と応用」を設置している。今回は、14件の一般講演があり、イオントラップ、光子検出器、量子暗号、スクィージングなどの発表があった。詳細は合同セッションGの講演会報告を参照していただきたい。(吉澤)

「4.2フォトニックナノ構造」の総発表件数は75件であった。3次元構造の作製では2方向エッチングを利用するものが3件報告された。フォトニック結晶と量子ドットとの融合関連の報告は11件と多く、この領域への注目が高まっているといえる。導波路デバイス、分散利用デバイス、面発光レーザでは細部までの設計・製作が可能になってきていることが窺える報告が多数あった。ナノ共振器では光子寿命の直接測定が2件報告された。(浅野)

「4.3 レーザー装置・材料」では、高出力レーザーに関する発表件数が多く、平均出力数十〜100W超のレーザーがナノ秒〜ピコ秒の時間領域で比較的簡単に得られるようになってきた。他には、ホロービーム(径偏光・Laguerre-Gaussビーム)直接発生レーザーの報告が目立った。(河仲、興)

「4.4超高速・高強度レーザー」では、各種超短パルスレーザー(ファイバ、LD等)やそれを用いたSC光の生成、タイミン グ同期、波形整形、極短パルス発生などの興味深い発表が行われた。又、OPCPAによる超短パルス高強度システム、ならびに原子分子のイオン化ダイナミクスを巧みに利用した高次高調波発生制御、アト秒パルス計測などが議論された。(西澤、中野)

「4.5テラヘルツ全般・非線形光学」では、テラヘルツ時間領域分光法の応用、非線形光学によるテラヘルツ電磁波の発生と分光応用といった、従来からこの分科で発表が行われていたものに加えて、テラヘルツ帯で動作する電子デバイス・レーザデバイスなどに関する発表も多くみられるようになり、より活発な議論がなされるようになった。(寳迫)

「4.6レーザー分光応用・計測」でも、各講演発表に対して質疑も活発に行われた。ダクト直結型の分光吸収セルの作 成、通信用デバイスを転 用した環境計測、生 物計測用ライダー装置の開発、漏洩 水素ガスの可視化技術 など、実用化を意識した興味深い報告が多 く、益々の応用 展開が期待される。(長澤)

「4.7レーザープロセシング」では50件のポスター講演が行われた。フェムト秒プロセスの講演が半分を占めており、様々な検討が進んでいる。

また、液中アブレーションによるナノ微粒子生成、短波長微細加工、バイオ応用などに注目すべき結果が報告された。(大越、新納)

最後に、本報告をまとめるにあたり、お世話になった各分科世話人格に感謝する。

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5.光エレクトロニクス

NECシステムデバイス研究所 工藤 耕治
光エレクトロニクス分科では、今回からSiフォトニクス関連の応用技術を一部包含するようになった。その影響もあり、総発表件数は174件で、昨秋の講演会に比べ21件と大幅増加、関東圏開催の今春の講演会と比べても7件増であり、盛り返しつつある。このうち「5.1半導体レーザ・発光素子」はポスター講演であった。

「5.1 半導体レーザ・発光素子」は、講演奨励賞受賞記念講演1件を含む44件の報告があった。レーザの高温特化への取り組みとしてGaInNAs活性層、AlGaInAs系量子井戸の導入やInGaAs基板の使用などが報告されたが、なかでも1.3um帯GaInNAs三重量子井戸での40Gbps直接変調レーザがトピックスとして挙げられる。波長可変レーザでは、TDA-DFBレーザアレイによる39.5nm可変特性、VOA集積液晶ミラー波長可変レーザによるフルCバンド100mW特性が報告された。また半導体薄膜DFBレーザ、DRレーザ、多波長VCSEL、偏光制御VCSEL等、精力的に報告されている。ストレージ系では、高温100℃-CW下で200mWを超える光出力の青紫色レーザや、POF用赤色レーザ、ブロードエリアレーザ等の報告がなされた。

量子カスケードレーザでは、4〜12.5μmの波長域に亘る報告が相次いでなされ、その他、InAs量子ドットレーザの利得特性向上や、Si基板上の種々の材料系による発光特性の報告などがなされた。

「5.2光検出」の講演は5件の発表(1件辞退)があった。III-V族半導体として宇宙観測用GaAsサブミリ波検出器の高検出効率化、マイクロ波帯InGaAs-PIN PDの高出力化、InAlAs APDの高湿度下での信頼性評価、そしてIV族として通信用を目的としたSOI上SiGe光検出器の作製、ウエハボンディングによるGe/Si ヘテロAPDの興味深い発表があった。発表数が少ないながら活発な討論が行われた。

「5.3光記録」の講演は15件の発表があった。光ディスク材料の熱解析関連では、高温下での比熱やサーモリフレクタンス法を用いたSb-Te合金、Ge-Sb-Te系薄膜の熱伝導(拡散)率測定が行われ、熱的特性の解明が進められた。super-RENS関連では、ROMディスク再生の理論解析、オーバーライト特性やSb/Te積層膜の評価が報告された。次世代光記録関連ではホログラフィックメモリの再生方法に関し、ノイズ低減方法や位置ずれ検出方法および位相マスクの効果が報告され、また酸化タングステン膜や2光子吸収によるジアリールエテン薄膜など興味深い報告があった。

「5.4光制御」は、88件と全体の約5割を占めている。このうち誘電体関連では、導波型アイソレータの研究が精力的に行われ、広帯域化や作製トレランスの大きい半漏れ型の特性等が発表された。また高ΔSiON導波路を用いた8ch集積WDMカプラの、完成度の高い報告があり、小型アレイ光増幅器の実現可能性が示された。MEMS関連では、ナノフォトニクスに適した小型アクチュエータの報告や、簡易ミラーの報告がなされた。更にノルボルネン樹脂材料による低損失な光導波路の報告があり、今後の光電気複合基板への応用が期待される。

強誘電体関連ではニオブ酸リチウムのダイシング加工によるテラス基板において微小分極反転を形成する技術が報告された。またリッジ加工による導波路デバイスを用いて中赤外波長変換モジュールが実現されガス検出に応用されている。可視域ではMg添加定比組成タンタル酸リチウムの擬似位相整合波長変換で緑色連続発振7W出力が報告された。2次元格子をもつ分極反転構造では、群速度不整合を補償した高効率超短パルス波長変換が報告されている。

半導体関連は、全光処理デバイス、波長変換器、光変調器、光フィルタ素子等、各種光制御デバイスの高性能化や新機能提案に関し多数報告があった。中でも強磁性MnAsによる導波路アイソレータの無磁場動作、自己クロック型のシリパラ変換器、DBR型双安定レーザの全光動作の進展が注目された。また、新しい試みとして、量子ドットでの近接場エネルギーの光制御、バルクGaInNAs/InPを用いたCバンド域偏波無依存SOAが報告された。サブバンド間スイッチ関連では、「TM光でなぜTE光が変調できるのか?」というメカニズム考察が興味深かった。

「5.5光ファイバ」では、22件と前回の17件から若干件数が増加し昨秋と同じ件数となっている。内容は、GI-POF、フォトニック結晶ファイバ、接着剤と多岐に渡っている。その中でファイバセンサに関しては、従来からのファイバブラックグレーティング(FBG)を用いた方式の検討が充実していたが、さらに表面プラズモン共鳴やファブリペロー干渉方式など多方面からの検討が報告され、非通信分野でのセンサへの関心の高さをうかがわせた。一方で、将来の高速光通信のキー技術と考えられている光信号処理の方法として、全光スイッチイング用FBGカプラが報告され、さらにBiファイバ増幅器のWDM伝送特性評価が報告されるなど、前回に引き続き徐々に光通信分野への回帰も進んでいることがうかがえた。

本稿をまとめるにあたり御協力頂いた、宇高、入江、青木、美野、栗村、八木、各プログラム編成委員に謝意を表します。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
6.薄膜・表面

東工大応セラ研 神谷 利夫
薄膜・表面分科では、口頭発表およびポスター発表合わせて369件の報告があった。そのうち講演奨励賞申請があった件数は69件であった。以下、講演内容について記す。

「6.1 強誘電体薄膜」では、発表件数は63件であり春の80件と比べると発表件数は減少したが、100名近い聴講がありまだまだ高い関心が持たれていることが窺えた。鉛系材料は前回の2/3程度と大きく発表件数を減らしたが、非鉛系材料およびマルチフェロイック材料は発表件数が増加している。非鉛系材料については有機強誘電体材料を用いて1V駆動が期待されるFET型構造(ソウル大・東工大)やBi4Ti3O12の3次元ドメイン構造を詳細に評価して特性との関連を議論した(東大先端研・科技機構さきがけ)発表が目立った。マルチフェロイック材料についてはBi2NiMnO6(京大化研)やガーネット型(阪大産研)のような新しい材料系についても発表され、今後大きく広がることが予想される。マルチフェロイック物性に関してはこのセッションで議論されることになりそうである。

「6.2 カーボン系薄膜」では、64件の口頭発表が行われた。参加者数は最大で120名程度であった。大会初日にまとめられたダイヤモンド関係の講演件数は、昨年度で国プロ研究が終了した影響から29件と少なかった。講演内容は光電子デバイス応用を見据えたものが多く見受けられ、だいぶ的が絞られてきた感がある。その中でも特にpin構造LEDに関する講演(産総研)では、可視発光をほとんど伴わない高効率深紫外発光素子の形成が報告され注目された。2日目から3日目午前の非晶質炭素、CN、BN、BCN薄膜に関する講演では、薄膜作製と評価、電気的特性、機械的特性等の報告があった。その中でもBCN薄膜の水の吸収性に関する報告(阪大)は工業的応用には重要な知見であろう。また、X線を用いた密度評価(広島大、長岡技大)は炭素系薄膜の耐久性評価法として今後広く用いられる可能性がある。

「6.3 酸化物エレクトロニクス」では、講演奨励賞申請講演23件を含む92件の講演があった。ポスター講演で行われた前回の110件より若干減少したが、会期全体に渡って、活発な議論が行われた。酸化物エレクトロニクスの分野は、多岐にわたるテーマが集まっているが、ほぼ半数の約40件が透明導電膜や酸化チタン関連(光触媒と透明導電応用)の研究で、透明導電膜に関する研究はITO、IZO、ZnO等を中心に活発であった。この分野で注目されたのは、酸化チタン(ニオブ添加)を使った透明導電膜の研究で、本格的に取り組まれるようになってきた。残りの約50件の中では、広い意味でのRRAM関連の研究(10数件)、巨大磁気抵抗変化に関連した研究、TiO2やSTO等を用いた酸化物FETデバイスなど、多岐にわたっていた。RRAMに関しては、メカニズムに関する議論が行われる一方で、実験的にRRAMのスイッチングメカニズムを検討している研究も目立った。また、STOなどの誘電体薄膜をモデルに成膜プロセスを厳密に理解しようとする試みや、格子歪みや応力を利用した研究が見られ、奨励賞応募講演者等を中心に若い研究者が薄膜界面の物理を議論する様子はこの分野の将来の方向を示すものといえるだろう。

「6.4 薄膜新材料」では、講演奨励賞申請講演10件を含む68件のポスター発表があった。件数は前回の春・秋講演会とほぼ同じであり、特定の分野に属さない薄膜一般の研究発表をする場として定着してきた様子が窺える。今回はポスター発表であり、初日にすべての日程が終了した。他分科のポスター発表も並行して行われていたためもあるが、聴講者の入りは良く、活発な議論が行われた。発表のうち過半数の39件が酸化物、次に多いのが窒化物の7件という傾向は前回と変わらず、昨年と比較すると非酸化物系が減少している傾向を示している。研究対象は伝導体、半導体、誘電体から光学薄膜、触媒まで、内容は製膜、物性評価、電子構造理論、プロセス技術など多岐にわたっているが、「新材料」という視点でみると斬新さには欠ける。今後の新材料研究の進展を期待したい。

「6.5 表面物理・真空」では、講演奨励賞申請講演3件を含む37件の講演があった。物質においても現象においても研究対象が多岐にわたるため、雑多な印象はあるが、逆に、特定の物質や現象に縛られることなく、幅広く表面科学に関して議論できる場として有効に機能している。その中でも、薄膜形成や分子吸着に関して多くの報告があり、金属単結晶上に平坦なアルミナ薄膜をエピタキシャル成長した報告(物材機構)は、性質の異なる薄膜をいかに積層するかに関して示唆に富んでいた。ナノ構造の作製と評価に関する報告も引き続き多く、X線散乱がSi中の埋め込みGeナノ構造の構造評価に有効であることが示された(リガク)。また、新しい表面計測技術として、超低速光電子を用いた振動分光法(東北大・東大)は、応用に加えその原理解明にも興味が持たれる。

「6.6 プローブ顕微鏡」では、二日間で講演奨励賞申請講演3件を含む52件の講演があった。講演内容は、プローブ顕微鏡関連装置の新開発(システム及び要素技術)、プローブ顕微鏡による各種表面構造の評価、に大別される。システムでは、走査型非線形誘電率顕微鏡の進展や、放射光やレーザー光を用いたプローブ局所下の物性評価(元素分析、局在電子準位、キャリアダイナミクス、光起電力、光誘起力等)に関する報告がなされた。要素技術として、プローブ顕微鏡の命と言えるCNT等の新規探針技術とそれを評価する方法が報告された。表面評価では、単一分子の導電性や分子接合力のエレガントな測定結果が報告され、ボトムアップ技術評価においてプローブ技術の有効性が再認識された。その他、非接触原子間力顕微鏡による、溶液中での生体分子の高分解観察局所構造の物性評価、及び原子操作の話題もホットであった。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
7.ビーム応用

原子力機構 寺岡 有殿
ビーム応用分科では総講演件数(応募件数)は156件であった。今回、ビーム応用関連のシンポジウムが4件開催された関係もあり、前回(2005年秋:221件)と比較すると減少している。以下に各分科の報告を記す。

「7.1 X線技術」(25件)では、光源から光学素子、検出器にわたって今後の発展が期待される新しい技術が報告された。焦電性結晶の温度変化によるX線源とEUV用ファイバーの研究が関心を集めた。X線多層膜やX線CCDの従来技術の高エネルギーへの拡張の試みもなされている。レーザー生成プラズマEUV光源のセッションでは、高出力化とデブリ抑制を共通の目標として、プラズマ計測およびシミュレーション技術の進展などに関する報告に対し、活発な討論が行われた。

「7.2 電子顕微鏡、評価、測定、分析」(4件)は、直後に札幌で国際顕微鏡学会議が開催された影響で講演数が少なかった。電子線励起と高エネルギー分解能X線検出器の組合せによる微量物質検出方法が特に注目を集めた。

「7.3リソグラフィ」(32件)では、関連シンポジウムが開催された。ArF液浸リソグラフィのシンポジウムでは、高撥水性を持ちパターン倒れを抑制した液浸用フッ素化合物含有レジストや、高屈折率液浸技術(NA>1.45)に向けた技術課題の報告があった。また、EUVリソグラフィでは、低エッジラフネスに向けた材料の開発とその評価についての発表があった。更に、円柱試料内面へのリソグラフィ、フェムト秒レーザーによる立体構造上のパターン形成や、霧を用いた立方体基板へのレジスト塗布とパターン形成などが従来のリソグラフィと趣向の異なる発表があった。

「7.4ナノインプリント」(12件)では、ナノインプリントのシンポジウムが行われたため発表件数が前回よりも少なくなっている。しかし、セッションの参加者は200名を越え、依然としてして高い注目が集まっている。このセッションでは従来からモールド材料や表面処理などの発表があるが、新しいところでは、光ナノインプリントにおいて重ね合せを行う場合に必要となる屈折率の異なる材料選定に関する発表があった。パターン形成では、低温でのナノインプリントおよびその際のパターンの安定化についての報告があった。また、大量生産向きのローラーナノインプリントによるナノパターンの連続形成は高い注目を集めていた。

「7.5ビーム・光励起表面反応」(10件)は、「励起ナノプロセス」新領域グループによる分科内総合講演「カーボン系物質の電子励起を用いた構造改変の最先端」(10件)と抱き合わせで開催された。一般講演では、超音速分子ビームで誘起される表面反応、放射光を利用した原子操作やリアルタイム光電子分光、生体分子への電子・クラスターイオンビーム照射効果などの進展が示され、表面反応機構が原子レベルで議論された。

「7.6イオンビーム一般」(39件)では、原子・分子状およびクラスター状のイオンビームによる表面加工や表面改質、薄膜形成に関する一連の講演が発表され、今後の展開が期待された。また、負イオンビームや集束イオンビーム照射、あるいはプラズマイオン注入による表面制御やナノ構造形成について、さらにイオンビーム照射の生体への応用や計測分析技術・装置の開発について議論され、それぞれ研究の進展が示された。

「7.7微小電子源」(27件)では、ディスプレイ応用および新規電子源開発に向けたSi系、金属系、炭素系、窒化物系、強誘電体などの種々の陰極材料の電子放出特性、およびこれらのFEA作製プロセスに関する報告を中心に、電子源の幅広い応用に関する報告がなされた。さらに高輝度かつ高可干渉性を持つ金属単原子陰極や、カーボンコートによるLaB6陰極の輝度改善についての興味深い報告もあり、今後の発展が期待される。また、本セッションからは3期連続で講演奨励賞受賞者を出しており、若手研究者による良質な研究論文発表の場であるとの印象を持った。

「7.8ビーム応用一般・新技術」(7件)は今回はポスターセッションとして行なわれた。電子ビームリソ関係の発表、レーザーによるSiO2膜中でのSiナノ結晶析出も興味を引き、加えて、プラズマを電磁波デバイスとして捉える「プラズマフォトニクス」の一連の発表が前回に引き続いてたいへん盛況であった。

本報告は、波多野忠(東北大)、渡邊健夫(兵庫県立大高度研)、廣島 洋(産総研)、寺岡有殿(原子力機構)、畑浩一(三重大)各氏のご協力により、高岡義寛(京大)氏が取りまとめて作成された。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
8.応用物性

産業技術総合研究所 舟橋 良次
8.応用物性は8月29日から31日まで6セッションに分かれ行われた。総講演数は関連の合同セッションを除き96件であった。いずれの会場でも興味深い研究成果と活発な議論が交わされた。また、8.2誘電材料・誘電体において発表された東京大学先端科学技術研究センターの玉田稔氏の「欠陥制御によるチタン酸鉛単結晶の高強誘電機能化」が講演奨励賞を受賞した。

「8.1磁性材料・磁気デバイス」では、マルチフェロイック物質探求、高飽和磁束密度-人工格子材料、リモートセンサーなどを中心に全8件の報告がなされた。FeCo/Pd人工格子においては元素選択軟X線磁気円二色性測定から界面での不対電子数の増大が飽和磁束密度増加に大きく関わっていること, 約2.6T以上の飽和磁束密度が得られていることなどが発表され(30a-M4)、今後の高飽和磁束密度材料の開発指針が提示された。また、リモートセンサーに関しては(30a-M5-8)、材料、素子さらにアプリケーション形態までにいたる活発な発表が行われた。

「8.2誘電材料・誘電体」のセッションでは、18件の口頭発表があった。理論研究として第一原理計算により、ペロブスカイト型強誘電体の発現機構が論じられた。また、チタン酸鉛の欠陥を制御し導電性を低減することで、初めて明瞭な分極−電界ヒステリシス曲線が測定されたことが報告された。さらに、ペロブスカイト型誘電体の超広帯域の誘電スペクトルが報告され、誘電体の構造−物性相関を明らかにする重要な手がかりとなることが示された。この他にも、誘電体の応用についていくつかの有用な発表があり、全体として有意義なセッションであった。

「8.3微粒子・粉体」に関する発表は10件であった。このうちナノ材料に関する発表が5件、蛍光体に関する発表が1件、静電気に関する発表が4件であった。ナノ材料の発表では、材料系については二酸化マンガン、アルミニウム、Pd、ZnS、PbSなど、作製方法については触媒反応、レーザアブレーション、誘電永動、斜め蒸着、Gel成長法など、応用分野では水素ガスセンサ、極紫外光検出などと多岐にわたった。静電気に関しては、トナーの付着力測定およびイオナイザの性能向上についての報告がなされた。

「8.4ナノエレクトロニクス」では、JJAP論文賞受賞記念講演を含め19件の講演があり、ナノ物性から応用まで多彩な議論が展開された。記念講演NTT堀口氏(現秋田大)によるSOI MOSFETバックゲート動作解析と単電子素子応用に関する発表は盛況であった。一般講演では、量子ネルンスト効果(核融合研)、ナノギャップ抵抗スイッチ(産総研)等、独自性の高い発表がなされた。ナノエレクトロメカニカル現象(北大・東工大)はMEMSにナノ物性が絡み興味深い。今後の進展が注目される。単電子・ナノデバイスと応用に関しては継続的に研究が進められ、high-k・バイオ系材料(奈良先端大)やGaN(北大)等材料系が広がり、また、ドット集積多機能論理素子、ハイパーキューブ、非線形単電子ダイナミクス(各、北大)といった新規論理アーキテクチャ・デバイスの導入が進んでいる。ナノデバイスの新展開が感じられるセッションとなった。

「8.5熱電変換」では40件の発表があり、増加傾向が続いている。その約半数は酸化物系であり、残りは金属間化合物、超格子系を含む薄膜、評価方法などであった。酸化物では、Co系の他にも多種の組成の化合物での発表があった。特に興味深かったのは、SrTiOのヘテロ界面を利用した二次元電子ガスでの巨大熱起電力である。今後、高ZTを目指す研究に加え、熱電変換の実用化に向けた研究開発(低コスト化・環境対策対応の材料、デバイス、システム)の進展にも期待したい。

「8.6 新機能材料・新物性」では、3件の報告がなされた。件数こそ少なかったが、どれも興味深い報告であり、それぞれ、有意義な議論が行われた。3件の発表に関して簡単に触れておく。1つは、Ni微細管の機械的特性に関するもので、通常の金属よりも遥かに弾性変形性に富む結果が報告された。2つ目は、耐熱性接着剤の開発に関するものであった。最後に、モット絶縁体であるNiO粒子の磁気特性に関するもので、Niを非磁性元素であるCuで置換することで電子相関を弱め、そこで見られる磁性についての報告がなされた。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
9.超伝導

名大院工 吉田 隆
超伝導分科の講演総数は、関連の合同セッションG「量子情報の基礎と応用」を含め110件であった。アメリカ、シアトルで開催されたApplied Superconductivity Conferences (ASC)2006 会期重複のため、講演件数自体は従来に比べ、大幅に減少した。

「9.1 基礎物性」では23件の講演が行われた。発表の内訳としては、厚膜・薄膜関係4件、バルク・単結晶関係8件、接合関係8件と磁気光学顕微鏡関連他で3件であった。薄膜関係では塗布熱分解法による(RE)Ba2Cu3O7-dや、超伝導体探索をめざしたNi酸化物薄膜作成、La2-XREXCuO4など材料の成膜、特性評価が報告された。また接合関係では、固有ジョセフソン接合の磁束フロー特性や、ジョセフソン効果と光学ラマンフォノンとの相互作用によるサブギャップ構造の解析、接合リターン電流の解析など興味深い報告がなされた。その他、多くの講演において活発な議論が行われた。

「9.2 新材料、新薄膜、新低温動作デバイス」では、新材料、MgB2系、新デバイス関係の薄膜作成と物性評価と分類されて11件の講演が行われた。MgB2系(5件)では、この材料を用いたデバイス作成時の具体的な問題克服に関する報告が興味を惹いていた。プラスチックフィルム上に作成された薄膜の歪み特性、成長時の基板温度の影響、格子不整合緩和目的のバッファ層材料の検討、および多層構造プロセスにおけるバリの抑制方法などに関するものである。新デバイス関係の薄膜作成技術と特性関連では、主にヘテロエピタキシャル薄膜の特性に関する報告がなされた。例えば、パルスレーザによるNbNヘテロエピタキシー薄膜の Tc 特性、銅酸化物超伝導体(LSCO/LSMO 薄膜)の電流注入特性など、量子ビット応用を目指したBSCCOを用いた微小接合のスイッチング特性(2件)に関しては、活発な質疑応答が行われた。

「9.3 薄膜、厚膜、テープ作製プロセスおよび結晶成長」では、MOD法などの固相エピタキシャル成長法を用いたREBCO系超伝導体の作製を中心として、12件の発表があった。MOD法では、(Nd,Eu,Gd)BCO薄膜の成長を高温光学顕微鏡によってその場観察し、正方形状の結晶が成長する様子が報告された。また、仮焼膜にレーザーを照射し、工程の短縮を図るレーザーアシストMOD法に関する報告もされ、従来法と比較して半分程度の時間までに短縮することに成功している。また、PLD法を用いたREBCO薄膜に関しては、AZrO3 (A=Ba, Sr, Ca)を導入したGdBCO膜が、A=Caの場合、特に顕著にTcが低下することが報告された。また、Co及びSrを希薄ドープしたErBCO薄膜では、Coに比べてSrの方がピン止め力が高いことが明らかとなった。YBCOとSrTiO3を交互に積層した厚膜試料では、従来法と比して、厚い膜でもa軸粒はほとんど見られず、ごく一部で見られるa軸粒の上にSTO層が積層されることで、再びc軸配向成長に戻る様子が観察されている。

「9.4 臨界電流、超伝導パワー応用」のセッションでは、15件の講演が行われた。バルク材では140mm径の大型バルクの作製と着磁磁場特性についての報告があった。今後の応用範囲の拡大が期待される。第3高調波電圧誘導法については標準化に向けた取り組みが進められており、関連する2件の報告がなされた。また、局所的な電磁気特性の計測・評価に関連する研究としては、磁気光学法磁束観察装置の高分解能化や、SQUID顕微鏡を用いたマルチフィラメント線材内部の電流分布の可視化について報告がなされた。

「9.5アナログおよび関連技術」では、超伝導検出器、SQUIDを中心に19件の講演が行われた。超伝導検出器では、STJおよびTESの吸収効率向上およびノイズ低減を目的とした素子構造の最適化について議論された。磁束量子フロートランジスタの光・電気の2系統入力信号による動作確認や、電圧標準システムの冷凍機ノイズ対策による動作マージン拡大について報告があった。SQUIDでは、免疫検査応用を中心に報告があり、熱応答性磁性ナノ粒子による高感度化や未結合磁気マーカの信号抑制など磁気マーカの検出法について議論された。磁気シールド技術では、有限要素法を用いた磁気シールド室のダクトの最適設計や、高温超伝導体シールド材料のシールド特性が議論された。

「9.6 接合、回路作製プロセスおよびデジタル応用」では、9月1日の午前にセッションが行われ合計14件の発表があった。高温超伝導接合及び集積回路に関する発表が6件、Nb系超伝導集積回路に関する発表が6件、光インターフェースに関する発表が2件あり、それぞれ最新の結果が報告された。セッション参加人数は30名弱と決して多くはなかったが緊密な雰囲気の中で議論が行われ、有意義なセッションとなった。

なお、本報告は、高野義彦(物材機構)、仙場浩一(NTT物性基礎研)、一野祐亮(名大)、木須隆暢(九大)、井上昌睦(九大)、師岡利光(セイコーインスツル)、寺井弘高(情報機構)の各氏の協力により作成したものである。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
10.有機分子・バイオエレクトロニクス

東大理 島田 敏宏
有機分子・バイオエレクトロニクス(M&BE)大分類分科においては423件の一般講演が行われました。講演件数としては大分類中で最も多い数字です。M&BE分科としての推移を見ると、図に示すように、昨年の2005年秋季大会(417件)に比べて6件増加しており、M&BE分科の秋季大会としては過去最高件数となっています。中分類ごとの発表件数の推移もあわせて図に示しました。2006年春に分類の組み換えがあり簡単に比較はできませんが、特に目立った減少を示す分類は無く、順調に推移しています。

会期中は一般講演に加え、5件の講演奨励賞受賞記念講演ならびにM&BE分科会論文賞、奨励賞(各1件)の記念講演・授賞式が行われました。シンポジウムに関しても「ナノテクノロジーを利用した次世代生命工学」(7件)、「次世代エネルギーを担う有機系太陽電池」(12件)、「高度バイオセンシングの新しい潮流」(8件)「π共役高分子の超階層制御と革新機能の探索」(7件)の4件が行われ活発な議論が行われました。

今回は、会場の大きな部屋の数に余裕があり、10.9においては一時300人の聴講者を数えましたが、会場に入りきれないといった不都合はほとんどなかったようです。日程に関しては、関連の深い10.7と10.10および関連するシンポジウムの調整が難しく、事務局との事前の折衝を含め、より注意深い編成を行う努力が必要であると認識いたしました。

ポスター/口頭の振り分けに関して、次回から新しい試みをいたします。
「10.9特定テーマA:有機トランジスター」の件数が多く、現状は4日間の午前・午後をほぼすべて費やしてぎりぎり収容しています。この中分類は引き続き増加傾向にあるため、次回は収容できなくなる恐れがあります。
さらに、このセッションの参加者が他の会場の講演を聞くことができないという弊害が指摘されています。対策を議論した結果、次回から10.9の一部ポスター化を試行することになりました。ポスターと口頭の選び方としては、プログラム編成を一日でやらなければならないことから、次回はあるキーワード関係の発表全部をポスターにします。どの分野をポスターにするかは、申し込み状況を見た上で、ポスター会場の広さ・日程の収まり具合やこれまでのポスター・口頭配分の経緯を考慮して決定します。

従来どおり、中分類1つを順番にポスターとすることは続ける予定ですので、次回('07年春)は「10.8有機EL」を全部ポスター、「10.9特定テーマA:有機トランジスター」を一部ポスターとして募集いたします。この点を含め、プログラム編成・講演会運営に関して、ご意見がありましたらお知らせください。

各中分類での具体的なトピックスに関しては、各プログラム編集委員からの記事をまとめて、M&BEの分科会誌(Vol.17、 No,4)に掲載予定ですのでご参照ください。

図 有機分子・バイオエレクトロニクス分科中分類の発表件数の推移。
10.1作成技術、10.2評価・基礎物性、10.3電子機能材料・デバイス、10.4光機能材料・デバイス、10.5液晶、10.6高分子・ソフトマテリアル、10.7生物・医用工学・バイオチップ、10.8有機EL、10.9有機トランジスター、10.10生体分子計測・バイオナノテクノロジー。


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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
11.半導体A(シリコン)

宇宙研 廣瀬 和之
基礎物性・評価セッションでは19件の講演があった。半数がLSIプロセスに関するもの、半数がSiナノテクノロジーに関するものである。前者としては、pn接合や欠陥についての走査プローブ顕微鏡を用いた原子レベルの評価法や、移動度向上のために注目されているローカルな歪みの測定法など、微細化の進むデバイスで求められている評価技術に関する発表が目立っている。後者としては、Siナノ構造におけるドーピング技術、電荷保持特性、発光特性など、ナノ構造特有の物性に関する発表が多かった。

半導体表面セッションでの大きな傾向は、Si(111)に関する解析が進んだ点である。(100)で培った解析技術の(111)への展開の他、(111)が持つ超平坦水素終端表面、という特徴を生かした新たな解析結果も得られている。その他、有機物の吸着脱離、Si初期酸化過程の解析なども議論された。本セッションの主なトピックスである洗浄技術に関しては、メタル汚染の除去技術やホトレジストの除去技術などが発表され活発な議論が繰り広げられた。講演件数は20件であった。

絶縁膜技術セッションは、全講演ポスター発表であった。講演数は93件と前回とほぼ同数で、依然として半数近い講演がHf系High-kゲート絶縁膜を対象としていた。High-k/基板界面の高度な物性分析結果が多数報告される中で、フッ素注入とアルミナ層導入によりpoly-Si/HfSiONのピニングを解消したという製造技術に関する報告が注目された(東芝)。SiONゲート絶縁膜に対しては、信頼性を中心にレベルの高い報告がなされた。その他、希土類系High-k膜やGe基板を用いた報告、フラッシュメモリ技術やTFT向け低温絶縁膜など多岐に渡る報告がなされた。

配線技術セッションでは、「LSI多層配線の発展史と最先端技術」と題した分科内総合講演を行った。この講演は、過去15年間に導入された配線技術を物理・化学の基礎的視点から検証し、次々世代BEOL技術を考えることを意図して企画された。多数の参加者が集い、今後の方向性に関して活発な議論がなされた。一般講演として41件の口頭発表がなされた。Cu/low-kに加え、MEMS、CNT、受動素子など内容の幅が広がり、Cu/low-k技術も、インテグレーションから信頼性、評価・解析へとバリエーションが広がっている。

Siプロセス技術セッションの講演件数は83件と多く、中でも浅接合、メタルゲートに関しては引き続き堅調である。今回特に、シリコン中の歪みを測定する各種技術に関する報告が多く目立った。エキシマ・グリーン・半導体レーザ、X線、プラズマジェットによるa-Si等の結晶化、TFTの動作計算、信頼性、解析の興味深い発表があり多くの関心を引いていた。また、韓国からの報告も数件あった。

Siデバイス/集積化技術セッションでは、55件の報告があった。Siナノデバイスでは、多重量子ドット・細線に関する発表が多数あり、単相でのターンスタイルの実証や伝導機構の解明などの興味ある発表がなされた。微細CMOSではこれまでの歪み・SiGeチャネルなどのオン電流や移動度の向上を報告する内容から、移動度向上の機構を解明するといった方向に変化している。また、メモリでは新構造の不揮発メモリに関する発表が多くなされた。他に、MEMSやRFデバイスでは張り合わせ・実装などでも多くの発表がなされた。

シミュレーションセッションでは17件の報告があった。前半は、NBTI機構、OPEパラメータ、不純物拡散パラメータ、ソフトエラー、離散不純物、応力および歪の影響に関する報告が行われた。後半は、ナノスケール素子の輸送特性について、モンテカルロ法および強束縛近似に基づく非平衡グリーン関数法による解析結果が報告された。Ge、high-k、ダブルゲート構造、NEMSおよびSiナノワイヤの第一原理計算の報告も行われ、テクノロジーブースター関連のシミュレーション研究も活発になってきている

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
12.半導体B(探索的材料・物性・デバイス)

東大NCRC 臼杵 達哉
本分科では、半導体の基礎物性、プロセス・デバイス技術にかかわる研究領域の中で、探索的材料やナノテクノロジー、更には量子情報など新領域に取り組んだ発表が盛んである。以下に各中分類委員の方々からの報告をまとめる。

[12.1 探索的材料物性]探索的材料物性の分科内招待講演として東大 田中教授より、スピントランジスタを用いた再構成可能な論理回路とIV族スピントロニクス材料に関する先駆的な研究内容の紹介があった。シリサイド系半導体関連の研究成果では、高純度鉄(5N)を使ったβ-FeSi2バルク結晶成長、薄膜の電気特性や発光特性の報告が相次ぎ、鉄純度の重要性が再認識された。また、サブミクロン加工を目指したβ-FeSi2, Fe3Si膜のドライエッチング技術、β-FeSi2単結晶基板上へのホモエピタキシーの成功、Fe3Si膜のエピ成長、Mg2Si, Mg2Ge, BaSi2へのドーピングやBaSi2/Siヘテロ構造のバンド不連続に関する報告など研究の質と量の進展を感じた。

[12.2 探索的材料物性]東大 荒川教授(解説論文賞受賞記念講演)により、量子ドットを中心とした低次元構造のデバイス応用に関するこれまでの進展が紹介された。トピックスとしては、NTT基礎研の舘野らによるSi基板上に成長したヘテロ構造を含む化合物半導体ナノワイヤ構造の成長や、東工大グループからSi基板上CdF2/GaF2ヘテロ超格子のレーザーに向けた展開が報告された。更に、NTT基礎研・仏CNRSグループから量子井戸中のSiドナーの束縛電子状態について局所状態密度を低温STMで測定した結果が報告され注目を集めた。その他に、カーボン系超薄膜の電気特性、イメージング分光や空間分解カソードルミネッセンスによる量子ドット評価、量子ドット素子を用いたslowlightの観測、表面弾性波による次元性制御等の報告があり、今後の進展が期待される。

[12.3プロセス技術・界面制御]総計21件。北大 小谷氏(招待講演)は、AlGaN上にAl薄膜を堆積後に真空アニールを施す表面改質によりAlGaNショットキーゲートの大幅なリーク電流低減を報告し注目された。GaN系半導体関連の一般講演では、SiN保護膜を用いたAlGaN/GaN構造の表面ポテンシャル評価、変調ドープInAlN/GaN構造への低抵抗オーミック形成、AlGaNショットキー構造やGaN-MIS構造を用いた紫外光応答特性の報告が行われた。その他のIII-V半導体関連では、電気化学プロセスを用いた微細周期構造の形成、塩素系ICPドライエッチングの表面反応やプラズマ損傷に関する報告などが注目された。

[12.4超高速・機能デバイス]44件中GaN系が37件と全体の84%を占めた。InP・GaAs系では二次元電子ガスを利用した新素子が注目を浴びた。名大 水谷教授(招待講演)は、GaN系の過渡応答評価について、検出方法からその起源について総合的な報告を行った。今後、原因となる結晶欠陥や抑制法を含め定量的な議論が必要である。ノーマリーオフ動作では、薄層バリアを用いた報告が主流であった。薄層バリアを基本としてAl組成依存性、GaNキャップを用いたゲートリーク低減などの報告があった。表面保護膜として電流コラプスが多いとされてきたSiO2を用いて優れた特性を得た報告があり、議論を呼んだ。また、AlInN系の特性向上が目覚ましく、fT=172GHzというAlGaN系を超える高周波特性が報告された。大きな自然分極を活かし、さらなる高性能化が期待される。

[12.5 半導体光物性・光デバイス]キャストSi多結晶太陽電池の高品質化に向けて結晶粒界、微小欠陥評価技術関連の発表が多く、欠陥の理解について着実な進展が見られた。Si発光関連では、Siナノ粒子サイズ制御による発光効率増大が試みられており、今後の発展が期待される。湘南工科大 松本教授の招待講演で、ポリシランやnc-Si分野の経緯と展望が示された。化合物太陽電池関連では、高効率・低コスト化のための薄膜・デバイス作製報告が多かったが、PLや変調反射などの評価報告のフィードバックが期待される。LED励起用の多元RGB蛍光体を中心に、蛍光体、無機ELではチオガレート・シリケート、GaN:Euをはじめ、理論計算、ナノ構造を含めた効率と信頼性の改善が図られている。Cu-In-Sナノ粒子蛍光体は多元系の新規応用として興味深い。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
13.結晶工学

大阪大学 森 勇介
大分類分科「結晶工学」は、351件の講演がなされた。今回で5回目となった「薄膜・表面:6.3酸化物エレクトロニクス、6.4薄膜新材料」と「結晶工学:13.2 II-VI族結晶」との合同セッションK「酸化亜鉛系機能性材料」も65件の講演がなされ活発な討論が行われた(本合同セッションに関しては別途報告がある)。
以下に、各世話人からの報告をまとめる。

「バルク結晶成長」では、非線形酸化物結晶やボレート系非線形有機結晶の溶液制御や組成制御による高品質化、そしてフッ化物結晶、及び酸化物結晶のレーザー特性やシンチレーション特性などの光学評価からランガサイト結晶の圧電特性、電気特性に関する報告がなされた。また半導体結晶に関しては、多結晶Siの一方向凝固プロセスの解析やInGaAs、InGaSbなどの化合物半導体の組成均一化についての報告がなされた。また高品質結晶化を目指した酸化物や融液の熱解析に関する報告がなされた。

「II-VI族結晶」のセッションは、全体の1/3がZnO、残りの2/3が(Pb,Cd)Te系、(Zn,Mg,Cd,Be)(S,Se,Te)系という構成であった。ZnOでは、単結晶ウエハの評価、ホモエピタキシャル成長、様々な基板へのヘテロエピタキシャル成長が報告された。レーザダイオード実現のための指針としてのZnO系混晶の屈折率についての報告、ナノ構造の報告もなされた。
(Pb,Cd)Teでは、量子ドットとデバイスの講演があり、着実なデバイス化が感じられた。
(Zn,Mg,Cd,Be)(S,Se,Te)系では、超格子の改善によるアップコンバージョン効率、発光効率の向上が報告された。また、ZnTe量子ドットのフォトルミネッセンス、CdSe量子ドットの発光ダイオードといった量子ドットの講演、ZnSe:Te、ZnTe:Oといった等電子中心の光学特性、レーザダイオードへの応用が報告された。後半は、デバイスに関する報告が中心で、白色LEDの劣化機構、光検出器の他、導波型光変調器などの新たなデバイス構造に関する報告があった。

「III-V族エピタキシャル結晶」では、量子ドットとIII-V-N希薄窒化混晶に関する発表が全体の約2/3を占めた。量子ドット関係では、形成メカニズム・高均一化・高品質化・長波長化・密度制御・位置制御・偏波制御などが話題であるが、高均一化の新しい手法として、自己形成GaAsナノホールを用いた2重近接積層InAs量子ドットが提案され、15meVの狭い発光半値幅が報告された。その他に、臨界膜厚以下の成長のポストアニールによる超低密度(104〜107/cm2)量子ドット形成やSb系カバー層による量子ドットの高品質化や偏波制御が報告され興味を引いた。
また、新しい量子ドット評価法として、試料をFIBでピラー状に加工し、埋め込まれた1つの量子ドットの形状をさまざまな方向からTEM観測しようとする試みが報告され関心を集めた。III-V-N関係では、歪補償やSbサーファクタントを用いなくても高品質のGaInNAs 3重量子井戸構造がGaAs障壁層で作製できることが報告され結晶成長技術の進展が感じられた。その他の発表では、高歪InAs/InGaAs 2重量子井戸構造(発光波長2.3μm)が500℃の低温成長でInP基板上に格子緩和なく成長できることが報告され、中赤外レーザ活性層材料として有望そうに感じた。

「III-V窒化物結晶」では、無極性面・半極性面基板及びその基板上へ結晶成長、光・電子物性評価、さらには、この基板上に成長したデバイス特性評価等の研究報告が目立つ傾向にある。これらの研究目的は、光デバイスでは、ピエゾ電界抑制による外部量子効率の向上、電子デバイスでは、ノーマリーオフデバイスの実現である。また、サファイア、SiC及びGaN傾斜基板を用いた結晶成長に関しても、注目すべき結果が報告された。光デバイスに関しては、AlNを使った発光波長210nmのLEDに関する研究報告が、聴衆の関心を集めていた。実用的なデバイスのためには、室温においてp=1010 cm-3にとどまっている正孔濃度の向上とともに内部量子効率の向上が必要であるが、深紫外発光デバイスの新しい可能性が示されたことは特筆すべきことである。この他、新しい応用例として研究されている、窒化物材料による光触媒効果に関しては、表面ポテンシャルの変調による改善が報告されたことも興味深い。

「IV族結晶、IV-IV混晶」のセッションでは、ドーピングや歪み制御のための結晶成長技術から、微細構造や電子物性の評価に至る広範な内容の発表が行われた。Si基板上の歪緩和SiGe層においては、表面ラフネス、貫通転位・ミスフィット転位と歪構造との相関性およびその制御に関する議論がなされた。
また、チャネル材料としてのGe への注目が高まっていることを反映し、高Ge組成SiGe極微細線における転位および歪構造評価、CVD法によるSi基板上へのGeエピタキシャル成長、Ge表面の初期酸化過程のSTM観察、Geチャネル層への引っ張り歪み印加層としてのGe1-xSnxの結晶成長および歪み緩和機構、(110)面GOI構造の形成など、Geチャネル素子のさらなる高性能化を目指した研究報告が数多くなされた。Si層への圧縮歪み印加層としてのSi1-yCy層の結晶成長など、歪み制御の自由度の向上が可能であることを示唆する報告も行われ、この分野における新たな方向性への発展が大いに期待される内容となった。

「IV族系化合物」では、いずれもSiCに関連する発表で、全部で35件だった。結晶成長分野では、昇華法では困難とされる2H-SiC単結晶の成長が液相では可能なことが報告された。エピ成長前の仕上げ、拡張欠陥を浮き彫りにする手段、あるいは、微細構造を作るため、と目的はそれぞれだが、いろいろな方式を使ったSiCエッチング技術の開発が進んできている。Al2O3膜をゲート絶縁膜にした4H-SiC上のMOSFETが製作され、デポ膜としては極めて大きい電界効果移動度150cm2/Vsが達成された。

「エピタキシーの基礎」では、量子ドット、ナノワイヤー、ナノクラスターに関する発表が全体の約半分を占め、STMやRHEEDによる成長表面やナノ構造の解析およびそれらの理論的解析について活発な議論がなされた。量子ドット関連では、Sb終端化GaAs表面上の高密度InAs量子ドットの形成過程のその場STM観察や量子ドットの形状変化過程のRHEED観察が報告された。また、Si(111)-(7×7)上に形成されたGaクラスターの詳細なSTM・RHEED観察によりGa6Si3構造モデルとの一致が示され関心を集めた。理論計算では、GaAs(111)上のInAs成長における積層欠陥テトラへドロンの構造安定性やGaN基板上のGaN成長表面構造について報告があり、
またA8-NBN化合物の安定結晶構造について、イオン性の立場から4配位構造と6配位構造の相境界を予測する手法が提案され興味を引いた。

「結晶評価、ナノ不純物・結晶欠陥」では、講演の約80%がSi単結晶中の不純物や結晶欠陥についての発表である。キーワードとして、水素、重金属、原子空孔、炭素に関する発表が目立った。水素関連では、応力印加赤外吸収法の開発により白金−水素複合欠陥の構造を決めるという報告があり、有力な手段として注目される。炭素−酸素複合欠陥に関する発表も多かった。特に、SiにHe照射で局所的に炭素−酸素複合欠陥を導入し、パワーデバイスのライフタイムを制御するという発表があった。結晶欠陥を積極的にデバイスに利用するという試みは、歴史的に多くはなく、その制御が難しいながらも興味深い技術である。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
14.非晶質・微結晶

産総研 松井 卓矢
本分科では、酸化物ガラスやカルコゲナイド、アモルファス・微結晶Si系薄膜などの材料を中心に、「1.基礎物性」、「2.プロセス技術」、「3.デバイス」それぞれの分野で幅広く討論された。以下に、講演の概要を分野ごとに記す。

「14.1基礎物性(26件)」酸化物ガラスの分野では、光導波路をガラス中に光描画する研究が進められており(長岡技大、東北大)、Y字分岐結晶ラインの形成や光非線形性に関する報告があった。塩素ドープによるシリカガラスの結晶化失透の抑制は(福井高専、福井大)、シリカガラスの高温での製品寿命を伸ばす新たな手法として期待される。
また、Tb3+-Yb3+共添加ガラスのアップコンバージョン蛍光体において、Tb3+-Yb3+イオン間エネルギー移動の希土類イオン濃度依存性が報告され(豊田工大、豊田中研)、更なる高輝度・高効率化への進展が望まれる。カルコゲナイド系材料では、光誘起構造変化に関する興味深い報告があり、a-As2S3やa-As2Se3の光照射による構造変化を、真空紫外分光を用いて評価する方法や(岐阜大)、パルスレーザーによる過渡的吸収を測定する方法(京大)など新しい切り口による研究が発表された。その他の材料では、フレキシブルデバイスへの応用で注目度の大きいアモルファス酸化物半導体InGaZnO4の局所構造解析に関する報告があり(東工大)、イオン性酸化物材料特有の局所・配位構造が明らかにされた。今後、新材料開発およびデバイス開発へのフィードバックが期待される。また、SiN薄膜導波路に関する研究では、可視域で1dB/cmを下回る低損失化が報じられた(産総研)。これまで、SiNは伝搬損失が大きく、実用化に対する疑問の声も多かったが、今回、損失原因の特定がなされ、今後の実用化加速に向けた研究が期待される。

「14.2プロセス技術(25件)」では、アモルファス・微結晶系材料の薄膜成長と再結晶化プロセスに関する発表が多数を占めている。まず、触媒CVD(cat-CVD)プロセスにおいて、SiH4ガスによる加熱触媒体の劣化に関する調査や、ハードマスクを用いた太陽電池エミッタ層の新規パターニング技術の提案があり(北陸先端大)、太陽電池の生産性向上に向けて今後の展開が注目される。 その他、アルミナ薄膜(神奈川工大)やGaN(長岡技大、東北大)、TiO2(岐阜大)の成長、さらにプラスチックフィルム表面の原子状水素照射処理(兵庫県立大)などについて、cat-CVD法を用いたプロセス技術の応用範囲は多岐に渡ってきている。
一方、パルスレーザや熱プラズマジェットを用いたa-Siの再結晶化技術の研究も最近ホットな話題として注目を集めている。大気圧熱プラズマジェットによる再結晶化では、基板界面から表面までの結晶性や元素プロファイルに関して詳細な調査があり(埼玉大、理研)、太陽電池の試作結果も報告され、新しいデバイス作製技術として今後の展開が興味深い。プラズマCVDによるμc-Si太陽電池プロセスでは、平行平板型VHFプラズマCVDで超高圧条件(〜20Torr)の適用により、7nm/sという高速製膜とn-i-p型太陽電池で4.5%の変換効率が実証された(阪大)。
今後、更なる高圧・狭電極ギャップによる高速製膜化への取り組みが予想される。太陽電池のワイドギャップ窓材料として期待される微結晶3C-SiCやボトムセルへ適用をねらったナローギャップ微結晶SiGe、GeCなどIV-IV族系新材料探索に関して複数の報告があった。微結晶SiGeにおいて、Ge添加にともなうn型→p型伝導遷移現象や(産総研、東海大)、後処理として水蒸気処理が電気特性の改善に有効であるとの報告があった(東海大)。
その他プラズマを用いたSi系薄膜成長プロセスについては、合同セッションD(プラズマCVDの基礎と応用)においても10件を越える関連の講演がなされている。

「14.3デバイス(4件)」では、今回もSi系太陽電池に関する話題に集中した。a-Si/c-Siヘテロ接合太陽電池(いわゆるHITセル)に関して、a-Si成長界面でエピ成長が起きやすい高温・低イオン衝撃条件下で太陽電池特性が急激に低下することがプラズマCVDの成長その場観察により明らかになった(産総研)。近年、HITセルに関する研究は国内外で活発化してきており、さらなる特性改善に向けた成長メカニズムの解明に繋がることを期待する。
一方、薄膜Si系太陽電池では、a-Si/μc-Siタンデムセルの動作解析や屋外出力解析に関して複数の報告がなされた。タンデムセルの変換効率は、温度依存性の小さいa-Siシングルセルに近い温度係数を示すことがデバイスシミュレーションにより計算され(東工大)、屋外高温下におけるタンデムセルの有用性が示唆された。
また、工業規格において、太陽電池の性能評価の基準となる標準試験条件(25℃)が屋外頻出条件(48.4℃)からずれており、実際の屋外使用時には温度係数の小さい薄膜Si系太陽電池がバルク結晶Si系太陽電池に比べて有利であることが定量的に示された(立命館大、カネカ)。多接合化によりますます複雑化する薄膜Si系太陽電池の設計において、デバイスシミュレーションやフィールドテストから得られる情報の重要性が改めて認識された。

最後に、本報告をまとめるにあたり、ご協力いただいた編集委員ならびに担当座長各位に謝意を表します。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
15.応用物理一般

首都大学東京 山登 正文
「15.1 応用物理一般」では、毎回広範囲にわたる講演が行われる。今回は周波数フィルター等に利用されるFilm Bulk Acoustic Resonator、自然循環ループの熱輸送特性、インクジェットノズルの液滴の解析や新しい燃料電池材料など実用的な効果を目指した報告や、電場ピックアップによる溶融金属の測定、空乏層の光音響法による観測、加速度センサーによる入力デバイスなど新しい試みについての報告があった。電場ピックアップ法は溶融した金属の物性を直接測定する手法であり、学術的及び工業的にも興味深い報告である。
また、従来から音関連の報告も継続して行われており、音楽作品に対する1/fβゆらぎ解析、オカリナ、ヴァイオリンの音色と各種条件との物理的解明による良い音質の追求などの報告があった。人為的に作られた音楽とカオス理論の関係は興味深いテーマであり、人間の感じる心地よさと音楽の関連が理論的に明らかになることで、未来の作曲法にも影響するのではないかと思われる。

「15.2教育」では今回同時に開催されたシンポジウムのテーマでもある物理・理科教材の開発事例報告や、どうしたら物理に対する興味を学生に持たせられるかを探る指針となるようなアンケート調査報告など、近年のいわゆる理科離れ対策とも言えそうな18件の研究報告があった。偏光板を使って着色する現象を分かりやすく解説する工夫など実際に開発した実験器具の演示も数件あり、多くの来会者の注目を引いていた。
また、アンケート調査結果の発表についても多くの来会者が発表者と熱心に討論する姿が見られ、例年以上に熱気のあるセッションになっていた。

「15.3新技術」では、水素ガスセンサに関する報告が2件、温度センサに関する報告が2件あり、その他に超臨界流体による有機微粒子・薄膜作製方法、触媒化学発光や蛍光によるセンシングと可視化、Pd系材料の水素吸放出特性、真空センサの温度特性や磁気センサの作製技術など、計10件の講演が行われた。
特に、植物の葉に太陽光を与え、葉に含まれるクロロフィルから生じた蛍光を可視化した報告(信州大工)では、簡便に「植物の健康さ」を評価する手法として注目すべき点が多い。
また、Pd/Geダイオード型水素ガスセンサに関する報告(山形大工)では、水素濃度によってI-V特性がダイオードとオーミックにドラスティックに変化することから、センサよりはむしろスイッチとして利用できる可能性が示された。いずれの研究も非常にユニークであり、今後の研究の進展に期待する。

本分科の講演内容は15.1応用物理一般のキーワードと重複するものもあり、今後、分科内再編の必要もあると思われる。また、新しいセンサの作製技術や計測・評価方法の講演も多く、今後、合同セッションJの再開も視野に入れたいと考えている。

「15.4トライボロジー」では、エンジンオイル中の耐摩耗添加剤の潤滑膜形成に関する解析手法に関する講演が行われ、いずれのセッションにおいても講演に対する討論や意見交換が活発になされた。

「15.5エネルギー変換・貯蔵」では熱電子発電器では、電極間隔を数μm程度に狭め、仕事関数の低い材料を電極に用いれば、10%以上の発電効率が得られる。AgO薄膜電極を形成し、発電素子内部を低圧のセシウムで満たすことにより、電極の仕事関数の低下を実現する実験、最適条件解析など2件の報告があった。イオン交換膜利用の淡海水直接発電、カルボン酸燃料を用いた燃料電池、PLD法によるSOFC燃料電池の酸素極用Gd0.5Sr0.5CoO3薄膜の作成、メチルセルロースを電極に塗布し保湿する燃料電池の長時間持続性、燃料電池を搭載した電動イスなど燃料電池関系の報告が4件、水素吸蔵に関する報告が3件あった。エネルギー変換・貯蔵の応用にあたるソーラーカー関連では2件の報告がなされ、全体で12件、活発な意見交換がなされた。

「15.6資源・環境」では高分子ゲル(ポリアクリルアミドゲル)を用い有機溶媒置換処理による膨潤特性の検討に関する報告があった。膨潤特性の向上は、有害物吸着の特性向上につながると期待される。

「15.7磁場応用」では16件の発表が行われた。今回も磁気トルクによる配向制御、磁気力による分離や流れの制御,ローレンツ力を利用したキラリティー制御、モルフォルジー制御や熱力学的効果など多くの磁場応用が発表され、この分野の広がりを表したものとなった。
今回の発表で特に金属系材料の磁場配向で電磁振動を用いて核形成を制御し、配向度を制御する手法が報告された点が興味深い。構造形成過程で磁場配向が進行する場合、磁場配向に適したように構造形成を制御することが重要であることを示している。今後の材料開発に向けた配向度向上へのひとつの指針となると期待される。
さらに、すべての講演で質疑応答の時間が足りないくらい活発に意見交換が行われていたのが印象的であった。 なお、本報告は応用物理一般プログラム編集委員各位のご協力により作成したものである。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
合同セッションD超伝導
プラズマCVDの基礎と応用

広島大学 東 清一郎
名古屋大学 豊田 浩孝
合同セッションDは、放射線・プラズマエレクトロニクス分科の1.4プラズマ応用プロセス、薄膜・表面分科の6.2薄膜B、および非晶質・微結晶分科の14.2プロセス技術で企画されたものであり、各分科の専門家が一堂に会してそれぞれの知見をもとに有機的かつ相補的に連携し討論を行うことができることから、参加者から好評を得ている。

今回の合同セッションの午前の部では、主にSi系薄膜のプラズマCVDに関して報告があった。微結晶シリコンの成膜に関して、広島大からは成膜前のSiO2表面の水素プラズマ処理によって成膜初期過程のグレイン密度制御に関する報告があった。
産総研からはマルチホロー放電における膜成長表面へ入射するイオンエネルギーに関する詳しい解析結果が紹介された。名古屋大学からは基板側面に塗布した蛍光材料を利用したユニークな基板温度測定技術が報告され、膜中欠陥密度との関係に関する議論がなされた。

三菱重工よりリニア型VHFプラズマによる微結晶Si成膜と13.5 nm/sの高速堆積で変換効率5.3%のシングルセル作製が報告され、早期実用化を期待させる報告がなされた。

大阪大学からは多孔質カーボン電極を用いた大気圧プラズマCVDにより17.3 nm/sの非常に高い堆積速度での高結晶性微結晶シリコン膜形成が報告された。

九州大学からはマルチホロー電極の上下流に基板をガス流れと平行に設置することにより電極からの距離とa-Si:Hの光安定性との関係をコンビナトリアル評価する手法が提案され、膜中クラスタとの関連について報告された。名古屋大学からはパルス変調UHFプラズマにより5 nm程度のナノシリコンを室温で合成し、赤色のフォトルミネッセンスを観測した報告があった。

大阪大学からは大気圧プラズマCVD法による500〜600℃程度でのエピタキシャルシリコンの成長と、フォトルミネッセンスによる欠陥評価について報告され、極めて低欠陥の高品質エピタキシャル層が形成されることが示された。

東工大からはナノ結晶SiCのCVDにおいて、プラズマパワーと組成、結晶性の間に明確な相関があることを見出し、原子状水素によるエッチングが重要な役割を果たしていることが報告された。

東京工芸大学からはλ/4整合VHFプラズマによるシリコン窒化膜の堆積において、励起周波数により膜質が大きく変化することが報告された。

午後のセッションでは、GeおよびSiGe薄膜形成について、名古屋大学、広島大学および大阪大学から3件の講演があった。名古屋大学のグループは表面波プラズマを用いたプラズマCVD法による200nm大粒径SiGe膜形成について報告した。広島大学のグループはICPを用いた高結晶性Ge膜堆積において、結晶化率90%の膜を4nm/sの高速で堆積できることを示し、Ge原子発光分光計測との比較をおこなった。

また、大阪大学のグループはSiGeH系の分子動力学シミュレーションによりSiGe製膜表面における反応過程の検討をおこなった。また、大阪大学より、低温酸化膜のプラズマCVDについて報告があった。種々の添加ガスに対してTEOSを用いたSiO2膜の低温形成をおこない、その絶縁特性評価をおこなった。

さらに、BN系薄膜形成について、物質材料機構および東京大学から5件の講演があった。物質材料機構はレーザー支援プラズマCVDによるsp3結合性5H-BN膜に関する研究を精力的に進めているが、今回はミクロコーンエミッターの低温形成に成功し、およびそのエミッターの表面分布の制御およびミクロコーンの局在化伝導性のAFM観察、さらに大気中における電子放出特性について報告している。

これらの報告からBN電子エミッターの実用性の高さを示していた。最後に、カーボン系薄膜形成について、長崎大学からATR-FTIRを用いたカーボン膜形成表面に関する分析の報告がなされた。
また、電界イオン顕微鏡を用いたダイアモンド初期成長過程に関する報告があった。鋭い先端形状を持つタングステンチップに強電界を印加し、放出される電子の像から表面のカーボン原子の挙動をその場測定する興味深い測定法であった。
また、九州共立大より、プラズマCVDによる巨大球状炭素微粒子の成長について、ミクロンサイズの巨大炭素微粒子を詳細に調査し、巨大粒はオニオンの重合体と考えられるとの報告がなされた。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
合同セッションE
スピントロニクス・ナノマグネティクス

東北大通研 大野 裕三
東北大金研 福村 知昭
「スピントロニクス・ナノマグネティクス」合同セッションは講演会初日(8月29日)から3日目(31日)まで開催された。講演件数は一般講演が62件、講演奨励賞受賞記念講演、JJAP論文賞受賞記念講演各1件の計64件であった。また、関連シンポジウムでは8件の講演がなされた。

半導体系では、室温強磁性を示す希薄磁性半導体ZnCrTeについて、組成不均一と強磁性転移温度(TC)との相関が報告され注目を集めた(筑波大・物材機構・ポーランド科学アカデミー)。TEM/EDSの測定結果から、結晶成長条件によってCr濃度の高い領域が形成されることが明らかとなり、これがTCの上昇をもたらしていることが示された。
先に阪大グループより示されたスピノーダル分解によるナノクラスタ形成のシミュレーション結果とコンシステントであり、希薄磁性半導体における高温強磁性の起源の有力候補のひとつといえる。同じく高い転移温度を持つGaNベース希薄磁性半導体に関しては強磁性の性質のより詳細な解明が待たれる。また、阪大グループからはナノクラスタの位置・形状制御の可能性が報告され、Si系強磁性体の報告もあり、新物質創生・物性探索研究に新しいベクトルが加わった印象を受けた。

強磁性半導体へテロ構造・デバイス関連では、東大の大矢らによって(Ga,Mn)Asの量子サイズ効果が共鳴トンネル分光法により初めて観測された。また、東北大通研の山ノ内氏による講演奨励賞受賞記念講演では、「(Ga,Mn)Asにおける電流誘起および外部磁界誘起磁壁移動」と題して、電流・磁界による磁壁移動のメカニズム解明に向けた一連の研究成果が紹介された。

金属系では、春の講演会に引き続きMgOを障壁層とする磁気トンネル接合(MTJ)関係の講演が多くを占め、議論も活発に行われた。2004年にFe/MgO/Fe系MTJで巨大TMRが産総研より報告されて以来、TMR比は右肩上がりを維持している。本講演会では、CoFeB/ MgO/ CoFeBのMTJにおいて室温で472%、低温で804%のTMRが報告された(東北大通研)。ホイスラー合金系MTJでもMgO障壁が用いられ、TMR特性に室温で100%以上のTMR比が報告されるなど、大きな進展がみられた(東北大、北大)。また、MRAM実現に不可欠な低消費電力書き換え技術であるスピン注入磁化反転に関しても、MgO障壁MTJを中心に研究がなされ、閾値電流密度低減にむけた磁性材料の基礎物性の検討(東北大)、積層フリー層構造(東北大通研)の他、熱安定性など実用化に向けた課題に焦点を当てた報告もなされた。

MTJ以外では、磁性金属ナノ構造における高周波電流整流作用(慶応大・京大・阪大・産総研)など、ナノマグネティクス材料・デバイスの新しい応用へ拡がる成果の芽も見られた。

酸化物系では、Ti1-xCoxO2-δの異常ホール効果のスケーリングや光制御、およびFe3-xMnxO4の電界制御など強磁性酸化物半導体の強磁性の性質やその制御に関する報告がなされた(東北大金研、阪大産研など)。

また、3日目の午後には、東北大金研の豊崎氏より「A Ferromagnetic Oxide Semiconductor as Spin Injection Electrode in Magnetic Tunnel Junction」と題してJJAP論文賞受賞記念講演がなされた。高い転移温度を有する酸化物強磁性半導体や強相関酸化物において、デバイス構造の作製・機能実現に向けた研究の進展が待たれる。

2日目の午後に開催されたシンポジウム「スピンエレクトロニクスの萌芽的研究と実用化研究最前線」では、半導体核スピンや光・電界誘起磁化など物性・材料の基礎研究から、スピン注入磁化反転の理論とMRAM開発の現状、さらにTMRヘッドや熱アシスト磁気記録など開発の最前線の研究報告がなされた。

本合同セッションは多くの方々のご協力により順調に発展し、春の講演会では一般講演件数が100件を越えた。今後もさらに多くの方々、特に企業の方々には本セッションへのご投稿と多数の参加を期待したい。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
合同セッションF
カーボンナノチューブの基礎と応用

京都工繊大 林 康明
名大 大野 雄高
三重大 畑 浩一
合同セッションFでは、初日にシンポジウム、2〜4日目に一般講演による発表があった。発表件数は一般講演が99件で、相変わらずこの分野の関心の高さがうかがえる。3日間では一般講演全部を終えきれないため、今回も2日目がパラレルセッションとなった。

2日目のA会場では、午前中は電界電子放出などについての発表があった。電界放出に関する報告は10件であり、従来からのナノ炭素材料(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノウォール)の電子放出に関する基礎特性の報告は減少した。その一方で、SEM用高輝度電子源やSPM探針など、応用を目指した報告があった。また、アトムプローブを用いたカーボンナノチューブの組成分析および電界蒸発時の開裂クラスターサイズに関する報告が2件あり、強電界中でのナノチューブの物性を知る上で重要な知見を与えるものであった。

午後はナノチューブ以外のカーボンナノ材料に関する講演であった。シート状に直立したカーボンナノウォールはナノチューブと同様に電界電子放出材料としての応用が期待されており、一部で関心が持たれている。
今回も、成長過程に関する構造解析や低温形成、バイアス効果についての作製技術など6件の発表があった。また、カーボンナノホーンはメタノール燃料電池の電極担持材料として有望視されている。アーク放電法による作製についての講演が3件あり、作製技術の開発、構造、電極金属の担持などについて発表があった。

D会場では、ナノチューブの成長に関して、触媒に注目した発表がいくつかなされた。富士通はインパクタを用いた触媒サイズ選択により、従来のDMAに比べ1,000倍のスループットで触媒微粒子を堆積させることを可能としたことを報告し、注目を集めた。午後の注目発表としては特に次の3件が挙げられる。まず、九大ISEEからは、ナノチューブの可溶化が水中マイクロプラズマを用いた簡便な方法で可能であることが報告された。
また、九大先導研のグループは、電気泳動を用いた半導体・金属分離の可能性について検討し、ナノチューブの分散に用いる界面活性剤のゼータ電位が関係していることを明らかにした。センサー応用に関しては多くの発表がなされたが、特に、プラズマCVD法により成長された垂直配向ナノチューブ膜を用いた高感度アンペロメトリックバイオセンサー(名大、阪大)などが注目を集めた。

3日目は、CVD法によるカーボンナノチューブの作製や評価に関する講演が中心であった。作製にプラズマを利用したものは1/3ほどで、大気圧プラズマや拡散プラズマのダメージの少ない条件下での単層カーボンナノチューブの成長、大面積基板への配向カーボンナノチューブ作製技術の開発、基板に照射するイオンフラックスの制御、配向成長初期過程のその場解析、液体プラズマを用いたDNA内包などに関する発表があった。
熱CVDによるものでは、単層カーボンナノチューブが中心で、材料評価、成長機構解析、作製技術に関する発表があった。ラマン分光法やXPSを用いたその場観察による成長初期過程の解析が試みられており、今後の研究展開が期待される。最近注目されているスーパーグロースCVD法に関して、水添加効果についての考察や単層カーボンナノチューブ成長密度の制御についての発表もあった。

4日目は、まず、ナノチューブへのイオン照射(東北大)やVUV照射(NTT)、中性粒子ビーム照射(東北大)の影響が報告された。
次に、電子デバイスに関する17件の発表がなされた。表面・界面について、いくつか重要な報告がなされている。絶縁膜を形成したナノチューブFETにおいては容易にクーロン振動が得られること(阪大)、ナノチューブ/電極接合において電気的コンタクトが電極のエッジ部のみで行われていること(名大)、ビア配線の下部電極TiN電極が低抵抗コンタクトに重要な役割をしていること(富士通)などが挙げられる。京大のグループは、ナノチューブFETの電位分布測定法としてKFMとAFMポテンショメトリを比較し、それぞれの長所・短所を明らかにした。興味深い報告としては、ナノチューブの電流の高温特性からバンドギャップを見積もられる可能性を指摘した報告(阪大)が挙げられる。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
合同セッションG
量子情報

名大院工 吉田 隆
超伝導分科の講演総数は、関連の合同セッションG「量子情報の基礎と応用」を含め110件であった。アメリカ、シアトルで開催されたApplied Superconductivity Conferences (ASC)2006 会期重複のため、講演件数自体は従来に比べ、大幅に減少した。

「9.1 基礎物性」では23件の講演が行われた。
発表の内訳としては、厚膜・薄膜関係4件、バルク・単結晶関係8件、接合関係8件と磁気光学顕微鏡関連他で3件であった。薄膜関係では塗布熱分解法による(RE)Ba2Cu3O7-dや、超伝導体探索をめざしたNi酸化物薄膜作成、La2-XREXCuO4など材料の成膜、特性評価が報告された。また接合関係では、固有ジョセフソン接合の磁束フロー特性や、ジョセフソン効果と光学ラマンフォノンとの相互作用によるサブギャップ構造の解析、接合リターン電流の解析など興味深い報告がなされた。その他、多くの講演において活発な議論が行われた。

「9.2 新材料、新薄膜、新低温動作デバイス」では、新材料、MgB2系、新デバイス関係の薄膜作成と物性評価と分類されて11件の講演が行われた。MgB2系(5件)では、この材料を用いたデバイス作成時の具体的な問題克服に関する報告が興味を惹いていた。プラスチックフィルム上に作成された薄膜の歪み特性、成長時の基板温度の影響、格子不整合緩和目的のバッファ層材料の検討、および多層構造プロセスにおけるバリの抑制方法などに関するものである。新デバイス関係の薄膜作成技術と特性関連では、主にヘテロエピタキシャル薄膜の特性に関する報告がなされた。例えば、パルスレーザによるNbNヘテロエピタキシー薄膜の Tc 特性、銅酸化物超伝導体(LSCO/LSMO 薄膜)の電流注入特性など、量子ビット応用を目指したBSCCOを用いた微小接合のスイッチング特性(2件)に関しては、活発な質疑応答が行われた。

「9.3 薄膜、厚膜、テープ作製プロセスおよび結晶成長」では、MOD法などの固相エピタキシャル成長法を用いたREBCO系超伝導体の作製を中心として、12件の発表があった。MOD法では、(Nd,Eu,Gd)BCO薄膜の成長を高温光学顕微鏡によってその場観察し、正方形状の結晶が成長する様子が報告された。また、仮焼膜にレーザーを照射し、工程の短縮を図るレーザーアシストMOD法に関する報告もされ、従来法と比較して半分程度の時間までに短縮することに成功している。また、PLD法を用いたREBCO薄膜に関しては、AZrO3(A=Ba, Sr, Ca)を導入したGdBCO膜が、A=Caの場合、特に顕著にTcが低下することが報告された。また、Co及びSrを希薄ドープしたErBCO薄膜では、Coに比べてSrの方がピン止め力が高いことが明らかとなった。YBCOとSrTiO3を交互に積層した厚膜試料では、従来法と比して、厚い膜でもa軸粒はほとんど見られず、ごく一部で見られるa軸粒の上にSTO層が積層されることで、再びc軸配向成長に戻る様子が観察されている。

「9.4 臨界電流、超伝導パワー応用」のセッションでは、15件の講演が行われた。バルク材では140mm径の大型バルクの作製と着磁磁場特性についての報告があった。今後の応用範囲の拡大が期待される。第3高調波電圧誘導法については標準化に向けた取り組みが 進められており、関連する2件の報告がなされた。また、局所的な電磁気特性の計測・評価に関連する研究としては、磁気光学法磁束観察装置の高分解能化や、SQUID顕微鏡を用いたマルチフィラメント線材内部の電流分布の可視化について報告がなされた。

「9.5アナログおよび関連技術」では、超伝導検出器、SQUIDを中心に19件の講演が行われた。超伝導検出器では、STJおよびTESの吸収効率向上およびノイズ低減を目的とした素子構造の最適化について議論された。磁束量子フロートランジスタの光・電気の2系統入力信号による動作確認や、電圧標準システムの冷凍機ノイズ対策による動作マージン拡大について報告があった。SQUIDでは、免疫検査応用を中心に報告があり、熱応答性磁性ナノ粒子による高感度化や未結合磁気マーカの信号抑制など磁気マーカの検出法について議論された。磁気シールド技術では、有限要素法を用いた磁気シールド室のダクトの最適設計や、高温超伝導体シールド材料のシールド特性が議論された。

「9.6 接合、回路作製プロセスおよびデジタル応用」では、9月1日の午前にセッションが行われ合計14件の発表があった。高温超伝導接合及び集積回路に関する発表が6件、Nb系超伝導集積回路に関する発表が6件、光インターフェースに関する発表が2件あり、それぞれ最新の結果が報告された。セッション参加人数は30名弱と決して多くはなかったが緊密な雰囲気の中で議論が行われ、有意義なセッションとなった。

なお、本報告は、高野義彦(物材機構)、仙場浩一(NTT物性基礎研)、一野祐亮(名大)、木須隆暢(九大)、井上昌睦(九大)、師岡利光(セイコーインスツル)、寺井弘高(情報機構)の各氏の協力により作成したものである。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
合同セッションK
「酸化亜鉛系機能性材料」

石巻専修大学 安田 隆
透明導電膜、センサー、紫外発光デバイス、透明トランジスター、スピントロニクス、ナノデバイスなど、多彩な分野への応用が期待される酸化亜鉛系機能性材料の研究促進を目的として、「薄膜・表面」の「6.3酸化物エレクトロニクス」、「6.4薄膜新材料」、および「結晶工学」の「13.2 II-VI族結晶」により、本合同セッションが設置され、今回で5回目となる。広範な酸化亜鉛研究者が一同に集まって討論する場として活況を呈し、今回の講演会は、春を大幅に越える66件の講演を集め、常時200人を越える参加者が会場にあふれる状況の中で、活発な討論が行われた。

酸化亜鉛の多彩な応用分野を反映して、講演内容は、 PLDやMBE,MOCVDによる高品質結晶の作成(ドーピングやヘテロ接合をめざして)、スパッターや反応性プラズマ蒸着法による大面積導電膜の作成、溶液法による新しい合成技術の開発、さらにナノ構造の作成など、非常に幅広いものとなっている。以下に各トピックスの内容を、いくつかの興味深い講演を中心として紹介する。

p型伝導制御実現のために東北大のグループにより開発された反復温度変調法を実用デバイス作成へ応用するために、レーザー加熱機構を有するMOCVD装置の開発や2インチ基板対応の加熱装置の開発が報告された。LEDやLDの実用化のためには、p型ドーピング技術を確実なものとすることが必要不可欠であり、今後の展開が期待される。
また、前回印象的な青色発光ダイオードを報告した岩手大のグループは、p型を示すZnO:N膜のPL特性を検討し、その伝導機構の解明に取り組んでいる。さらに、窒素添加に関して、基板依存性や面方位依存性、さらにはLiとの同時ドーピング効果などが検討され、p型伝導の最適化をめざして活発な研究が進められている。技術の飛躍のためには、これらの基礎的データの蓄積が重要であり、p型伝導技術の確立へ向けた今後の進展が期待される。また、p型SiC基板上にn型ZnCdO、ZnMgOを積層する新しい構造のLEDが静岡大学のグループにより提案され、電流注入による青、緑、赤色発光が示された。ZnO LEDの新しい構造として注目される。

透明導電膜は、スパッター法や反応性プラズマ蒸着法などを用いて、実用化を念頭においた研究が進められている。今回は、フレキシブル透明導電膜をめざして、プラスチックなどの有機物基板上へのZnO薄膜の作成が報告され、多くの注目を集めた。

簡便で安価な化学的手法を用いた新しいZnOの合成方法についても多くの報告があった。超音波噴霧法やゾル・ゲル法、メッキ法など、溶液原料を利用する方法は、大面積や複雑な形状への成膜が可能であることに加え、製造装置が安価である。ZnOの広い応用範囲を考えると、今後開発が望まれる合成技術である。

ZnOは、成長条件を工夫することにより、ナノロッドやナノ粒子が自然成長する。この特徴を利用して、様々なナノ構造の作成が試みられている。今回は、これらのナノロッドの光学特性(発光、ラマン散乱)について興味深い報告があった。特に、近接場光学を用いて、ロッド先端に形成された2重量子井戸発光のダイナミクスが測定され注目を集めた。今後、新しいフォトニクスデバイスへの展開が期待される。
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