応用物理学会
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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
総括一般セッションシンポジウムスクール
スクール報告

最近のマイクロ・ナノ微細加工技術と MEMSの産業応用

立命館大学理工 田中 克彦
第67回応用物理学会学術講演会の2日目に、「最近のマイクロ・ナノ微細加工技術とMEMSの産業応用」をテーマに取り上げて第39回のスクールが開催された。今回は教育・公益事業委員会と秋季講演会の開催地である立命館大学のマイクロシステム技術研究センターとの共催で行われた。近年マイクロ・ナノ微細加工技術の多様化とMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の産業応用が進み、応用物理学会の講演会でも個々のセッションで関連する発表がされている。そこでMEMSの初心者を対象に、微細加工技術の基礎、MEMSデバイスの基礎から最近の産業応用まで全体を展望できることを目的にこのスクールが企画された。

スクールは高井吉明委員長(名大)の開催挨拶に始まった。次いで杉山進氏(立命大)から「MEMS・集積化の進展と新産業創出への期待」と題して、MEMS技術の発展、市場予測、集積・融合技術の研究例、製造技術の進展などの解説がなされ、MEMS技術の概要と新産業における位置づけを把握することができた。

次いで微細加工技術に関して3件の講演がなされた。最初、佐藤一雄氏(名大)が「シリコンの微細加工技術」と題して、Si微細加工の基礎となる各種エッチング技術について分かりやすく解説を行った。Si微細加工はMEMS で最も多く使われている技術であり、異方性エッチング、エッチストップ、メンブレン形成など初心者にとってすぐに役立つ講演であった。続いて、Si 以外の微細加工技術として、宮野公樹氏(京大)が「LIGA プロセス」の演題で、SR光を利用したLIGAプロセスについて解説を行った。移動マスクX線露光法による高アスペクト比構造体の加工例を紹介し、LIGAプロセスが立体構造の作製に有効であることを示した。またNi 以外の構造材料についても研究例を紹介し、実用化の展開を示した。3件目は平井義彦氏(大阪府立大)から、「ナノインプリント技術」と題して、特にMEMS デバイスで用いられている熱インプリントを中心にプロセスの基本原理と高分子樹脂の成形性について説明がなされた。リバーサルインプリント法による積層構造体の形成は、ナノチャネルやフォトニック結晶など今後の新しいマイクロ・ナノデバイスの創出につながる技術として期待される。

次いでMEMSの要素デバイス2件の講演があった。1件目は小野崇人氏(東北大)から「マイクロセンサの基礎」と題して、化学センサ、圧力・加速度・角速度センサ、形状・位置センサなどこれまでの豊富な研究事例が紹介された。マイクロセンサの検出原理、具体的な構造、パッケージング技術や開発のポイントを知ることができた。2件目は小西聡氏(立命大)の講演で、「マイクロアクチュエータの基礎」と題して、アクチュエータの基本構造と静電型、圧電型、熱型各アクチュエータの設計について式を用いて分かりやすく解説がなされ、最後に講師が行っているバルーン(風船)型アクチュエータが紹介された。マイクロアクチュエータを開発する上で初心者にとって役に立つ講演であった。

最後に、最近のMEMSの産業応用に関して、産業界の講師から3件の講演がなされた。1件目は武田宗久氏(三菱電機)から「MEMSの情報通信・自動車応用」と題して、自動車に搭載されているエアフロー、圧力、加速度などのメカニカルセンサや通信用RFスイッチなどの紹介がなされ、現在MEMSの実用化が最も進んでいるこの分野の現状が示された。続いて中西博昭氏(島津製作所)から「MEMSの化学分析・バイオ応用」と題して、マイクロチップ電気泳動、マイクロリアクターなどマイクロ分析システム(μTAS)やDNA分析について講演がなされ、微量分析、微量合成を特徴とするマイクロシステムのニーズとその実用性が示された。最後に三原孝士氏(オリンパス)が「医用マイクロマシン・MEMSの現状」と題して、今後の展開が期待される医療MEMSの開発例を国のマイクロマシンプロジェクトや最近スタートした同社未来創造研究所の取り組みと併せて紹介した。

聴講者は事前申し込みとキャンセル分の当日受け付けを含めて257名で、盛況であった。今回、講演終了後のオプションとして、立命館大学のSRセンター(放射光施設)とマイクロシステム技術研究センターの見学会を開催した。こちらも定員40名を越える申し込みがあった。今回は共催であったため、半数近くが応用物理学会会員以外の参加者であったが、非会員に当学会を知っていただくよい機会にもなった。なお、聴講後のアンケートでは、95%の人が「役立った」、99%の人が「理解できた」と回答された。また、内容・レベルが適切で基礎から応用まで広く理解できたという意見が多く、当初の趣旨に沿うスクールであった。これを機会にMEMSの研究者が増え、MEMSの新しい産業展開が進むことを期待したい。最後に、ご多忙な中テキストの執筆とご講義を担当していただいた講師の方々に感謝申し上げます。

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2006年 第67回応用物理学会学術講演会(立命館大学)報告
スクール報告

進化するディスプレイ技術 −現状とさらなる発展に向けて−

三洋電機(株) 田口 幹朗
松下電器産業(株) 山本 和彦
奈良先端大 浦岡 行治
1998年春季に発光ディスプレイパネルに関するスクールが開催されてから8年が経過した。当時から主流の液晶ディプレイは市場をリードし続け、自発光型として期待されたプラズマディスプレイの普及は本格的なものとなった。有機ELやフルカラーLED大型ディスプレイが大きく発展し、フレキシブルディスプレイ、電子ペーパーといった、新たな情報提供媒体としてのディスプレイについても開発が進み、応用分野はさらに広がりつつある。

本スクールは若手研究者、学生を主な対象として、各種ディスプレイにおける技術開発についての現状と課題、将来の方向性などを概説することを目的として企画したものである。スクールの内容は、大学側からの大局的な概論と企業からの個々のデバイスにおける各論という形で行われた。会場には定員120名に対し239名の参加者を集め、盛況であった。

東北大の内田教授は、人間が入手する情報の85%は目を通して画像として取り込んでいることから、情報入力手段としてのディスプレイの重要性を再確認した上で、映像用(テレビ等;鮮やかさ、明るさを重視)、情報用(コンピュータ等;疲労を伴わない、見やすさを重視)、ウェアラブル用(携帯電話等;屋外、室内いずれでも見やすく、かつ低消費電力が重要)の各種用途に応じてディスプレイの種類や構成を使い分けることが必要であるとした。ディスプレイの将来像としては、電子ウィンドーなどの環境空間創生ディスプレイが次に来るものであるが、ディスプレイとともにヴィジュアル・コミュニケーションのための動画作成を簡便にできるサポートシステムの開発も必要であると述べた。また、テレビなどのディスプレイにおける価格低下に関して、自動車の受注生産システムを引き合いに、価格をメーカーの開発費等を含めて相当な額を維持できるようなビジネスモデルを構築しないと、労働力の安い海外への生産シフトとともに技術も流出してしまうことに歯止めがかからないと苦言を呈した。

シャープの岡本氏は液晶ディスプレイがTNモードからSTN、DSTN、TFTへ進化する過程や、TFTでの大型サイズ化における技術的なブレークスルー、視野角の拡大や応答速度、コントラストの改善への取り組みなど液晶ディスプレイの歴史は、壁に当たる度に新たな技術を開発するという挑戦の歴史であったとし、過去の積み重ねの上に今日の地位があるということを強調した。最近のデュアルビュー液晶等の新機能を有するディスプレイの開発や、携帯電話から巨大ディスプレイまで様々な用途に対応するラインアップは技術の蓄積と自信を感じさせる講演であった。

松下の北川氏はプラズマディスプレイについて、原理はRGBの蛍光体を塗布した数百ミクロンサイズの蛍光灯の集まりであるとし、単純で身近にあるものであるとした。画素にあたるセルの明るさを制御する駆動回路には、1 TVフィールド(約16msec)内に発光回数を制御する複雑な回路構成が必要でコストがかかる反面、パネル自体には液晶のように駆動部を作り込む必要がなく50インチ以上の大型サイズに、よりメリットがあると紹介した。最近では、プラズマチューブアレイ、球状セルパネルなど新しい分野での展開も期待される。

三洋の池田氏はプロジェクション型ディスプレイは業務用分野においてプラズマ型よりもさらに大きなスクリーンサイズで市場を形成しており、今後は民生用もさらにニーズが拡大すると報告した。用途の拡大には輝度の向上が不可欠で、超高圧ランプの改善や偏光変換技術などの開発進捗が紹介された。PDPやプロジェクションでは全方位型の戦略を指向する液晶ディスプレイとは一線を画し、ターゲットを絞っている点が興味深い。

三菱電機の前嶋氏はLEDを用いた大型ディスプレイについて、青色、緑色LEDの量産、輝度向上、低価格化により、2000年頃を境に従来のCRT/放電管方式からの転換が進んだと述べた。赤色LEDでは電流-光度特性が線形関係にあるが、緑・青色は非線形であって、その明るさ調整にはパルス幅制御、LED素子毎のばらつき補正など技術面での取り組みが為されていることを紹介した。

セイコーエプソンの井上氏は、フレキシブルディスプレイを実現するためのキーとなる技術、さらにそれを応用した幅広い次世代の製品を紹介し、ディスプレイの将来を熱く語った。SUFTLAと命名された基板転写技術や、電子タグ、スマートカード、指紋センサーなどのディスプレイの枠を超えた製品展開には目をみはるものがあった。さらに、液体シリコン材料からのTFT形成技術はこれからのディスプレイ形成技術の方向性を示すものであった。急速かつ確実に進化しつつあるディスプレイ技術を肌で感じるインパクトのある講演であった。

凸版印刷の壇上氏は電子ペーパーについて講演し、新聞紙を越える高コントラストをすでに達成し、90分までなら紙面と目の疲れは同等という結果を紹介し、さらに応答速度の向上、カラー化や超低消費電力の実現などから、本格的な商用化は近いと強調した。講演会後に会場に実機を展示し、参加者の興味をかき立て、認知度を向上させた。

シャープの三ツ井氏はポリマー有機ELについて、発光層と正孔輸送層の間にインターレイヤを挿入した三層構造を紹介し、正孔注入材料であるPEDOT-PSSとの界面における励起子失活の防止や、PEDOT-PSSへの電子流入のブロックによる効果により、発光効率と長寿命に寄与するとした。寿命の点で課題は残るが、同社のLCDで培ったTFT技術と、生産性の良いインクジェット塗布方式の融合により、特性に加えて製造技術面でも実用化に向けた発展が期待される。

今回の講演会の企画にあたっては、元気なディスプレイメーカーが地元関西に多いこともあり、支部として是非にとご協力をお願いして開催の運びとなった。多忙なスケジュールの中、テキストの執筆およびご講演にご尽力いただいた講師の先生方に深く謝意を表する次第である。
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