応用物理学会
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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
総論 [PDF]一般セッションシンポジウム非晶質・微結晶
フラーレン系低次元ナノマテリアル研究の最前線

(独)物質・材料研究機構 代表世話人 宮澤薫一
低次元物質では,バルクとは異なった新奇な物性が現れることが知られており,C60ウィスカーにおいては,直径が小さくなるほど電気抵抗率が小さくなるという異常な現象が見出されている.近年,多様な低次元フラーレン結晶の合成やデバイス応用研究が行われており,ナノカーボンの新領域が形成されつつある.そこで,本シンポジウムは,フラーレン系低次元物質の合成,物性,応用における最新の研究を紹介することを目的として開催された.

まず,増野匡彦(共立薬大)らは,物性研究や薬学利用におけるフラーレン誘導体合成の意義,フラーレン誘導体を複合させたFNWのラマン分光による構造研究,及び,置換基のイオン性を利用したFNWの合成法等について発表した.若原孝次(物材機構)らは金属内包フラーレン分子内の金属原子の動きを置換基の付加によって制御する試みを述べ,La2@C80の例を紹介した.また,Missing Metallofullerene等の話題を提供した.フラーレンの良溶媒飽和溶液にフラーレンの貧溶媒を重層して合成する液−液界面析出法(液−液法)は,フラーレン結晶中に様々な元素を複合させることができる.Marappan Sathish(物材機構)らは,液−液によりCe,Ti,Fe,Niなどの元素をC60ナノウィスカー(C60NW)母相中に分散させることに成功した.緒方啓典(法政大)らは,液−液法により,ジヒドロフレロイドやフェロセンなどを用いた新規なFNWやフラーレン誘導体結晶合成の試みと構造研究について報告した.Cherry Ringor(物材機構)らは,C60飽和ピリジン溶液に光を照射することにより,C60ナノチューブ(C60NT)を高い収率で得ることや,収率が照射光の波長に依存することを示した.車承一(物材機構)らは,C60飽和トルエン溶液中に多孔質アルミナ膜を介してイソプロピルアルコールを注入する方法によって,垂直配向したC60マイクロチューブを合成した.この方法は,液−液法の発展形として広い応用が期待される.

上記の合成法に対して,及川英俊(東北大)は,フラーレンの貧溶媒にフラーレンの良溶媒溶液を注入する方法である再沈法により,ウィスカー状,中空針状,板状などの多様な形状の低次元フラーレン結晶が合成できること,溶媒の組合わせと合成条件の選択により形状が系統的に制御できること等を示した. 続いて,北澤英明,端健二郎(物材機構)らは,室温から低温に至るまでのC60NWやC60NTの構造と比熱の変化がバルクC60結晶に比べて明瞭でないことを指摘した.NMRとラマン分光によりC60分子の運動を考察し,さらに,ラマン測定時のC60NWポリマーの生成と残留溶媒の関係を示唆した.橘勝(横浜市大)らは溶液中のC60NWが,乾燥したC60NWよりもはるかに高い弾性限界を持つことを発見し,長期間液中保存したC60NWの六方晶構造が安定に保たれることを報告した.安坂幸師(名古屋大)らは,C60NWの加熱により生じたカーボンナノカプセルのバネ定数をAFM機能を内蔵した透過電子顕微鏡を用いて測定し,カーボンナノカプセルが高い靭性を持つことや,その量子化コンダクタンスの測定結果について報告した.

藤田大介(物材機構)らは,オージェ電子分光法によってC60NWの表面酸化層の存在を示し,これがSPMで計測した導電性と密接に関係することを述べた.薄い絶縁性酸化層の発見は,C60NWの電気的性質の理解に貢献する.C60NWやC60NTの構造に及ぼす光照射の影響は,残留溶媒分子,雰囲気,結晶性などに依存することが松石清人(筑波大)らによって報告された.C60NWやC60NTの発光が測定位置によって異なっており,FNWの構造が一様でないことが示唆される. 熊代良一(東北大)らは,ヨウ素をドープしたC60NWの電気伝導性がpristine C60とは違っており,構造変化に対応した電気抵抗率の特異な温度依存性が観察されることや,C60NTのn型伝導性等について報告した. 落合勇一(千葉大)らはn型電子伝導を示すフラーレンを用いた電界効果型トランジスタ(FET)の作製において,電子注入障壁を制御することの必要性を説き,Mgなどの電極材料選択の重要性について報告した.最後に,藤田が全体を総括した.

以上,14件の発表があり,合成,物性,応用面における広範な報告と,活発な質疑応答が行なわれた.本シンポジウム開催にご協力いただきました皆様方に厚く御礼申し上げます.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
X線・中性子による quick 反射率法の展望
−表面や埋もれたナノ構造の変化を追う(III)

物材機構 桜井健次
X線および中性子による反射率法は,物質表面での全反射現象を利用して非破壊に薄膜・多層膜の表面や埋もれたナノ構造の情報を与える手法である.平行化させた細束ビームにより微小角域で精密なθ/2θステップ走査を行う方法が通常用いられるため,研究対象が安定で変化しない系に限られていたが,最近,迅速にデータを取得する新技術への期待感が高まっている.上記の3つの講演のすべてが,SPring-8 のアンジュレータ放射光を用いた研究成果であった.そこで2005年春(埼玉大学)および2006年秋(立命館大学)に開催されたシンポジウムに続き,「素早い」「時分割」あるいは「試料をほとんど動かさない」quick 反射率法および関連技法を用いた解析の最近の進歩と今後の課題を議論した.

Quick な技術を使って見てみたい研究対象は多岐にわたる.高橋正光(原子力機構)は,CCDカメラを搭載したX線回折計とMBE真空槽を一体化させ,GaAs(001)基板上にInAs量子ドットが成長する過程を10秒以内程度で連続モニターする技術を開発した.成長温度の違い等によりミスフィット転位の発生と分布,量子ドットの形状や高さに変化が生じることがX線の動画像により確認され,成長条件の最適化の指針とするのに有用であることを説明した.矢野陽子(立命館大)は,タンパク質のフォールディング/アンフォールディング過程を研究する方法として,液体表面のX線反射率を quick に測定する技術を活用しようとしている.現状はθ/2θ走査を用いているものの,できるだけ迅速な走査を行うことで,5分以内程度で必要な角度領域(q=0〜0.8Å-1)のデータを取得できており,最近,高性能のピクセル検出器の採用により,更に高度化が進んだ.松野信也(旭化成)は,シリコン基板上にスピンキャストしたポリイミド薄膜の結晶化過程における配向の変化をイメージングプレート搭載X線回折計によりIn-plane および Out-of-plane 同時に数分程度の時間間隔で連続的に観察した結果を報告した.以上の3つの報告のいずれもが,SPring-8 のアンジュレータ光(それぞれ別のビームライン)を活用したものであった.

中性子反射率法は,X線では検出・識別が容易ではない軽元素ベースの物質,とりわけ,高分子薄膜の構造研究に威力を発揮する.また,加速器からのパルス中性子を用いた飛行時間(Time of flight)計測法は,もともとθ/2θステップ走査を必要とせず,試料も光学系も静止状態のままデータ取得できる方法である.2008年に茨城県東海村に大強度のパルス中性子源J-PARC が運転開始する予定であり,静的な構造にとどまらず,変化するものを研究対象にしようとする機運が急速に高まっている.川口大輔(名大)は,環状ポリスチレンと重水素置換した環状ポリスチレンの2層膜について,窒素雰囲気下 383〜393 K で熱処理を行い,中性子反射率データに現れた経時変化(10分〜1時間程度)を界面における相互拡散の観点から議論した.山田悟史(高エネ機構)は,リン脂質に NaI 等の添加剤水溶液を加えることにより生じる効果を in-situ および ex-situ の測定により検討した.

Quickな計測技術を飛躍的に進歩させるためには,装置そのものや要素技術に関する豊富な知識と経験を有する専門的研究者の寄与が不可欠である.宇留賀朋哉(JASRI)は,SPring-8 BL37XUにおいて稼働中の溶液化学用X線反射率計の最近の状況と今後のアップグレード計画を説明した.現状は,静的な安定な系を精密に測定することを基本としており,その枠組みのなかで,できる限りの迅速測定が試みられている.今後の開発では,quick 測定も視野にいれており,進展が期待される.松下正(高エネ機構)は,PFAR NW2 において開発中の独自のポリクロメータを用いた quick 反射率計の最近の状況を報告した.検出器にはフォトダイオードアレイが用いられている.既に0.1 秒以下のデータ取得が標準的になっており,今後更に迅速化が予定されている.同時に取得できるqレンジがあまり広くないことや試料の設置に関し自由度に制約があること等が今後の検討課題である.奥田浩司(京大)は,塑性変形法によるシリコンまたはゲルマニウムの新規なX線光学素子の開発状況と,現在作成されている素子の性能を報告した.この技術は,従来知られている湾曲結晶モノクロメータの限界を超えて,高効率な集光を実現する可能性があり,Naudonの方法に代表される単色X線による角度分散型の quick 反射率法等に効果的に活用されることが期待されている.

本シンポジウムは,応用物理学会新領域グループ「埋もれた界面のX線中性子解析グループ」により企画された.今後も同種の研究会が連続企画される予定であるので,関心のある読者は,ホームページ(http://www.nims.go.jp/xray/ref/)を参照してほしい.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
ナノインプリント樹脂材料の開発最前線

兵庫県立大学 松井真二
本シンポジウムは,ナノインプリント技術研究会(http://nanoimprint.jp/)の第3回目の会合として企画された.現在,研究会の企業賛助会員は37社,一般・特別会員は49名となっており,来る11月に第4回を,年明けに5回目を開催する予定である.

さて,今回のシンポジウムでは,基調講演として特許庁の山本氏から「ナノインプリント技術の特許出願動向」について,出願動向調査,出願人ランキング,研究開発動向について講演いただいた.特許庁は,平成18年度にナノインプリント技術について特許出願技術動向調査を行い,平成19年度4月に調査結果を報告している.調査結果の要約版については特許庁HPに掲載されている.図1は特許出願動向として,日本,米国,欧州,中国,韓国への1990年から2004年の累計を示している.累積出願件数は,米国,日本,欧州,韓国,中国の順である.講演の詳細については,講演資料をナノインプリント技術研究会HPに掲載しており,参照していただきたい.

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図1 1990-2004年の特許出願件数国別累計

基調講演に続き,「ナノインプリント樹脂材料の開発最前線」と題して,国内8社の材料メーカからナノインプリント転写材料の最新研究成果報告があり,まず,光ナノインプリント用樹脂として,3件の講演を行っていただいた.(1)「ナノインプリント用フッ素樹脂」として,旭硝子(株)の川口氏より講演いただいた.ナノインプリント技術の鍵は“離型”であり,フッ素系樹脂を用いたナノインプリント用のレプリカモールド材料および被告加工材料について検討を行い,何れの基材についても離型剤なしで転写精度良くレプリカモールドが作製できること,特にロール転写用のモールドとしても使用可能であることが報告された.

次に(2)「光ナノインプリント用樹脂開発」として,東洋合成(株)の坂井氏より,光硬化樹脂の要求特性および対応する開発例について講演していただいた.光硬化樹脂パターンの用途は永久部材とプロセス部材に大別され,プロセス部材は半導体プロセスに代表されるドライプロセス用,メッキ等のウエットプロセスに分類され,共に良好な結果が得られたことが報告された.

さらに,(3)「光硬化樹脂のインプリントへの適用」として,ダイセル化学(株)の三宅氏から,光ナノインプリントに対して硬化収縮が小さく,酸素等による硬化阻害がない優れた特徴を有する脂環式エポキシ樹脂を組成物に用いた光硬化樹脂開発により優れた転写パターン特性が報告された.

続いて,熱ナノインプリント材料開発について3件の報告があり,まず,(4)「熱ナノインプリント技術を用いて作製した光学素子の紹介」として,綜研化学(株)の三澤氏から,熱ナノインプリント材料において,樹脂の微流動,熱膨張を抑えた転写用樹脂材料を開発し,波長分離光学素子作製への応用例が報告された.

次に,(5)「熱インプリント用樹脂開発」として,丸善石油(株)の高谷氏より,一般の樹脂より,低温,低圧で高精度に熱ナノインプリントを行うことができる樹脂開発および転写特性について報告された.

さらに,(6)「SU−8のナノインプリント材料としての適用検討」として,日本化薬(株)の長井氏より,マイクロ加工技術に幅広く用いられているSU-83000をベースとして熱ナノインプント用に組成検討を行った材料により線幅150 nm(ピッチ350 nm)のパターン形成が報告され,高アスペクトパターン転写材料として期待が示された.

次に,(7)「室温ナノインプリントSOG」として,東京応化工業(株)の竹内氏より,無機SOGであるOCD−12および有機SOGを用いた室温ナノインプリント転写特性が報告され,マイクロレンズ等の光学部品応用展開への期待が示された.

最後に,(8)「ナノインプリント用ドライフィルム」として,旭化成エレクトロニクス(株)の松田氏より,室温でもナノパターンのモールドに転写可能なドライフィルム用開発樹脂についてその転写特性について報告され高生産性材料としての優位性が示された.

本シンポジウムでは,200名もの聴講者から積極的な質問があり,実用化へと加速するナノインプリント樹脂材料への高い関心が示された.  

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
薄膜・表面物理分科会企画シンポジウム
「ナノスケール構造制御技術の最前線」

東京理科大学 本間芳和
筑波大学 重川秀実
本シンポジウムは,2007年11月11日〜15日に応用物理学会の主催で開催される第9回原子制御表面・界面・ナノテクノロジー国際会議(ACSIN-9)のプレシンポジウムという位置づけで,量子ドットやナノワイヤ・ナノチューブなどナノスケール構造の制御技術に関する現在の到達点を理解し,デバイスやシステムへの展開を展望するために開催した.このため,無機・有機材料,デバイス,システム各分野から講演者を招いた.

物材機構の三木は,シリコン清浄表面の原子配列を利用して形成したビスマス原子の形成と,それをテンプレートとした機能性一次元構造体の制御技術を報告した.ビスマス原子細線は,幅がナノメートルスケールで,結晶方位に沿って一直線にミクロンスケールの長さまで伸びるという特徴的な構造を持つ.これにアルミニウムの金属クラスターを一次元的に積層できることが示された.また,細線構造を保ったまま,シリコン基板中に埋め込むことに成功している.

ナノワイヤに関して,NTTの館野はSi(111)表面上の垂直成長GaPをベースにした様々なヘテロ構造の制御を報告した.Auコロイド粒子を触媒として,ナノサイズで直径の揃ったワイヤが得られている.成長途中でガス種や温度条件を変えることにより,軸方向や径方向にGaAs,AlAs,AlGaAsのヘテロ構造を繰り返し成長することが可能である.また,ノードやキャッピングなどの新たな構造を作り込むこともできる.

CNTに関して,産総研の斎藤は気相流動法の一種である改良型直噴熱分解合成法を用いた単層CNTの直径制御を報告した.これは,触媒前駆体を溶解させたトルエンなどの第1炭素源に,分解特性の異なるエチレンなどの第2炭素源を加え,これら炭素原量を独立に制御して反応容器内でのCNT生成位置を変化させ,触媒粒子サイズの変化に対応した径のCNTを得るものである.サブ nmの精度で径の選択が可能になっている.

東大の市川は,自己組織化による量子ドットの作製において,シリコン基板上に1分子層程度の極薄酸化膜を置くことにより,Ge,Feシリサイド,GeSn,GeSbなどのエピタキシャル量子ドットを,大きさを揃えて高密度に生成できることを示した.これは量子ドットの核形成が極薄酸化膜中での化学反応によって生じるためである.サイズを5 nm以下にできるため,室温において量子効果を観察することに成功している. 北大の福井は,リソグラフィとエッチング技術で微細加工を施した基板上に有機金属気相成長法を用いて,基板の加工寸法より小さく原子レベルで平坦な半導体立体ナノ構造を形成する方法を報告した.このトップダウン技術とボトムアップ技術の癒合により,化合物半導体ナノ構造を用いた単電子トランジスタおよびその集積回路を作製している.

NTTの山口は,ナノスケール構造のMEMS応用について,機械構造の微細化の利点を,(1)共振周波数の上昇,(2)力検出感度の向上,(3)低消費電力,(4)量子力学的効果の出現,という観点から整理し,最新の研究動向を解説した.低消費電力の点から,ナノ機械構造を利用したメモリーやロジックにも注目が集まっている.これらのMEMS応用において,CNT,ナノワイヤ,グラフェンなどのナノ材料への期待が示された.

生体分子に関して,東工大の林と原は原子間力顕微鏡を用いた分子認識能計測とナノ構造制御を目指し,基板や探針上への生体分子固定と,それらの力学計測を報告した.ライセニン分子を固定した探針により脂質膜の構成分子の状態に関する検討が可能になった.また,アミノ酸配列を改変した分子を固定した探針を用いて,分子−基板間の相互作用制御の可能性を示した.

北大の居城は,DNAからなる分子集合体を鋳型とした金属化ナノ構造体の作製を報告した.DNAの塩基配列に特異的に結合する金属錯体を利用して,銀やプラチナのナノワイヤを作製した.また,核酸で被覆された銀ナノ粒子を作製し,発光を確認した.

以上を総括すると,それぞれの材料の構造制御技術は高い水準になってきている.一方,デバイスやシステムへの応用はまだ試行段階で,特にNEMS応用ではボトムアップ材料の利用は緒についたばかりである.今後の展開には,材料・デバイス・システム,それぞれの研究者が異分野のニーズ・シーズを知ることが重要であり,その意味でこの種のシンポジウムの意義は大きい.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
結晶工学分科会・応用電子物性分科会共同企画シンポジウム
「実用化の始まった化合物太陽電池」

龍谷大 理工 和田隆博
東工大 量エレ 山田 明
20世紀末から太陽電池の普及は本格化し,21世紀の私たちの生活を支える主力エネルギ−源の一つとして成長しつつある.2006年には全世界で2,521 MW,日本でも928 MWの太陽電池が生産された.現在生産されているほとんどの太陽電池は,多結晶および単結晶シリコン太陽電池で,化合物系太陽電池ではCdTe系が36 MW,CuInSe2(CIS)系が約5 MW生産された.しかし,2007年に入り昭和シェル石油が20 MW/年規模で,2007年末にはホンダも同規模の生産を開始する.昭和シェル石油とホンダの工場が立ち上がるとCIS太陽電池の生産量も飛躍的に増えると期待される.また,超高効率太陽電池を用いた集光型太陽電池についても各国で実証試験が実施され,本格的な実用化一歩手前の段階にある.このように,化合物太陽電池も実用化を迎える時期になり,世間で注目を集めるようになった.さらにシンポジウム直前に昭和シェル石油の子会社である昭和シェルソーラーが新たに生産能力60 MWの第2工場を2009年上期の稼働を目指して建設することを発表した.このため今回のシンポジウムは,日本では研究人口の少ない化合物太陽電池に関する講演にもかかわらず立ち見が出るほどに盛況となり,約150名の聴衆があった.

まず,和田が化合物薄膜太陽電池に関する現状と今後の展開について紹介した.また,MRS-Spring MeetingでHMIのAbou-Rasが行ったCuInSe2とCuInS2薄膜断面のEBSD(Electron Back Scatter Diffraction)マップに関する報告を紹介した.EBSDは結晶粒の結晶方位を色で表し,大傾角粒界(双晶粒界)も色で区別出来るので,多結晶薄膜の微構造を解析するのに非常に有効な方法である.

次に山田が,CIS太陽電池の高効率化に対しては光吸収層材料の高品質化ばかりでなく,界面制御技術,デバイス構造設計技術が重要であると指摘した.次に,Gaのイオン化,Seのクラッキング,光照射など,蒸着法でCIS薄膜を形成する際に外部からエネルギ−を供給してCIS光吸収層の品質向上を図ろうとする取り組みについて紹介した.変換効率20 %以上を達成するためには,自然に形成されたp型CIS膜を用いるのではなく,通常の半導体と同じように不純物のド−ピングによって価電子制御を行う必要があると指摘した.

産総研の仁木は「蒸着法によるCIS太陽電池の製造技術」に関して講演した.産総研では,GaAs基板上へのCISおよびCGS薄膜のエピタキシャル成長から研究を開始した.CIS太陽電池の開発に研究をシフトした後,放射温度計や光散乱分光法を用いたCIS薄膜の化学組成や表面状態のモニタ−技術を開発し,さらに蒸着時に水蒸気を添加することでGa含有量の多いCu(In,Ga)Se2(CIGS)薄膜でも高い変換効率が得られることを示した.さらに最近は,Seをラジカル化することで膜中に効率よく取り入れられる技術を開発し,セレン原料の利用効率を大幅に向上させることに成功している.

昭和シェル石油の櫛屋は,セレン化法によるCIS太陽電池の作製技術の歴史および開発してきた「セレン化/硫化法によるCIS系薄膜太陽電池の量産化」技術について紹介した.セレン化/硫化法ではH2SeガスでIn/Cu-Ga積層膜をセレン化した後,基板温度を高めてH2Sガスで膜表面を硫化する.これにより,Seの利用効率が高められるとのことである.

鹿児島大学の寺田は,CIS太陽電池において標準的に用いられているCBD法で形成したCdS膜とCIGS膜とのバンド・オフセットについて,正逆光電子分光法で分析した結果を報告した.さらに,CdSを用いないバッファ−層として注目されているZn-S-OH系材料においても,バンド接続の観点からはCdS膜の場合と非常に類似していることを指摘した.

シャ−プの高本は,自社で開発を行ってきた宇宙用太陽電池や集光用の超高効率太陽電池について紹介した.印象に残ったのは,基板を外した薄膜だけのフレキシブル超高効率太陽電池であった.基板がないので非常に軽く,湾曲した面にでも貼り付け可能である.高価だとは思うが,今後の超高効率太陽電池の方向性を示すものとして注目される.

筑波大の岡田は,最近欧米を中心に活発に研究が行われている量子効果を用いた太陽電池について解説し,自身が開発している「量子ドット太陽電池」について紹介した.量子効果を用いた太陽電池は複雑なデバイス構造となるが,量子ドット等に興味を持つ太陽電池以外の研究者からたくさんの質問があった.

宇宙航空開発機構(JAXA)の今泉は,宇宙用の太陽電池に必要な「耐放射線性」,「放射線劣化量の予測」技術,それに「宇宙用の太陽電池の技術開発の方向」について講演した.宇宙用太陽電池は,これからもしばらくは市場規模が小さいと考えられるので,地上用太陽電池の技術をいかに効率よく宇宙用に取り込んで行くかが重要であると感じた.

最後に,今回シンポジウムにご参加頂き積極的に質問をして頂いた参加者の方々,並びにご講演をご快諾頂いた講演者の方々に深く感謝申し上げます.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
微細周期構造をもつ光学素子の新展開

大阪府立大学 菊田久雄
オリンパス(株) 槌田博文
このたび,大阪府立大学の菊田と日本光学会光設計研究グループ代表の槌田で共同し,表記シンポジウムを企画・開催した.実施報告として,参加者の一人であるオリンパスの早川和仁氏による報告記事を以下に掲載する.

オリンパス(株)早川和仁氏による報告
2007年9月6日,北海道工業大学での第68回応用物理学会 秋季学術講演会において,「微細周期構造をもつ光学素子」をテーマとしたシンポジウムが開催され,8件の講演がありました.シンポジウムには,150名前後の研究者・技術者が集い,立ち見もでるほどの盛況ぶりでした.

まず,オリンパス(株)の槌田博文氏によるイントロダクトリートークがあり,理論研究・基礎研究レベルで取り組まれてきた微細構造による光の制御技術が,近年の半導体プロセスの進歩や半導体デバイス以外への応用展開の普及,精密加工技術の進歩,材料技術の進歩に伴い,素子としての完成度が高まってきているという最新状況の紹介がありました.

三菱電機(株)の中野貴敬氏による「赤外線光学素子における微細構造の利用」は,微細構造光学素子を使った赤外線撮像光学系に関する講演で,赤外領域ならではの難点である材料の不足を解決する手段として,従来にない光学素子を作製し,製品化に結び付けられたという内容でした.可視光に比べて長い波長であることから,構造が可視光よりも比較的大きくできる,すなわち,作製が容易である,という特徴を上手く捉えられており,可視光領域よりも先に実用化されたことから,今後,可視光領域へと適用できる知見も多いと感じました.

株式会社 リコーの小形哲也氏による「分割偏光素子による光ピックアップ」は,微細構造を使った分割偏光素子による光ピックアップの光学系に関する講演で,半導体プロセスと薄膜成長特性を活用して作製した微細周期構造の分割偏光素子を光ピックアップへと応用し,飛躍的にS/N比を向上できるという内容でした.その一方で,素子構造故のレイアウト上のご苦労についても話題提供もあり,実用化に際して,微細構造素子以外の技術を固めることの重要性をあらためて感じました.

東北大学の佐藤俊一氏による「円周状偏光子と軸対称偏光レーザー」は,微細構造偏光素子を使った軸対称偏光レーザービームに関する講演で,小形氏と同じ半導体プロセスと薄膜成長特性を活用された素子でありながら,レーザービームの偏光特性制御に着目された研究であり,新たなレーザービームの偏光特性を実現できたという内容でした.これらレーザービームは,従来のレーザービームでは得られない特性を有しており,これら特性を生かしたアプリケーションの発展が期待できると感じました.

東北大学の羽根一博教授による「共鳴格子を用いたリニアエンコーダ」は,微細構造素子で構成した共鳴格子のリニアエンコーダに関する講演で,PD上に形成した微細構造を用いて間隙依存性を改善し,PDの特性をエンコーダに合わせ込む微細構造の最適設計を実施したが,プロセスによる形状誤差が設計と実際との差として現れる,という内容でした.設計形状の最適化とプロセス特性を反映した設計が,微細構造においても重要になると感じました.

京都大学の冨士田誠之氏による「フォトニック結晶有機ELデバイス」は,有機ELデバイス上に形成したフォトニック結晶に関する講演で,デバイスとしての光利用効率の最大化が懸案事項であり,材料の発光効率以外に,光の取出し効率を高める必要が重要で,微細構造を使うことで,例えば,選択波長の光を効率よく取り出すことができるという内容でした.今後のデバイス開発あたり,微細構造がそのひとつの鍵となりうると感じました.

産業技術総合研究所の栗原一真氏による「反射防止構造のための金型作製技術」は,反射防止用微細構造素子の量産化にむけた金型作製に関する講演で,レーザーリソグラフィー法による金型表面の処理を用いることで,大面積の型表面に微細周期構造を高速で形成できるという内容でした.製造プロセスの選択肢が広がることで,アプリケーション側でプロセスを選ぶ自由度が向上し,微細周期構造をもつ光学素子の適用領域が広がると感じました.

コニカミノルタオプト(株)の森登史晴氏による「ガラスモールド法による次世代光波制御素子の作製」は,微細構造素子の量産に向けたガラスモールド法に関する講演で,大量生産に向いたガラスモールド法で微細周期構造の転写に成功されていました.型の作製技術だけでなく,型構造の転写性を確保するためのガラス材料特性とのマッチングといった技術を組み合わせて完成度を上げてきているとのことで,安価な光波制御素子の実現が目前に迫っていることをうかがわせる内容でした.それ故に,機能だけでなく,コストに関わる技術など,生々しい質問が飛び交い,この先の技術展開に目が離せないと感じました.

最後の講演は,本シンポジウムを企画された大阪府立大学の菊田久雄教授によるもので,「次世代微細構造光学素子の技術戦略」と題し,微細構造素子の現在までの展開と今後の方向性に関する話題でした.技術の進展を踏まえ,微細周期構造をもつ光学素子の実用化にむけた課題をアプリケーション,設計,加工,材料などの視点で分析された内容となっていました.シンポジウムに参加した研究者・技術者へ,適切なアプリケーションを選定し,技術課題を解決しながら,微細周期構造に関わる総合的な技術力を上げていくことで,多様な領域へと普及展開して欲しいとの強いメッセージと感じました.

今回のシンポジウムでは,微細周期構造をもつ光学素子が,基礎研究から,アプリケーション開発,アプリケーション適用領域の拡大,製品化技術の確立へと着実に進歩し,近い将来,次々と実用化されていく予感を感じました.最後に,ご多忙の中,有意義な講演をいただいた講師の皆様,ならびに,将来の飛躍に向かう絶好のタイミングを捉えて,企画・運営を担当された実行委員の皆様に感謝いたします.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
光と半導体による新しいエネルギー生成と環境浄化

東北大学際 藤井克司
本シンポジウムでは,色素増感太陽電池や光と半導体を使った水素生成や有機物分解という半導体と化学反応が関係した半導体デバイスの分野に焦点を当てた.この分野は物理と化学の境界領域であり,今後の研究が期待されている分野である.そのため,本シンポジウムでも,物理,電気化学,化学といったさまざまなフィールドをベースとされている先生方をお招きし,講演いただいた.

光を用いた水素生成という新規エネルギー生成方法もテーマのひとつであったためか,会場にはかなり多くの人にお越しいただいた.しかし,半導体のみの性質を用いる太陽電池と異なり,まだ応用物理の分野からは実際に取り組んでいる人が少ないためか,概して質問は少なめであったという印象であった.

光電気化学反応を利用したデバイスの実用化に対してはさまざまな問題点があるが,本シンポジウム全体として以下のような点が印象的であった.すなわち,これらデバイスは,さまざまな化学反応が可能であるため,実用化されるとかなり広い応用分野がある.しかしながら,通常の半導体太陽電池に比べてエネルギー変換効率が低く,実用化には効率を良くする事が一番大きな問題である,ということである.すなわち,

1) どの様にして長波長光を使えるようにするか?
2) 吸収した光をどう効率よく反応に結びつけるか?
3) 表面での反応を理解するにはどうすれば良いか?

といった3つの点がポイントであった.
このうち,どう長波長光を使えるようにするかについては,現在溶液中で安定な光電気化学反応を行う半導体の多くがワイドギャップ酸化物である点が問題となっている.この解決には,金属微粒子での光吸収やTiO2やZnOさらにはGaNに代表とされる光電気化学反応に良く用いられる半導体の混晶化による長波長光吸収への試み,などが紹介された.

また,効率よい反応については,半導体中の電子・正孔分離や界面での反応促進が問題となっている.この解決には,光触媒微粒子上に付着させる助触媒と呼ばれる物質の選択による光照射により生成した電子正孔対の電子・正孔への分離の高効率化や,色素増感を行う際の半導体特性に適した色素の選択,水の分解ではなく,イオウ系の物質サイクルを用いた水素生成,などが紹介された.

さらに,理解の遅れている表面反応の観測については,光電気化学反応を起こしている表面のラマン散乱測定の試み,が紹介された.

本シンポジウムで紹介された結果からも,これら光電気化学反応を応用したデバイスは今後のエネルギー問題や環境問題の解決策のひとつではあるが,今後の発展及び実用化のためには,物理と化学の強い連携がますます必要であることを感じた.

今後ともこのような学問の領域を超えた議論が頻繁に行われることで,このようなデバイスが半導体の新しい応用として実用化されることを望みたい.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
放射線知識普及活動の最前線

放射線分科 阪府大産学官 奥田修一
このシンポジウムのテーマは,放射線分科で議論され決定された.放射線知識普及活動にかかわる多くの組織やグループなどの中で,放射線利用関連機関を中心に,他にいくつかの提案を考慮して講演をお願いした.

開催日時は,9月5日13:00〜17:20(講演番号:5p-ZD-1〜8)で,企画担当者によるイントロダクトリートークと,次の7件の講演と総合討論が行われた.

  1. 近畿大学原子炉を活用した大学教育,教員研修,そして社会教育:鶴田隆雄(近畿大原研)
  2. 京大炉における取り組み -くまとりサイエンスパーク構想の実現を目指して-:代谷誠治(京大原子炉)
  3. 大阪府立大学の放射線知識普及活動の現状:奥田修一(阪府大産学官)
  4. かんさいアトムサイエンス倶楽部の活動:古田雅一(阪府大理)
  5. 音楽と科学のふれあい広場:太田雅壽(新潟大工)
  6. 武蔵工大における放射線知識普及活動の現状:岡田往子(武蔵工大)
  7. 放射線利用振興協会における活動状況:棚瀬正和(放振協)
最初に,関西でほぼ50年の歴史を持つ,原子力,放射線関連の3大学の大規模施設から報告があった.研究や施設の現状のほか,他のグループの協力の下で活発に活動している状況が報告された.

近畿大学原子力研究所では,教育用原子炉の特徴をいかして,大学生や中学・高校教員の運転体験や,一般への知識普及活動を行っている.アンケートの結果には,参加者の明らかな認識の変化が表れている.

京都大学原子炉実験所では,原子炉研究施設の特徴をいかしたさまざまな知識普及活動のほか,国内外の多くの学生の教育が行われ,「地域に根ざし,世界に広がる科学の郷“くまとりサイエンスパーク”」の壮大な構想の実現をめざしている.

大阪府立大学放射線研究センターでは,大規模放射線施設を継承しており,多くの知識普及活動を継続している.特に関連組織で実行委員会を作って開催している「みんなのくらしと放射線展」では,親子を中心に24年間で延べ40万人が参加している.

これらの機関や組織において,社会とコミュニケーションの場を持つことは,研究成果の活用についてのヒントを得るばかりではなく,研究の基盤となる施設が地域に受入れられて運営される意味で重要である.

(財)放射線利用振興協会は,原子力機構の放射線施設を背景に,放射線利用と知識の普及を主目的とする組織である.国からの受託事業として組織的で計画的な活動が行われている.今後とも,広く国内の活動への連携支援が期待される.

個人やグループとしての活動にも非常に重要な意味がある.現在原子力,放射線の分野で人材育成が急務となっており,安全・安心の観点からも,若者や社会に向けた,科学・技術,放射線に関する正しい知識の普及活動が重要である.このような背景のもとでの自主的な取り組みには,強い問題意識と,限られた人数で効果をあげるための創意工夫があり,大変な努力が感じられる.

かんさいアトムサイエンス倶楽部は,原子力学会関西支部のグループとして特に活発に活動を行っており,霧箱工作など,経験に基づく技術が優れている.新潟大学の太田先生の,音楽を基礎に理解を深めていくアイディアや,精力的な活動の拡大の状況,また武蔵工業大学の岡田先生の,女性の視点からの現状の問題認識と,幅広い連携による取り組みが,全参加者に深い感銘を与え,またそれぞれの今後の活動の参考となった.

総合討論では,個々の取り組みをより効果的なものにするために,活動している組織や個人の連携の必要性が指摘された.また特に大学での個々の活動を評価し,それを支援することの重要性が認識された.

このシンポジウムの企画担当者として印象深かったのは,一般の人々と同じ目線で放射線と向き合うことで,自然科学を新鮮な感覚で見直して感動をお互いに共有することの重要性を認識したことである.会場には多くの参加者が集まり,中には関西からツアーを組んで参加したグループもあった.活発な質疑,意見交換が行われ,今後もこのような議論を継続する必要性を強く感じた.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
High-k メタルゲートスタックにおける閾値のプロセス依存性と制御の現状

早稲田大学 山田啓作
筑波大学 白石賢二
High-k絶縁膜は次世代のMOS用絶縁膜として期待され,実用化間近といわれながらも,市場投入が先送りされてきた.しかし,ここに来てIntelをはじめとしていくつかのメーカーでは製品化が発表された.ただし,技術的な詳細は未だ不明である.

振り返ってみると,この研究・開発の初期には,とりあえずPolySiゲート電極で実用化を計ろうとした.しかしフェルミレベルピンニングの現象とそのメカニズムが明らかになるにつれ,PolySiゲートでは現実的な解がないことと判断された.High-k/PolySiスタックの次の目標であったHigh-kメタルゲートスタックの研究を加速することになった.メタルゲートではフェルミレベルピンニングの回避が容易であろうと期待したためである.しかしながら,メタルゲートでもそれを解決することは容易ではなく,現在のこの分野の最大の研究テーマは,ピンニングの回避あるいはその値をシフトさせ目的のトランジスタ閾値を得ることにある.

当シンポジウムはその現状を確認,それを明らかにし,対策の最前線での成果を紹介していただき,議論することを目的に企画された.

当日の会場には300名の研究者が集まり,活発な議論が展開され,この話題がホットであることが再認識された.

講演は8件で,現象理解とメカニズムに関するものが4件である.

当シンポジウムの世話人の白石らが提唱する酸素空孔モデル等の理解を実験上で示したものが大阪大の渡部,広島大の宮崎,Seleteの赤坂の3件. 半導体MIRAIの太田は,いくつかの界面が存在するゲートスタックにおいてSiO2/Si界面のダイポールに注目した.プロセスの工夫とくに材料的な工夫により閾値制御を行おうとするものは3件である. NECの高橋はNi-FUSIの電極に対する工夫,東芝の小山,Seleteの門島はHigh-k材料に対する工夫で,制御の可能性を示した.ソニーの田井はピンニングの起こらない低温プロセスのみで製作した高移動度のトランジスタを示した.

シンポジウム等を通して,この問題に対する理解は共通のものになりつつある.またその評価も進んでいる. 一つの問題を解決するに,計算科学を中心とする理論的な理解,それを実証する高度な物理評価.それらの知見が具体化され,デバイス上で実証されつつある.学会,産業界を通して,基礎研究から実用化研究までが混在した理想的な研究体制がここにあるように思える.またそれなくしては,数十年にわたり知見を蓄積してきたSiO2絶縁膜を短期間で置き換えることは不可能であろう.

また,次回の講演会でもシンポジウムを類似テーマで計画しているが,そのときにはHigh-k絶縁膜を使った製品が市場に出ているだろうか.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
「窒化物の新展開」特定領域研究企画
「窒化物光半導体のフロンティア」
−材料潜在能力の極限発現−

立命館大学 名西
InNのバンドギャップが,約0.65eV程度であることが明らかになったことにより,窒化物半導体材料の適用波長領域は,AlNの深紫外領域からInNの赤外領域にまで大きく拡張され,赤外領域に対応するInNと紫外領域に対応するAlNを中心とした幅広いフロンティア領域が存在し,その光デバイス応用には無限の可能性が広がっている.このような背景のもと,平成18年度より5年間の予定で文部科学省「科研費」特定領域研究 窒化物光半導体のフロンティア −材料潜在能力の極限発現− が始まった.本シンポジウムでは,本特定領域研究企画として,その概要の紹介を行うとともに,ここで展開している研究の中から最近の進展が著しい成果,今後の課題などにつき紹介していただいた.

はじめに,イントロダクトリートークとして立命館大理工 名西?之から,本特定領域研究の背景,目的,組織など概要について紹介し,本シンポジウム企画の趣旨を説明した.

東大生研の藤岡洋先生からは,パルス励起堆積(PXD: Pulsed eXcitation Deposition)法による窒化物半導体結晶成長について,最近の成果が紹介された.PXD法を用いた低温成長による界面反応の抑制,ミスフィット転位導入の抑制の効果により,SiC上GaN,ZnO上GaN,無極性GaN,InNおよび金属箔上GaNの高品質結晶成長が可能であることが示された.

農工大・院・工学系の纐纈明伯先生からは,高品位の自立基板結晶育成を目指し,原料分子を制御したHVPE法によるAlN, AlGaNおよびInN成長について,最近の成果が紹介された.AlN成長やInN成長に適した原料の選定(AlCl3,InCl3)やAlGaN混晶の析出組成の熱力学解析を行った結果,AlN,InNおよび全組成領域のAlGaN混晶のHVPE成長が可能であることが示された.

千葉大院工の吉川明彦先生からは,InNを基盤としたナノ構造成長制御とそのデバイス応用について,最近の成果が紹介された.1分子層InN/GaN量子井戸構造の作製およびその場観察手法を用いた形成メカニズムの解明,量子井戸構造からの発光特性に関する検討結果が示された.またInN結晶の残留キャリア濃度低減とp型伝導実現への試みについても紹介された.

京大院工の川上養一先生からは,半極性面であるマイクロファセット構造を利用したInGaN系LEDの最近の進展について紹介された.結晶面によってIn組成や膜厚が異なることを利用して,InGaN量子井戸構造のみで多彩な発光色を実現できることが示された.また近接場光学顕微鏡評価から半極性(11-2-2)面マイクロファセット上量子井戸の優れた発光効率が示された.

筑波大数理物質の上殿明良先生からは,陽電子消滅法を用いた窒化物半導体の空孔型欠陥検出について,イオン注入GaNおよびMgドーピングInNに対する評価結果が紹介された.イオン注入でGaNに導入される欠陥はVGaないしはVGaVNであり,注入イオン種により欠陥の焼鈍過程が異なるが示された.またInNへMgドープすることにより空孔(In空孔およびその複合体)が導入されることが明らかにされた.

名城大理工の天野浩先生からは,紫外発光素子への期待とIII族窒化物半導体を用いた紫外発光素子の高性能化に関する最近の進展について紹介された.超高温MOVPE成長による低転位AlN基板作製,およびこれを用いた低転位AlGaN薄膜成長についての検討結果が示された.またデバイスシミュレーターを用いた紫外発光素子の構造最適化結果についても紹介された.

理研の平山秀樹氏からは,230〜350 nm帯AlGaN系深紫外高効率LEDの研究の最近の進展と今後の展望について紹介された.アンモニアパルス供給多層AlN成長を用いて高品質AlN結晶を作製することで,AlGaNの発光効率を飛躍的に増加し,サファイア上深紫外LED最短発光波長(227.5 nm),および室温CW動作最高出力(1.65 mW@261 W)を実現できたことが示された.

上智大理工の岸野克巳先生からは,AlGaInN系赤色〜赤外域ナノコラム光デバイス開発に関する最近の進展が紹介された.可視InGaN/GaNナノコラムLEDの発光強度の増加,GaNナノコラムの選択成長と規則配列,高In組成InAlNナノコラムおよびInN/InAlN多重量子井戸ナノコラム構造の成長に成功したことが示された.

以上,駆け足で本シンポジウムの内容を振り返った.会場として最も収容人数の多い部屋を用意したにもかかわらず,会場には常時立ち見がでるほどの大盛況で,300名程度の参加者を得た.各講演に対して質疑応答も活発に行われ,窒化物半導体のフロンティア領域に対する関心が非常に高いことを示すものであった.今後さらに,新規性のある結晶成長技術,特徴のある評価技術,デバイス基盤技術の開発を通して,本分野の研究が一層発展することを期待する.最後になりますが,お忙しい中ご講演をご快諾頂きました講師の方々にお礼を申し上げると共に,シンポジウムにご参加頂き,活発にご討論頂きました皆様に改めて感謝申し上げます.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
プログラム自己組織化を用いた分子スケールデバイス
−ボトムアップ/トップダウン融合の視点から−

阪大産研 松本卓也
単一分子,少数分子の持つ機能が注目され,電気伝導や電極の効果に関する興味深い研究が行われている.しかし,単一分子の物性研究を超えてデバイスへとつながる道筋を考えたとき,個々の分子の操作ではなく,プロセスとしては分子集団を扱いながら,単一あるいは少数分子が働くシステムの構築が必要である.この方向へ向かう方法論として,プログラム自己組織化は重要なアプローチである.しかし,自己組織化を用いた研究の多くは分子構造体の構築で終わっており,自己組織化構造を外部へ接合する研究は少ない.自己組織化構造と外界との接続を如何に実現するか,すなわち,階層を越えた構造の形成やボトムアップとトップダウンの融合が,デバイス構築の鍵である.

そこで,本シンポジウムでは,プログラム自己組織化を用いて分子間結合や分子/電極界面を構築し,個別分子の機能をデバイスとして引き出すための表面界面プロセスを展望した.

まず,松本(阪大産研)の趣旨説明のあと,プログラム自己組織化による階層形成の学理について山口氏(産総研)が「階層を越える自己組織化構造の形成」と題する報告を行った.プログラムの本質は,シークエンシャルに起こる自己集合と散逸過程を統合する縦糸として初期条件と境界条件を設定し,システムの軌跡の限定であることが示された.続いて,浅井氏(北大院情科研)が「揺らぎを利用する自己組織化デバイス」について報告した.「ゆらぎ」を利用したバースト信号検出や雑音を利用した神経振動子の同期など,現在の計算機システムとは全く異なる自己組織化を利用した情報処理システムの可能性が示された.

つぎに,表面や電極界面における自己組織的な分子配列の制御に関する3件の報告があった.古川氏(NTT物性基礎研)は「パターン表面における脂質二分子膜の自己組織化を利用した分子輸送」と題して,二次元空間内の分子運動について報告した.マイクロ流路とナノギャップ電極の組み合わせにより,単一分子の捕捉と物性発現が可能であることを示した.高見(ヴィジョンアーツ,ペンシルバニア州立大)は「分子回転子の自己組織化と配列制御」について報告した.分子ローターとして動作する2階建て構造のポルフィリン分子について,分子配列のSTM観察結果を報告した.田中氏(情報通信研究機構)は「非導電性基板上におけるナノスケール有機分子体の高分解能イメージングと配列制御」と題して,非接触原子間力顕微鏡により,デバイス構築に必要な絶縁体上での分子分解能観察が可能であることを示した.

以上の物理的な分子配列に対して,シンポジウムの後半では化学結合を伴う自己組織的分子配列について,5件の報告があった.坂口氏(静大電子工学研)は「単一導電性高分子細線の表面重合」について,電気化学エピタクシャル重合法を用いた,基板表面の原子配列に沿った単一分子細線の形成が紹介された.桑原氏(阪大院工)は,「ナノギャップ平坦電極を用いた有機デバイスの機能評価」と題して,段差が極めて小さい埋め込み型ナノギャップ平坦電極を用いれば,絶縁部と電極部を通した一体的な自己組織化重合反応が進行することを報告した.谷口氏(阪大産研)は,「自己組織化配線法による分子デバイス」について,溶液に浸すプロセスだけで電極を起点とした逐次的な架橋反応が可能であること,実際に作製したデバイスの電気特性を示した.芳賀氏(中大理工)は「電気化学を用いた電極からの分子の組み上げ」と題して,酸化物基板に選択的吸着性を有するレドックス活性な錯体を起点とした積層構造の形成について報告した.電位勾配の制御やDNAを用いたワイヤリングが可能であることも示した.最後に小川氏(分子研)は「分子エレクトロニクスのための有機分子・無機ナノ構造体の自己組織化」について報告した.ポルフィリンオリゴマーを鋳型とした金ナノ微粒子の1次元構造体を形成することで,分子の長軸方向の電気特性を,分子を観察しながら計測する試みが紹介された.

本シンポジウムの報告には,表面科学,合成化学,微細加工,物理計測,計算科学,回路理論,ナノバイオなど,多彩な分野の最先端の成果が含まれていた.プログラム自己組織化による分子スケールデバイスの構築は総合科学・技術である.各要素技術は,まだ繋がってはいないが,着実な進歩を見せている.これらが相互に連携すれば,飛躍的な発展が期待できる.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
実用の立場からみたソフトマテリアル

東工大院理工 中嶋 健
本シンポジウムは,有機分子・バイオエレクトロニクス分科会(九工大・金藤敬一幹事長)が担当する中分類10.6「高分子・ソフトマテリアル」との連動企画ということで,10.6のプログラム委員である兵庫県大・多田和也と東工大・中嶋健が企画立案した.「高分子・ソフトマテリアル」の分野で今後ますます発展させていきたいトピックを取り上げ,今後の中分類分科内での一般講演の可能性を広げたいというのが主旨であった.そのために今回は既に大きな注目を浴びている3つのトピック,すなわち太陽電池(3件),燃料電池(2件),アクチュエータ(1件)を取り上げ,それぞれの分野の第一線でご活躍の研究者の皆様に講演をお願いした.会期2日目の午後の時間帯を確保し,最大70名強の聴講者を得た.一時は立ち見の聴講者が出るほどで,一般参加者の関心の高さが伺えた.

企画者のひとりである報告者(中嶋)は,いわゆる高分子ナノテクノロジーのなかで,応用物理学という観点のもとに具体性の高い「高分子ナノ材料」に興味をもっている.高分子ナノ材料とは,高分子のもつ多彩な構造をナノメートルスケールで制御し,かつその分子運動をも制御することでこれまで得られなかった機能を付与したもの,あるいは既に得られている機能ではあるがそれを高性能化したものである.高分子ナノ物質と呼ばれるものは多数存在するが,それらは材料として使われて初めてナノ材料と呼ぶべきものになる.ナノに注意を集中し過ぎ,それが我々の住むマクロな世界へとどうつながるか,つなげられるかが忘れられる傾向が強いのが現状である.このシンポジウムではそれに対するアンチテーゼとして「ナノ」には特にこだわらず,むしろ「実用化」という冠をつけ未来を見据えるための議論の出発点としたいと考えた.しかしながら,講師の先生の話を聞くにつけ,先生方は特に意識せずに「ナノ」を当たり前のように駆使しておられることを実感した.特に異種物質間の界面で起きる現象に思いを馳せるとき,「ナノ構造」が如何に重要であるかが認識せられた.一方で,これらの「ナノ構造」の界面に関する研究,特にその制御に関する研究に関しては,学術的にまだまだお手伝いできることがあるのではないかと考えられる部分も多数発見できた.

そもそも高分子材料が担う将来・未来の社会ニーズに「環境調和した社会システム」,「エネルギー・資源の安定供給確保」という命題があることは疑いようがない.そのために必要とされる高分子材料の物性,機能として,軽量・高強度・高弾性・表面機能付与・省燃費・耐摩耗材料・クリーンエネルギー・分離材料・生体医用材料・センサー材料などが挙げられると思うが,それらは均質な高分子材料で実現可能なものではない.高分子ナノ材料,特にその異種材料間の界面制御で初めて実現する可能性が高いのである.そういう意味で今回取り上げたトピックは非常によい事例であったと考えている.以下,少し各講演の内容に触れたいと思う.

太陽電池関連1つ目のご講演は桐蔭横浜大の宮坂力先生にお願いした.「プリンタブル,ユビキタスを目指す色素増感太陽電池」というタイトルであった.色素増感太陽電池は低コスト,高エネルギー変換効率という利点をもつ太陽電池で,実用化に向けて最も勢いがあるといえる.その基礎的な部分からプラスチックエレクトロニクスとしての色素増感太陽電池の可能性まで広い視野でご講演頂いた.対向電極として用いるPEDOT-PSSとTiO2の複合薄膜を被覆したITO-PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムではフィルムとTiO2の密着性が耐久性の鍵であるということであった.またSWCNTを利用することによって,フルプラスチック,フレキシブルなセルを作成することが可能となったということである.

2つ目は「導電性高分子を用いた有機系太陽電池の開発」というタイトルで,新日石の錦谷禎範先生にご講演頂いた.導電性高分子として,電子伝導性高分子のみならずイオン伝導性高分子が注目を浴びているということであった.特に前者に関しては,ドナー部位とアクセプター部位を分子レベルで結合したブロック共重合体を利用しており,そのミクロ相分離構造,および光吸収で発生したエキシトンがその界面で選択的に解裂する機構が重要で,高効率化へのキーテクノロジーだということであった.ミクロ相分離構造の構造制御は,アカデミックサイドでも今まさにさまざまな研究が進んでいるところであるから,材料設計の段階でのコラボレーションが将来非常に重要になるのではないかと印象をもった.

3つ目は阪大の藤井彰彦先生に「ドナー/アクセプター相互浸透界面の基礎研究と太陽電池応用」というタイトルでお願いした.有機系太陽電池には色素増感型と有機薄膜型があるが,有機薄膜型はまだ基礎研究レベルの位置付けだと一般的には言われている.しかし先生のご研究で,C60と導電性高分子の界面が相互浸透的であることが発見されたということで,そのために単なる積層構造とは比較にならないほどの光電変換特性が得られたということである.実用化への貴重な一歩が踏み出されたような印象を得た.さらに,この方法の利点として,その簡便さ故の大面積化への対応が容易であるということを報告されていた.

4つ目,5つ目は燃料電池に話を移行した.4つ目は日立製作所の相馬憲一先生の「メタノール燃料電池用材料(ナノサイズ電極触媒)の開発」である.直接メタノール型では,メタノールと水が反応することで生成された水素イオンが電解質膜中を高効率で移動せねばならない.一方でメタノールに対する透過率低減,耐酸化性も電解質膜が担わなくてはならない案件である.次の山梨大の宮武健治先生の「燃料電池用高分子電解質膜:新材料の可能性」で,分子レベルのケミストリーが問題になる部分である.また電極表面の触媒では触媒金属のナノサイズ化が行われている.そしてもっとも重要なのが,電解質と触媒の一体化(膜/電極接合体)であると相馬先生は語る.微粒子の分散性,界面密着性など多くの異なる要求に答えるためにどのようなナノ構造をどのように作成すれば良いか,このような観点は我々応用物理学を志すものが回答を導くために努力しても良いのではないかと感じた.

宮武先生のお話は,普段であればあまり耳にすることができない合成化学寄りのお話であったためにむしろ新鮮に聴講することができた.そして,分子レベルの設計がプロトン伝導性,耐熱性,耐久性の向上に如何に重要であるかを痛感した.既にナフィオンを超える性能をもつ分子構造が生み出されていると伺って驚きを隠せなかった.

最後は少しおもむきを変えて九工大の金藤敬一先生に「導電性高分子によるソフトアクチュエータの仕事振り」というタイトルで講演を頂戴した.高分子であるが故にもつしなやかさと通常のモータ動作ではなかなか実現しにくい変形様式のために,人間親和性の高い未来ロボットの駆動装置として注目されているという.ソフトアクチュエータというと様々な刺激に感応する機能性ゲルを思い浮かべることが多いが,導電性高分子の場合は電気化学的反応によるアニオンあるいはカチオンの移動が非対称な体積変化を誘起するというメカニズムであることを知った.非常に興味深い.

それぞれの研究もさることながら,宮坂先生および金藤先生におかれては,ベンチャー企業の立ち上げと実用化に向けての努力にまつわるお話を聞くこともできた.宮武先生からは企業とのコラボレーションに関するお話を頂いた.「実用化」を目前に控えたホットな研究に魅せられて武者震いがする思いを抱いた聴講者も少なくなかったのではないかと考えている.今回のシンポジウムを機に,聴講させて頂いた我々も「このホットな分野に対して,応用物理学の観点から我々はどんな貢献ができるだろうか」と是非一度問い直してみたい.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
Poly-Si TFT 最近の展開と今後

大阪大学 接合科学研究所 芹川 正
兵庫県立大学物質系工学専攻 部家 彰
ユビキタスネットワーク社会の到来により,人と直接に情報をやり取りするインタフェースを成す種々の情報端末機器の実現が不可欠となってきている.とりわけ,情報端末機器の“顔”としてのデイスプレイには,高品位は勿論のこと,大形,薄型・軽量で高信頼性が強く求められている.さらに,デジタルカメラ,モバイルフォンなどの新たな性能を有する種々の携帯機器の開発も活発に進められている.多結晶Si薄膜トランジスタ(Poly-Si TFT)は,これらのデイスプレイや携帯機器の実現のための基本技術である.

Poly-SiTFTは移動度が高く,大面積基板上に,低い温度での形成ができる特徴を有している.これらの特徴から,Poly-SiTFTが非常に広範囲な応用が可能となり,種々のデイスプレイなどの機器が研究・開発されている.一方,新たな応用の開拓のため,Poly-Si TFTに対しては新規技術の開発やさらに一層の特性向上が要求され,種々の新たな技術や手法が提案され研究されている.

Poly-Si TFT は,種々の基板上に製作できることや,広範囲なTFT特性を付与できる等の特徴を有している.これまでのPoly-Si TFTの製作法としては,所望の基板上に直接形成する方法の外に,出来上がったものを他の基板に移し変える転写法が開発されている.また,Poly-Si TFTの応用面から,Poly-Si TFTの製作条件に対しても,低温形成や大面積形成等,多くの要求が課せられ,精力的に研究・開発が進められている.また,研究・開発手法としては,行うことがほぼ定まっており,最適な方法を明らかにするULSIとは異なり,Poly-Si TFTの場合は,”行うこと(物質や方法)を決めることが先決である.このため,Poly-Si TFTでは,device model, process model 共に十分に確立されていない状態である.このような状況下で,本シンポジウムは,これまでのPoly-Si TFTの研究・開発を一貫して議論することにより最近の進展を知り,Poly-Si TFTの製作技術の確立と更なる応用の拡大に資することを目的に開催された.

Poly-Si TFT製作における課題は,次の3項目に要約できると考えられる.(1)高品質なPoly-Si 膜の形成,(2)高性能なPoly-Si TFTの製作,(3)低温でのPoly-Si 膜の形成.本シンポジウムは,これらの課題のもので構成された.

上記の状況が,イントロダクトリートーク“Poly-Si TFT 最近の展開と今後”(大阪大 接合研 芹川 正)で説明され,引き続き,個々の課題に沿い,各々の技術の報告と,それに対する議論が行なわれた. 高品質Poly-Si 膜の形成に関して,“Poly-Si TFT 新たなSi膜形成法(液体シリコン材料)”(セイコーエプソン 田中英樹,古沢昌宏),“位置制御Si大結晶粒アレイ形成”(ALTEDEC 東 和文),“高機能Poly-Si TFT を実現するSi膜の構造設計”(兵庫県立大院1,山口大院2 松尾直人1,部家 彰1,河本直哉2),“Poly-Si TFT 新たなSi膜結晶化法(熱プラズマジェット法)”(広大院・先端研 東 清一郎),“インクジェット技術を用いたSi薄膜の金属誘起固相結晶化”(九大シス情 浅野種正,石田雄二),の5件が報告された.Si膜の結晶化は,Poly-Si TFT の特性に極めて大きな影響を与えるもので,結晶化の方法により,膜の内部構造を含めた膜特性が異なること,結晶化前のprecursor Si膜に内部変調(報告ではnano- modulationと呼んでいた)を施すことにより,Poly-Si膜の特性を制御が行われることが,浮き彫りにされてきた.

次の高性能なPoly-Si TFTの製作に関しては,“Poly-Si TFTにおけるSiO2膜-どこまで薄く,どこまで低温に- ”(大阪大 接合科学研 芹川 正)と“バイオ系新材料を用いて作製した低温多結晶シリコン薄膜トランジスタ”(奈良先端大1,松下電器先端研2 浦岡行治1,冬木 隆1,吉井重雄2,山下一郎1,2),の2件が報告された.前者では,Poly-Si TFT特性に大きく影響する他の要因であるゲート絶縁SiO2膜の詳細が報告され,堆積法により6 nmまで薄くでき,またその堆積温度は室温まで低められることが述べられた.また,後者の報告では,フェリチンを用いたSi膜の結晶化法と,不揮発性メモリへの新たな応用が報告された.最後の項目の低温でのPoly-Si 膜の形成に関しては,TFT転写法として,“TFT転写プロセス及び薄型SOG-TFT LCD”(TRADIM1,日本電気2,NEC液晶テクノロジー3 竹知和重1,大槻重義1,金子節夫2,3)が,プラスチック上TFT製作法として,“超低温化プロセスによるプラスチック上ポリSi TFT”(琉球大工 野口 隆)が報告され,新たなTFT制作法が示された.最後に,まとめ(先端液晶技術開発センター 松村正清)が行われ,上記報告や今後のPoly-Si TFTの研究指針に対するコメントが述べられた.

以上,Poly-Si TFT製作法をみると,所定の基板上に直接製作する方法の外に,出来上がったPoly-Si TFTを他の基板に移り変える転写法など,新たな方法が開発されている.直接製作でもナノ・モジュレーションといった新規概念を導入した結晶化法も提案されている.また,その基板には,これまでの多くの場合のガラス基板の外に,プラスチイクなどのフレキシブルフィルムを使用するなど,目的の応じた製作法も多く研究・開発されている.さらに,Poly-Sii TFTの特性や信頼性の向上のため,個々の技術の詳細な研究や特性解析が行われ,多くに蓄積が図られていることが,本シンポジウムより伺えた.

今回のシンポジウムは出席者が前回を大幅に上回っており,この分野に対する期待の大きさが伺える.今後も1年に一度程度のシンポジウムにより,結晶化やTFTを中心とし,サイエンスから応用までの議論を一貫して行う必要性を感じた.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
電磁場下における様々な現象とその制御
−固体金属から流体まで−

名大工 岩井一彦
横浜国大工 山本 勲
応用物理学会の磁場応用セッションでは,無機材料,有機材料,高分子材料やバイオ材料等に静磁場を印加することで生じる磁化力,磁気トルクを利用することで,磁気分離,結晶配向,マイグレーション,磁気浮上等,様々なプロセスや物性に関する報告が議論されてきた.一方,電気伝導性材料である金属は,磁場中を運動させることや交流磁場を印加することで,ローレンツ力を誘起可能であり,磁場印加に起因する物理現象は無機,有機,高分子材料とは異なる.そこで,磁場応用研究グループでは主として電気伝導性材料を対象として電磁場下で起きる様々な現象について講演,討論を行うべくシンポジウムを企画した.対象を金属に絞るとはいえ,様々な研究があるので本シンポジウムでは,固体金属の組織形成に与える磁場の効果,強磁場下での電析現象,マイクロ波,液体金属内の非金属第2相挙動等のトピックスを選び,講演をお願いした.

最初の講演はフェーズフィールド法による磁場中での組織形成に関するシミュレーションであり,組織形成過程に及ぼす拡散の効果,相変態前の粒配置によってはエネルギーが最小となる組織が形成させると限らないこと,等が報告された.

2番目の講演は鉄鋼材料の相変態に及ぼす磁場効果に関する内容である.オーステナイトを磁場中フェライト変態させることでフェライト粒は磁場方向に伸長すること,ベイナイト変態は磁場効果が観察されなかったこと,等が報告された.

3番目の講演は磁場作用下における拡散現象に関する内容である.6Tの均一磁場下においてγ 鉄中の炭素の拡散(侵入型拡散機構)は抑制されるのに対して,チタンの拡散(空孔型拡散機構)はほとんど影響をうけないこと,磁場勾配作用下(炭素原子の拡散方向を負方向とすると,負の磁場勾配が作用している)では,均一磁場下における拡散とは異なり,γ 鉄中の炭素の拡散が促進され,磁場勾配強度が大きくなるにつれて拡散の促進の度合いが大きくなること,さらに正の磁場勾配下では,逆に拡散が抑制されること,等が報告された.

4番目の講演は電析に関する内容である.Cdを磁場中電析させると結晶のC軸が磁場の方向に配向すること,基板近傍の流れは自然対流と磁気対流の競合現象であることが報告された.

5番目の講演はマイクロ波に関する内容である.マイクロ波は従来の加熱効果以外に非熱的効果が存在し,化学反応促進などへ適用可能であること等,について報告された.

6番目の講演は磁場印加された導電性融体の自由表面流れの数値解析に関する内容である.磁場印加により発生するローレンツ力が融体の流れの勢いにブレーキをかけることが,視覚的に理解し易く説明された.

7番目の講演は粒子や気泡を含む液体の運動に関する内容である.粒子や気泡が鉛直磁場中で浮上する場合,流れには鉛直成分だけではなく半径方向成分が発生するので,粒子の進行方向に高圧領域が,粒子の後方に低圧領域が存在し,その結果,粒子には大きな抗力が作用すること等について報告された.

8番目の講演は凝固組織微細化と配向に関する内容である.強力磁場と電流とを凝固中に重畳印加することで,凝固初期に固相を微細化して結晶配向させることが可能であるとの報告であった.

ご講演いただきました先生方と講演を聴講された方々と討論は活発で,大変有意義であったと思います.ここに皆様に深く感謝申し上げます.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
日本学術振興会結晶成長の科学と技術第161委員会企画
「半導体バルク結晶技術の現状と展望」

東大生研 藤岡 洋
本シンポジウムは半導体バルク結晶技術の現状を総括し今後の展望を議論する目的で,日本学術振興会「結晶成長の科学と技術第161委員会」企画として立案された.半導体バルク結晶成長の技術的成功が過去半世紀に亘る半導体エレクトロニクスの長足の進歩に極めて大きく貢献してきたことは論を待たない.この分野は長い歴史を持つため,基礎開発が終了した成熟した分野と思われがちであるが,実は,最近でも大きな技術革新が次々と報告されており,更なる発展が期待されている.そこで,本シンポジウムでは半導体バルク成長技術のこれまでの開発の歴史と現状の技術を総括し,将来の開発動向を議論した.

講演では,既に安定した量産が実現しているSiやGaAs, InPといった歴史の古い結晶から, 現在,量産プロセスの構築が急ピッチで進んでいるZnOおよびGaN,さらには次世代半導体素子材料として期待を集めているダイヤモンドまで様々な開発段階の半導体バルク結晶成長技術を取り上げた.同じ時間帯に通常の結晶成長の講演が行われているのにもかかわらず,本シンポジウムには180人を超える研究者が参加し自由闊達な議論が展開された.立ち見の窮屈な状態で議論に参加していただいた方々には,この場を借りて心よりお詫びを申し上げたい.

はじめに,第161委員会の委員長でもある東北大・福田から「ソルボサーマル法によるZnO・GaNの成長」と題する講演があった.福田は講演の中で,ソルボサーマル法によるZnOやGaNの製造がいよいよ現実的になりつつあること,また,この手法はスケールアップが容易であり本質的に量産に適していること等を強調していた.一方,産総研・茶谷原から「単結晶ダイヤモンド基板の開発」と題するダイヤモンドバルク結晶実現の可能性に関する報告があり,3年以内に1インチ基板の作製が可能との展望が示された.ダイヤモンド素子の開発自体が現在黎明期ではあるが,熱伝導率の高さなど,物性面での本質的利点を有しており,今後の進展が楽しみな材料である.

三重大学・平松からは「HVPE法によるGaN・AlN成長の現状と展望」と題して最近実用化が始まったHVPE法による窒化物自立基板作製技術に関する紹介があった.未だ価格の高さといった問題点はあるものの,既にGaNをベースとするレーザの実用化に大きな実績を挙げており,AlNに関しても明るい展望が示されていた.

休憩をはさんだ後半,コバレントマテリアル・鹿島より「Siバルク成長技術の現状と展望」と題する講演があったが,今後の大口径化にも大きな障害はないとの心強い発言が印象に残った.

住友電気工業・川瀬 からは「GaAs及びInPバルク結晶成長の現状と展望」と題して化合物半導体結晶開発の歴史的な経緯から最先端の製造方法までの技術紹介があった.縦型ボート法への移行や大口径化の状況に関して詳しい説明がなされた.

また,最後の講演として,シクスオン・古庄から「SiCバルク基板の現状と展望」と題してSiCのポリタイプ制御や欠陥抑制などに関する技術動向が報告された.SiC素子市場の勃興とともに,結晶の大口径化,高品質化が進んでいる様子が報告された.

これらの講演と討論で明らかになったことは,半導体バルク結晶成長分野は,現在でも,急激な技術開発が展開されており,技術的に流動的な状況に置かれていることである.健全な技術発展を促進する意味合いでも今回のような研究者間の理解を深める機会は極めて重要であるので,今後とも,同様な企画を継続的に開催してきたい.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
結晶工学分科会企画シンポジウム
「蛍光体結晶でつくる大画面ディスプレイと白色LEDの性能改善」

NHK技研 田中 克
結晶工学分科会では,近年進展が目覚しい蛍光体結晶を用いた大画面ディスプレイおよび白色LEDに注目したシンポジウムを開催した.現在までに,34インチ以上のPDP,FED,ELの各種大画面ディスプレイが相次いで発表されている.また,液晶ディスプレイのバックライトや照明用の新しい光源として白色LEDが急速に注目を集めている.これら大画面ディスプレイや白色LEDの進展は,蛍光体結晶の特性改善に負うところが大きい.そこで,本シンポジウムでは結晶工学の立場からこれら大画面ディスプレイ用蛍光体や白色LEDの今後を展望することを目的とした.

世話人によるイントロダクトリートークの後,市原氏(化成オプトニクス)のPDP用蛍光体の動向解説から始まった.青色蛍光体BaMgAl10O17:Eu2+ (BAM)は他の赤・緑色蛍光体に比べ輝度劣化が大きく,その劣化の改善が求められていたが,焼成温度,雰囲気,処理条件等を最適化することでほとんど問題のないレベルまで改善された.PDP用蛍光体は,従来の効率,寿命に加えて色再現性,残光の画質に寄与する特性,蛍光体の充填率や帯電のパネル駆動の容易さに寄与する特性が要求されるようになってきており,残光の短いY(PV)O4:Eu(赤色)や帯電を緩和したZn2SiO4:Mnと(Y, Ga)BO3:Tbの混合物(緑色)が開発されたと述べた.

佐藤氏(富士フィルム)は,大面積(A1サイズ)のフレキシブル分散型ELシートについて講演した.従来の分散型EL用硫化亜鉛蛍光体は,小粒径化すると効率・耐久性が低下していた.サーモルミネッセンスを用いて硫化亜鉛を調べた結果,トラップレベルが0.36 eVの電子捕獲中心を与える結晶欠陥が蛍光体の劣化に関連していることが分かった.この欠陥を低減したEL用硫化亜鉛蛍光体を微粒子化し,ELシートを作製したところ,従来と異なり発光効率は結晶サイズに反比例して増加した.この微粒子化した蛍光体を用いて,高輝度で耐久性のある分散型ELシートが開発されたと述べた.

浜田氏(三洋電機)は,厚膜誘電体と青色蛍光体(BaAl2S4:Eu)薄膜および青 → 緑/青 → 赤の色変換材料を組み合わせることにより作製した34インチフルカラー無機ELディスプレイについて講演した.今回のシンポでは,青色蛍光体の改善,特に残留酸素不純物の低減を進めた結果,青色EL素子の性能は駆動周波数120 Hzにおいて2300 cd/m2, 発光効率2.5 lm/W, 素子寿命6万時間を達成した事を明らかにした.

木下氏(日亜化学)は,青色LEDと黄色蛍光体(YAG:Ce)を組み合わせた白色LEDについて講演した.順方向電流が20 mA時に150 lm/Wの高効率発光を既に実現しており,類似の白色LEDを搭載したLEDヘッドランプを車載用として実用化した.講演の壇上で実際にこのヘッドランプの発光を実演して見せ,会場を沸かせていた.また次なる発光効率の目標は200 lm/Wであることを明らかにした.

大塩氏(松下照明社)は,高演色性白色LEDについて講演した.このLEDでは,白色を得る方式として青色LEDと緑/赤色蛍光体の組み合わせを採用した.この方式の蛍光体には,高い変換効率(量子効率)で波長変換し,しかも組成によって発光色が可変できる蛍光体が望まれ,Eu2+ あるいはCe3+ 付活蛍光体が適する.今回,緑色蛍光体としてEu2+付活珪酸塩系,赤色蛍光体としてEu2+ 付活窒化物系蛍光体を用いて演色性Ra=84,全光束280 lm,相関色温度3500 Kの温白色LED照明モジュールを商品化したと述べ,同モジュールの発光を実演した.

平松氏(東芝)は,高電流密度蛍光体について講演した.近年,様々なディスプレイの特性向上に伴い高輝度化の要求が高まっており,電流密度が増加する傾向があるが,電流密度の増加は蛍光体の効率低下や劣化を生じる.各種蛍光体ZnS:Ag, ZnS:Cu, Y2SiO5:Tb, Y2O2S:Eu, Y2O3:Euについて広い励起エネルギー密度範囲で評価した.これらの内ZnS:CuおよびY2SiO5:TbはBechtelの理論式でフィティングでき,蛍光体の発光中心濃度や減衰時間などが密接に発光効率に影響していることを明らかにした.

加藤氏(エフ・イー・テクノロジーズ)は,高精細FEDモニターと要求される蛍光体性能について講演した.氏らは,画素ピッチ0.3 mmの19.2インチFEDパネルを開発した.このFEDは,インパルス駆動,CRTと同様のP22蛍光体(青ZnS:Ag,Cl,緑ZnS:Cu,Al,赤Y2O2S:Eu)ナノスピントカソードの採用により優れた画質を実現している.今後,これらFEDの性能を更に改善させるために蛍光体に求められる条件として,結晶性と分散性を共に満たす小粒径化,外光反射率の低減と高い発光効率の両立,色域改善等を挙げた.

当日は,台風が北海道に接近しつつあり午後の飛行機が一部欠航になるなどあいにくのコンディションにも関わらず,多くの立ち見ができるほど盛況(約300名)であった.これは,最近の春季および秋季の応物講演会における蛍光体分野の盛況ぶりを反映しているとも考えられる.また今回のシンポを通じて,蛍光体表面領域の結晶性の良し悪しが発光性能を大きく左右するという点において,蛍光体における結晶工学の重要性が改めて認識されたと思われる.最後に,本シンポの講演者各位,活発な質疑応答をしていただいた参加者各位に感謝致します.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
シリコン・フォトニクス技術の最新動向

NTTフォトニクス研究所 美野真司
今回,光エレクトロニクス分科では,シリコン集積回路(Si-LSIs)で実績のある材料,製造技術で光素子や光回路を作製可能な,シリコン・フォトニクス技術の最新動向に関するシンポジウムを企画した.このシリコン・フォトニクス技術は,欧米や我が国においても産官学連携による研究開発が盛んに行われており,光通信分野で最大の国際会議であるOFC2007(2007年3月,Anaheim)においても一番ホットな話題であった.今回のシンポジウムでは,国内の一線で活躍されている研究者の方々に,各技術分野,具体的には,コンピュータシステムからのニーズや,チップ上光配線,発光デバイス,光導波路,光通信用光デバイス,受光デバイス,等についてご講演頂き,その最新の動向や今後の方向性について議論頂くと共に,シリコン・フォトニクス全般について一通りの情報が得られるように配慮した.会場は熱気に包まれ終始立ち見が出るほどの盛況ぶりであった.

最初にイントロダクトリートークとして,東京大学の和田一実教授が,Siプロセッサの高速化,高密度化に伴い,クロック速度や消費権力における原理的な限界が存在する等の例を挙げ,シリコンフォトニクス技術に対して強い期待が寄せられていることを述べた.また質疑応答において,今後さらにキーデバイスが表れた時に米国等に一気にキャッチアップできるよう,日本でも基盤技術を整備しておくことが重要であると述べられていた.

続いてNECの中田登志之氏が,スーパーコンピュータシステムからみたSiフォトニクスへの期待や課題について講演された.2010年のスーパーコンピュータでは1 LSI当たり20G b/s x 1000本のチップ間伝送が必要であり電気伝送には限界がある,という内容であった.それに対してMIRAI-Selete,NECの西研一氏はデバイス研究の立場から,氏の最近の研究成果を示しながら光配線の優位性を説明していた.質議応答の中で,単に電気を光に置き換えるのではなく波長多重のような光の特徴を生かした使い方も考えるべきではないか?といった議論があった.

電気通信大の木村忠正教授はSiフォトニクスにおける発光素子について講演された.過去の研究成果を分類してわかりやすく説明すると共に,各方法の技術的な課題等について解説され,また最近の成果としてIntelのInP系LDを張り合わせる方法も現実的な手段として紹介されていた.

横浜国大の馬場俊彦教授はパッシブな光導波路としてのSi導波路について,基本導波路特性(損失,曲げ,分岐,結合)やAWG等について解説され,またフォトニック結晶スラブによる光制御デバイスの成果について紹介された.さらに今後の技術的な課題として,一層の低損失化やCMOSプロセスとのさらなる整合性等を挙げられた.

NTT MI研の山田浩治氏はSiフォトニクス技術の光通信デバイス応用について講演された.具体的には偏波無依存化に必要なPBSの最新成果や,Intelの非線形を利用した波長変化による分散補償や変調器について紹介していた.

東京大学の朴成鳳氏はSi導波路上に作製したGe光受光素子について講演され,ヘテロエピにもかかわらず,1.55 μmにおける量子効率が〜20 %で暗電流も十分低いと報告されていた.今後の進展が期待される.

また日立中研の斉藤慎一氏は極薄シリコン膜を用いることによりSiを発光させることが可能なことをバンド計算と実験の両面から示した.氏がアングラ研究として地道に立ち上げていったエピソードは感動的であり, Siモノリシック集積可能な発光体の実現が期待される.

全体の印象として,各方面から盛んに研究開発されているだけあり,研究開発の進展が加速しつつあるという印象を受けた.光回路としては石英系PLCが光通信分野を中心に商用化されメニューが拡大しつつある一方で,民生分野を含め「光集積回路」と呼べるものはまだ商用化されていないと思われる.現段階ではSiフォトニクスならではの特徴を生かした身近な実用化のターゲットはまだ明確でない印象を受けたが,Si-LSIの隆盛を考えるにつけ,ニーズの開拓や実用デバイスの出現と共に,シリコン・フォトニクスの技術開発もさらに一層加速していくものと予想する.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
有機デバイスの物性評価と有機FETの新展開(基礎編)

情報通信研究機構 山田俊樹
有機分子・バイオエレクトロニクス分科では,近年,有機電界効果トランジスター(有機FET)の発表件数が著しく増加している.また,有機エレクトロルミネッセンス(有機EL),有機太陽電池(有機PV)に関する発表件数,これらの有機デバイスの物性評価に関する発表件数も多い.

このような背景をもとに,有機デバイスの物性評価技術および有機FETの研究の進展を把握することを目的として,シンポジウムを企画させていただいた.基礎編では有機デバイスの物性評価法を中心に構成された.

有機デバイスの評価方法には電流-電圧測定に加えて,様々な評価方法(非線形分光法,インピーダンス測定,変位電流測定,ラマン・赤外分光,ESR等)がある.それぞれの測定において評価される物理量に関する知見は,有機デバイスの動作機構の理解の深化に重要であり,研究・開発に対する指針も与えてくれる.

最初に,イントロダクトリートークとして,山田氏(情通機構)が,世話人を代表して本シンポジウムの趣旨と構成に関して説明を行った.

続いて,小田氏(有機エレ研)が,有機ELの基本特性とデバイスの性能との関連,基本特性と物性パラメータとの関連,物性値の評価方法の相互の関連性など,有機ELの物性評価を正確に行う際に必要とされる様々な留意事項を解説した.

内藤氏(大阪府大)は,インピーダンス分光法の基礎について概説したのち,インピーダンス分光法を応用して,有機デバイスの等価回路を決定することにより得られる様々な知見に関して解説した.

広光氏(島根大)は,非線形分光法の一つである電場変調吸収スペクトル法を用いた有機EL,有機PVの内部電界の評価に関して講演を行った.

古川氏(早大)は,赤外・ラマン分光法の有機デバイスの評価への応用(結晶・アモルファスの状態の識別,素子温度,分子配向,有機材料のキャリア生成にともなう化学変化等)に関して講演を行った.

岩本氏(東工大)は,誘電体の理論であるMaxwell-Wagner効果に基づいた有機FETの理論,FETの半導体理論との包含関係について概説したのち,有機FET内の電界に着目することの重要性を指摘し,電界誘起光第2次高調波発生法を用いた有機FETの内部電界の評価に関して解説した.

真島氏(東工大)は,有機FETのキャリア注入特性とチャネルにおけるキャリア輸送特性を同時に検討をすることを可能とする,変位電流とチャネル電流の同時計測法に関して詳説し,この手法の幾つかの系への応用例を示した.

丸本氏(筑波大)は,ESR評価法を用いて有機FET中における電荷キャリアの空間的な広がりに関して得られた微視的な知見に関して解説した.ペンタセンの場合には10分子以上に広がっているとのことであった.

中村氏(千葉大)は,局所電位測定法「AFMポテンショメトリー」と,この手法の有機FETの評価への応用に関して詳説を行った.形状像と電位像を詳細に検討することにより,有機FETの動作機構に対して様々な微視的な知見が得られることを示した.

本シンポジウムは約200名収容の会場に立ち見がでるほど盛況であった.本シンポジウムにより,聴講された方々の有機デバイスの動作機構に関する理解が深まり,今後の研究・開発に役立つのであれば嬉しく思う.最後に興味深い研究成果を発表していただいた講演者,聴講いただいた方々,本シンポジウムの企画の世話人,島田氏(東大),塚越氏(理研),竹谷氏(阪大)に感謝する.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
先端LSIに与える放射線の影響 “ソフトエラーとハードエラー”

宇宙研 廣瀬和之
富士通 戸坂義春
半導体Aでは,放射線が引き起こす先端LSIの故障についてそのモードやメカニズムを討議するために,民生デバイス,原子力,宇宙にかかわる研究者を集めて3日目の午後にシンポジウムを開催した.近年,放射線問題は,民生デバイスにおいても“地上に降り注ぐ中性子線問題”として顕在化してきている.またMOSトランジスタにストレスを印加した時の酸化膜中トラップへの電荷捕獲現象は,放射線環境下のMOSトランジスタの劣化現象と本質的に同一であることや,SILC(Stress Induced Leakage Current)のメカニズムは,古くから知られているRILC(Radiation Induced Leakage Current)のメカニズムと同一であることが分かってきている.このような放射線問題を,宇宙・原子力分野の研究者だけでなく,信頼性分野の研究者や酸化膜物理の研究者が集まり,広い観点で議論して,情報の交換をはかることを目的とした.参加者は60名を越え,活発な討議が行われた.なお,同様のテーマの“次世代半導体デバイス微細化の新たな障壁:宇宙線中性子ソフトエラー”というシンポジウムが,同じ北海道工業大学の2000年秋の講演会で,伊部(日立生研),戸坂(富士通),古田(NEC),義澤(三菱総研)等によって開催されたが,参加者が増加したことからも本問題の深刻さが増してきたことを印象付けた.

イントロダクトリートークとして,放射線によるシリコンエラーの内外の研究動向が“放射線によるシリコンエラー”と題して廣瀬和之(宇宙研)より紹介された.宇宙では高エネルギー粒子(電子・プロトン・重イオン)が,地上ではパッケージ・ソルダーから飛び出すα線,宇宙線に起因する中性子線,EBリソグラフィーの電子線等が放射線源であり,これらは半導体デバイス中でどれも(中性子の場合は核反応の後に)電離作用と非電離作用を及ぼす.ソフトエラーとは,電離作用によってSi活性層中に発生した過渡電流が引き起こす一過性の誤動作である.本シンポジウムでは,超短過渡電流パルスの発生ならびに回路の応答についての検出・予測手法等が議論されることが告げられた.一方,ハードエラーとは,非電離作用によってSi活性層中に蓄積した欠陥あるいは電離作用によってSiO2層中に蓄積した電荷が引き起こす劣化や故障のことであり,本シンポジウムでは,デバイス特性の劣化とプロセスとの相関,および酸化膜欠陥のミクロな描像が議論されることが告げられた.

前半はソフトエラーに関する発表が4件続いた.まず,“地上に降り注ぐ中性子線によるソフトエラーのフィールドテスト”と題して,小林一(ソニー)から報告があった.2000年以降,SRAMならびにロジック回路におけるソフトエラーが危惧されるようになり,平地に加えて,高地や地下においてフィールドテストを繰り返し行っていること,その際に高度・地磁気・コンクリートシールドなどの環境要因と,熱中性子・高エネルギー中性子・アルファー線などの放射線源の違いを考慮して,試験精度ならびにシミュレーション予測精度を向上させる努力が続けられていることが紹介された.

地上で使用する先端民生LSIでは,微細化によりソフトエラーとして,単一セルだけでなく複数セルで同時に起こるマルチセルエラーを考慮しなくてはならないことが,“マルチセルエラーの解析技術と新モードの評価”と題して,伊部英史(日立生産研)より報告された.マルチセルエラーのモードは,電荷シェアー,ラッチアップ,マイクロラッチアップ等の要因によって多様化してきており,国際標準試験法であるJESD89Aでも話題になっている.そこで,計測されたマルチセルエラーを自動分類・解析をするツールを開発して,ソフトエラーの定量化を進める最新の研究成果が報告された.

地上に降り注ぐ中性子線によるソフトエラー予測手法について、戸坂義春(富士通)より,“中性子線によるソフトエラーのシミュレーション”と題する報告があった.第一原理計算による核反応計算に始まり,電荷収集モンテカルロシミュレーション,発生電荷に対する回路応答シミュレーションをすべて統一的に行うソフトエラー率計算手法が紹介された.ロジックにおけるソフトエラーの顕在化率は,プログラムに依存するが4-11%程度であり,潜在的な脅威として残ること,それゆえ品質保証のためには精緻な予測技術が必須であることが指摘された.

シミュレーション技術として,論理回路の新しいソフトエラー源として懸念されている放射線誘起過渡電圧パルスであるシングルイベント・トランジェントに関する報告が,小林大輔(宇宙研)より“論理回路におけるソフトエラー”と題して行われた.シングルイベント・トランジェントがソフトエラーを引き起こすか否かを正しく知るためには,どのような電圧パルスが発生するかというデバイスレベルの考察に始まり,回路レベルでのパルスの伝播・ラッチ確率の考察,誤動作として顕在化されるかどうかといったシステムレベルの考察が必要である.ここでは,電圧パルス幅の実測方法とMOSトランジスタにおける放射線誘起過渡電流を用いた電圧パルス波形推定法が紹介された.

休憩を挟んで,後半はハードエラーに関する講演が4件続いた.まず,“放射線によるMOSデバイスのハードエラー”と題して,久保山智司(宇宙航空研究開発機構)より講演があった.宇宙で遭遇する銀河宇宙線は,その飛跡に沿って線状に高密度の電子・正孔対(プラズマフィラメント)を生成する.デバイスの微細化に伴って相対的にこのフィラメントの大きさ(0.1-1 μm)がデバイスの主要構造寸法と同程度になり,従来のハードエラーに加えて,たった一つの放射線粒子が入射しただけでデバイスが破壊するハードエラーが観測されるようになってきた.特に高電界を印加するEEPROMやパワーデバイスでは,SEDR(Single-Event Dielectric Rupture)やSEGR(Single-Event Gate Rupture)などの事象として表れ,喫緊の研究課題となっていることが紹介された.

続いて,“イオン化損傷と非イオン化損傷”と題して平尾敏雄(原研)から,高エネルギー電離放射線と半導体の相互作用に関する研究の現状が報告された.放射線が照射されると,そのエネルギーのほとんどは結晶原子の軌道電子を電離・励起するために費やされるが,低い確率で弾性衝突による結晶原子のはじき出しが起きる.前者をイオン化損傷と呼び,吸収線量を用いて解析する.一方,後者を非イオン化損傷と呼び,はじき出し損傷線量を用いて解析する.特に,はじき出し損傷に関しては,ガンマー線,電子線,プロトン,中性子,重イオンなどの種々の放射線による効果を統一的に扱えるNIELという最新概念の事例が紹介された.

このような損傷のメカニズムを原子レベルで明らかにした研究成果が,“MOSデバイスのハードエラーとその微視的描像”と題して,丸泉琢也(武蔵工大)より報告された.SILCの原因として中性電子トラップモデルが第一原理計算により1998年に発表されたが,同様のモデルが宇宙放射線の世界では第一原理計算の力を借りずに,すでに示されていた.またCMOSのp-MOSで問題となっているNBTIは,放射線損傷と類似の性質を持つ障害であるが,これについてクラスターモデルを用いた第一原理計算を行ったところ,正電荷と伴にNBTI中間過程で移動するものは,プロトンではなく,水素原子であることが明らかになったことが紹介された.

最後に,“MOSデバイスのハードエラーおよびその抑制”と題する講演が高橋芳浩(日大)より行われた.MOSFETに放射線が照射されると,酸化膜において電子・正孔対が発生して,これらの電荷の一部が酸化膜中の正孔トラップに捕獲されることにより,しきい値が負方向に変化する.電子をトラップする酸化膜ー窒化膜界面に着目して,酸化膜ー窒化膜積層絶縁膜を有するMNOS(Metal-Nitride-Oxide-Semiconductor)構造を利用したトランジスタを試作して,酸化膜と窒化膜の膜厚比を設計することにより,しきい値変動を制御できることが報告された.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
ナノスピントロニクスにおける量子効果と関連現象

東芝研究開発センター 高橋茂樹
DRAM,Flash,MPU等の半導体デバイスのfeature sizeがsub-100nm領域に入りその微細性に加えて高機能性が求められる中で,電子の「電荷」に加えて「スピン」をナノメーター領域で制御する「ナノスピントロニクス」のコンセプトが次世代半導体デバイスへの発展性への期待から大きく注目されている.本シンポジウムでは,ナノスピントロニクスを支える基本現象としての量子効果にスポットを当てて,金属,半導体,酸化物等の広い材料にわたった最新の研究について実験と理論の両面から紹介して頂いた.

はじめに東工大像情報の宗片先生がシンポジウムの趣旨を説明し,引き続き前半は金属,半金属,酸化物,及び強磁性半導体のTMRに関する4件の講演が,後半は将来のナノスピントロニクス技術に関する4件の講演が行われた.

産総研の湯浅氏は,従来Julliereモデルで説明されていたアモルファスAlO障壁のインコヒーレントなスピン依存トンネル伝導と単結晶MgO障壁のコヒーレントなスピン依存トンネル伝導の違いを系統的に比較説明した.コヒーレントなスピン依存トンネル伝導により,巨大TMR効果の他にも,MgO障壁厚さに対するMR比の振動(短周期振動と長周期振動の重ね合わせからなる)といった興味深い現象が観測されていることを紹介した.

東北大院工の大兼先生は,伝導電子が完全にスピン分極したハーフメタル材料として期待されるフルホイスラー合金のCo2MnSi及びCo2MnGe等について,そのトンネル接合の磁気抵抗効果について総合的に報告した.最近の進展としてスピンフィルター効果の高いMgOバリア層を用いることにより,低温で597%,室温で202%のMR比が得られ,従来のAlOバリアで問題であったMR比の温度依存性及びバイアス依存性を改善した例を紹介した.また,ホイスラー合金の実用化に対する期待をユーモラスな表現でかわした上で,その現状の課題点をまとめて講演を締め括った.

東北大金研の福村先生は,室温強磁性酸化物半導体であるCoドープTiO2について,強磁性半導体や強磁性酸化物にも普遍的に見られる異常ホール伝導率と伝導率のスケーリング則との関係を示し,そのデバイス活用について解説した.また,ヘテロ接合デバイスにおけるTMR効果が200 K付近で消失し,バルク材料の400 K以上のキュリー温度が反映されない点について,成膜方法とデバイス構造の改善による解決策を提示した.

東大院工の大矢先生は,GaMnAs量子井戸二重障壁トンネル接合を作製し,共鳴トンネル効果とそれに起因したTMRの増加現象を強磁性半導体量子へテロ構造において初めて明瞭に観測した結果を報告した.量子サイズ効果とスピン自由度を組み合わせた新たな機能を有するスピンエレクトロデバイスの実現への足掛かりとなる結果である.

東芝の大沢氏は,従来測定結果の再現性や信頼性に乏しかった磁性ナノコンタクト(NC)素子を,イオンビームスパッタとイオンミリングを用いて平面型で作製し,接点面積の縮小によるMR増大効果を示した.接点面積約10 nm2のNC素子ではAMR効果より十分に大きい約10-20%のMR比を観測し,NiFeの島状成長とその後のイオンミリング狭窄化の手法で作製した接合面積約1 nm2のNC素子においては144%という大きなMR比を観測した.

慶大理工の江藤先生は,電子のフェルミ波長程度の狭いくびれ構造である量子ポイントコンタクト(QPC)に着目し,そのスピンフィルター効果を理論的に明らかにした.スピン軌道相互作用がある程度強い場合にはQPCはスピン注入源として働き,QPCの幅の遷移領域が緩やか(断熱的)であるほどスピン分極率(P)が増大し,InGaAsヘテロ構造でP=60%が得られる可能性を示した.

東大生産研の浜屋先生は,大小の強磁性金属電極と微小ギャップで結合した単一InAs量子ドットからなる微小二重トンネル接合を作製し,非磁性体であるInAs量子ドットを介したTMR効果(低温で315%)を観測した.さらに,TMR効果のゲート電圧制御,バイアスに対するTMR振動を始めとする,単一量子ドット中のスピン蓄積効果による興味深い種々の現象を観測した.

東北大通研の小坂先生は,光子の偏向に乗った量子状態を半導体の電子のスピンに乗った量子状態に変換するメディア変換の重要性を指摘した.微細電極によりGaAs量子井戸を狭窄した量子ドットと量子ポイントコンタクト検出器において,位相緩和が圧倒的に早い正孔を引き抜くことにより,単一光子からの単一電子の生成と捕獲が可能であることを示唆した.

本シンポジウムはスピンエレクトロニクス研究会によって企画され,講演会3日目の午後に開催されたが,約160名収容の会場がほぼ満席の状態となり,関連の合同セッションE(スピントロニクス・ナノマグネティクス)が来春の講演会から大分類へ昇格することと呼応したようなスピントロニクス分野の盛り上がりを感じさせるものであった.最後に,ご多忙中ご講演をお引き受け頂いた講演者の方々,活発な質疑を行って頂いた参加者の皆様に感謝致します.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
ランダム系フォトエレクトロニクス研究会シンポジウム
ランダム系材料・デバイスの挑戦,結晶系を超えられるか!?

東北大院工 藤原 巧
ランダム系フォトエレクトロニクス研究会のシンポジウムを標記のテーマで開催した.午前中の早い開始時間にも関わらず100名を超える多くの参加者に恵まれ盛況であった.

種々の応用において,光・電子制御のような主にアクティブな機能性が要求される場合,それらの材料やデバイスには半導体や強誘電体の単結晶材料が用いられる.一方,結晶構造を持たないランダム構造材料についても,これまでに光記録や光情報通信,そして光エネルギー利用の分野において,それぞれ特徴のある展開を示してきた.今回のシンポジウムにおいては,ランダム系材料ならではの特徴を活かし,これまで結晶系では充分に果たせなかった,あるいは,結晶系では到底成し得ない広い意味での機能性発現を目指す研究開発に着目した.

今日,地球全体を覆いつくすほど敷設された光ファイバ網が材料的にはガラスで構成された人工線路網であることを改めて認識すべきであろう.ランダム構造材料としてのガラスの特徴,すなわち賦形性,高透過性(低損失),均質性など,光ファイバを成功に導いたこれらの特性は,各種の光デバイスに用いられる材料選択にも実際には大きな影響を与えている.機能面からは当然結晶材料が選ばれる光波制御デバイス開発においても,上述した点とさらに既存光ファイバとの整合性から,ガラスをベースとして結晶由来の機能を付加する方向で研究が進められている.阿部(NTT)により,石英系ガラスを用いた熱光学効果による光スイッチや可変光減衰器,さらにはそれらの大規模集積化など,ガラス導波路デバイスの最先端動向が紹介された.高度に集積化された素子の基板サイズから考えて,ガラスの大型基板の作製しやすさや均質性,そしてコストの点から,もはや同程度の素子を結晶基板で作製することは現実的ではないと感じたのは筆者だけではあるまい.ガラスに「必要な」結晶機能を付加するという開発指針が,例えば集積化と量産化という面において,結晶だけでは為し得ない有用性をもたらすという事実を明確に示す講演であった. いかなる形態にも安価に作製しやすいというガラスの特徴を活かして,サブ波長の周期構造を簡便に形成する新しいプロセス技術開発の試みが西井(産総研)により紹介された.レンズやプリズムなどいわゆるガラス製の光学部品が使用される分野は,単にエレクトロニクスに止まらず,医療や環境分野などへ大きく広がっている.従って,極めて多種多様な構造・形態が要求される中で,従来のモールド法を基本とするナノインプリント方式による簡便な周期構造の形成は,結晶系から見るといわば反則技に近い強烈な印象であろう.パッシブなガラス素子の次世代展開として,この西井プロジェクトのますますの発展を期待したい. フォトニック結晶のランダム版(ランダムフォトニック構造)ともいうべき研究開発が藤田(京大)によって紹介された.独自のプロセスを用いて,サブミクロン空間の精密制御により強光散乱の構造体の形成に成功している.光散乱測定から光の拡散距離が決定される過程では,キャリアとしての光の伝播や局在が論じられた.日本では研究例の少ない分野であるが,well-definedな講演内容と電子系でなじみのある輸送現象は多くの聴衆を引き付けた.同構造を活用するランダムレーザなどへの展開が楽しみである.

フレキシブルな有機EL発光素子の先端研究が大森(阪大)により紹介された.次世代大型ディスプレイの主力として有機ELが注目されているが,ここでは,その高速な応答特性に着目している.短距離の光線路網(LAN)において,ファイバを含め,ほぼ全てを有機系材料で構成する画像伝送システムは,その簡便性と低コストから家庭内LANのような大きなニーズが容易に予想される.講演中に示された組成の選択自由度による特性制御の幅広さは,無機材料では発揮しにくい特徴であり,薄くてフレキシブルな発光素子として今後の展開に大いに期待したい. 相変化メモリに用いられるGe-Sb-Te系について,非晶質状態におけるランダム性の程度とメモリとしての特性(耐熱性や結晶化速度)との関係が寺尾(日立中研)により紹介された.一般にランダム構造といっても,その程度はプロセス等に依存して広い範囲に亙り,少なくとも酸化物においてはランダム性を自在に操ることは難しい.丁寧な組成探索や構造モデルの考察を通じてランダム性と所望の機能性を探求する過程は誠に圧巻であった.DVD光ディスクと同様に,ランダム系材料の索引役としてカルコゲナイド系相変化メモリの進展に期待したい.

最後に,先端的な研究内容をご紹介いただいた講演者とたくさんの参加者の皆様に対してここに厚く御礼申し上げる.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
薄膜シリコン太陽電池の新展開

阪大院基礎工 外山利彦
太陽電池の世界は,今,急速に変化を遂げている.ヨーロッパにおける有効な補助金システムの導入にともない,ドイツを中心に市場が急速に拡大している.その結果,現在の主力である多結晶シリコン太陽電池では,その需要に原料供給が追いつかず,市場の要求に十分に答えられない状況がこの2,3年で生まれた.こうした状況を打開すべく,原料消費の少ない薄膜シリコン太陽電池の増産が,世界的に進められている.特に,台湾やインドなど人件費の抑制が期待できる国々で,製造装置を装置メーカーから一括購入し,新たに市場参入を図る動きも活発化している. こうした背景の下に,非晶質・微結晶分科では,日本の主要企業の一線級の研究者にお集まりいただき,シンポジウム「薄膜シリコン太陽電池の新展開」を行った.

カネカ・市川氏からは,これまでのアモルファスシリコン(a-Si),微結晶シリコン(μc-Si)そして両者を組み合わせたハイブリッド型(タンデム型)太陽電池の進捗の紹介,最近のNEDO委託研究成果であるトップセル/ボトムセル間の中間層の光学的,電気的特性のマッチングによる性能改善,これらの結果としての生産力の増強に関する報告がなされた. シャープ・那須野氏からは,堺市に大規模な新工場設立の新聞報道がなされた直後の時間の余裕が無い中,貴重なご講演を頂いた.新聞では,他社ではまだ行っていない三接合タンデム型太陽電池を量産し,現在の多結晶シリコン太陽電池と匹敵するような生産量にまで増強することが報道されたため,技術的,コスト的な課題およびその前提となる多結晶シリコン用原料の需給バランスに多くの関心を呼び,活発な討論となった.また,シースルー太陽電池などの新用途の開拓に関しても報告された.

三洋電機・中川氏からは,薄膜と結晶シリコンとの融合技術であるHIT型太陽電池ならびに民生用アモルファスシリコンからの長い歴史を持つ三洋電機の薄膜シリコンの進捗についてのご講演があった.また,今後,電力用薄膜シリコン太陽電池においても市場参入すべく,NEDOの委託の下,開発を行っている局所プラズマCVD法の開発状況に関する報告がなされた.

富士電機・石川氏からは,同社オリジナルのプラスチック基板を用いたフレキシブル太陽電池の進捗状況の報告がなされた.プラズマポテンシャルと高周波プラズマ電位との相関から,a-Si製膜の安定化がなされたこと,また,同社も熊本に生産設備を増強したことから,当面a-Si単接合太陽電池を中心に量産を展開することが報告された.

旭硝子・尾山氏からは,薄膜シリコン太陽電池を支えるガラス基板ならびに透明電極に関する報告がなされた.太陽電池用基板のデファクト・スタンダードであるタイプU基板が,すでに改良されタイプSU基板が投入されていること,さらにヘーズ率の長波長側分光感度特性を改善するためのタイプHS基板が開発中であることが報告された.また,薄膜シリコン太陽光発電の製造コストに高い比率を占める透明電極付きガラス基板のコスト低減のために,熱線吸収ガラスで行っているオンライン型製造を導入するために必要な太陽電池製造量について見通しが報告された. 産総研・藤原氏からは,今後の薄膜シリコン開発に欠かせない基礎物性・評価技術を中心に講演がなされた.薄膜シリコン太陽電池に必要と予測される微結晶SiGeの開発状況および三接合型太陽電池への見通し,赤外吸収分光に基づくμc-Siの粒界評価技術,そして,分光エリプソメトリによるa-Si/結晶Si界面評価技術に関する報告がなされた.

最後になりますが,お忙しい中ご講演をご快諾頂きました講師の方々にお礼を申し上げると共に,台風の直撃を受けたのにも関わらず,立ち見を含めて150名を超す皆様にシンポジウムにご参加頂き,また,活発にご討論頂きましたこと,改めて感謝申し上げます.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
有機デバイスの物性評価と有機FETの新展開(応用編)

大阪大学理学研究科 竹谷純一
本シンポジウムは,タイトルのとおり有機デバイス,特に有機FETの応用に向けた最新の開発研究と展望を主題として企画された.材料開発からデバイス特性向上の方策,さらには実デバイスの応用開発研究までを包括する内容であった.有機デバイス研究の様々な段階を専門とする幅広い学会員の参加によって,300人規模の会場に立ち見が出るほどの盛況であった.また,予定されたディスカッション時間では収まりきれないほどの議論があって,この分野に対する関心の高さをうかがわせた.

最初に,有機トランジスタの生みの親ともいうべき千葉大学工藤教授からは,「イントロダクトリートーク:有機薄膜トランジスタ開発の現状と新展開」との表題にて,開発当初から現在に至るまでの20年間に及ぶ研究の発展について概説された.また,それにとどまらず,縦型トランジスタや電子相転移を利用する新しい機構によるスイッチ素子などの最近の研究についても示された.有機FET研究の長期的スパンを考えるまたとない機会となった.

続いて,トランジスタ特性を支配するキャリア伝導の基礎物性という観点から,2件の講演がプログラムされた.理化学研究所塚越講師からは,電極からチャンネルへのキャリア注入に関する精緻な実験結果と,アクセプタ性分子の利用によるコンタクト抵抗の改善策が示された.一方,大阪大学竹谷からは,有機半導体のチャンネルに焦点をあて,単結晶材料を用いた有機材料本来の高いキャリア伝導性能に関する研究が紹介された.これらの基礎的な実験研究によって,有機トランジスタの性能決定要因の深いレベルでの理解が,全体の素子特性向上に結び付くことが期待される.

次の2件の講演は,化学界からの新規有機半導体材料の開発に関するものであった.東京工業大学の山下講師からは,より開発が難しいとされるnタイプの有機半導体において,pタイプの性能に迫る特性を示すものが続々と得られているという報告があった.complementary circuitなど基本回路素子の設計に,nタイプ半導体は不可欠なため,応用上も注目すべき結果であった.また,広島大学の瀧宮講師からは,塗布法により,大気中で安定,しかも高移動度という傑出したp型新規半導体材料が開発されたという紹介であった.いずれも,数年前には考えられなかったほどの大きな進展が見られており,今後もペンタセンの地位を揺るがす新有機半導体材料の開発に期待が持たれる.

最後の3件の講演は,通常の学会ではなかなか聞くチャンスが得にくい,実デバイスの開発研究の現場からの研究紹介である.まず,ソニー・マテリアル研究所の野本講師からは,有機FETと有機発光素子を組み合わせた回路系において,実際にプロセスを理想化したうえで,十分な歩留まりを得るというレベルの高い研究開発結果の報告があった.12月に販売が始まる有機ELテレビに続き,有機FETの技術が市場に登場することを大いに期待させる内容であった.凸版印刷の前田講師からは,有機FETの電子ペーパーへの応用についての紹介があった.実際に,“紙”面が素早く切り替わるデモンストレーションからは,素子特性の均一性が極めて高いことがうかがえる.実用化が近いといわれる分野であるため,数年後の展開が待ち遠しい.応用開発の出口研究についての講演のあと,最後にはNHK技術研究所の時任講師から,有機FETの実用化に必要な低電圧駆動の手法やデバイスの安定化には,やはり素子構成のプロセスや界面の精緻な制御が不可欠であるという系統的な研究の報告があった.特にプロセスがよく制御された自己組織化単分子膜の効果について,データに基づく説得性の高い議論が展開されていた.

以上,筆者の私見に基づいて報告させていただいた.学会員の皆様にとって,本シンポジウムが,学術研究と応用開発研究の現状を整理する機会であったことを願う.

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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
バイオチップの現状と課題
〜企業での開発研究の視点から〜

東北大工 吉信達夫
東レ先端融合研 中村史夫
本シンポジウムは,表面・半導体関係の研究者有志が,固体表面を用いたバイオセンサ・バイオチップの開発における医・歯・薬・生物関係研究者とのコラボレーションを目的として,2004年秋季大会以降毎年開催してきた一連のシンポジウム(2004「ナノバイオテクノロジーにおける表面・界面の課題」,2005「表面に生命(いのち)を見る−生体計測技術の新展開」,2006「高度バイオセンシングの新しい潮流」)に続く第4回目のシンポジウムである.

近年DNAマイクロアレイを中心とするバイオチップ開発の進展はめざましく,さまざまな形の新しいセンシングデバイスが実用化されはじめている.今回は特に,最近のバイオチップ開発について企業での研究開発の現状を中心に紹介いただき,応用物理学会として,今後我々が向かうべき方向について議論を行った.

はじめにイントロダクトリートークとして,中村(東レ)が,実用化されているバイオチップの現状について紹介し,バイオチップのテーラーメイド医療への応用に必要な要求特性および課題について報告した。

2番目の講演は辻本(京大薬)が「ゲノムテクノロジーで変わる医療」と題して,ゲノム情報,技術を基に患者各人に個別至適化されたテーラーメイド医療の将来を展望し,特にゲノム情報から薬を理論的に創るゲノム創薬に対してDNAマイクロアレイやProteomicsチップの高性能化が与えるインパクトについて紹介を行った.

3番目の講演は山本(キャノン)が「インクジェット法による臨床用DNAマイクロアレイの開発」と題して,インクジェット技術を利用した臨床用DNAマイクロアレイの開発について紹介し,新ヘッドの開発によって製造時間の短縮と大量生産によるコストダウンが可能になったことを実例とともに報告した.

4番目の講演は松下(オムロン)が「ナノインプリント技術を用いた局在表面プラズモン共鳴バイオセンサーの開発」と題して,ナノインプリント技術によってセンサー表面に形成された数10 nmの微細凹凸構造が局在表面プラズモン共鳴(LSPR)バイオセンサーの高感度化に与える影響について,実験とシミュレーションによる検討を行った.

5番目の講演は宮原(物材研,東大)が「バイオトランジスタによる生体分子認識の検出」と題して,電界効果トランジスタのゲート上にプローブDNAを固定した生体分子認識検出デバイス(バイオトランジスタ)による遺伝子多型解析やDNAシーケンシング技術について紹介した.

6番目の講演は来馬(富士フィルム)が「表面プラズモン共鳴センサー技術を用いた創薬スクリーニングシステムの開発」と題して,創薬スクリーニング向けのSPR装置について,ディスポーザブルタイプの測定系一体型センサーチップ,複数同時測定技術による低分子化合物の高感度検出,ハイスループット全自動測定の実現について紹介した.

7番目の講演は宇理須(分子研,総研大)が「シリコンを基板としたイオンチャンネルバイオセンサーの開発と応用」と題して,従来のパッチクランプ技術に替わるSi基板をベースとしたプレーナー型パッチクランプ素子の開発について紹介し,基板の構造制御による雑音の低減によりイオンチャンネル電流の測定に成功したことが報告された.

バイオチップ開発研究における各社の技術的戦略に加えて,通常講演ではなかなか語られない企業の視点(コストやマーケット)についても紹介され,この分野の今後の発展の方向について参考になる点が多かった.講演者および参加者各位に御礼申し上げます.
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