応用物理学会
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2007年 第68回応用物理学会学術講演会(北海道工業大学)報告
総論 [PDF]一般セッションシンポジウム非晶質・微結晶
分科内総合講演
非晶質・微結晶材料における未知物性の開拓

神戸大 内野隆司
非晶質・微結晶大分科では,「非晶質・微結晶材料における未知物性の開拓」と題して,分科内総合講演(招待講演)を企画した.非晶質および微結晶材料は構造の乱れ,表面準位,粒界等の存在により,対応するバルク結晶にはみられない独自の物性を示すことが多い.そこで今回,最近相次いで報告されている非晶質・微結晶材料の新規物性とその原理についての理解を深める為,本招待講演を企画した.講演では,非晶質・微結晶の分野の最先端で研究をされている,3名の研究者の方々に講演を依頼し,各材料の特徴,特殊性,普遍性について概観していただくとともに,その新しい基礎,応用研究の展望について独自の視点から意見をいただいた.

岐阜大の嶋川晃一先生からは,「微結晶透明縮退半導体の自由キャリアの奇妙なふるまい」と題して,特に酸化亜鉛微結晶中の自由キャリア についての理論的解析がなされた.酸化亜鉛微粒子は,ワイドギャップ(透明)半導体として近年注目を浴びている素材であり,透明電極,紫外発光素子等への応用が期待されている.物性の制御には,伝導特性の微視的理解が不可欠となるが,酸化亜鉛微結晶では,その自由キャリアの伝導特性が金属の自由電子的挙動だけでは説明できない実験事実があることが紹介された.講演では,同材料の伝導機構を理解する上での問題点と,それを解決する為の新しい方法論が提示された.これらのふるまいが,酸化亜鉛固有のものなのか,あるいは,他の透明縮退半導体にも共通するものなのかは現時点では不明である.

次いで,北大の田中啓司先生からは, 「VIb族ガラスの光誘起現象−新応用の可能性−」と題して,これまでに報告されている VIb族ガラス(カルコゲナイドガラス)の可逆,非可逆光誘起現象を概観する講演が行われた.カルコゲナイドガラスの光誘起現象はDVDディスク等で実用化されたものもあるが,現象の本質的理解にはまだ至っていない.講演では,一見複雑に見える光誘起現象を統一的に理解する為の微視的モデルが提案された.さらに,偏光を利用した光誘起現象の数々が,講演者の最新の研究結果も交えて紹介され,同ガラスにおけるさらなる未知物性の開拓の可能性を予感させる講演となった.

最後に,東工大の細野秀雄先生から,「酸化物の構造の乱れと光・電子物性」と題して講演を頂いた.講演は,近年,細野グループから報告されている一連の新材料を総括するものであり,同時に固体の光・電子物性を自由に操る為に必要な独自の材料設計手法が提示された.いずれの成果も,各材料の構造的特徴を極限まで活用した結果得られたものであり,ブレークスルーの達成には,固定概念にとらわれない思考の柔軟性と,結果を成就させる為の強固な意志と行動力の必要性を感じさせる講演であった.

当日は,ピーク時には,定員160名の会場がほぼ埋め尽くされ,活発な質疑応答がなされた.本講演を通して,非晶質,微結晶材料の難しさと,それを上回る面白さを感じ取っていただけたのではないかと思う.最後に,お忙しい中講演をお引き受けくださった講演者の先生方,およびご来場いただきました聴衆の皆様に深くお礼申し上げます.

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