【高知工科大学 古田 守】
薄膜材料デバイス研究会第5回研究集会は10月31日,11月1 日の2 日間,奈良市のなら100年会館にて開催され,過去最高の200名の参加者と72件の論文投稿を集めた.今年は「薄膜材料・デバイスの徹底比較」をテーマに,半導体開発の歴史から最先端技術に至る講演が行われた.以下,本研究集会で続けている特徴的な試みを中心に,本研究集会の様子を報告する.
図1 研究会での活発な討議
本研究集会では,一般講演に先立ってチュートリアルを開催している.今回は「薄膜材料デバイスの5年間」をテーマに,poly-Si,アモルファス/微結晶Si,ワイドギャップ酸化物半導体,有機半導体のそれぞれにおける研究状況と将来課題について講義していただいた.
オーラルセッションは五つに分けて行った.「Ⅳ族系材料・デバイス・評価技術」では大阪大学の外山先生から微結晶シリコン薄膜太陽電池の高速製膜,大面積化,高効率化に関して招待講演をいただいた.また,電流検出型AFMを用いたレーザ結晶化シリコン膜の粒界や粒内の欠陥評価,薄膜トランジスタ(TFT)を用いたポテンシオスタットによるグルコース濃度の検出,に関して報告があった.
今回の研究集会では有機半導体の投稿が増え,「有機材料・プロセス・デバイス」セッションを増枠した.招待講演として,旭化成の南方先生からペンタセンを用いた溶液成膜プロセスと,それにより良好なTFTを作製可能であることを紹介いただいた.一般講演からは,ITOをソース/ドレイン電極に用いた高性能有機TFTとCMOSインバータおよび,有機半導体単結晶トランジスタによるガスセンサ,フォトクロミック層を利用した光スイッチングTFT,微小角入射X線回折によるペンタセン薄膜の構造評価,n型材料とp型材料の積層構造による両極性FETの作製について報告があった.
「Ⅳ族系材料・プロセス・デバイス」では,招待講演として島根大学の土屋先生よりシリコン系MOSデバイスの信頼性に関するご講演をいただいた.一般講演では,CeO
2
/YSZ構造によるSi薄膜の配向制御や,溶液化したポリシランを用いた薄膜形成など,新しいアプローチによる薄膜形成技術が発表された.
「酸化物材料・プロセス・デバイス」では,湿潤熱処理による非晶質InGaZnO
4
(a-InGaZnO
4
)TFTの特性・安定性向上,ZnO TFTのバイアス・温度(BT)ストレス劣化メカニズム,高誘電率Bi
1.5
Zn
1.0
Nb
1.5
O
7
(BZN)ゲート絶縁膜を用いたITO/IZO TFTの報告があり,酸化物TFTの特性・信頼性に関して活発な議論がなされた.
本研究集会の大きな特徴に,ランプセッションがある.バンケットと並行して,半導体技術の黎明期に活躍された先生の特別講演と,特に注目度の高い一般投稿講演をしていただいている.特別講演では,大阪大学名誉教授の濱口先生より,「半導体研究とセレンディピティ」との題目で,ファラデーからエレクトロニクスの黎明期まで,先人たちの個性や大発見にまつわるエピソードを交えたお話をいただいた.その後,有機単結晶発光トランジスタに関するレビューと最近の進展,グリーンレーザ結晶化Si膜のCMP平坦化によるキャリア散乱の低減,a-InGaZnO
4
TFTの温度・光照射特性と欠陥構造モデルの一般講演があり,いずれも制限時間を超えての活発な議論がされた.
図2 バンケットと並行したランプセッション(濱口先生)
本研究集会では,口頭発表論文についてもポスター講演をしており,その長所を活かし,口頭講演の内容も含め,より突っ込んだ議論がなされた.これらの一般講演から,参加者の投票により優秀論文賞が選定され,今年は,高知高専の谷真衣さん,千葉大の松原亮介さん,京大の西中浩之さんが受賞した.
展示セッションには7社の企業にご参加頂いた.講演会場の入口前に設置した展示コーナーには多くの参加者が訪れ,メーカーとの情報交換がされた.
最後に本研究集会は,村田学術振興財団,中部電力基礎技術研究所,および東京農工大学に助成を,また,多数の企業より展示・広告等を通して開催支援をいただいた.ここに心より感謝いたします.
応用物理(2009) Wb-0002
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