応用物理学会
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以下の記事は 応用物理 第72巻 第1号 113ページ に掲載されたものです。
委員会報告

男女共同参画学協会連絡会設立集会報告


応用物理学会男女共同参画委員会・東大工 近藤高志

 1999年6月の男女共同参画社会基本法の施行,2000年12月の男女共同参画基本計画の閣議決定,女性科学者の環境改善の項目が第二期科学技術基本計画に盛り込まれたことなどを受けて,国内の学協会では男女共同参画に対する取り組みが本格化している.応用物理学会では,2001年10月に男女共同参画委員会を正式に発足させてさまざまな活動をおこなうとともに,関係学協会に呼びかけて連絡会の設立を目指してきた.応用物理学会のほか,日本物理学会,日本化学会などが中心となって自然科学及び工学系分野の学協会に呼びかけ,2002年7月の準備会を経てこのほど男女共同参画学協会連絡会が正式に設立される運びとなった.2002年10月7日に日本化学会ホールにおいて設立集会が開催されたので,その様子について報告する.
 当日までに連絡会への参加(オブザーバーを含む)を表明した31の学協会の関係者に加え,遠山敦子文部科学大臣,内閣府男女共同参画局坂東眞理子局長,文部科学省生涯学習政策局名取はにわ主任社会教育官をはじめとする来賓を迎え,出席者数100名規模の集会となった.マスメディアの関心も高く,当初の予想を上回る上々の滑り出しであったといえよう.
 設立集会は,応用物理学会男女共同参画委員会の小舘香椎子委員長と遠山嘉一委員の司会によって進められた.まず,主催者を代表して応用物理学会後藤俊夫会長からの連絡会設立の経緯の説明の後,同じく主催者代表として日本化学会野依良治会長が,女性研究者の適切な処遇が重要であること,男女共同参画による新しいパラダイムの創出を期待することなどを表明された.

遠山敦子文部科学大臣
 続いて,遠山文部科学大臣,坂東局長,名取主任社会教育官,内閣府総合科学技術会議石井紫郎議員(代理:三浦春政政策統括官付参事官),日本学術会議黒川清副会長(代理:原ひろ子第一部副部長)の各来賓から祝辞を頂戴した.遠山大臣は,政府審議会の大半ではすでに委員の3割以上が女性であることや女性の社会進出の進んでいるスウェーデンの事例などを紹介され,大学・研究所の職員,学協会の役員などへの女性の積極的な登用を訴えるとともに,ご自身の体験から,「実力ある男性は,女性の活躍を認めるものとわかった.」等,女性研究者への激励の言葉を述べられた.坂東局長は,科学技術分野での男女共同参画は即効性のある妙案があるわけではないと述べられたうえで,多様性を認める職場環境,ロールモデルやネットワークの構築が重要であることを強調された.名取教育官は,国立大学協会や一部の国立大学,学協会の取組状況を紹介された後,子供の理科離れの問題,家庭における育児・介護の問題などへの対応の必要性について言及された.三浦参事官に代読いただいた石井議員からのメッセージでは,現状の男性中心社会での互選方式では特別の配慮をしない限り女性に不利な結果となることを指摘され,さらに,応用物理学会のアンケート調査であきらかになった男女間の意識のギャップ(男性は条件整備で事足りると考えているのに対して,女性は男性の意識改革を求めている)をよく認識して男性中心の社会のあり方そのものを見直す必要があると主張された.最後に,原副部長は,男女共同参画の趣旨に全面的に賛同するとの黒川副会長のメッセージを代読された後,ご自身のお考えとして,女性研究者への配慮だけではなく(一般的にはこの問題にもっとも無関心な)若い男性研究者が人間らしい生活を送れるように配慮することが重要であると指摘された.
 次に,当日参加した正式加盟13学協会(化学工学会,高分子学会,日本宇宙生物科学会,日本植物生理学会,日本数学会,日本生物物理学会,日本生理学会,日本動物学会,日本分子生物学会,日本女性科学者の会,日本化学会,日本物理学会,応用物理学会)からそれぞれの取組状況についての報告がおこなわれた.男女共同参画に対する意識や取り組みの内容,レベルはまちまちであったが,今後の連絡会の活動の出発点としてお互いの状況を理解するという目的は十分に達成できたと感じられた.

男女共同参画学協会連絡会
設立集会の会場風景
 活動報告の中で,日本植物生理学会の風間晴子評議員が男女共同参画に関して活動する際に忘れてはならない点として以下の3点を挙げられ,参加者に強い印象を与えた. (1) 極端な人口減少が予想される日本においては女性の社会参画なしに発展はありえない, (2) 男女共同参画の出発点は女性と男性が同じ土俵で勝負できるということではない,女性の感性を生かした新しい形での科学技術の発展を望む, (3) 女子の科学分野への進学を歓迎しない日本特有の社会環境を放置したままでの性急な施策はかえって逆効果になりかねない.いずれも重要な論点であると思うので,あえてここに採録する.
 また,応用物理学会男女共同参画委員会の渡辺美代子委員は,男女共同参画活動を単に女性を救い上げるためのものとは捉えておらず,性別を問わず誰もが人間らしい研究生活を送れる社会の実現が目標であることを強調された.さらに,2001年に応用物理学会員を対象におこなったアンケート結果の一部を紹介し,客観的なデータに基づいて議論をおこなうことの重要性を指摘したうえで,加盟学協会で統一アンケートをおこなってはどうかと提案された.
 続いて,連絡会発足にあたって発表する予定のアピール文の検討がおこなわれた.日本物理学会の北原和夫会長より原案が示され,これをもとに活発な討論がおこなわれた.ここで示された意見には重要なものが多かったので,その一部を以下にまとめる.
後藤俊夫 応用物理学会会長
 最後に,応用物理学会後藤会長より連絡会の当面の運営方法の提案があり,連絡会委員長・副委員長・事務局を正式加盟学会の1年単位の持ち回りとすること,2003年10月までは応用物理学会の担当とし,小舘香椎子委員長・遠山嘉一副委員長・伊藤香代子事務局担当の体制で運営することなどが全会一致で承認された.また,小舘委員長より統一アンケート調査などを含めた活動を進めるために科学研究費補助金の申請をおこなう旨の提案がなされ,これも全会一致で承認された.
 10月23日に第1回連絡会が開催されて実質的な活動が開始し,その後小舘委員長を代表者とした科学研究費補助金の申請もおこなわれたこともあわせてここで報告しておきたい.まずは順調にスタートを切ることができたが,後藤会長が指摘されたように,このような活動には息の長い地道な努力が必要であることを肝に銘じねばなるまい.また,この活動には男性(特に若い世代)の参加・協力が不可欠であると筆者は最近強く感じている.この場を借りて,男性会員諸氏に関心を持っていただくようお願いする次第である.最後になったが,今回の設立集会開催に当たり,準備や会場を快く提供してくださった日本化学会太田事務局長をはじめとする関係者の皆様,本報告をまとめるに当たりご協力いただいた日本物理学会の高畠さん,ビデオ,カメラの撮影にご協力いただいた小舘研の皆様,連絡会だけでなく男女共同参画活動に献身的に貢献して下さっている事務局の伊藤さんに感謝の意を表して結びとしたい.
(男女共同参画学協会連絡会設立集会資料より転載)

男女共同参画学協会連絡会アピール文
男女共同参画学協会連絡会
 あらゆる人間が平等な機会を与えられ,それぞれの個性を生かして,性によらずそれぞれの能力を発揮することができる社会を実現することは,今世紀の人類にとっての重要課題である.20世紀初頭の量子力学に始まる現代科学の幕開けは,女性科学者マリー・キュリーによるポロニウム,ラジウムの発見という輝かしい業績に代表されるように,自然科学研究における男女共同参画の幕開けであったともいえよう.
 その後の科学技術の進展の中で,多くの新しい発想や様々な視点が技術に結実し実用化されてきている.ここでさらなる発展のためには,多様な価値観や豊な感性が十分発揮される男女共同参画社会の実現が重要であることが認識され始めている.
 女性の社会進出という全世界的動きの中にあって,我が国においても男女共同参画の実現に向けて,平成11年6月には「男女共同参画社会基本法」が施行され,平成12年12月には「男女共同参画基本計画」が閣議決定された.このような動きに呼応して,各界での取り組みが始められている.
 われわれ学協会は,自然科学ならびに科学技術関連分野において,男女のバランスのとれた参画が今後の発展に極めて重要であることを認識し,それぞれの領域において学協会が男女共同参画に向けて行動を開始しつつある.この動きをさらに確実なものとするためには,個々の学協会が個別に行動するだけでなく,ともに情報を交換しながら手を携えていくことが極めて効果的であると考え,ここに集った.われわれは,男女共同参画社会の実現に向けて,ともに協力しあいながら行動してゆくことをここに宣言する.
平成14年10月7日
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