応用物理学会
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以下の記事は 応用物理 第71巻 第6号 753ページ に掲載されたものです。
第49回応用物理学関係連合講演会(2002年3月28日 東海大学湘南校舎)

男女共同参画シンポジウム

21世紀の技術者・研究者と男女共同参画

慶大理工 大橋良子、都立大工 奥村次徳、東大院工 高井まどか

 21世紀の社会においては少子高齢化、価値観の多様化が加速する状況を受けて、あらゆる分野への女性の参加、参画が求められると予想される.これを見据えて、1999年6月に男女共同参画社会基本法が施行され、さらに2001年1月には内閣府に男女共同参画局が設置され、いよいよ男女共同参画社会の実現に向けた取組みが始まろうとしている.技術者、研究者集団である本学会においても、男女共同参画を実現すべく2001年2月からの準備期間を経て委員会が設けられ、第1回シンポジウムとして本会が開催された.本学会の通常の学術シンポジウムとは、少々趣が異なることで参加者の多寡が危惧されたが、約150名の参加者を得て、盛況であった.
 プログラムは2部構成で、前半に講演5件、後半にパネラー7名によるパネルディスカッションが行われた.

  1. 冒頭、本学会会長の後藤俊夫氏(名大工)より、本シンポジウムの企画母体である男女共同参画委員会の「趣旨説明」があり、特に対象は女性のみではなく、男女ともに各人の多様な能力を十分発揮できる社会をめざしていることが強調された.
  2. 次いで「男女共同参画委員会設立の経緯」が、同委員会委員長の小舘香椎子氏(日本女子大理)より紹介された.また、2001年の時点で我が国の男女平等のレベルは70ヶ国中41位であり、依然として国際水準からははるかに遅れている実態があること、理系研究分野においてこの傾向がいっそう顕著であることが指摘され、その原因究明と解決が必須であり、具体的な当面の目標として、海外状況の調査と広報、他学会との情報交換と協力、理系分野への関心を向ける企画の立案、女性研究者・技術者の長期的育成への積極的関与などが挙げられた.
  3. 「国の取組み」としては、内閣府男女共同参画局審議官の上杉道世氏により男女共同参画基本法に基づく同基本計画が紹介され、11項目の重点目標により平成22年までをめどとした施策の基本的方向と、平成17年度末までに実施する施策の内容が、配布資料に沿って示された.これについての具体的方法や予算措置に関する質問に対しては、次の段階であるとの回答にとどまったが、国としての明確な基本計画が示されたことにより、今後の男女共同参画社会への実現がさらに身近になったことは確かである.
  4. 「学術会議の取組み」に関して日本学術会議副会長の黒川清氏(東海大医)は、特に科学分野に限らず日本の男女共同参画の現状が遅れていることは、日本の年金、退職金等の雇用形態、社会構造によるところが大きく、しかも世界の中で特異な状況であり、この現状がITの発達によりグローバルな情報として伝播しつつあるため、日本全体の評価につながる危険性を帯びていると警告された.学術会議としては、これらの状況が広く認識されることが意識改革に繋がり、男女共同参画実現への推進力となるという見解であった.同氏は米国での研究生活が長く、説得力のある講演であった.
  5. 講演最後は、本委員会が当学会の全会員に対し昨年9月に行ったアンケート結果(16%回答)から「応用物理分野での男女平等と差異」についての渡辺美代子委員(東芝)の報告であった.アンケート項目の1/3で男女間に有意差が見られたものの、若い世代では男女差が小さく、年齢とともに差が大きくなる傾向にあること、研究機関別役職年齢推移は、企業では50歳以降、大学では40歳代で男女差が開き、国立研ではサンプル数が少ないが男女差は小さいこと、家事の負担は圧倒的に女性にかかっていることなどが改めて浮き彫りになった.
 後半のパネディスカッションでは東実氏(東芝)が、ジェンダー問題に対しては、非営利団体が評価基準の指標 (Gender Equality Maturity Model)を作成して企業の成熟度、透明性を認定し、個人の評価は過去からの成果の蓄積ではなく現状の能力に対して行う必要があると指摘された.遠山嘉一氏(本委員会副委員長、富士通)は産休、育休などの物理的障害に対する評価システムの見直しの必要性を述べられた.また、荒真理氏(IBM)は企業の役割は子育て支援ではなく、ワークとホームのバランス支援であると指摘され、家庭の仕事のアウトソーシングを提案された.大学関係では、荒川薫氏(明治大)がロールモデルとして教授就任までのキャリアを紹介され、自己努力が必須であることを強調された.同時に夫君の荒川泰彦氏(東大)から共通の価値観と夫の協力の重要性が指摘された.また、業種に関わらず、夫の協力、社会の支援、協力が重要であることが松村正清氏(前応物学会長)その他のパネラーから指摘された.さらに、企業における人材育成の具体例として荒真理氏は女子中高生を対象としてIBMが実施したサイエンスプログラムを紹介され、大学以前の教育が重要であることを参加者一同、再認識した.最後に北原和夫氏(日物学会副会長)によるパリ会議の報告がなされた.予定時間をかなり超過していたため、議論を深める時間が十分でなかったのは残念であるが、本委員会の活動は緒についたばかりである.今後の活動に期待したい.

 本稿をまとめるにあたりご協力頂いた、阿山みよし、石川和枝、葛西直子、五明明子、為近恵美、松尾由賀利各委員に感謝致します.

内閣府男女共同参画局審議官の上杉道世氏

日本学術会議副会長の
黒川清氏(東海大医)

パネルディスカッション
(パネラー)

パネルディスカッション
(参加者)
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