【ISTEC-SRL 筑本知子】

    2009年9月7日から12日にかけて,東京・新宿の京王プラザホテルにおいて,第9回超伝導国際会議(M2S-IX:9th International Conference on Materials and Mechanisms of Superconductivity)が日本学術会議,応用物理学会,日本物理学会,および国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)の主催により開催された.本会議は,超伝導現象を示す物質,機構に関する基礎的研究,工学的応用について最新の成果を討議することを目的としており,超伝導材料関係の国際会議としては,最大規模の会議である.会議は,ほぼ3年ごとにヨーロッパ・アジア・アメリカの3地区を移動して開催されており,日本での開催は1991年の金沢以来,18年ぶりである.今回は世界的大不況や新型インフルエンザ流行という悪条件の中,一時は参加人数を危ぶむ声があったものの,最終的には32カ国から970名を超える参加者があり,口頭発表153件,ポスター発表694件,合計847件もの講演が行なわれ盛況であった.参加者の地域別内訳を図1に示す.なお所属別では学生の参加が全体の1/4を占めた.

    会議では超伝導材料の特性・メカニズムから応用技術,さらには室温超電導の可能性まで,多岐にわたるトピックスが銅酸化物,鉄ニクタイト,非銅酸化物,重い電子系,有機化合物,軽元素,磁束物理/ジョセフソン接合,メカニズム,超伝導応用の九つのカテゴリーに分けられて議論された.

    まず朝一番に大会場で,基調講演(9件)が行なわれた後(図2),3会場に分かれて基調講演(12件),さらに5会場に分かれて通常の口頭講演が行なわれた.午後4時半から開催されたポスターセッションでは,美味しいワインが振る舞われ,滑らかになった口で,あちこちで活発な議論が行なわれる光景を目にした.

    図3に講演のカテゴリー別割合を示す.今回の会議で特筆すべきは,やはり,昨年の鉄ニクタイト系新高温超伝導体の発見による「第二超伝導フィーバー」ともいえる状況であろう.発表件数においても,銅系257件,鉄系237件とほぼ発表件数が拮抗(きっこう)しており,発見後1年半という短期間での研究の進展には,目を見張るものがあった.そのほか,有機芳香族分子での転移温度が20Kに達する新超伝導体の発見,FET構造などを用いた界面キャリア誘起型超伝導,重い電子系での反転対称性のない超伝導体など,新奇な超伝導材料が注目を集めていた.

    一方,銅酸化物系については,計測技術の著しい進歩により,電子秩序状態の直接観測が可能となり,いよいよ機構解明に向けて急速に近づいているという印象を受けた.

    反面,応用技術に関する講演が今回思いのほか少なかった.会期が国内の応用物理学会学術講演会と重なったうえ,直後に応用関係での大きな会議の一つであるヨーロッパ超伝導応用会議(EUCAS2009)を控えていることも少なからず影響しているとは思えるが,実際のところは,銅系超伝導体の実用化がいよいよ近くなり,学術的な基礎研究の段階を卒業しつつあることの現れでではないかと感じる.

    さて,M2Sのメインイベントの一つに,超伝導研究の先駆者である3人の研究者の名前を冠した三つの国際賞の授賞発表がある.B.T.マチアス賞は新超伝導物質の発見,H.K.オンネス賞は超伝導の物性研究,J.バーディーン賞は超伝導の理論研究で優れた業績をあげた人に贈られる.それぞれの賞の受賞者を表1にまとめるが,マチアス賞について,日本人2名が授賞されたことは大変喜ばしい.

    会議終了後,9月12日(土)夕方に工学院大学にて,元米国物理学会長のDresselhaus教授(MIT)と青山学院大学の秋光純教授による,市民講座「未来を変える新しい物質の科学」が開催された. なお,Dresselhaus教授には,会期中の9月10日(木)夕方に「物理科学におけるジェンダー問題」の公開セッションでも基調講演をいただいた.

表1 受賞者一覧
B.T.マチアス賞
細野秀雄
(東工大)
鉄砒素超伝導体発見
前野悦輝
(京都大)
ルテニウム酸化物系超伝導体発見およびp波超伝導の確認
H.K.オンネス賞
J.C. Seamus Davis
(コーネル大)
STMによる超伝導の電子秩序の直接観察
Aharon Kapitulnik
(スタンフォード大)
磁気光学法によるp波超伝導体の時間反転対称性の破れの発見
John Tranquada
(ブルックヘブン国立研)
中性子散乱によるストライプ電子秩序の発見
J.バーディーン賞
David Pines
(イリノイ大)
電子-格子相互作用超伝導と核物質中での超流動の理論構築への貢献


図1 参加者の地域別割合


図2 Plenary talkの光景


図3 講演のカテゴリー別割合


応用物理(2009) Wb-0015


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