【京大工 木村健二】

    応用物理学会の主催で,5th International Workshop on High-Resolution Depth Profilingが,薄膜・表面物理分科会の「第10回イオンビームによる表面・界面解析特別研究会」との合同で,京都ガーデンパレスにおいて,2009年11月15日〜19日の日程で開催された.

    ラザフォード後方散乱法に代表されるイオン散乱分光法は,1960年代に半導体物理を含む物質科学への応用が開始されたが,その当時から深さ分解能を向上させる試みが行われており,1990年代後半には世界各地のグループで,それぞれ特徴のある装置を用いて原子層レベルの分解能が達成された.これらのグループでは,主に表面・界面構造の研究などの基礎研究に開発した高分解能イオン散乱分光法を利用していた.一方,当時はMOSFETのゲート絶縁膜やGMR素子,TMR素子を構成する数nmの極薄膜の分析が大きな課題となっており,既存の分析法ではその分析が困難になっていた.このため高分解能のイオン散乱分光法はこれに応えうる手法としても注目を集めつつあった.この流れを受けて,2000年にオーストラリアのニューキャッスル大学のO'Connor教授の呼びかけで,英国Abingdonにおいて28th IUVSTA Workshop on Ion Beam Techniques for the Analysis of Composition and Structure with Atomic Layer Resolutionが開催された.この会議では,高分解能のイオン散乱分光法に関連する43名の研究者が一堂に会して,分析の基礎となるイオンと固体表面の相互作用をはじめ,装置の開発,分析のためのシミュレーション技術,高分解能分析法の応用などに関して37件の発表を行い,この分野の現状と将来展望に関して議論を行った.参加者全員が同じ施設内で食事や宿泊をともにすることにより,大変密度の濃い議論を行うとともにお互いの親交を深めることができた.また,今後も定期的に会議を行うことが決定され,2002年には韓国の慶州で第2回の会議が開催され,2005年には会議の名称をInternational Workshop on High-Resolution Depth Profiling と変更して,合衆国のBar Harberで,2007年にはドイツのRadebeulで開催され,今回は第5回の会議として京都で開催された.今回も含めてこれらの会議では,参加者ができる限り宿泊や食事を共にして,セッション以外の場でも長時間にわたって密度の高い議論をする伝統が続いている.

    今回の会議では,薄膜・表面物理分科会が毎年主催している「イオンビームによる表面・界面解析特別研究会」との合同で開催したこともあり,イオンビーム分析法の新展開や,SIMS,Atom Probe, Fast Atom Diffraction などのイオンビーム散乱法以外のイオンビーム関連の高分解能分析法もscopeに含めた.その結果,発表件数は招待講演21件,口頭発表16件,ポスター発表36件の合計73件の発表と,15カ国から107名(うち国内から66名,国外から41名)の参加者を得て,これまでの会議のほぼ2倍の規模での開催となり,4日間にわたって熱心な議論が展開された.

    16日の講演では,高分解能イオン分析法応用の一つの柱であるhigh-k膜にかかわる発表が多く行われ,ハフニアの次の候補に関して熱安定性を中心に議論が行われた.また,イオンビーム分析の基礎である阻止能に関して,阻止能を一定とする通常の解析法では問題が生じることが指摘され,熱心な議論が行われた.翌17日には,絶縁体の阻止能に関する興味深い実験結果が報告され,その解釈をめぐって熱い議論が戦わされた.また,最近発見された表面における高速原子の回折現象を使った表面分析法,究極の分解能をもった3D Atom Probe 法などに関する発表は多くの出席者の関心を集めた.17日の夕方にはポスターセッションで36件の発表が行われたが,終了時間の20時を過ぎても熱心な議論が続いていた.18日はバイオ関係の研究や宇宙物理学研究などの新たな応用分野へのイオンビーム分析法の展開が議論された.最終日の19日は,スピン偏極準安定He原子線を用いた鉄の表面の有機分子の分極測定の結果が報告され,注目を集めていた.

    会議の全日程を通じて,登録者のセッションへの参加率はきわめて高く,またこの規模の会議ならではのきめの細かい議論が展開され,多くの参加者から満足の声が寄せられた.なお,次回の会議は2011年の7月にパリで開催される予定である.

    本研究集会は,独立行政法人日本万国博覧会記念機構,財団法人鹿島学術振興財団,財団法人村田学術振興財団,財団法人スズキ財団,財団法人花王芸術・科学財団,財団法人日本板硝子材料工学助成会,財団法人京都大学教育研究振興財団,立命館大学に助成をいただきました.また,多数の企業より展示・広告等を通して御支援を戴きました.ここに心より感謝いたします.



応用物理(2009) Wb-0014


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