【ソニー(株) 辰巳哲也】

    2009年9月24〜25日に韓国の釜山にてドライプロセスシンポジウム(DPS2009)が開催され,盛況のうちに終了したので概況を報告する.

    DPSはプラズマ/ドライエッチング分野において31年の歴史を有し,企業・大学双方からの最先端の技術データが報告され,積極的な意見交換が行われる当該技術者にとっては最も重要な学会である.今年は韓国の二つの学会(AEPSE,ICMAP)との共催の形をとり,2度目の韓国会場での開催となった.当初は景気後退やインフルエンザのため参加者の減少が懸念されていたが,昨年と同等程度の多数の投稿があり,招待講演(8件)と合わせた28件のOral講演と108件のPoster発表が採択された.

    DPS主催のプレナリー講演では,東北大小柳教授による三次元実装技術についての紹介とプラズマプロセス技術へのメッセージが,また三星のKang氏からは微細化の進展とメモリーやロジックデバイスの今後についての講演が行われた.また“More Moore & More Than Moore”と題されたセッションでは,低コストで3D実装を実現する技術(ホンダリサーチ・宮川氏),TSV(Through Si Via)の形成時の形状制御技術(ルネサステクノロジ・丸山氏)などの報告が行われ,単なる微細加工の制御だけではなく,デバイス構造の多様化による新たな技術的課題も数多くあることが示された.特にSiの高速深堀り加工の高精度化,低ダメージ化などは今後のさらなる進展が望まれる.

    また形状制御やダメージを含めたプロセス精度を向上させるための新しい装置や制御技術としては,統計的解析手法と発光を応用したプラズマ容器内の反応予測技術(ソニー・深沢氏),フィードフォワードによる寸法制御性の改善(STマイクロ・Babaud氏),上部電極へのDC印加電極による高エネルギー電子制御(TELアメリカ・Chen氏),パルスDCバイアスによるイオンエネルギー分布制御(東芝・林氏),ウェハー最外周パーツ上のシース制御(日立・前田氏),プラズマチャンバー内の凹凸によるプラズマパラメーター分布変化のシミュレーション(AMAT ・Rauf氏)などの報告がなされた.いずれも大面積ウェハーを前提とした高精度加工を目指した高均一性と,ばらつきを数nm以内の抑制するための高精細な表面反応制御を両立させるという非常に難易度の高い課題に対する挑戦である.

    プラズマ技術は上述のように主として半導体のシリコンCMOS技術への応用とともにこれまで発展し,数nmの原子,分子レベルでの表面反応を制御する高度な処理技術としてその知見が蓄えられてきているが,さらに最近では医療や環境などを含む他分野への展開も盛んになってきた.このため,今年は“Precise Control of Surface Reactions” と題されたアレンジセッションが企画され,種々の表面反応についての集中的な議論が行われた.特に印象的であったのは加工処理中にプラズマから照射される真空紫外光(VUV)による影響についての報告が数多く見られたことであり,レジストやLow-k材料の変質と光,イオン,ラジカル,熱などの複数の要因の相乗効果に注目した複数の研究が進められている(UCバークレー・Titus氏,東芝・今村氏,名大・山本氏,CNRS・Menguelti氏,LAMリサーチ・Hudson氏).これら検討は,数年前にMgOなどを窓材として基板上に設置して紫外線の影響を分離して簡易評価する手法や,On waferで光誘起電流を計測する技術が報告されてから,特に盛んになったように見受けられる.また,光以外でも,酸素ラジカルによるレジスト表面の応力変化に起因したレジスト変形(日立・小藤氏)やメタルマスク応力によるWiggling発生(IMEC ・Posseme氏)についての詳細な解析結果が報告された.

    さらにイオン侵入による物理ダメージに関しては松尾氏(京大)によるクラスタービームを用いた低エネルギーでの表面処理や,電気特性との相関を明確化するために行われた,C-V測定や分光エリプソなどの評価手法を駆使した緻密な解析(京大・中久保氏,江利口氏)が注目を集めた.10年程前に電子シェーディングやアンテナ効果などの電気的なダメージについての非常に盛んな検討が行われた時期があったが,プラズマからのすべての入射種を考慮したより広い意味でのPID(Plasma Induced Damage)についての認識が定着してきたといえるであろう.

    また,さらなる新しい表面反応についての議論として,磁性体の加工プロセスとデバイス特性との相関の解析(NEC・木下氏),熱プラズマジェットによる金属微粒子の生成,絶縁膜質の改善(広大・川浪氏,広重氏),医療応用を目指したプラズマのバクテリア細胞への照射(京都工芸繊維大・高橋氏),太陽電池の反射防止用のモスアイの作成(SKKU・Yang氏)などへのプラズマプロセス技術の応用を試みる報告もみられた.難エッチング材料に対応可能な加工技術・装置の研究開発や大気圧プラズマの応用技術など,より広い分野へのプロセスプラズマ技術の発展が今後も加速されることを期待したい.



応用物理(2009) Wb-0010


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