【NTT物性基礎研 小野行徳】

    応用物理学会とIEEE エレクトロンデバイスソサエティの共催で,2009シリコンナノエレクトロニクスワークショップ(ゼネラルチェア:水田博 サザンプトン大教授)がRihga Royal Hotel Kyotoにて2009年6月13日〜14日の日程で開催された.

    本会議は,VLSIテクノロジー,サーキットシンポジウムのサテライトワークショップであり,毎年,同シンポジウム開催に合わせて行われている.今回で14回を数える.シリコンをベースとした将来のナノエレクトロニクスを議論する場として,これまでも重要な役割を果たしてきており,投稿件数は年々増加傾向にある.本年も経済的背景やインフルエンザ問題にもかかわらず,投稿期限延長をすることなく例年並の投稿件数を得ることができた.発表件数は,招待講演5件を含め77件であった.会議は,ポスターセッションとランプセッションを含め,10のセッションがシングルセッション形式で組まれ,ナノスケールMOSFET,トンネルトランジスタ,ナノスケールメモリー,シングルドーパント,量子ドット,スピン制御などのトピックスについて,非常に質の高い研究発表が多くなされた.

    初日午前は,MOSFETに関するセッションが集中的に組まれた.冒頭の招待講演では,IBM トーマスワトソン リサーチセンターのWilfried Haensch氏により,これまでのシリコンデバイスの歴史が紹介されるとともに,MOSFETのスケーリングの限界に関して議論がなされた.続いて,移動度やスイッチング時間の評価に関する発表が2件,および,ゲートオールアラウンド構造をもつMOSFETに関する発表が3件なされた.初日午後は,トンネルトランジスタ(TFET)とナノスケールメモリーのセッションが組まれた.TFETのセッションでは,ノートルダム大のAlan Seabaugh教授が招待講演を行い,その構造と特性が紹介されるとともに,チャネル材料に関する議論を行った.続いて縦型TFETに関する報告がなされた.ナノスケールメモリーのセッションでは,ナノワイヤを用いた不揮発メモリーを中心に3件の報告があった.

    会議2日目は,本ワークショップの特色がより強く出たセッションが続いた.午前のセッションでは,原子スケールでの物性に主眼が置かれた.最初のセッションでは,シリコン中のドーパント,特にシングルドーパントに関する報告が続いた.IBMチューリッヒ研究所のMikael T. BjÖrk氏が招待講演を行い,シリコン細線中のリンの活性化に関する興味深い実験結果が紹介された.続いて,シリコン中の単一のドーパントの検出,および単一ドーパントの電子転送への応用に関する報告がなされた.続くセッションでは,原子スケールの薄層シリコンにおける誘電率やフォノンに関する理論計算の報告がなされた.午後の第一セッションでは,量子ドットおよびスピン制御に関する議論がなされた.米国Naval Research研究所のBerend T. Jonker氏が,シリコンへのスピン注入に関する招待講演を行い,続いて,SOIを用いた結合量子ドット作製,および単一電子トランジスタの特性自動制御に関する報告がなされた.次のセッションでは,シリコンナノ構造のナノメカニクス,フォトニクスへの応用が議論された.Ecole Polytechnique Federale de LausanneのAdrian M. Ionescu教授が,可動型MOSFETに関する招待講演を行ったほか,ナノフォトダイオードのオンチップWDMへの応用,SiN MOSFETの乱数発生装置への応用に関する報告がなされた.

    ランプセッション(モデレータ,IMEC Kristin De Mayer氏,産総研 遠藤和彦氏)では,東大 平本俊郎教授,STMicroelectronics Thomas Skotnicki氏,IBM Wilfried Haensch氏,ノートルダム大Alan Seabaugh教授,東大 高木信一教授の五氏をパネリストに迎え,「22-nm node and beyond: Will the material/architectural revolution break through ?」と題して活発な討論が行われた.Variability(ばらつき)などが問題とはなるものの,聴衆を含め「シリコンナノトランジスタ」が「Winner」との答えが大勢を占めたことが印象的であった.

    シリコンVLSIは,正にナノの領域に入っている.今回のワークショップの特徴として,従来のナノ領域の研究に加え,原子レベルの物性を理解し制御しようという動きが活発化していることが挙げられる.研究者の目が「ナノ」から「アトム」へと急速に向かいつつあることを印象付ける会議であった.第15回会議は,2010年6月13日〜14日にハワイ,ホノルルにて開催される予定である.

応用物理(2009) Wb-0007


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