【パナソニック(株)セミコンダクター社 丹羽正昭】

    2009年VLSI技術シンポジウムが,応用物理学会と米国IEEE Electron Devices Societyとの共催,および,IEEE Solid State Circuit Societyの協賛により,2009年6月15日〜17日に京都で開催された.同会議には,世界中からシリコンLSI開発の専門家が集まり,活発な議論がなされた.昨年同様,今回も回路会議とより交流を図るべく,両者の重複日数を2日にして開催された.また,14日に行われたショートコースでは,32nm〜22nmにわたるCMOS製造技術に関する6件の講演が行われ,152名が参加した.

    今年の参加者数は505名で,投稿論文数は205件,そのうち採択論文は83件,ほかに招待講演が11件であった.今回の特徴は,昨今の半導体動向のパラダイムシフトをかんがみて,新たにフォーカスセッション(FS)とスペシャルセッション(SS)を設置して対応したことにある.FSでは三次元のシステム集積技術,SSでは探索的研究(Explorative Research:ER)とBeyond CMOS(BC)の2セッションを設けた.ERでは,VLSIにかかわる先端材料科学,物理解析やモデリングなどの基盤技術,BCではVLSIに搭載可能なBeyond CMOS技術やそのデバイス動作原理を扱う.これらの対応により従来の集積化を軸としたMore Mooreだけでなく,多機能化技術(More than Moore)や高機能化技術(Beyond CMOS)をもカバーすることを試みた.今回投稿された論文はその傾向からメモリー,先端ロジック関連,バラつき関連,プロセス・SOI,移動度向上の5大分野と三次元集積,Beyond CMOSに大別され,採択傾向もこれに準じた.

    前年のホノルル会議と比べて,上述した三次元集積技術のほかにNANDフラッシュ,ナノワイヤを含む新チャネル関連の報告が伸張し,物理解析的アプローチの報告も見られた.一方,実用化時期にある高誘電率ゲート絶縁膜(HK)・金属ゲート(MG)やソースドレイン技術(S/D),およびこれらを用いたCMOSプラットフォームについても堅実な報告があった.

    基調講演では,初めにソニーコンピュータサイエンス研究所の茂木健一郎氏から脳・認知科学の立場から,化粧をしたときの人の脳の働きなどについて興味深い講演があった.続いて,IBMワトソン研究所研究開発部門副社長のT. C. Chen氏からは,将来の超大規模計算にかかわるデバイス技術の革新について講演が行われた.アプローチの異なるこれらの講演に対して回路技術者を含めて多くの関心を集めた.

    論文審査委員会で評価が高かった論文から4件を集めたハイライトセッションでは,積層メモリー形成による高集積・大容量で低コストなNANDフラッシュメモリー(120Gbit/cm2相当)や高誘電率化によるEOT(酸化膜換算膜厚)のスケーリングと閾値電圧(Vth)[HK導入で一般にそのVthが高くなってしまう]の抑制を両立させたサブ22nm世代向けHK/MGゲートスタック,HK/MGを用いた高性能32nm世代SOI-CMOS(セル面積0.149μm2)そして,3.8nmゲート長を有する高性能ナノワイヤMOSFETの試作に関する報告があった.いずれも世界初の成果で,最新技術を駆使したレベルの高い検証結果である.

    ランプセッションでは16nm以細のCMOSや30nm以細の不揮発性メモリー技術について活発に議論されたほか,回路会議との合同企画によるJoint Rumpでは,TSV(Through Silicon Via)を用いた三次元LSIの実現性をめぐりパネリストと聴衆との間で熱い議論が展開された.

    FS関連では,GOI/SOI構造など三次元積層関連の詳細報告がなされたほかSS関連では,電子線フォログラフィーによる実デバイス動作と欠陥の関係やグラフェンFETやスピン注入RAMの熱安定性改善など興味深い基礎検討結果が報告された.HK/MG関連は,各社実用化の段階にあるが,MOSFETのVth抑制は依然として重要な課題である.これについて,Laser annealの採用やpMOSのみ酸素アニールすることなどアニール条件の最適化によりVthを抑制できることが示された.また,ゲートファースト方式による28nm CMOS技術やHK/Si間の界面層をなくすことでEOT=0.59nmを実現したことなど新しい知見がもたらされた.ナノワイヤFET関連では基本的課題である面方位やワイヤ径に依存した移動度とひずみの影響,径縮小とともに深刻化する寄生抵抗とドーパント析出型ショットキーS/Dによる改善などが報告された.昨年に続き,バラつきは関心が高い.NMOSに顕著なVthバラつき原因の特定やプロセス・バラつきを設計データ上で抑えるDFM(Design For Manufacturability)技術など,微細化に伴いその重要度が年々増加傾向にある.メモリーに関しては不揮発性メモリーをはじめ相変化(PCRAM),抵抗変化(RRAM),強誘電体メモリー(FeRAM)などが報告された.特に,ハイライトセッションでの超高集積技術などNANDフラッシュの発表が活発であった.ひずみ・高移動度関連ではSiGeやGe,III-Vチャネルなどさまざまな試みが報告され,S/D関連ではSiCやSiGe-S/Dの熱処理など極浅接合を目指した試みが報告された.

    以上を総括すると,More Moore技術の代表であるCMOS集積化関連の発表が減り,多機能を追求する三次元LSIなどMore than Mooreや新材料,Beyond CMOSなどの報告が新たに参入したことが特徴で,今後もその傾向は続くと思われる.今回は,セッション構成の工夫により,最後まで参加者が減ることなく,世界的な不況とインフルエンザの悪影響をふっしょくできたと言える.

    次回の開催は2010年6月15〜17日,ホノルルの予定である.本年導入した新しい試みを育成すべくプログラム構成を検討中である.多くの方々に参加していただき,有意義なシンポジウムとなるよう準備を進めている.

応用物理(2009) Wb-0008


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