【日本電気㈱ 水野正之】

    最新のLSI回路技術の発表と交流の場である国際学会「2009 Symposium on VLSI Circuits」が2009年6月16日(火)から18日(木)まで京都のリーガロイヤルホテルで開催された.世界的に経済状況が悪い中,430名を超える参加者があり盛況であった.今回の投稿論文数は313件で,この中から110件の論文が採択された.採択率は35%という狭き門で,非常に質の高い論文がそろった.このため,講演が始まると会場の中に入って聴講する人が多く,会場の外で談話している姿が少なく感じられた.

    初日の基調講演は,富士通研究所の横山氏とMedtronic社のCsavoy氏から,それぞれナノエレクトロニクスと医療エレクトロニクスの現状と今後の展望に関しての基調講演があった.

    横山氏の講演では,これまでのCMOSデバイスのスケーリングを支援することで大幅な性能向上を達成するチップ,CMOSデバイスと協調してこれまで実現できなかった新しい機能を実現するチップなど,多方面の成果が徐々に現れ始め,ナノエレクトロニクスの今後への期待の高さが伺えた.

    Csavoy氏は,脳と機械のインターフェースという視点での講演を行い,脳疾患の治療という本格医療にかかわる活動からマウスやキーボードに代わる次世代ユーザーインタフェースにかかわる活動まで,今後期待される医療エレクトロニクスのさまざまな活動の紹介があった.

    2日目の基調講演は,英国Nokia Research CenterのRyhänen氏,NTTマイクロシステムインテグレーション研究所の門氏から,それぞれ携帯電話と人体近傍通信の現状と今後の展望に関しての基調講演があった.

    Ryhänen氏は,Nokia Morphという将来の携帯電話のモデルを紹介した.利用シーンに合わせて形状がこれまでよりももっと複雑かつフレキシブルに変化する.さらに,カメラで撮影した色や模様に携帯電話自体が変化するなど,機能性だけではなくファッション性も大きく進化する.

    門氏の講演はRed Tactonという人体表面を媒体とする通信技術の現状と今後の展望を中心とした内容であった.人の『さわる』,『もつ』,『あるく』といった基本的な動きに連動して通信が行われることから,通信をより意識しないことが重要な応用に期待される.

    今回の学会でも見られる近年注目される回路技術領域として,医療・パーソナル技術領域,高信頼性の維持技術,回路・実装の協調と三次元積層技術などが挙げられる.

    医療・パーソナル技術領域に関しては,基調講演を初めとして,米国フロリダ大の飲み込みカプセル用途のパッシブRFID技術,米国MITの脳電図向けSoC技術,台湾National Taiwan Universityの生体埋め込み型の無線技術,米国ミシガン大の人工網膜チップ向けのイメージセンサなどがあり,本格医療を含めた活動事例が増えていることが近年の特徴である.

    高信頼性の維持技術に関しては,例えば米国Intel社が論理ゲートの遅延時間の変化をモニターする技術を開発し,出荷後LSIの環境や劣化に応じて電源・周波数を調整,電力最適化と高信頼を両立する技術を発表,NECからは高い精度の故障予知技術の発表などがあった.これまでの『ばらつき』の物理把握に関する技術や知見を応用した新しい技術領域と言える.

    回路・実装の協調と三次元積層技術では,日立と慶応大学とルネサステクノロジーの共同によるインダクティブ結合通信を使って複数のSRAMとプロセッサーを集積する技術,韓国Samsung Electronics社の三次元構造を生かした4F2という小面積DRAM技術,東芝の1Gbセルを16層集積した超小型フラッシュメモリセル技術などの発表があった.ランプセッションでも議論があったが,三次元積層に関してはメモリーとイメージャー以外のキラーアプリケーションを業界全体で探しているような状況である.

    今年は,京都で開催されるVLSI回路シンポジウムとして初めて,Lunchon Talk を開催した.今年の講演はJR東海の南氏からの東海道新幹線のN700系開発に至るまでの歴史と,N700系で使われている「車体傾斜システム」などの最新技術の紹介があった.特に発車時刻の平均遅延時間が1分以内という部分では海外の参加者から歓声が起きたのが印象的であった.

    来年のVLSI回路シンポジウムは2010年6月16日(水)から18日(金)まで米国ホノルルで開催され,今年と同じく2日間のTechnologyとのオーバラップ期間を設けるなど,CircuitとTechnologyとの交流の機会を増やす予定である.一般論文の投稿締め切りは例年より遅く2010年1月25日(月)の予定である.

応用物理(2009) Wb-0009


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