【名古屋大学大学院・工学研究科結晶材料工学専攻 財満鎭明】

    シリコンULSI技術においては,金属-酸化膜-半導体(MOS)のゲートスタック構造を有するデバイスのさらなる微細化・高性能化が依然として追求されており,とりわけ絶縁膜には,1 nm以下の極薄SiO2膜に相当する高品質の極薄誘電体薄膜が要求されている.そこで,最先端のMOSデバイス用途の誘電体薄膜について基礎から応用まで幅広く議論することを目的として本会議(IWDTF-08)を開催した.本会議は,第1回を1999年に,第2回を2004年に東京で,第3回を2006年に川崎でそれぞれ開催してきた.今回は第4回目として,2008年11月5日から7日にかけて,東京工業大学大岡山キャンパスのデジタル多目的ホール(東京都目黒区)で開催された.

    本会議における発表件数は合計79件であり,そのうち招待講演は9件,一般投稿講演は70件(口頭発表25件,ポスター発表45件)であった.発表件数全体のうち,70%強が高誘電率(High-k)絶縁膜およびメタルゲートに関するものであった.また,今回初めて抵抗変化型メモリーに関するセッションも設けられた.海外,特にアジア諸国からの投稿論文が約3割と多く,本会議はアジアにおける絶縁膜に関する主要な会議として認知されつつある.参加者数は158名と前回を上回る規模での開催となり,3日間にわたって熱心な議論が展開された.

    本会議は2件の基調講演から始められた.まず,半導体先端テクノロジーズの渡辺氏により,“Industrialization of Nanoelectronics”と題してナノエレクトロニクスの産業化と将来展望に関して示唆に富んだ講演が行われた.次に,IMECのBiesemans氏により,“Integration of Dual Work Function CMOS using Doped High-K Dielectric and Metal Gates to Achieve Improved Power-Performance”と題した講演がなされ,メタルゲート/High-kゲートスタックのレビューと最先端の研究成果が紹介された.

    本ワークショップで最も多くの報告があったのは次世代のHigh-k/メタルゲートスタックに関する発表であった.SematechのLee氏は信頼性劣化機構に関する招待講演を行い,劣化機構の解析には評価手法を含めた検討が必要との認識を示した.また東芝の高柳氏の招待講演では,High-k/メタルゲートスタック開発の現状が報告され,22 nm世代以降でのチャネル移動度の劣化が重大な課題であることが指摘された.一般講演では,低EOT(SiO2換算膜厚)化技術に関して,電極形成後のアニールによりHfO2を立方晶化させることで高い誘電率(k~50)を実現したこと,La2O3を直接Si上に形成しEOT=0.37nmを確認したことなどの報告があった.

    また,しきい値電圧制御の観点からは,絶縁膜への不純物添加で実効仕事関数を変調する技術の報告があった.ソウル大学のC.S. Hwang教授による招待講演では,Al添加量の異なるHfO2を形成した際のリーク電流やバンド構造の変化が議論された.このほかLa-Al-O膜の組成による制御,La2O3膜へのMg導入による制御,さらには電極上からのN2+,F+イオンの注入による仕事関数変調についての報告があった.

    信頼性に関しては,MIRAI(現パナソニック)の岡田氏が,High-kゲートスタックのTDDB(時間経過と共に生じる絶縁破壊)を説明するモデルのレビューを行った.半導体先端テクノロジーズの佐藤氏からはHfSiONにMgを添加した場合のPBTI(正の電圧印加により生じる劣化現象)とTDDB信頼性の改善が報告され,この論文は本ワークショップの最優秀論文賞に選ばれた.

    一方で,メモリー応用のための絶縁膜や抵抗変化型メモリーについての報告も多く見られた.SamsungのHyun氏が招待講演にて,HfSiON膜/メタルゲート構造およびHfSiON膜/Poly-Siゲート構造のDRAMへの導入を検討した結果を報告したほか,新しいHigh-k膜の不揮発性メモリーへの適用についての報告があった.産総研の澤氏の招待講演では,新型メモリーとして期待される抵抗変化型メモリーの動作についてのレビューがあり,動作機構の解明へ向けて理解が進んでいることが報告された.

    初日のポスターセッションは,しきい値電圧制御に関連してHigh-kへの希土類元素ドープ技術についての発表が多く見られた.大阪大学の志村氏はSiGe酸化時に形成されるSiO2に残存する規則性について報告し,ポスターアワードを受賞した.2日目のポスターセッションでは絶縁膜の構造解析・電気特性解析や,新しいHigh-k材料のメモリー応用,理論計算による解析結果などが活発に議論された.

    High-k絶縁膜やメタルゲートの材料開発だけでなく,その効果を最大限に引き出すためのチャネルの高移動度化など,絶縁膜周辺のゲートスタック構造の抜本的な見直しが本格化し,次世代ULSI技術はさらに新たな局面を迎えているといえる.取り組むべき課題が多岐にわたるこうした状況だからこそ,基礎的な理解,分析技術の高精度化など,着実な研究の積み重ねがますます重要となっている.その意味において,誘電体薄膜に焦点を絞りつつ,基礎から応用まで幅広く議論する場を提供することは,大変意義深いと考えられる.次回の会議は,2010年末に開催される予定である.

応用物理(2009) Wb-0004


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