【東大工 染谷隆夫】

    応用物理学会とIEEE ナノテクノロジー・カウンセルの共催で,第2回ナノテクノロジー材料・デバイス国際会議(実行委員長:荒川泰彦教授)が京都大学百周年時計台記念館にて2008年10月20日〜22日の日程で開催され,成功のうちに閉幕した.

    ナノテクノロジーは二十一世紀のキーテクノロジーであり,情報技術,バイオ,環境などの発展を支える共通基盤の不可欠要素であることは今さら言うまでもない.特に,エレクトロニクス分野におけるナノテクノロジーの研究は,ナノ材料,製造,ナノエレクトロニクス,ナノフォトニクス,装置などに細分化しており,おのおのの分野で目覚しい発展が見られる.本会議はナノテクノロジー研究者間の国際的なネットワーク充実を目指し,研究者間の交流を促進するナノテクノロジー総合シンポジウムとして発案された.研究の最前線の情報を共有し,種々のナノテクノロジー研究分野を縦断する新たな領域を切り拓こうとする研究者の手助けをすることをねらいとしている.第1回会議は,韓国にて2006年10月22日‐25日の日程で開催された.前回の会議では,日本から質の高い発表が数多くなされて高い評価を得て,第2回を我が国で開催することとなった.今回の参加人数は前回を凌ぎ19カ国より378名に上り,発表件数は招待講演を含め257件 にもおよび,会議への関心の高さが如実に数字に表れた形となった.

    会議は,3パラレルセッション形式で行われ, ナノテクノロジー材料・デバイスに関する7つのトピックスについて研究発表がなされた.具体的には,結晶成長・プロセス,CMOS,量子効果デバイス,ナノフォトニクス,分子・バイオデバイス,ナイトライド系半導体デバイス,酸化物半導体と幅広い領域をカバーしている.各トピックスからそれぞれの分野で活躍する研究者37名が招聘され,基調講演,招待講演を行った.

    初日冒頭の基調講演のセッションでは,米国スタンフォード大学の西義雄教授によるCMOSの高移動度チャネルに関する最新の研究動向についての講演がなされ,GeなどSiに代わる新チャネル材料の可能性が紹介された.続いての講演では,米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授によるGaN発光デバイスの最新の研究成果,特に結晶成長面方位依存性による特性改善に関する紹介がなされた.また,スウェーデン・ルント大学のL. Samuelson教授が半導体ナノワイヤを利用した電子デバイス・光デバイス応用について講演を行った.初日午後のセッションでは,シリコンナノワイヤを利用したMOSFET,量子ドット,酸化物ナノ半導体,フォトニック結晶などについて発表が行われた.初日の最後には,レートニュースとして8件の口頭発表があり,半導体ナノワイヤ結晶成長,カーボンナノチューブのバイオセンサ応用などの報告がなされた.

    会議2日目は,量子ナノ構造におけるキャリアダイナミクス,ナノ構造作製プロセス,カーボンナノチューブ,ナノプローブ技術,ナイトライド化合物半導体について発表が行われた.また,夕方には,”カーボンナノチューブ, グラフェン,スピントロニクス, 量子コンピューター-流行とリアリティー”と題してパネルセッションが行われた.韓国成均館大学校のY. H. Lee教授(カーボンナノチューブ),英国マンチェスター大学のA. Geim教授(グラフェン),NECの蔡兆申博士(量子コンピュータ), 米国I BMのS. Parkin博士(スピントロニクス)がパネリストとして迎えられ,それぞれの技術の現状と将来展望が議論された.パネルセッション後のバンケットは京都祇園の八坂神社にて行われ,参加者は,京都舞妓による踊りなど京都の伝統文化を満喫しながら,研究交流を深めた.

    会議最終日となる3日目の基調講演セッションでは,A. Geim教授によるグラフェンとそのデバイス応用に関する講演が行われ,グラフェンが示す興味深い電子物性・光物性が紹介された.続いて,産総研の湯浅新治博士がトンネル磁気抵抗デバイスの現状について紹介するとともに,今後のメモリ応用などの展望を示した.午後のセッションでは,CMOSデバイス技術,有機材料デバイス,スピントロニクスに関する材料や物理について発表が行われた.今回の会議では,ポスターセッションが毎日行われた.すべてのポスターについて,会議期間中の全日程の掲示ができる形式で行われ,活発な質疑応答が行われた.また,企業展示ブースがポスター会場内に設置され,賑わいを見せていた.デバイス応用はナノテクノロジーの重要な出口の一つであり,本会議のようにデバイス応用の視点からさまざまなナノテクノロジー関係の研究者が集う会議の重要性は今後も増してくるであろう.

    第3回会議は,2009年6月2日〜5日にミシガン州のトランスバースシティーにて開催される予定である.

応用物理(2009) Wb-0003


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