応用物理 第87巻 第4号 (2018)
最近の展望
量子化学計算による有機薄膜太陽電池の発電機構解明
田村 宏之1
本稿では,有機薄膜太陽電池(OSC)の光電変換機構に関する最近の理論研究について解説する.OSCでは,光吸収によって励起子が生成し,ドナー‐アクセプタ界面で電荷分離して,フリーな電子と正孔が電極へ輸送されることで光エネルギーが電気エネルギーに変換される.有機材料は誘電率が小さく電子‐正孔間クーロン相互作用が強いため,電子・正孔対がドナー‐アクセプタ界面にトラップされやすい(CT状態).このため,「どのようにクーロン障壁を越えてフリー電荷が生成するのか」が盛んに議論されている.筆者らは,量子化学計算と量子ダイナミクス計算を用いてフリー電荷の生成過程を理論解析している.超高速のフリー電荷生成を説明する描像として,CT状態が熱平衡へ緩和する前に電子と正孔が解離するホットCT機構が有力であり,界面での電荷再結合を抑制し内部量子効率を高めるために重要と考えられる.
- 1 東京大学 工学部化学システム工学専攻
応用物理 第87巻 第4号
p.267 (2018) 掲載