応用物理学会
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以下の記事は 応用物理 第74巻 第6号 807ページ に掲載されたものです。
男女共同参画 第4回シンポジウム

本気で取り組む男女共同参画
−ワーク・アンド・ライフ・バランスを考える−


超電導研 筑本知子
キヤノン 田中一夫
 男女が対等な立場で共に責任を担い,各人の個性や能力を伸びやかに発揮できる男女共同参画社会の実現を目指して,1999年6月に「男女共同参画社会基本法」が制定された.それから5年が経過した今,応用物理学会に関する産官学,各界においてどのような取り組みが行われ,その効果のほどはどうであったかを議論し,今後の課題抽出を行うことが必要であるという考えから,男女共同参画委員会としては第4回目となる本シンポジウムを企画・開催した.同じ時間帯に多くのシンポジウム企画が予定されていたことから,参加者の多寡が危惧されたが,約90名もの参加者があり,この問題に関する会員の関心の高さがうかがえた.

 プログラムは二部構成で,第一部では5件の講演で各界における男女共同参画についての取り組みと課題についてご紹介いただき,第二部では,各講演者をパネリストに迎え,男女共同参画社会の実現において大きな課題の一つである「ワーク・アンド・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」の問題を主軸に据え,議論を行った.

 第一部冒頭の本学会会長の榊裕之会長(東大)からの趣旨説明の後,坂東眞理子氏(昭和女子大)から“世界の男女共同参画の動向”について,米国は競争型・格差型の資本主義で多様性を認めるとしながらサポートするシステムが欠けているため,人材を使いつぶすことが多々見受けられる一方で,ヨーロッパでは有能な人材は無限に供給される訳ではなく,文化の継承のためにも自分たちが健康な生活をしながら能力を発揮できることが大切というライン型の資本主義であり,日本はどのような方向を目指すべきかという問題提起があった.

 次いで,國井秀子氏(リコー)より,男女共同参画を大競争時代に対応する新しい価値の創造という経営戦略としてとらえる企業が出てきており,物理的な環境整備だけでなく,メンタル的なサポート制度の整備も進められている旨紹介があった.「公立研における取組み」については,田中一宜氏(産総研)より産総研における男女共同参画への取り組みと現状について,さまざまな具体的数字をあげて紹介された.産総研では研究職に占める女性比率5%程度と低いことから女性職員の採用\登用拡大に力を入れると同時に,職場保育所の開設など環境改善を行い女性比率の向上に努めていること,また女性の登用に関しては,評価と昇級においてここ数年の実績に男女格差は少なく,役員など別の仕組みがあるものを除き,上位級と下位級の比率格差は解消の方向に向かっているとの見方が示された.一方,「大学における取組み」について,大沢真理氏(東大社研)が東大では2003年12月に基本計画を評議会決定したが,男女共同参画に関しては総論賛成,各論反対となる傾向があるため,部署ごとに横並びで目標を設定,進捗状況をwebで掲載するという方策をとっていること,並行してネガティブアクションであるセクハラ対策に力を入れている旨紹介があった.最後に塩満典子氏(内閣府男女共同参画局)より「政府の取り組みと課題」について,仕事と生活との両立,子育て環境などという視点から現状と課題について,各種の調査結果を基に報告があり,学協会連絡会で取り組んだアンケートが研究者・技術者に関する実態把握と課題抽出に非常に有意義であったこと,また現在,科学技術基本計画と男女共同参画基本計画の改定のための検討や次年度に向けた予算作業などが進んでいるので,具体的な提案が大事である旨紹介があった.

 第二部のパネル討論ではワーク・アンド・ライフ・バランスについて,キャリア形成において束縛されていない時間(ライフ)をどのように使うかが重要であること,情報共有の重要性など示唆に富む意見をいただくとともに,育児休暇などに対して雇用期限延長などの具体的な方策の提案があった,

 当委員会では,今回の討論でクローズアップされたさまざまな課題や提案をしっかり受け止め,今後の活動に反映させていきたい.なお 本稿をまとめるにあたりご協力いただいた,瀬山倫子,美濃島薫,福島理恵子,江崎ひろみ,中村淳各委員に感謝いたします.
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