応用物理学会
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以下の記事は 応用物理 第72巻 第6号 779ページ に掲載されたものです。
男女共同参画 第2回シンポジウム

多様化する技術者・研究者のスタイルと価値観
−日本の技術競争力を強化する評価・制度とは−

NEC基礎研 五明明子 ニコン 大木裕史
日立中研 波多野睦子 横国大工 荻野俊郎
 近年の日本の国際技術競争力の低下に伴った社会経済の低迷に対する技術者や研究者の危機意識が高く,企業の構造改革・人事制度見直しや,大学や国立研究所の独法化に向けた研究・個人に対する評価制度について検討が活発である.これらの改革の実践には個々人や組織による新しい価値の創出が必須であり,解決策や方向性を見いだすには男女がおのおのの能力を最大限に発揮することのできる男女共同参画社会の実現が有効である.男女共同参画を通じた技術者・研究者のスタイルや,それを取り巻く社会とはどのようなものであるのか議論し,さらに男女共同参画社会の実現に向けて,多様化した価値観を前提にした研究者・技術者に対する評価や制度の望ましいあり方について考察することを目的とし,本学会男女共同参画委員会第2回シンポジウムを開催した.前半に講演を,後半にパネル討論を行った.参加者数108名で,前半の講演は非常に充実した内容であり,後半のパネル討論では有意義な議論が活発に行われ,全体を通して盛況であった.
 まず,本学会会長の後藤俊夫氏(名大工)より,趣旨説明として男女共同参画に対する応用物理学会における取り組み・活動の展開,また,他学協会に呼びかけ2002年10月に男女共同参画学協会連絡会を発足したこと,今後,多くの学協会との連携した活動の推進が望まれることが述べられた.次いで,男女共同参画学協会連絡会の活動紹介が本委員会委員長小舘香椎子氏(日本女子大理)よりなされた.内閣府共同参画などの行政・マスコミから広く取り上げられており,今後の展開に対する期待が大きい.引き続き,本学委員会の取り組みとして2002年秋のミーティングの報告が,高井まどか氏(東大工)よりなされた.ポスドクは研究環境には満足できるが身分が不安定であるという問題が強調された.
 基調講演では鈴木基之氏(国連大)から,“変貌の時代”における日本のめざす方向として,これまでの経済万能主義(男社会)から,新たな男女共同参画を含む価値観へのパラダイムシフトが必要であろう,このとき,将来の着地点を予測して現状をみるバックキャストが重要であることなど,示唆に富む講演がなされた.神野直彦氏(東大経済)からは人間回復のための新しい経済学が提唱され,‘科学’ が何をめざすべきか問い直し,人間の全体性を取り戻す必要性が主張された.国の取り組みとして伊藤洋一氏(文科省科学技術政策局)からは,科学技術政策の中でわが国の研究・開発評価制度が示された.対象となる施策・課題・機関・女性の活用を含めた研究者個人についての評価体系の整備が今後の重要課題である.内海房子氏(NECソフト)からは企業での女性技術者の実態がデータに基づき紹介され,女性管理職が1〜2%と非常に少ない現状や女性の高退職率の主要因は,自身のキャリア意識不足や周囲の理解不足であることが指摘された.
 後半パネル討論では,科学技術において日本の世界トップ維持に最重要な課題として榊裕之氏(本学会副会長,東大生研)から科学の意味や技術の根元を考え直し原点に戻った教育が必要であること,大学での基礎研究や人材育成の重要性があげられた.個人評価制度については,堂免恵氏(富士通QD)からの企業の現状の問題点への指摘に対し,神野直彦氏から,個々人が自身の行為の意味を実感し人間としての喜びを感じ,組織全体のアウトプット向上が必須であると強調された.西野壽一氏(日立中所)から目標は自己申告であるが,日本企業は米国から5年遅れており,管理者のスキルアップが必須であると紹介された.
 本委員会では,今回シンポジウムで得た知見をもとにさらに活動を発展させたい.本稿をまとめるにあたり,ご協力いただいた,岩瀬扶佐子,近藤高志,高井まどか,為近恵美,松尾由賀利各委員に感謝いたします.
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