応用物理学会
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以下の記事は 応用物理 第72巻 第1号 123ページ に掲載されたものです。

男女共同参画学協会連絡会1周年記念行事
分科会「任期付きポストに関して」報告


応用物理学会 男女共同参画委員
近藤 高志 高井 まどか
中村 淳 青木 画奈
化学工学会 男女共同参画委員
辻 佳子
 2003年10月7日に開催された男女共同参画学協会連絡会1周年記念行事では,午前中に以下の三つの分科会が開催された.

A. 少子高齢化社会で活躍するための条件
B. ポジティブアクションの進め方
C. 任期付きポストに関して

 このうち,任期付きポストに関する分科会Cは,化学工学会と応用物理学会の責任で企画・開催したもので,ポスドクのあり方についてのパネルディスカッションが行われた.各方面から38名の参加を得て,予定を大幅に超過する2時間以上もの白熱した分科会となった(図1).
図1 会場での討論風景
 分科会では,最初に,企画グループを代表して近藤(東大工)から企画の趣旨説明があった.応用物理学会男女共同参画委員会が「男女」というキーワードにそれほどこだわらずに活動してきたこと,身近で重要な問題の一つとしてポスドク問題にこれまで取り組んできたことなどが紹介された.そのうえで,学会の枠を超えてポスドク問題についての現状や問題認識などの情報を共有するためにこの分科会を企画したとの説明があった.
 続いて,応用物理学会の中村淳氏(電通大),化学工学会の大久保達也氏(東大工),日本物理学会の佐藤丈氏(埼玉大理)と浅川恵理氏(KEK),分子生物学会の伊藤啓氏(東大分生研)の各氏から,それぞれの分野におけるポスドクの現状についてご報告をいただいた.
 中村氏は応用物理学会のポスドク問題への取り組みの経緯を説明したうえで,これまでに実施してきたアンケート調査の結果などから,ポスドクの8割が任期終了後の職について不安を抱いていること,ほぼ全員が大学・国公立研究所の常勤職を希望していることを紹介した.また,応用物理分野では企業によるポスドク経験者の採用が重要になろうとの見通しを示した.
 大久保氏は,化学工学という分野では産業とのつながりが強いために学生の企業志向が比較的強く,これまでは過剰なポスドク採用が構造的にあり得なかったと指摘された.しかし,この分野でもここ数年の間にポスドクが急増し,人材の流動化を促進しなければ近いうちに破たんするであろうとコメントされた.
 佐藤氏,浅川氏は原子核素粒子理論の分野における実情についてご報告くださった.この分野では最も古くからポスドク問題(以前はオーバードクターだったが)が顕在化し,文部省(当時)との会見や素粒子原子核理論ポスドクフォーラム(http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~pdforum/)の設立など,さまざまな取り組みが行われたことが紹介された.現在でもこの分野のポスドクは研究職志向が強く,大部分が海外に職を求めているのが現状とのことであった.
 伊藤氏からは,基礎生物学分野のポスドクの現状報告をいただいた.この分野では受け皿となる企業の規模が小さく,ポスドクレベルの研究者の次のキャリアの選択肢となっていないこと,そのため,40歳近くまで複数のポスドク職を渡り歩くことが珍しくないとのこと.さらに,キャリアアップのためにはどうしたらよいかという学生・ポスドクへ向けた具体的なメッセージや,雇われ職人的な立場で安定して研究に携われるキャリアパスを用意してはどうかというユニークな提言などをされ,大変に印象的であった.
 これらの報告を受けて,会場の参加者も含めたディスカッションが続いて行われた.冒頭で,日本学術振興会の石崎忠夫氏から,人材育成の一環としてポスドク制度についても長期的なビジョンをもって検討していく,評価のあり方が今後ますます重要になるであろう,などの発言をいただいた.その後,プロジェクト型雇用の是非や,キャリアパスの一つとしての企業へのアプローチ,子育てと研究の両立など,さまざまな問題についての発言があった.限られた時間での議論ではあったが,「人材の流動化」と「キャリアパスの拡大」が必要不可欠であるということが,共通の認識として確認できたのではないかと感じた.
 今日の科学技術分野においてポスドクの果たす役割は,かつてないほどに大きくなっている.ポスドクの皆さんが十分に実力を発揮できるようなサポート,ポスドク経験者の力を活用できるキャリアパスの拡大など,学会として今後どのように取り組むべきかを考える大変よい機会となった.
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