応用物理学会
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以下の記事は 応用物理 第73巻 第1号 121-122ページ に掲載されたものです。

男女共同参画学協会連絡会1周年記念行事に参加して

応用物理学会 男女共同参画委員会委員
宇都宮大院工 阿山みよし

図1 委員長と司会のお二人
 2003年10月7日,日本化学会において男女共同参画学協会連絡会1周年記念行事が開催された.参加者数130名を超える盛況であった.本稿はその参加報告である.
 男女共同参画学協会連絡会とは,応用物理学会,日本物理学会,日本化学会などが中心となって,自然科学および工学系分野の学協会に呼びかけ,多数の学協会が協力して男女共同参画実現に向けて行動しようという主旨のもとに発足した連絡会である.2002年のちょうど同じ日,同じ場所で,文部科学大臣をはじめ来賓をお招きしての設立集会が開催された1).あれから1年,学協会連絡会は着々と活動実績を積み,加盟団体も設立時の31学協会(正式参加13,オブザーバー18)から38学協会(正式参加21,オブザーバー17)に増大した.オブザーバー数の減少は,当初オブザーバーとして参加し,しばらくこの学協会連絡会の活動内容を見た後に正式参加に切り替える団体が多いことによる.現在までのところ,オブザーバー参加の後に脱退した団体はなく,この学協会連絡会の活動に多くの学協会が関心をもち,その重要性やアクティビティーの高さに賛同していることを示している.
 集会は午前午後を通して開催され,分科会,ポスター展示,全体会の3部構成であった.分科会とポスター展示については別稿で紹介されているので,ここでは全体会の様子を紹介する2), 3)
図2 特別講演1
名取はにわ氏
図3 特別講演2
東実氏
図4 電子情報通信学会
伊賀会長
 全体会は,日本化学会の相馬芳枝氏(産総研)と日本物理学会の坂東昌子氏(愛知大)の司会によって進められた(図1).応用物理学会は,発足から1年間,幹事学会として学協会連絡会活動を多角的に支援してきた.そのような意味から,まず応用物理学会会長後藤俊夫氏(名大副総長・日本学術会議会員)が主催者として開会のあいさつを述べた.次にIUPAP(International Union of Pure and Applied Physics )副会長の福山秀敏氏(東大)が来賓としてあいさつし,男女共同参画に関連するIUPAP の取り組みを紹介した.
 次は特別講演が2件続いた.はじめに,内閣府男女共同参画局長の名取はにわ氏が「男女共同参画社会への期待」というタイトルで講演した(図2).各国のデータと比較しながら,十分に能力を発揮し活躍しているとは言い難い日本における女性の状況を説明し,内閣府の具体的な取り組みを紹介した.4大卒業者,修士課程修了者,管理職の女性比率など多くの面で日本はほかの先進国に遅れをとっているが,他国に追いつき追い越せは日本のお家芸である(であった?)のだから,今こそ男女共同参画で世界にキャッチアップしようと結んだ.
 続いて「産業界における男女共同参画」というタイトルで,東芝執行役上席常務の東実氏が講演した(図3).英国のケンブリッジ大学副学長としてAlison Richard 女史が任命されたことを紹介した.そこでは学長は名誉職なので,副学長が実質的なトップだそうである.日本の総合電機や情報通信メーカーにも,時勢を反映して女性役員はいるが,社外取締役ではなく社内の人材から女性役員が現れてこないと真の経済活性化につながらない,それにはトップ(現状ではほとんど男性)の意識改革,出産で不利にならない評価法,行政や法制度の整備など多方面からの取り組みが必要だと述べた.最後に「女は変わった,男はどうだ」という広告を引用したのが印象的であった.
 次に「男女共同参画学協会連絡会の1年の歩み」と題して,学協会連絡会委員長の小舘香椎子氏(日本女子大)が活動報告を行った.現在,文部科学省生涯学習政策局男女共同参画学習課の調査実施研究として,学会横断的大規模アンケートを実施中である.その進行状況や,講演会時保育室設置の普及活動などについて説明した.
 続いては,新規加盟の5学会会長が各学会での状況紹介を織り交ぜてあいさつをした.比較的女性会員比率が多い(15%)日本比較内分泌学会では,以前から評議会への女性会員の参加や独自のアンケート実施など,加盟学会の中では進歩的である.日本原子力学会からは男女共同参画WGの設置,電子情報通信学会の伊賀健一会長(図4)からは「男女」というタイトルをつけず「快適委員会」というような名称のWGを設置したいとの報告があった.このほかに日本生化学会,日本蛋白質科学会が新規に正式加盟した.
 ここで休憩を挟んで,後半のパネルディスカッションに移った.テーマはこの集会のテーマである「男女が共に活きる社会へ」で,分子生物学会の大坪久子氏(東大)の司会進行で始まった.パネリストは大沢真理氏(東大),小野田武氏(日大),有本建男氏(文部科学省),高橋眞理子氏(朝日新聞)の4名で,初めにおのおのから話題提供があり,その後全体討論に入った(図5).
 まず大沢氏は,東大における男女共同参画の取り組みや,教授会での女性比率が5%と依然低いことを紹介した.女性比率を上げるにはアファーマティブ・アクション(少数派優遇措置)がえられるが,米連邦最高裁判所がミシガン大学ロースクールでのアファーマティブ・アクションを支持するものの,マイノリティーへの点数上乗せは違憲と判断した例をあげ,難しい側面があることを示した.
 次に有本氏は,科学技術基本計画の基本理念や第2期(2001〜2005年)における重点分野での基礎研究充実の施策において,若手および女性研究者の環境改善が取り上げられていること,またその意義づけを説明した.
 引き続き小野田氏は,社会全体から見れば大学教員や官僚は上昇志向の強いトップマイノリティー,産業界で働く大多数が健全なマジョリティーで,底辺にボトムマイノリティーがいるが,トップは自覚をなくし,マジョリティーは水準と意欲が低下し,ボトムが拡大する傾向にあることが近年の危惧すべき問題だと指摘した.また,企業研究所での経験から,女性にとってはマジョリティーからトップマイノリティーへのパスに性差障壁が現実問題として存在することを示した.
 最後に高橋氏は,キュリー夫人と日本初の女性博士である保井コノ女史を例にあげて,欧州と日本の女性科学者を比較した.女性における能力とやる気のすれ違いなどの問題点を指摘し,「男女が共に活きる社会」実現への名案はないと率直に述べた.
 この後,全体討論となった.フロアとのいくつかの質疑応答はあったものの,小野田氏がリーダーは部下にとって「おやじ・おふくろ」的な面が必要との言に対して,高橋氏から「おふくろ」とは何か,そんな必要はないというあたりに議論が偏ってしまった印象がある.理想的なリーダー資質論に対する世代差,ジェンダー差をかいま見たようで,野次馬的な面白さはあったものの,本題をそれてしまったようで残念な気もした.それでも各パネリストの話題は大変興味深く,男女共同参画に対する視野が大いに広がったのは筆者だけではあるまい.
図5 パネルディスカッションの様子
 この後,ポスター賞の発表,分科会報告,次期幹事学会である日本物理学会会長の潮田資勝氏(東北大)のあいさつと続いた.1年間の労をねぎらい,委員長の小舘氏と副委員長の遠山嘉一氏(富士通)に花束が贈呈された.最後に,会場を提供した日本化学会から男女共同参画推進委員長で元会長の井上祥平氏(東理大)が閉会の辞を述べ,盛況だった集会は幕を閉じた.
 当然ではあるが,圧倒的に女性参加者の多い講演会で,昨年の設立集会に参加できなかった筆者にとっては稀有の体験であった.複数の文化の異なる学協会が連携して何かを実行していくのは,並大抵のことではない.筆者は以前に電気系5学会の連携企画に某学会から理事として参加し,結局,実効的な活動ができなかった体験があるので,この学協会連絡会の連携活動が信じ難いほど順調に進んでいると思える.これは,幹事学会である応用物理学会,会員数から中心的役割を果たしている日本物理学会や日本化学会の強力な支援と,委員長の小舘氏,副委員長の遠山氏,応物事務局の伊藤氏の献身的な尽力のたまものである.
 学協会間で温度差やスタンスの差こそあれ,男女共同参画は共有できる問題だということも活動が持続している理由の一つであろう.各学協会からの委員は皆個性豊かでバイタリティーにあふれ,委員会やWGやメール会議では,会員数の少ない学会が先導する場面も少なくない.息長く地道な活動が続き,男女がともに幸せな,活気ある社会の実現につながることを願う.
 応用物理学会からの支援の筆頭は,多大な人材的協力である.連絡会委員には10名+事務局が参加している.この集会にも,全体の参加者数130名中,応用物理学会からの参加者は30名強で,ほぼ全員が応用物理学会の男女共同参画委員会のメンバーであり,他学会から羨望の的となっていた.
 昨年の設立集会報告1)にあるように,このような活動には男性(特に若い男性)の参加・協力が不可欠である.委員会にかかわった人だけでなく,広く一般の男性会員にも参加してもらえるような努力が必要だと感じた.その一環として,筆者が幹事をしている応物分科会の日本光学会で内閣府のパンフレットを配布しようとえている.応用物理学会においても男女共同参画委員会を一歩出ると,まだまだ啓発が必要な現状である.
 会場の熱気を伝える写真は,日本女子大小舘研究室の清水嘉代さんから提供していただいた.ここに謝意を表する.

1) 近藤高志:応用物理 72, 221(2003).
2) 近藤高志:応用物理 73, 123(2004).
3) 白石正:応用物理 73, 124(2004).
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