応用物理学会
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第4回(2003年度)応用物理学会 業績賞

第4回 応用物理学会業績賞(研究業績)

件 名:SiC半導体・デバイスの先駆的研究
受賞者:松波 弘之

 シリコンカーバイド(SiC)は、Siに比べて、禁制帯幅が2~3倍、絶縁破壊電界強度が約10倍、飽和電子速度が約2倍という優れた物性を持つ化合物半導体であり、特に高耐圧デバイスの分野で、SiやGaAsを用いた既存デバイスの性能を桁違いに向上させる可能性を秘めている。
 しかしながら、高品質結晶の成長やデバイス作製が非常に困難であり、長年、電子デバイス応用は著しく遅れていた。松波弘之氏は、半導体SiCの重要性を1960年代後半から認識し、一貫してこの材料・デバイスの研究を進め、常に世界を先導して実用的な半導体材料に育て上げた。
 SiCは複雑な周期構造に起因して現れる結晶多形現象を示すため、単一の結晶多形からなる高品質単結晶の作製は不可能とされていた。氏は1986年、SiC {0001} 面に適度なオフ角を導入することによって原子レベルで結晶成長を制御する方法を考案し、初めて結晶多形混在のない高品質SiCエピタキシャル単結晶の作製に成功した。この方法によって、SiC半導体材料・デバイス応用に関する研究が世界的に広がり、開発が一挙に加速された。この独創的なステップ制御エピタキシャル成長技術は、日本発の国際的な先導研究として、世界的に広く認知されている。
 氏は、この成長方法を用いて広範囲にわたるp型、n型の導電性制御法を確立するとともに、結晶成長機構を学術的に解明した。また、この高品質結晶を用いて、多くのSiC固有の物性を明らかにした。さらに、氏は1993〜1995年にかけて金属/SiC界面の研究を進めて、高耐圧・高速・低損失のSiCショットキーダイオードを試作し、Siの理論限界を二桁突破するデバイスが実現できることを世界で初めて実証した。この成果を基にして高耐圧・高速のSiCショットキーダイオードやSiC MESFETが製品化されている。また、氏はSiO2/SiC MOS界面の研究にも取り組み、1999年には、SiCの新しい結晶面方位 (1120) を用いることによって、MOSFETの性能を約20倍向上させ、高性能SiCパワーMOSFET実現への基礎を築いた。
 SiCは高効率電力変換用デバイスや高周波パワーデバイスへの応用が強く期待されている。エネルギーの有効利用、環境負荷の低減につながるだけでなく、低損失・高速パワー半導体デバイスを基にしたパワーエレクトロニクスのパラダイムシフトが期待されている。全く未開拓であった材料の作製から取り組み、常に前人未到の道を歩み続け、SiCを実用的な半導体に育てた氏の業績は卓越しており、応用物理学会業績賞にまことにふさわしい。

松波 弘之氏 略歴
1939年 大阪府生まれ
1964年 京都大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了
1964〜71年 京都大学工学部助手
1970年 京都大学工学博士
1971〜83年 京都大学工学部助教授
1976〜77年 米国ノースカロライナ州立大学 客員准教授
1983年 京都大学工学部教授
1996年 京都大学工学研究科教授(2003年退官)
1998年 日本結晶成長学会論文賞
2001年 電子情報通信学会フェロー
2001年 第1回山崎貞一賞(半導体及び半導体装置分野)
材料科学技術振興財団
2002年 文部科学大臣賞(研究功績賞)
2003年 米国電気電子学会(IEEE)フェロー
2003年〜 京都大学名誉教授
2003年〜 独立行政法人 科学技術振興機構 研究成果活用プラザ京都館長





第4回応用物理学会業績賞(研究業績)

件 名:高電子移動度トランジスタ(HEMT)の発明と開発
受賞者:三村 高志

 三村高志氏は、1979年、バンドギャップの異なる2種の半導体間に形成したヘテロ接合界面に高密度の2次元電子ガスが形成されることを利用し、電子走行層が不純物から空間的に分離され、高い移動度が実現できる、新しい概念の電子デバイスを考案、これを特許出願するとともに、実際の試作開発を進め、1980年には、「高電子移動度トランジスタ(HEMT)」として、JJAPに最初の論文を発表した。この論文は、ヘテロ接合を利用した電界効果素子を世界で初めて実現したものとして、JJAPの論文としてはじめてInstitute for Scientific InformationのCitation Classicに選定され、きわめて高い評価を得ている。
 氏は、その後も、HEMTの実用化に向けた研究開発を主導され、マイクロ波・ミリ波帯における低雑音増幅器としての製品化に大きく貢献した。1985年に電波望遠鏡用の低雑音受信機としてはじめて製品化されたHEMTは、未知の星間分子を発見するなど、電波天文学の進歩に寄与した。
 HEMTは、当初のAlGaAs/GaAs系からInGaP/GaAs系、InAlAs/InGaAs系、さらにはこれらの擬似格子整合(pseudomorphic)系へと進化を続けており、その優れた高速、低雑音特性から、衛星放送受信機や携帯電話機、カーナビゲーション受信機、ミリ波自動車レーダなどIT社会を支える基盤技術として広く使われている。さらに最近では、AlGaN/GaN系やひずみSi/SiGe系など将来の多様なニーズに向けた開発が進展しており、今後いっそうの市場拡大が期待され、産業的観点からの貢献は極めて大きい。そして、アメリカのクリントン政権が2000年1月に発表したNational Nanotechnology Initiativeにおいて、ナノテクノロジーの成功例の一つにHEMTがあげられ、ナノテクノロジーが世界的な注目を集める一翼を担った。さらに、HEMTの発明は、MBEやMOCVDなど、原子層オーダの精度で結晶組成を変化させ得る薄膜成長技術の進展を加速させ、その後の、化合物半導体を用いた電子デバイス、光デバイス技術の発展に大きな貢献を成した。また、これらのデバイス技術の進展に触発される形で、メゾスコピック系物理の理解が大きく進んだことを考えれば、学術的波及効果も極めて大きいと言える。これらの業績は、応用物理学会業績賞(研究業績)にまことにふさわしい。

三村 高志氏 略歴
1944年 大阪府生まれ
1967年 関西学院大学理学部物理学科卒業
1970年 大阪大学大学院基礎工学研究科物理系修士課程修了
1970年 富士通株式会社入社
1975年〜現在 株式会社富士通研究所
1981年 科学技術庁長官賞受賞
1982年 大阪大学より工学博士学位授与
1982年 電子情報通信学会業績賞受賞
1986年 伴記念賞受賞
1990年 IEEE Morris N. Liebmann Memorial Award 受賞
1992年 発明協会恩賜発明賞受賞
1993年 IEEEフェロー
1998年 紫綬褒章受章
1998年 富士通研究所フェロー
1998年 SSDM Award 受賞
1998年 ISCS Heinrich Welker Award 受賞
2001年 電子情報通信学会フェロー





第4回応用物理学会業績賞(教育業績)

件 名:著作「光の鉛筆」を通した教育貢献
受賞者:鶴田 匡夫

 鶴田匡夫氏は,長年にわたる学会活動と著作活動を通じて,光学の分野を中心に学生・若手研究開発者の育成・啓発に多大な貢献をしてきた。中でも氏が20年近くの歳月をかけて精魂を込めて書き続けてきた「光の鉛筆 −光技術者のための応用光学−」(全6巻3,000頁)は,物理学への深い理解と産業界の実践的な技術とさらに文学的教養の三者に通じた氏のみが著し得るユニークな内容と著述スタイルを持ち,古典光学の裾野がいかに広く現代の応用物理学の領域をカバーしているかを多くの学生・若手研究開発者に理解させた非常に優れた著作である。
 NewtonやRayleighなどの偉大な物理学者たちの原著論文を現代的な視点で掘り起こし,彼らの発見を追体験して知る喜びを読者に与えることを通して,古典光学に新しい生命を与え,科学技術における温故知新の大切さを教えている。長い歴史を持つ光学の分野にはバイブルと呼ばれるPrinciples of Optics (Born and Wolf) をはじめとする名著も少なくないが,氏の「光の鉛筆」は過去に類例のない新しい光学書の執筆法と教育法を提示しており,その内容とスタイルのオリジナリティという点で傑出している。「光の鉛筆」全6巻は,現在も産業界の若手研究者や技術者を中心に,多くの読者の熱狂的な支持を得ており,その著作を通した氏の応用物理学教育への貢献はきわめて顕著である。

鶴田匡 夫氏 略歴
1933年 群馬県生まれ
1956年 東京大学理学部物理学科卒業
1956年 日本光学工業株式会社(現:株式会社ニコン)入社
1964年 応用物理学会光学論文賞受賞
1967年 東京大学より工学博士学位授与
1987年 日本光学工業株式会社取締役
1988〜90年 日本光学会幹事長
1997年 株式会社ニコン代表取締役副社長
2001年 同社顧問
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