応用物理学会
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第3回(2002年度)応用物理学会 業績賞

【受賞者紹介】 第3回応用物理学会 業績賞

応用物理学会 業績賞委員会
委員長 松村 正清


 本会は、会誌“応用物理”の第71巻6, 7, 8月号とホームページにおいて、第3回応用物理学会 業績賞の受賞候補者の公募を行い、当初予定を変更して、9月16日に締め切った。「研究業績」候補5件、「教育業績」1件の推薦があった。当該候補の業績について業績賞委員による第1次審査、第1次選考、第2次審査、第2次選考を経て、最終的に出席全委員の投票により下記の業績を理事会に推薦することに決定した。2002年12月19日の理事会で第3回業績賞を飯島澄男氏と田中昭二氏(50音順)に贈呈することが正式に決定された。
 業績賞の授賞式は3月27日、田中氏の受賞記念講演は28日に春季学術講演会(神奈川大学)において行われる予定である。なお、飯島氏の講演は秋季学術講演会にて行われる予定である。


第3回 応用物理学会業績賞(研究業績)

件 名:カーボンナノチューブの先駆的研究
受賞者:飯島 澄男


 飯島澄男氏は、1991年、高分解能電子顕微鏡を用いてナノメートルオーダーの直径を持つ多層の円筒状炭素構造を見出し、それが炭素原子の螺旋性を含むグラファイト円筒構造からなることを電子線回折により示して、カーボンナノチューブと呼ばれる新たな炭素形態(1次元構造)の存在を明らかにした。さらに1993年にはIBMのBethune氏と同時に、単層のカーボンナノチューブを発見し、その物性に関し、多くの研究者の興味を引きつけた。炭素の結晶構造体としては従来、3次元構造体であるダイヤモンド、2次元構造体であるグラファイトが知られていたが、1985年、Kroto、Smalley両氏達が炭素原子60個からなるサッカーボール状のC60を発見、上記以外に新しい構造があることを示し、1996年にノーベル化学賞を受賞している。飯島氏は更に別の形態の炭素ナノ構造体が存在することを示したわけである。その後も飯島氏は、カーボンナノチューブの成長モデルや折れ曲がりモデルの提唱、さらにはカーボンナノホーンの合成などカーボンナノチューブ関連構造の多様性や製造プロセスを明らかにするなど、カーボンナノチューブ関連の研究と世界的な隆盛に対し、先導的貢献を果たしている。
 カーボンナノチューブはその特異な結晶構造故に、ユニークな機械的、電気的、化学的性質を有している。特に、その直径、あるいはチューブ構造の螺旋度に応じて、半導体から金属まで電気伝導度が変化し、金属相では銅よりも高い伝導度を有すると予想されている。また1次元伝導体として既にいくつかの興味ある量子伝導が観測されている。同時に強固なSP2結合で炭素原子同士が結ばれているため、軽量でありながら極めて強固な機械的特性を持つ。これらのユニークな性質のため、超小型の電子回路、高効率な電子線放出素子、燃料電池の触媒担持電極、選択的なガス吸蔵体、強固な複合材料など多くの可能性が広がり始めており、まさに次世代産業基盤として期待されるナノテクノロジーのキー材料として多いに注目を集めている。以上、飯島氏の研究によって、材料科学の基礎から応用におよぶ新分野が開かれ、科学界、産業界に与えたインパクトは計り知れず、これらの業績は、応用物理学会業績賞(研究業績)にまことにふさわしい。

飯島 澄男 略歴
1939年 埼玉県生まれ
1968年 東北大学理学研究科物理学科博士課程修了
1968〜70年  東北大学科学計測研究所助手
1970〜82年  米国アリゾナ州立大学研究員
1976年 バートラムワーレン賞受賞
(1979年) 英国ケンブリッジ大学客員研究員
1982〜87年  新技術事業団 創造科学推進事業 林超微粒子プロジェクト 基礎物性グループ グループリーダー
1985年 仁科記念賞受賞
1987年〜 日本電気株式会社 NECラボラトリーズ 特別主席研究員
1996年 朝日賞受賞
1998年 つくば賞受賞
1998〜02年  科学技術振興事業団 国際共同研究事業「ナノチューブ状物質」プロジェクト代表研究者
1999年〜 名城大学教授
2001年 米国物理学会フェロー
2001年 アジレント欧州物理学賞受賞
2001年〜 独立行政法人産業技術総合研究所 新炭素系材料開発研究センターセンター長
2002年 マックグラディ新材料賞(米物理学会)受賞
2002年 フランクリンメダル(物理学)受賞
2002年 アントワープ大学名誉博士授与
2002年 恩賜賞・日本学士院賞受賞
2003年〜 科学技術振興事業団基礎的研究発展事業 飯島チーム 代表研究者




第3回応用物理学会業績賞(研究業績)

件 名:酸化物超伝導体の先駆的研究
受賞者:田中 昭二


 20世紀初頭に発見された超伝導現象は、エネルギー革命につながるさまざまな応用の可能性を秘めているが、1970年代までは絶対温度20数K以下の極低温の世界でしか起こらない現象であった。田中昭二氏は、1975年より、それまでの金属系超伝導体の臨界温度の限界を超え得る物質として、世界でも研究例があまりないBa-Pb-Bi-Oなど酸化物超伝導体にいち早く注目し、その研究に取り組んだ。酸化物超伝導体には、絶縁体の母物質にキャリアをドーピングすることにより超伝導現象が発現するなど、氏がそれ以前に長年取り組んできた半導体材料とある意味で類似の性質があることなどを明らかにすると共に、国内で酸化物超伝導材料研究の新領域を築き、その後の高温超伝導体研究で日本が世界をリードする基盤を作った。
 1986年にBednorzとMullerが、LaBaCuO系酸化物において低温での電気抵抗の異常な低下を観察し、超伝導体としての可能性を指摘した直後には、この酸化物が真に電気抵抗のゼロとマイスナー効果を示すことを見出すとともに、その組成や結晶構造を解明し、(LaBa)2CuO4 が真の高温超伝導体であることを、JJAPを通して世界に広く発信した。この研究は、BednorzとMullerの観測が、重要な発見であることを確定したものであり、その後の高温超伝導体の発展に極めて重要な役割を果たした。当時、氏の研究グループによる論文を発端として刊行されたJJAP高温超伝導特集号は、世界から大きな注目を集めることになった。またこの時、氏が提唱した新規物質の超伝導性に関する厳格な判断基準は、「田中クライテリオン」として、世界の基準になっている。その後、酸化物系物質は、超伝導性に留まらず強誘電体や磁性材料など多様な展開を示しているが、氏の先駆的な研究は、これらの発展の基礎を築く上でも大きな貢献をなした。また、田中氏は高温超伝導体の社会での活用を目指した実用化研究でも先見的な指導力を発揮し、国内の産・官・学の多くのプロジェクトや委員会を通し、研究者・技術者の育成と超伝導産業の新領域の開拓に大きく寄与してきており、最近の超伝導バルク磁石を用いた水浄化装置、高温超伝導線材を用いた結晶引き上げ装置およびリニア用のマグネットの開発などにすでに一部結実しつつある。さらに、バルク磁石、線材、電子デバイスなどの超伝導応用分野における国際的な指導者としても卓越した貢献をなしている。これらの業績は、応用物理学会業績賞にまことにふさわしい。

田中 昭二 略歴
1927年 神奈川県生まれ
1950年 東京大学工学部応用数学科卒業
1955年 東京大学大学院研究奨学生前期終了
1955年 東京大学工学部講師(専任)
1958年 同助教授
1959〜61年  文部省在外研究員として米国パデュー大学留学
1961年 東京大学より工学博士学位授与
1968年 東京大学工学部教授(1988年退官)
1988年 東海大学理学部物理学科教授(1993年退職)
1988年〜 (財)国際超電導産業技術研究センター副理事長
超電導工学研究所所長
1988年〜 東京大学名誉教授
1988年 超伝導世界会議における技術成果賞
日本セラミックス大賞受賞
1990年 紫綬褒章受章
1999年 勲三等旭日中綬章受章
1999年 パデュー大学名誉理学博士学位授与



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